―――『上条当麻』  
その名前を聞いた瞬間、私は母に感謝した。  
今の状況は理解できないけど、私が母の為にやるべき事はすぐ判った。  
 
 
私は父親の顔を知らない。父親の名前も母親からは教えてもらえなかった。  
 
父親は母と幼い私を捨てた。  
母が亡くなったあと、小萌先生に聞いた話では、  
父は母と私を捨てて別の女性とイギリスに渡ったという。  
 
父親は母と幼い私を捨てた。  
母は女手一つで私を育てた。それこそ夜も眠らずに私の為に働いた。  
その結果、母は体を壊した。  
病床の母は私に父親の事を語ることなく、ほどなく亡くなった。  
 
私は父親の顔を知らない。しかし名前は知っている。  
母が亡くなったあと小萌先生に聞いた。名前は『上条当麻』というらしい。  
父親の行いもそのとき聞いた。父は母の他に何人もの女性に手を出していたそうだ。  
母にとって父は特別な存在だったけど、父にとってはそうではなかったようだ。  
 
母の短い人生はなんだったんだろう?  
男に捨てられ、自分を捨てた男との間に生まれた娘の為に働き、  
そして報われる事なく死んでいった。  
母の短い人生は父親と娘に殺されたようなものだ。  
 
母の短い人生はなんだったんだろう?  
もしも父親と出合わなかったら、母の人生はどうなっていたのだろうか?  
少なくても私が生まれなかったらあんな死に方はしなかっただろう。  
母の短い人生は父親と娘に殺されたようなものだ―――  
 
 
―――『上条当麻』  
その名前を聞いた瞬間、私は母に感謝し母の形見の十字架を握り締めた。  
目の前で私に微笑みかけている男こそ母の仇なのだ。  
 
今の状況はよく判らないけど、私は魔法使いの娘なのだ。  
だからタイムトラベルだって驚かない。  
 
この男が母を捨てる前に……この男と母との間に私が生まれる前に、  
私が母のためにやるべき事はすぐ判った。  
 
やがて母を殺すこの男に生きている必要などないし、  
母を殺す私なんか生まれてこなくても良いのだ………  
 

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