予期せぬ事態に遭遇してしまった一方通行はひどい頭痛にうなされつつ、
休息の時間を求めて部屋に打ち止めと自らの子供を名乗る双子を残してコンビニへと向かっていた。
会社帰りや学校帰りの若者や中年の群の間を縫うようにして歩く。
左右を流れていく多くの人々。注意を逸らすものなんて無限にあるというのに。
なのに、どうしてもあの双子の顔が、脳裏にちらついて消えない。
ガガガ、という砂嵐映像に切り替えても、画面が整って必ずあの双子の笑顔が浮かんでくる。
どうしたものか、と一方通行は思った。
きっと少し前の自分であれば聞く耳持たず、と打ち止めもろともこの世から消していたに違いない。
だが今は違う。一方通行は変わった。この状況になって一方通行は改めて自覚する。
(良いのやら悪いのやら…わかンねェな……)
歩を進めているとようやく目的地が見えてきた。
一方通行がそこに視線を定めようとした、のだが……。
「ふざけないで! と小春は千秋の肩をど突きます!」
「いやいやおまえがふざけるなです! と千秋は対抗心メラメラで小春の顎を蹴り上げるです!」
「何を言ってますか?ふざけてるのはワタシ以外全員だと思います、と真冬は一気に三人を敵に回します!」
「そ、それは勝手な妄想だよぅ!一方通行はあたしだけのパパだもん…と美夏は小春と千秋と真冬に向かってマシンガンをぶちかます…!」
ああ、悪夢がここにも。
□ □ □ □ □
「小春はミサカ10032号とあなたの娘よ、と小春は自分の正体を主張します」
胸下まであるストレートヘア、センターよりレフト寄りの前髪の花の飾りが付いた
ゴムでまとめているのが特徴の、白いセーラー服を着た少女が淡々と。
「美、美夏はミサカ10039号と一方通行の娘だよ…、って美夏は控えめに自己紹介する…」
ふわふわとした猫っ毛、前髪をサイドに流して、派手な赤いカチューシャが目立つ、
黒いセーラー服で清楚さをかもし出した少女がゆったりと。
「千秋はミサカ13577号とおまえの娘です!と千秋は隠すことなく実体を晒すのですよ」
内側にくるんと癖のついたショートヘア、青いボンボンでサイドポニーに結っているのが特徴の、
水色のセーラー服を身に包み、敵対心ばりばりの少女が力強く。
「真冬はミサカ19090号とアナタの、もう一度言います、アナタの!娘でございます、と真冬はアナタとの関係をやけに強調します」
腰までの長さの切り揃えた髪と、センターよりライト寄りの前髪をまとめて
サイドアップポニーにしているのが特徴の、藍色のセーラー服をまとった少女が演説するように。
髪型や服装、態度や口調は微妙に違えど、それら全てを統一すれば四人とも区別がつかなくなるほど
顔のパーツや形などが似ている。御坂妹は皆同じ本体(オリジナル)を基に
作製されたのだから当然のことといえば当然か。
しかしそんなことは直視して観察せねば分からないこと。
彼女たちと正面から向き合おうとしない一方通行は、そのことを知らない。
無視と決め込んでコンビニに向かおうとしたところで、千秋という少女が一方通行に気付き、
皆が喧嘩を中断して一方通行の後ろについて歩き始めた。
それから終始自分の父親と母親の語り。いい加減耳障りである。
「だァから知らねェ!ついて来ンじゃねェっつってンだろォが!」
「ほら、お父さんはあなたたちのせいでご立腹じゃない、さぁ帰った帰った、と小春は三人を追い払おうとナイフの切っ先を向けます」
「おいテメー何をどうすればそうなるのか、と真冬は呆れます。真冬を除いた三人が帰れ、と真冬はお父サンの言葉を翻訳します」
「え、えっと、ごめんねぇパパ。この人たち、ちょっと日本語が通じない人で、って美夏は苦笑いを浮かべちゃう…」
「ちょっと!さり気なくぱぱの隣に並ぶんじゃないですよ!っと千秋は美夏の頭を引っぱたくです!」
余計ややこしくなった。
もう帰りたい、と思う一方通行であった。