「………………………その。大丈夫、でしょうか?」  
カツカツカツカツ! と超の付く早歩きで自分の前を歩き先導する上条に、神裂はおずおずと訊いた。  
「………………………」  
ビタ、と上条は殺人的スピードで動かしていた脚を止める。  
それからギギギとやけに機械的にゆっくりと神裂の方に向き直る。  
「神裂サン。アナタサマにはコレが大丈夫のように見えまして? 見えるのなら早急緊急性急に眼科へレッツGO!」  
「す、すいません………」  
自棄糞気味に叫ぶ上条に、個人的に色々と借りのある神裂は肩をすくめて謝ることしか出来なかった。  
しかしそこは腐ってもフラグ魔神上条当麻。  
いくら無実の罪を着せられた挙句に頬をグーで殴られても、  
女の子(子、かどうかはこの際瑣末な問題である)を一方的に怒鳴り続ける程の鬼畜外道では無かった。  
「………ま、あっちの誤解っぽいし、それは後で話せば良いんだし、お前に怒鳴っても仕方ないよな。悪かったな」  
「いえ、お気になさらず。理由は解りませんが私にも原因はあるようですし、あいこ、と言うことで」  
ほんの少し、頬を緩めて小さな笑顔を作る神裂に、上条ハートはまたしても少しドキンとする。  
「え、えーとっ!」  
傾く感情の天秤を元に戻す為に大声で仕切りなおす。  
「そんじゃ、行くか?」  
「ええ、そうですね」  
やがて二人は歩き出す。  
と。  
ぐぎゅぎゅるるるるるるるるるるるるる……  
轟音。或いは爆音。  
ビタァと歩を止める――本当に片足が地面に着く寸前で止まっている――上条。  
すーと音も無く首を回す。  
背後にいたのはお腹を押さえて赤面している情けない聖人。  
太陽は中天。気がつけばお昼時だった。  
 
「ぁ、のですね? ステイルの代理でここまで来た訳ですが、その前の任から直接こちらに来たので食べるものも食べずに来た訳で、  
 決して常に空腹だとか食べ物を欲しているとかそういう卑しいことは……」  
「はいはい。俺と同じチーズバーガーセットでいいかな」  
「ひどくあっさり流しましたか!?」  
ガガビーン! と元気にショックを受ける神裂を意に介さずにチーズバーガーセットで二つーと店員に告げる上条だった。  
日曜の朝っぱらから不良に追い駆けられていた上条のポケットには何故か財布が入っており、二人分の軽い食事代なら何とかなった。  
何かを、とても大切な何かを、たとえば命にさえ関わるような大切な何かを忘れている気がしたけど割と気にしない上条だった。  
顔を真っ赤にして小さくなっている神裂を生暖かい笑みでちょっとの間眺めていると、すぐに番号を呼ばれた。  
「さすがファーストフード。早いもんだなー」  
などと言いながら神裂の前にトレイを置く。  
「あ、ありがとうございます……あの、お代は――」  
「あーストップ。お代は良いよ。今日は俺の奢り」  
「で、ですがそこまで世話になる訳には……」  
まだ何か言いたげな神裂の前にピっと人差し指を立ててみせる。神裂はむぐ、と言い淀んだ。  
「俺は道案内しただけ。神裂は俺を不良から助けてくれた。これじゃ俺の方が割にあわねーって。だからここは俺の顔を立てて、な?」  
にっ、と不器用に笑う。それだけで神裂はなにやら熱に浮かされたように赤面して、ぁ、やぅ、等と挙動不審な声を上げた。  
「………………はぃ」  
小さく呟き、トレイの上のチーズバーガーの包みを開けてかぷと齧った。  
その様子に安堵し、上条も包みを開けてあーんと一口――  
 
「な、何ィーーー!? カミやんが黒髪ポニテの超絶美女とお昼かましてくれやがっとるゥーーーーーー!!?」  
 
――たった一口。かじりつくより早く。視界の端の端に映った青色の物体発上条着の絶叫がお昼時で混雑しているファーストフード店に木霊した。  
 
「………………」  
あっちゃー、と盛大にため息を吐き出しながら手で顔を押さえる上条。  
対照的に神裂は子供のように青色の物体こと青髪ピアスと上条を交互に見る。  
「な、んでこんなとこにいやがるこの――」  
バカピアスー! と叫ぶことは適わず。  
なぜなら伏せた顔を上げ、ぐるりと振り向いたその目の前には血涙を流しながら憤怒の形相で構えた青髪ピアスの顔面があったからだ。  
「うわあ何この人超怖い!!」  
「怖いあらへんわこのお馬鹿!」  
割と本気で怯える上条に青髪ピアスの一喝が突き刺さる。  
「まぁた休みによう見らん顔の女の人連れよってデートて! 自慢か? 自慢ですか答えやボケぇこの年上属性が!!」  
一気にまくし立てる青髪ピアス。  
バカ関西弁ほざきやがって関西の人ごめんなさい、と思いながらたじろぐ上条。  
その隣で神裂が「年上属性……と、年上が好みと言う意味でしょうか……ふむ、ふむ……ぁぅ」と頬をピンクに染めてあわあわしているのは目に入っていない。  
「ったく折角の日曜だからカミやんと三人で遊ぼ思ってたらコレやもん! 僕もいい加減嫌ンなるわ!」  
ぷんすかぷんすかとまったく可愛くないのだが頬を膨らまして怒る青髪ピアス。  
別にデートしていたつもりじゃない上条は一応友情を大切にしようと弁解の言葉を口にする――直前に、気づいた。  
「あれ? 三人って言ったかお前? てコトは……」  
尋ねる上条。青髪ピアスはわざとらしい嘘泣きの仕草を止めて口を開いた。  
 
「うん? ああ、店の外に土御門もおるよ?」  
 
その言葉に。  
ギュバァ! ととんでもないスピードで上条、神裂両名の首、目、視線は連動して店外に飛ばされた。  
隣のテーブル、二つ先のテーブル、三つ先のテーブル、店のスイングドア、それらを通り越す。  
その先に。  
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴと言う効果音がお似合いの。  
顔面全部にそれはそれは楽しそうなニヤケ面を貼り付けた共通の知り合い。土御門元春の姿を、上条達は見た。  
ああ、終わった。  
上条と神裂は、それぞれ微妙に違う意味で同じことを思った。  
 

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