「…ん……っ」  
 
上条が異常に重い自分の瞼を持ち上げると、目に映るのは薄暗い白い天井。  
身を起こそうと思い、体に力を入れるが起き上がれない。と言うか、そもそも体の感覚がない。  
ちょっと焦りながらも、比較的自由に動く両目をグルグル使い状況確認。  
「(………なんだ、いつもの病室じゃないか)」  
自分の置かれた状況を理解して、安堵の溜め息が出た。  
「(…ちょっと待て。何故(なにゆえ)、上条さんはこの状況に妙な安心感を覚えてしまうのでせうか?)」  
授業中を除いて、学生寮の自分の部屋以外で寝た時間と場所をよ〜く考えてみて  
「(…この病室しか思い浮かばないなんて。……泣いても良いよね…………グスン)」  
などと、我が身の『不幸』に暫しの間落ち込んでいると、我慢出来ない睡魔が襲って来た。  
「(…眠い……眠いんだ……パトラッシュ。  
 明日には元気な上条当麻になってるから……お休み……パトラッシュ…………)」  
インデックスが見ていた懐かしのアニメを思い出しながら急速に意識が落ちていった。  
 
 
 
 
「えーっと、いつもより酷い状況みたいなんですが?  
 上条さんの体は、一体どうしてしまわれたんでしょうか?」  
 
上条はカエル顔の医者を、目だけを動かして見ながら恐る恐る尋ねてみた。  
 
目が覚めると視界に映るのは、やはり白い天井。  
起き上がろうとなにげなく全身に力を入れた途端、ズキン!ズーン!ズキーン!  
「(!?…うおっ!!)」  
体中から発せられる鈍い痛みから鋭い痛み迄、様々な痛みの波状攻撃に悶絶する。  
脂汗を流しながら痛みが引くのをじっと我慢してから、急に力を掛けない様に細心の注意を払いながら  
自分の体を確認して行く。  
何か首に違和感を感じる。少しだけ頭を持ち上げる様に顎を引いてみた。  
首に鈍い痛みをかんじるが、我慢出来ない程ではない。下顎に少し硬い感触を感じた。  
「(これって、コルセットって奴だよな?始めて付けたけど、少しくらい首は動かせそうだ)」  
少し安心して目に注意を戻して焦点を結んだ途端に飛び込んできた光景に、  
「(はぁ!?……嘘だろ、これ?)」  
茫然自失と暫く現実逃避していた意識が、ドアの開閉音によって覚醒させられた。  
現れた人物に発せられた第一声が先の物である。  
 
「そうだねえ?君は、今回かなり悲惨な状態だったんだよ?  
 運び込まれる前は別な医者が担当する予定だったんだが、到着した君の状態を見て  
 僕の所へ凄い勢いで駆け込んで来た程だったからね?  
 僕もオペに15時間は掛かったんだけど、その時の状況を詳しく知りたいかい?」  
 
『プルプルプル』っと、コルセットと首の痛みで余り動かせないにも関わらず必死で頭を横振動させる。  
聞いてしまったら最後、大切な何かを失ってしまいそうな気がする。、  
今後、安らかな眠りが訪れず悪夢でうなされそうな恐怖を感じた。  
 
「そうかい?残念だね?  
 砕けたり折れた骨、破裂した内蔵、欠損した体細胞なんかはオペ中に処置しておいたから?  
 心配しなくて大丈夫だと思うよ?」  
「うわぁーっ!?聞きたくない聞きたくない!!  
 これって一種の拷問ですか!?耳を塞げない上条さんへの言葉攻めか何かですか!?」  
 
恐怖に慄き必死で抵抗しようと叫ぶ上条を、何故か嬉しそうに見守るカエル医者。  
もう少し堪能したい気もするが、他にも自分を待つ患者が居り、そんなに時間も割けない。  
それに、彼にはもっと重要な事を告げなくてはならない。  
 
「まぁ、落ち着きなさい?  
 これから君の現状と今後の治療について話すから、良く聞いて理解して欲しい?」  
「えっ!?………はっ、はい……分かりました」  
 
終ぞ見た事のない真剣な顔に、自分には想像すら出来ない程多くの命と向き合ってきた  
医者としての凄みを感じて、上条も心の居住まいを正した。  
先程の会話からでも自分が死の一歩手前の状態だったらしい事は十分感じられたし  
命が助かったからと言って以前と同様の生活が送れるとは到底思えない。  
湧き上がる不安を押し殺し、必死で覚悟を決め医者の言葉を待つ。  
 
「今回の怪我による、身体への影響及び機能障害などの後遺症が出る心配はいらないよ?  
 退院すれば、以前の君の生活に何変わりなく過ごせる事を保障しよう?」  
「………………………………」  
「ただし?」  
「…………(ビクッ)…………」  
「その状態である程度回復するまで治療し、退院までリハビリする事が前提だよ?」  
「……こ、この状態で……ですか?」  
 
上条は痛む首を動かし微かに見える自分の首から下を眺める。  
ある意味、全身ギプス。いや、これはちょっと違う。  
お馴染みの白い石膏固めの包帯巻きではなく、材質的には金属製だろうと思うのだが  
それでも微妙な光沢が見てとれる。  
形状もギプスと言うより甲冑(アーマー)。いやいや、それじゃ騎士達に失礼だ。  
ぶっちゃけ、海水浴場で時折見られる愉快な砂盛り人間の様だ。  
基本的には黒錆色なのだろうが、時折、走査線のような物が様々な色合いで表面状を走っている。  
それだけなら未だましだが、滲みの様にあちこちに浮き出て来てはピンポン玉からソフトボール大  
に大きさを変えながら、そのまま消えたり収縮したり移動する物は一体何なんだろうか?  
機械的と言うより生物的な物を感じ、上条は怖気が走るのを止められない。  
 
「あの〜、失礼ですけど、これって一体何なんでしょうか?」  
「うん?これかね?  
 君も培養槽とか見た事あるだろう?あれの小型軽量版みたいな物だね?  
 これは怪我とかの治療に特化させていてね?理論上はあれの数十倍から数百倍の能力があるんだよ?」  
「へー、そりゃまた凄い機械ですね。どこの研究施設が開発したんだろ?」  
「うん?僕が作ったんだけど?」  
「……えっ!?作ったって先生が?」  
「当然だよ?どこの施設も開発しようとすらしないから、僕が作るしかないんじゃないかな?」  
「(……ちょっと待てよ?施設が開発出来ない様な物、個人で作れんのか?それに………?)」  
「あの〜、これって幾つくらい作ったんでしょうか?それと、今迄どれだけ使われたんでせうか?」  
「今の所は、これ一台きりだね?使ったのは君が始めてだよ?被験者第1号おめでとう?」  
「実験かい!?人柱にされたんか!?上条さんはモルモットですかぁ―――っ!?」  
 
再度、雄たけびを上げている上条を見守りつつ、少々時間が気になり始めたカエル医者は  
少々強引に話しの軌道修正をする事にした。  
 
「落ち着きなさい?君は留年したいのかね?」  
「はひっ!?」  
「通常の治療だと退院するまで半年以上掛かるんだが?それで構わないのかな?」  
「……どう言う事でございましようか?」  
「それを使用しなかった時の事を言ってるんだよ?いいかい?  
 グチャグチャに潰れてミンチみたいになった左腕を始め、体細胞ごと神経までごっそりと  
 持っていかれてる様な患者が、数日の入院で退院できると思うのかい?」  
「(!?……そうだった。俺って死にかけてたんだよな。すっかり忘れてた!)」  
「はっきり言うとだね?退院しても以前の様に体は動かせないと思うよ?  
 特に酷い左腕は、何らかの補助無しじゃ物も握れないだろうね?」  
「…………(ガクガクブルブル)…………」  
「それを使用すれば以前の生活に戻れるんだよ?理解出来たかな?」  
「…………(コクコクコク)…………」  
「よろしい?それじゃ退院までのスケジュールを話すけど?いいかな?」  
「…………(ゴクン)…………」  
「それを使用しての治療は4日間、今日を含めてだけどね?  
 後の3日間は検査を兼ねたリハビリをしてもらうけど?それで退院だね?」  
「…………………………………」  
「聞いてたのかね?」  
「……えっと、4+3=7だよな?」  
「そうだよ?」  
「……7って事は7日間って事で、退院まで1週間だよな?」  
「その通りだよ?」  
「……………………  
 …………  
 どゥえェェェ――――っ!?  
 何で?どうして?何処をどうすりゃ、半年以上が1週間に縮まんだよ!?」  
「うん?便利だろ?」  
「便利の一言で済ますんかい――――っ!!!!」  
 
上条は散々ビビラされた後に、1週間で退院出来ると聞いて内心狂喜乱舞していた。  
過去何回かの入院を経て、カエル医者の事は信用出来る人物だと確信している。  
自分が死にかけていたのも事実だろうし、半年以上の入院の事も本当だろう。  
自分の為に本当は貴重なプロトタイプの機械を使ってくれたのではないか?  
いや、間違いなくそうだろうと推測できた。  
上条の脳裏にはカエル顔の医者の巨大な像が後光を発している姿が浮かんでいた。  
一方、カエル顔の医者の方はと言うと  
やれやれ。やっとここまで話しが進む事が出来たね。  
本題はこれからだと言うのに随分余計な時間が経ってしまったようだ。  
彼の反応が面白いから、ついつい余計な会話をしてしまうね。  
彼の性格はある程度理解しているつもりだが、これに重度の鈍感が加わる訳だね。  
この娘も何とかしようと頑張る訳だ。全く厄介な少年に惚れたものだね。  
色恋沙汰で僕に出来るのはここ迄だから、後は自分の力で戦いなさい。  
 
「君に言っておく事があるんだが?いいかな?」  
「何でございましょうか?ドクトル・フロッグ様」  
「様とか付けないで欲しいんだがね?何だい?その変な呼称は?」  
「私(わたくし)、上条当麻めの心からの尊称でござりますです。はい」  
「普通に呼びなさい?」  
「はい、先生」  
「それでは行くよ?  
 その機械は付けっぱなしと言う訳にはいかなくてね?  
 主に動力系統に問題があってね?1日に付き、2時間のメンテナンスが必要不可欠となるんだよ?  
 その作業をするのは、19時から22時の間を予定してるんだがね?  
 そのメンテナンスの間には、君の体の検査や清拭も予定しているよ?  
 そう言う事情があるから、それを外す必要があるんだよ?  
 君、現在そんな状態だから体を動かす事も出来ないし、食事を始めとして身の回りの事が  
 自力では何一つ出来ないだろ?  
 ここで問題なのは、それらを担当する者をどうするかって事なんだよね?  
 うちの通常スタッフは、複数の患者を掛け持ちで担当している訳だが?  
 君みたいな患者は時間の都合上、通常スタッフを付けるのは困難なんだよ?」  
「……えっと、それじゃあ上条さんは一体どうなってしまうのでしょうか?  
 上条さんと致しましては、放置プレイは勘弁して欲しいのですが?」  
「うん?そこは心配しなくても大丈夫だよ?  
 君専属の特別スタッフを、こちらで用意させてもらおうと思ってるんだけどね?」  
「えぇっ!?……専属って、お一人様ずっと俺に付けるって事ですか?  
 ……とってもありがたいんですけど、俺一人にそこまで病院に面倒かけられないですよ」  
「しかしだねえ?君の看病をする為には、特別スタッフを付けるしかないんだよ?  
 そして、僕は患者が必要とする物は何でも用意するのが信念だからね?  
 だから、君に専属特別スタッフを付けるのは絶対に必要な事なんだよ?  
 そこで、君も同意書にサインしてくれないかな?と思ってるんだけどね?」  
「……はい?……同意書って何ですか?」  
「そこは、うちの病院の規則でね?  
 治療中や、その後のトラブルを未然に防ぐ為の物なんだが?  
 簡単に言うと、患者と医者の信頼関係を証明する契約書みたいなものだね?  
 患者は特別スタッフの指示には絶対に従う様に、同意書にサインして貰ってるんだよ?  
 君の場合、手が使えないから網膜パターンをこの端末に登録してくれればいいんだが?  
 僕としては、君に同意して貰いたいんだが?どうするね?」  
「そんなの、考えるまでもありませんよ。お世話になります。」  
 
そんな事でこの医者の信念に応えられるなら、断ると言う選択肢などない。  
なんだか、小萌先生に続いて頭が上がらない大人が増えた気がしてなんだか面映い。  
自分を気遣い心配してくれる人がいるって事は、こんなにも嬉しい事なんだな、と  
差し出されたカード大の薄い端末に、瞳を翳しながら感慨に耽る。  
登録は直ぐに済み、端末をカエル医者へと返却する。画面を確認した医者は満足そうに頷くと  
顔をこちらへ向け満面の笑顔を見せた。  
上条も笑い返すが、カエル医者は何時まで経っても笑顔を引っ込めない。  
「(……あれっ?……何か変だな?満足して嬉しいってのは分かるけど……大げさ過ぎないか?  
  何か……面白い事を見つけた時や期待で嬉しい……って感じがするんですけど?)」  
上条が、カエル顔の医者が見せる笑顔に、奇妙な違和感を感じ取って戸惑っていると  
笑み浮かべたままカエル医者が、くるっと体の向きを変えドア付近に向かって声を掛けた。  
 
「君、彼も同意してくれたから?こちらに来て、改めて自己紹介しなさい?」  
 
その呼び掛けを聞いた上条は、戸惑った様な視線をカエル医者に向ける。  
この病室はどう言う理由かは知らないが、異常に防音処置が施されているのだ。  
ドアを閉めれば廊下の物音は一切聞こえないから、声が届くとも思えない。  
それこそ、窓を塞げば、その処置は完璧なんじゃないかと思える程なのである。  
部屋の中でしか聞こえない音量で呼んでも全く意味がないのにな、などと考えていると  
微かな足音が響き、カエル医者の影から、チラッとピンク色の色彩が視界を掠めた。  
「(えぇっ!?……まさか、誰かずっと部屋に居たってか?……って、もしかして  
  さっき話してた特別スタッフって人か?)」  
どうやらこの人物は、上条が居るベッドから死角となるドアの前付近に待機していたらしい。  
足音からして、こちらへ近づて来ているらしいが、目の前のカエル医者の影に隠れてしまい  
制服らしきピンク色が少し見て取れるだけである。  
「(上条さん、さっきまで色々叫んでしまいましたが、非常に不味い気がしますの事よ。  
  ピンクの制服からして女性だろうし、紳士であるジェントル上条のイメージが……。  
  これからお世話になる人への、ファーストインプレッションは最悪なのでは……!?)」  
 
珍しく初対面の人への自分のイメージを気にする上条だが、理由は単純なもので  
綺麗な年上のナースのお姉さんに良く思われたい、可愛がられたいだけである。  
まあ、最初にいくら取り繕っても直ぐに破綻するのは分かりきってるのだが、本人自身は  
その事に全く気付いていないのは、やっぱり上条さんクオリティーである。  
綺麗なお姉さんに憧れるのは青少年のロマンの一つで、上条もその一人ではあるのだが  
おばちゃんが現れる事を考慮しないのだろうか?と、不思議に思うものである。  
そもそも、上条は自分は年上属性だと思っている様だが、これは単なる思い込みである。  
彼女が出来ないのは、学生である自分の周りの年代が合わないんじゃ?と考え、それじゃ自分は  
年の離れた年下が好みなのか?と考えて、それは犯罪なのではなかろうか?との考えに至り  
残った選択肢の、年上の女性が好みだったんだ!と言う論法に傾いただけである。  
全ての原因は、乙女心と恋愛感情に恐ろしい迄の鈍さを誇る自分自身にあるのだが  
そんな事には、欠片も気付かないし、想像すらしていない。  
その結果、問答無用で相手に巨大なフラグを突き立て、相手からのフラグは悉く弾き返す。  
そんな事をあっちこっちで繰り返し、旗男の異名を賜る迄に至ったのである。  
 
戦々恐々としている上条など気にも留めず、その人物はカエル医者の影から横に出ると進み出て  
上条の前に姿を現した。慌ててカエル医者から、そちらに視線を合わせる。  
寝転んだ状態の視線でしか確認出来ないが、先ず視界に入ったのは脛の途中からお腹にかけてだった。  
白いナイロン生地で包まれた脚が、膝から10cm程上のピンクの制服までしか見えないが  
脛の途中から太腿に掛けての増加率と腰のライン、それだけでスラリとした美脚だと断定出来る。  
「(ナースさんにしてはスカートが短過ぎるのでは?と、上条さんとしましては多少心配ではありますが  
  大変お美しいお御脚が拝見出来て、嬉しゅうございます)」  
 
少し目線を上げるとお腹から首までが収まる。  
黒髪に縁取られた抜ける様な白さのほっそりとした首筋、そこから続く肩から腕への滑らかなライン。  
半袖の制服から覗く白くて細い弛みなど少しもない二の腕、指先に至るまでの華奢なライン。  
ナース服のツルンとした体の線を目立たせないはずの生地を押し上げている2つの膨らみ。  
残念ながら生地のせいでウエストラインは確認出来ないが、それでも腰のラインを視界に納めつつ  
普段は碌な事に使われない(今もだが)脳細胞をフル稼働させて、チェックした各パーツ情報から  
導きだされるラインを脳内補完して描き出す。  
導き出されたウエストラインを当て嵌め、脳裏に全体像を正確に思い浮かべてみる。  
 
「お、おっ、おぉっ―――っ!スレンダーモデル体系でありながら美乳を持つナイスバディ!!  
 上条さん的に、高ポイント過ぎてGJ(グッジョブ)を捧げてしまいますよ―――っ!!!」  
 
いよいよ最終チェックポイントの確認である。  
ここでクラッシュすれば、もう真っ白に燃え尽きて立ち直れない程重要なポイントだ。  
期待と不安が綯い交ぜになった奇妙の高揚感を胸に抱きつつ、覚悟を決めて視線を上げる。  
先ず視界に飛び込んできたのは目。黒目がちな何処か夢見る様な茫洋とした大きな瞳が  
濃く長い睫毛に縁取られ濡れた様に輝ている。  
スッと通った鼻梁が理知的な趣を感じさせて、その下に位置する唇に続いている。  
小さな唇は、どちらか言えば肉厚が薄い方だろうと思うが、リップか口紅を塗っているのだろう。  
やや赤み掛かったピンク色に色付き、グロスの艶に瑞々しく輝いている。  
うりざね顔は殆ど化粧っけがなく、又、その必要がないほど色が白い。  
目の上で切り揃えられ、後ろへ流されている黒髪は漆黒に近いのだろう、ライトの光を受けて  
青みを帯びた濡れた様な光沢を放っている。  
顔全体を視界に納め、時間が経つのも忘れたまま、ジ――――――っと、見つめる。  
 
「…………綺麗だ――――――」  
 
「…………(ポッ)…………」  
何故かその女性は、急に顔を赤らめさせている。  
始めは目元と頬に赤みが出ていたが、上条が良く確認しようと、ジ――――――っと食い入る様に  
見入ると、急速にその範囲を拡大していく。  
ジ――――――――――――――――――――――――――――――っ。  
今や耳まで赤く染まり、頬はリンゴのホッペ状態に真っ赤っかである。  
 
「上条さんと致しましては、美人さんが赤く為るのは、見てて非常に嬉しいのですが。  
 何故に、この方は赤く為っておられるのか、皆目検討が付かないのでありますが?  
 もしかして、何か病気でも急に発症されたのでしょうか?」  
「うん?まぁ、ある意味では病気だろうね?」  
「そっ、それはいけませんの事よ。美人さんは人類の宝だと、宇宙開闢以来の法則なのですから!」  
「それに依存は無いんだけどね?そこに、美人はナース服着用の法則、も加えて欲しいね?」  
「何故(なにゆえ)、ドクトル・フロッグ様の属性をアカシックレコードに追加しなくちゃならないん  
 ですの?そんな事は美人の味方、上条お兄さんが許しませんの事よ!」  
「そうかい?でも、彼女似合ってると思わないかい?それと、その呼称は止めなさいと言ったろ?」  
「えぇえぇ、上条さんトキメイテしまうくらい、ど真ん中の直球ストライク的に似合ってますよ。  
 全く、深遠なる宇宙より広い上条ブレインとも為ると、宿主たる私めにさえ意見をするのですね!」  
「君に喜んで貰えると、色々準備したかいがあったと言うものだね?」  
「こっちの非難をスルーするとは、生意気な。で、美人さんは何の病気なのか言ってごらんなさい。  
 偉大なる上条脳内ネットワークには、こんな症例は登録されていません事よ。  
 さあ、我が脳内に生まれし別人格であり影でもある、カエル声の上条よ答えてみせよ!」  
「まだ続けるのかい?彼女は恋の病だね?」  
「こ……恋ですとぉ――――――っ!!」  
「それも重度の恋煩いだね?」  
「そっ、それでは、先程から綺麗なお顔を真っ赤に染めているのは、LOVEの相手がいるからですか!?」  
「そうだよ?相手から、ナイスバディや綺麗や美人と言われ見つめられて照れてるんだね?」  
「ちっ……畜生――――――――――――っ!!!  
 何処のどいつだぁ!あんな美人さんに想われてる幸せ者は――――――っ!  
 上条さんなんか不幸街道まっしぐらなのに、こんな美人さんの想いに気付かない様な戯けた馬鹿者は  
 この愛の天使イマジンエンジェル上条が亜夢ちゃんに代わって浄化してやる!!」  
「最後の方は良く理解出来ないんだけどね?君、本気で言ってるのかい?」  
「もちろんであります大佐殿―――っ!」  
「話しには聞いてたけどね?実際に見ると本当に凄いね?ここまで鈍感だと興味深いくらいだよ?  
 名残り惜しいけど、僕も何時までも君の脳内遊びに付き合ってる訳には行かないんだよ?  
 君、いい加減こっち(現実)に戻って来ないかね?それと変な階級で呼ばないでくれないか?」  
「まぁー!ケロッグったら、今度は説教まで!上条さんは、そんな子に育てた覚えはありませんよ!」  
「うん?その新呼称もよしなさい?強引にでも、こっち(現実)に帰って来てもらおうかね?」  
「おんのれーっ!下克上なんて例えキングスライム様が認めても、スライム上条は絶対に認めないわ!  
 例え一人になっても戦い続けてみせるんだから!誰にも上条さんの芯(妄想)は砕けないのよ!!」  
「君、彼の目を覚まさせてくれないかね?」  
「なっ!?……何に、美人さんに声をかけてんのよ!そんな恐れ多い事して…………って、あらっ!?」  
 
視界を占める美人さんが、右手に持っていたバインダーを両手で握り、頭上に掲げながら近付いて来る。  
バインダーが上条の視界を全て覆った直後、軽い音が病室に響いた。  
 
「パコン」  
「!?……ぐ!――ぐっ!!おオオオオオッッ―――――――――――ッ!!!」  
 
上条、魂の絶叫である。  
しかし、音から分かる様にバインダーの一撃は強烈な物ではない。  
例えるなら、恋人通しがやると民間伝承で伝えられる『はっはっは、こ〜いつぅ。』と言う呪文とともに  
人差し指から繰り出される額への攻撃程度の威力でしかない。  
何故か『恋人通し』と言うキーワードに殺意を覚える諸兄達向けに、敢えて別に例えると  
蝿叩ききで『ピシッ』と叩かれたくらいのダメージだと思って頂きたい。  
何時もの上条ならダメージすら負わない攻撃だが、今は別だ。  
美人さんを良く見ようと、鈍く痛む首を無理やり右斜め上へと持ち上げていたからである。  
伊達にコルセットなど嵌めらていない事を、身を持って体験学習させられた訳だ。  
 
暫くジッと我慢して、ある程度痛みが引いた所で閉じていた瞼を開けてみる。  
涙で覆われ視界不良の為、何度か瞬きを繰り返しクリアな視界を取り戻す。  
目に映るのは、自分に暴虐を働いた不届き者である美人さんである。  
両手で握ったバインダーを顔の右側にずらし、上空に覆い被さる様な姿勢で、自分の顔を無表情に  
ジ――――――っと見詰めている。  
こちらも抗議の意味を込めて、ジ――――――っと見詰めてやる。  
 
「目覚めた?」  
「…………(ジ――――――っ)…………」  
「もう一本行っとく?」  
 
バインダーを揺らしながら尋ねられたので、慌てて『プルプルプル』っと顔を横振動させて拒否する。  
 
「そう、残念」  
 
上空を覆っていた美人さんが離れて行くと、入れ替わる様にカエル医者が現れた。  
 
「やっと、こっち(現実)に戻って来た様だね?お帰り上条くん?」  
 
首の痛みも完全に引き、先程までのハイテンションも治まり、ノーマルモードへ移行した上条である。  
最初の立ち位置へと戻った2人を見ながら、改めて美人さんへと目を向ける。  
相手も上条の方に目を向けていた様で、バッチリと視線が合ってしまう。  
逸らすに逸らせず、茫洋さを感じさせる大きな黒い瞳を見詰めてしまう。  
相手の方も無表情に、こちらの方をジ――――――っと見詰めている。  
「(…………うぅっー、上条さんとしては、こう言う状況に慣れてないので、対応するマニュアルが  
  あれば切に欲しい所なんですが〜…………)」  
「…………(ジ――――――っ)…………」  
「(……やっぱり、美人だよな。目鼻立ちも整ってるし。惜しいのは表情に乏しい所かな)」  
「…………(ジ――――――っ)…………」  
「(……唇以外、肌が変にテカッテないし、化粧してないんじゃないか?)」  
「…………(ジ――――――っ)…………」  
「(……年上には見えないな。なんか、俺と同い年くらいに見えるけど、そんな事無いよな。  
  世の中、異常に若く見える女の人も居るみたいだし。身近にも三人居るし)」  
「…………(ジ――――――っ)…………」  
「(……って言うか。何で、この人こんなに一点見詰めしてくるんだ?しかも、無表情に)」  
「…………(ジ――――――っ)…………」  
「(……そういや、俺の知り合いにも居たな。こんな風に見詰めてくるのが一人)」  
「…………(ジ――――――っ)…………」  
「(……さすがに、こんな長時間は無かったけどな。良く見りゃ雰囲気も似てるんじゃないか?)」  
「…………(ジ――――――っ)…………」  
「(う〜ん、目鼻立ちも似てるし、背格好も同じくらいか?黒髪も同じだし、違う所と言えば髪型か?)」  
「…………(ジ――――――っ)…………」  
「(ふんふん、髪を後ろに流して緩く縛ると…………おぉ〜っ!この人にソックリになるぞ!)」  
「…………(ジ――――――っ)…………」  
「(……って、あれ?似過ぎじゃないかこれ。これじゃ、姉妹ってより一卵性の双子?世の中には似た  
  人間が三人居るって迷信とかもあるしな?もしくは、クローンか!?いや、そんな事無いはずだし  
  ………………冷静になれ、考えるんだ)」  
「…………(ジ――――――っ)…………」  
「(????????????????)」  
「…………(ジ――――――っ)…………」  
「(???????!?!?!?!?!)」  
「…………(ジ――――――っ)…………」  
「(!?……まっ…まさか。……いやいや、どう考えてもありえねえだろ。……一応同じ学生だし。  
  ……でも、どう考えても本人って線が妥当だよな)」  
「…………(ジ――――――っ)…………」  
「(うぅーっ!?……名前を聞いてみるか?……いや、本人だったら気を悪くするだろうし。  
  ……じゃあ、呼び掛けてみるか?……違ったら恥ずかしいし、当たってもどうすりゃ良いのか  
  ……リアクションに困るし……あぁ〜っ!一体どうすりゃ良いんだ!?)」  
苦悩する上条に対し、やっぱり、ジ――――――っと見詰めているだけの美人さん。  
このままでは埒があかないと決断したのか、上条の口が開かれた。  
 
「え………えっと…姫神?」  
「うん、何?」  
 
 

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