それは、例えばある土砂降りの日に、柄にもない極上の笑みと一緒に、子供用  
絆創膏が誰にも邪魔される事なく手渡されるIFの話かもしれない。  
 または、いかにかして学園都市統括理事長のプランが変更、あるいは終了して  
全てが丸くおさまり、二人の幸福が手に入った遠い未来の話かもしれない。  
 
ともあれ、これはかつて血に汚れた白い少年と、穢れを知らない幼い女の子が、  
光の中で共に紡ぐ物語。  
 
 
『とある幻想の一方通行』  
 
 
 
 
 
 時刻は昼過ぎ。  
 炊飯器だけで用意されたとは思えない、むしろ思いたくない昼食を食べ終わっ  
た頃。  
「きすってどうやってするの、ってミサカはミサカは素朴な疑問をアナタに投げ  
 掛けてみる」  
 一触即発の爆弾はとんでもないところから飛んできた。  
 
 
 
 一方通行と打ち止めは、求職中の研究員とともに、とある体育系教師の厄介に  
なっている。  
 しかし、自称二人の保護者であるこの家主は、平日は教師として、放課後や週  
末も警備員として家を空ける事が多い。  
 もう一人の自称保護者も就職活動なのか、たまに野暮用だと言ってふらっと出  
掛けてしまう。  
 そういうわけで、しばしば二人で留守番という形になる。今日のように。  
 たいていは一方通行が惰眠を貪ることに逃げるのだが、打ち止めが毎回毎回あ  
まりにもうるさいために、気まぐれに“お遊び”に付き合ってみることもある。  
 そして、この様である。  
 
 
「あァ?」  
 一方通行は、“おしゃべり”をするためにとソファで寝るのを妨害されことに  
加え、のっけからの意味不明な問いに、不信感と不機嫌をほどよく混ぜた感情を  
隠そうともしなかった。  
 現在、一方通行は三人掛けのソファの真ん中に一人で座り、その右足に打ち止  
めがすがりついている。  
「だーかーらー、きすってどうやるの、ってミサカはミサカは訊いてるのに」  
「クソガキがァ、何寝ぼけた事言ってやがる」  
「何度も言わせるなんてアナタのい・け・ず、ってミサカはミサむぐぐぅ」  
 一方通行は煩い口を無理矢理塞いで黙らせ、大袈裟に舌打ちをする。  
 またカエル顔の医者が妹達に何か可笑しな事を吹き込んだのかもしれない。  
 もしくは、実体験がネットワークに流れたとか、変なテレビ番組に感化された  
とか。  
 どうにせよあまりいい状況ではないと、急に絶食を始めたり、朝の占いが天の  
啓示だとでもいうように気にし始めたりという奇行を目の当たりにした経験が告  
げる。  
 
「キスってのはアレだ、人体の消化器官の一部である口唇が他人のそれや額や頬  
 に触れることだろォ。わかったか、マセガキ」  
「アナタが説明するとどうしてそんなにムードも味気もないものになるのかな、  
 ってミサカはミサカは呆れを通り越して驚いてみたり」  
「わかったンなら、退け。っつゥか、調べ物なンざネットワークでヤレ」  
 右足のくっつき虫を強引に引きはがす。  
 こういった場合は適当にあしらうのがベターなはずなのだが。  
「むぅ……ネットワークには“知識”は溢れてるのに何故か“経験”はないの、  
 ってミサカはミサカは残念なお知らせをアナタに告げてみる。ん? もしかし  
 てここでミサカが“きす”をしたら一番乗り!? ってミサカはミサカは今こ  
 そ上位個体の優位性を全ミサカに示すために立ち上がってみる」  
「……」  
 打ち止めは勝手に野望に燃えており、拳を固めて空を睨む。  
 なんだか雲行きが怪しくなってきた。  
「おィ、オマエ……」  
 声をかけようとした一方通行はそのまま凍り付いた。  
 打ち止めの、なんとも形容しがたい眼光が彼を捕らえたからだ。  
 その気迫は学園都市最強の超能力者がその色素の薄い顔をさらに蒼白にし、自  
然と身構えてしまうほどだった。  
「ミサカはきすって何? じゃなくてどうやるの? って訊いたんだよ、ってミ  
 サカはミサカは強行手段をとってみたりっ」  
 ていやーとか間の抜けた叫びを上げながら、打ち止めが飛び掛かる。  
 これ以上ない程の身の危険を感じた一方通行が、全力でソファの背もたれを飛  
び越え、後方の壁まで下がりながら右手は電極のスイッチを能力使用モードに切  
り替えた。  
 しかし、相手が打ち止めである限り、能力によるアドバンテージは一方通行に  
はない。  
「ゥ、がァ……」  
 すぐにミサカネットワークによる代理演算を取り上げられ、崩れ落ち、床と接  
吻する羽目になる。  
「一方通行の能力の奪取成功、ってミサカはミサカはミッションコンプリートの  
 喜びを小躍りして表現してみたり」  
 一方通行は目の前で打ち止めが跳びはねていることは理解できるが、それが何  
故なのかまでは頭が回らない。  
 また、発せられる言葉も意味をなしては届かない。  
 結果、小さな子供が駄々をこねるように首を小さく横に振り、力の入らない体  
で後ろに下がろうとする。  
 
「−−−−、−−−−?−−−−−−……」  
 打ち止めが無邪気な子供そのままの笑みで、何かを唄うように呟き、近付く。  
 これからされるであろうこと、その意味を霞がかかったような思考でぼんやり  
と考える。  
 考えて、考えて、考えて、考えて、考えて−−それでも答えはでない。  
 打ち止めが傍らに座るのが一方通行の視界の端に映った。  
 その小さな手は透き通るように白い頭に乗せられている。  
 そして頭上の手は少しすべり下りて、まとまらない心をすくいあげるように、  
優しい手つきで顎を持ち上げた。  
「−−−−」  
 唇が触れる前、吐息が感じられる程近くで囁かれたのは、きっと幼い愛の言葉。  
 一方通行は自分の頬に柔らかくて温かいものが触れるを感じながら、心底悔し  
く思った。  
 その言葉を理解できない、返せない事を。  
 そして、もしも自分ができたなら、囁き返してしまっていただろうことが容易  
に予想できる事を。  
 
 
 
 
 
−−数時間後……  
 
「ただいまじゃんよー」  
「ただいま」  
 保護者二人がどういうわけか一緒に帰ってきた。  
「おかえりなさい、ってミサカはミサカはあいほとききょうに言ってみる」  
 出迎える打ち止め。  
「ん? なんで白いのはソファでもなく部屋の隅で床に転がって寝てるんじゃんよ?」  
「本当ね。真っ白に燃え尽きたって感じに」  
 
「うーん……、ヒミツ?ってミサカはミサカは可愛らしく首を傾げてみたり」  
 
(あンのクソガキィ、絶対ブッコロス……)  
 
 
 
 
 
……こンなのが、続くのかァ?  
 

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