学園都市のとある学生寮にある上条当麻宅の隣の部屋で、
部屋の主の土御門元春は神裂火織にお茶を出しながら話を切り出した。
「ねーちん。今日はどーしたにゃー?」
「えーと偶然ですね、日本に来る機会があったので改めて上条当麻にお礼をと思いまして」
「あん?それなら俺の所にくる暇があるなら、さっさとカミやんの所に行けばいいじゃねーか」
「そ、それがですね、どうも上条当麻の部屋に五和が来ているらしくてですね、
あの子だけならともかく五和までいると顔を出し辛いと言いますか…」
「あー五和ね、そういえば最近よくご飯を作りに来てるみたいだにゃー。あれは通い妻ってやつだにゃー」
「か、通い妻!?そ、そうですか…」
自分と同じく英国に居住しているはずの五和がちょくちょく上条当麻宅に来ている事実と
土御門から発せられた通い妻という言葉に驚く神裂火織。
「大丈夫だってねーちん、この間の堕天使エロメイドでねーちんもかなりのポイントを稼いだはずだにゃー」
「あ、あの、本当にアレで喜んでもらえたのでしょうか?」
「ねーちん、なに言ってんだ?カミやんだって正常なオトコノコなんだから
女として幅を広げレベルアップしたねーちんの艶姿にメロメロに決まってるだろ?」
「そ、そうですか?」
「あぁ、ねーちんのような大和撫子と堕天使エロメイドとのギャップにきっとやられちまってる!」
「そ、そうですか。それならあのような恥ずかしい格好をしたかいがあったというものです」
そういって目の前にあるお茶に口をつける。
「だがしかし、カミやんのハートをゲットするには、まだ何かたりないにゃー。ねーちんもそう思うだろ?」
神裂は、飲んでいたお茶が気管に入ったのか、ゴホゴホ咳き込みながら土御門の言葉を否定する。
「ハートをゲットなんて話はどこから!?私はただ上条当麻に感謝の気持ちを―――」
「このアマはまだそんな舐めた事を言ってんのか!?好きでもない男の為にあんなエロい格好をするのか?
それじゃあ、ただの露出狂じゃねえか?」
「ろ、露出狂!?無理矢理あのような格好をさせたあなたがそれを言いますか!?
好きであんな格好をしたわけではありません!」
「そうかにゃー?たいだい今の格好だって十分エロいじゃねーか」
「な、何度も言いますがこの格好には魔術的な意味があって――」
「つまり、ねーちんは魔術的な意味があるからノーブラ、ノーパンのエロい格好を
普段からしてる訳だと?」
「そ、それは左右非対称の方が魔術的に有効であって、し、下着をつけないのは、
衣服の非対称を邪魔しないように――」
(おいおい、まさかと思ってカマをかけてみれば、やっぱり下もはいてねーのか!?)
そんな事を考えながら土御門は真っ赤になって動揺している神裂の前のある湯飲みに
学園都市謹製スーパー保温急須から熱々のお茶を注ぐ。
「あーはいはい、少し落ち着くにゃー」
「す、すいません、………ふぅ、やっぱり玄米茶は熱いのに限りますね」
そう言って一気に飲み干す神裂火織、土御門は100℃近いはずの玄米茶を一気に飲み干した神裂に
驚きを覚えながら神裂の湯飲みに再びお茶を注いで話を続ける。
「よし、話を戻すにゃー。ねーちんがノーブラ、ノーパンのエロい格好をしているのは、
魔術的な理由からであって普段からノーブラ、ノーパンでも露出趣味はない。ここまではオーケー?」
ノーパン、ノーブラと連呼するなと思いつつ神裂は、熱々の玄米茶を再び飲みながら頷きで肯定する。
「じゃあ、露出趣味がない女があんなエロい堕天使エロメイドなんて着たのはなんでだ?
カミやんに感謝の気持ちを?ふん、笑わすなよねーちん、もっと素直になれよ」
「す、素直になれと言われましても――」
「ねーちん、カミやんの事を思い出してよく考えろ。そこにあるのは本当に感謝の気持ちだけか?」
そういわれ神裂火織は上条当麻について考える。
先日の聖人にして神の右席のアックアとの戦いでは彼なしでは勝てなかっただろう。
初めて会った際に彼は、聖人である自分に臆することなく立ち塞がった。
ボロボロになりながら私に言い放った言葉は私の心を大きく揺り動かした。
改めて感謝の気持ちだけかと言われれば違うと思う。
なぜなら―――
――上条当麻の事を考えると頭がぽーっとする。
――上条当麻の事を考えると胸がドキドキする。
――上条当麻の事を考えると体が熱くなる。
―――なんだろう?この感じ。なんだかフワフワして意識がどこか遠くなる―――
「――ちん?ねーちん、大丈夫か?」
思考の海に囚われていたのか土御門の自分を呼ぶ声で正気に戻る。
「…はっ…すいません…なんだか…ぼーっと…して…しまい…ました…」
「(効いてきたみたいだにゃー)」
なぜか頭がよく回らなくなった神裂は土御門の囁きに気が付かない。
「よし、ねーちん、自分の気持ちに気が付いたか?」
「…はい…そういわれてみれば…私は彼に…特別な感情を抱いている…のかもしれません…」
「やっぱそうだろ。よし、俺の見たところ、先日の堕天使エロメイド効果でねーちんの方が五和を押しているにゃー」
土御門の声にぼーっとした様子ながら頷く神裂火織。
「だがしかし、さっきも言ったようにカミやんのハートをゲットするには、まだ何かたりないにゃー」
「…私は…どうすれば…いいんでしょうか…」
「うむ。そこでノーパン、ノーブラがデフォな、ねーちんの為に用意したのが
この淫乱エムメイドセット!これさえ纏えば鈍感なカミやんのハートのゲットも間違いないにゃー」
土御門がテーブルの上に置いた『淫乱エムメイドセット』とやらに目をやる神裂火織。
「…こんな…胸も…下も…丸見えな…服を着て…彼の前に…出ろと?」
「普段から着けてない・穿いてない、ねーちんなら十分着こなせるだろ?」
土御門の声にぼーっとした様子で答える神裂火織。
「…いえ…さすがに…これは…いきすぎ…では…」
「うーん、ねーちんは恥ずかしがりやだにゃー。よし、じゃあこうしよう。
カミやんに直接会うのが恥ずかしいならビデオでねーちんを撮ってそれカミやんに渡すことにするにゃー」
有無を言わさず『淫乱エムメイドセット』を渡す土御門に様子に押された神裂は、
「…直接…見られなくても…彼が…喜んで…くれるなら…」とだんだんと朦朧としてくる頭で了解したのだった。
場所は変わって学園都市のとある学生寮にある上条当麻宅の台所。
天草式十字凄教の五和がなにやら携帯電話を見ながら料理を作ってる。
その様子をリビングでインデックスと飼い猫の面倒を見つつ上条当麻は声をかける。
「五和、料理しながら携帯いじってんのはなんでだ?ひょっとして見たい番組でも携帯で見てんのか
それだったら料理を後にしてこっちでテレビ見てもいいぜ」
「い、いえ、初めて作る料理なのでレシピの確認をしていたんです。美味しい料理を作るので期待してください」
そう言って、むん、と小さな拳を握り締める姿が微笑ましい。
「ところで上条さん、お醤油が切れてますけど、どこかに替えがありますか?」
五和の声に、まだ余裕があったはずだけどなぁと思いながら台所に行き、棚に目を向ける。
「えーっと、この辺に買い置きがあったはずだけど……あれ?ないなぁ……よし、ひとっ走りして買ってくるわ」
早速出掛けようとする上条に五和は声をかける。
「いえ、ほんのちょっとあれば良いんです。今日の所はお隣さんからでも借りてきてくれれば」
続く五和の「今から買いに行ってはせっかくのお料理も冷めてしまいます」との言葉にリビングで
猫とじゃれあっていたインデックスが『ご飯はあったかい方が美味しいよ!冷めない内に早く醤油を貰ってこい』と
無言のオーラーを上条を睨みながら放つ。
お隣さんから借りてきてねぇ……隣というと土御門の部屋か。あんまり奴には借りを作りたくねぇんだけどなぁ。
まぁ、今まで奴が俺に振ったトラブルに比べれば醤油の少しくらいで貸し借りなんて発生しないと信じたい。
「はいはい、わかりましたよー。それじゃあ、ちょっと行ってきます」
上条の言葉に「いってらしゃい」と手を振る五和。
あぁ、エプロン姿の美少女にニコニコの笑顔で手を振られ見送られるシチュエーションに小さな幸せを感じる。
しかし、なぜか五和の笑顔が「ニコニコ」じゃなく「ニヤニヤ」と感じるのは気のせいか?
そんな事を考えながら家を出た―――
―――とある学生寮にある上条当麻宅から徒歩数秒、土御門元春宅の扉をノックする。
「土御門いるかー?ちょっと醤油貸してく―――」
上条当麻は(悪い癖で)返事を待たずに扉をあけた。
そこには、服としての役割を捨てたといっていい衣装を纏った、
真っ裸に等しいドエロい神裂火織が俗にいうM字開脚姿で土御門にビデオ撮影されている所だった。
「…………………………すまん、邪魔した」
扉を開けて数秒後、なんとか正気を取り戻し慌てて扉を閉めた。
………あぁ、びっくりした土御門と神裂があんな関係だったとは………そう考えると先日、
病室に降臨した堕天使エロメイドは、土御門と神裂のそういうプレイだったのか?
「―――上条さん、どうかしましたか?」
正気を取り戻したものの未だに混乱している上条の背後から急に声がかかる。
「い、五和。ど、どうした?」
「すいません、お醤油の替えが冷蔵庫にあったので借りてこなくても良いですよってお伝えに来たんですけど
遅かったですか?」
「い、いや、土御門の奴、出掛けてるみたいでさぁ。よかった、買いに行かなきゃいかんと思ってたところですよ」
「それじゃあ、ご飯にしましょう。禁書目録さんが首を長くして待ってますよ」
上条当麻は相変わらず『ニコニコ』というより『ニヤニヤ』という感じの五和に
頷きながら自分の部屋に戻った。
場所は再び学園都市のとある学生寮にある上条当麻宅の隣の土御門元春の部屋。
お茶に混ぜた薬が本格的に効いてきたのか、意識朦朧状態で上条当麻の訪問にも気が付かなかった様子の
神裂火織をビデオカメラで捕らえつつ、土御門は上条が出て行ったのを確認してから携帯電話で電話をかける。
『トゥルゥルゥー♪トゥルゥルゥー♪トゥ、ピッ』
電話が繋がってすぐに土御門元春は相手の確認もせずに叫ぶように言う。
「舞夏は無事なんだろうな!」
「安心するよな。無事じゃなきゃ人質としての意味がないのよ。
それにしても流石は学園都市よな。携帯電話なんかで我等の女教皇のあられもない姿が生中継で見れるとは――」
土御門は相手の言葉を遮って吼える。
「言われた通りにしたぞ。早く舞夏を開放しろ!」
「ふっ、それはまだ早いのよ。おまえには、もうちょっと働いてもらうのよ。
追って指示するまで女教皇の事はよろしく頼むよな」
「おい待て建宮、まだ話は終わっちゃいな―――クソッタレ!」
そういって切られた携帯電話を土御門は床に叩きつけた。