誰かに呼ばれている気がして上条当麻は目を覚ました。
「やっと気づいてくださいましたか。このまま朝まであなた様の寝顔を拝見するところだったのでございますよ」
まだ夢の中にいるような野暮ったさを感じつつ、風呂に埋もれた体を起こして声の主を探すと、
「――オルソラ?」
「はい、オルソラ=アクィナスでございます」
風呂のふちに手を乗せ、腰を折って上条を覗き込むようにオルソラが立っていた。
かくして妙に見慣れたシステムバスの個室に、パジャマ姿のお姉さんがいるというこの異常事態。まだぼやける頭で必死に上条は考えたが、さっぱり意味が分からなかった。
「…何で?」
「あのままあなた様をじっと見ているのもなかなか魅力的な選択肢ではございましたが、やはり一人は寂しかったのですよ。面と向かってお話するのも久しぶりでございますね」
手を胸の前であわせ、オルソラはにこやかに若干外れた答えを上条に寄こした。このペースも慣れては来たが、やはり寝起きでは本調子になれない。
(つかなんでこんなボーっとするんだ…俺低血圧だったっけ)
「あー、そっちはどうだ? 引越しでは大して役に立てなかったけど、寮は良い所か?」
非常にゆっくりとだが覚醒に向かっているが、何かがおかしい。
「何故私がここにいるのか不思議でございましょう? 魔導書の、とは言ってもおまじない程度のかわいらしいものではございますが、面白そうな魔術を見つけまして試してみたのですよ」
「魔術? この右手が必要なのか? 物を選ぶなんて上品なことは出来ないぞ」
ずれた会話に混じった言葉は鈍い頭でも溢さず聞き取れた。実験でもしたいのだろうかと上条は思ったのだが、その前にいる事自体が異常だと遅れて気づく。
「わたくしとしましてはそれが心配ではあったのですが、あの手この手でうまくその右手を回避できたようで少し胸を張りたいくらいなのでございますよ」
そう言って言葉通りに胸を張るオルソラだが、薄いパジャマの大きな山になんか突起が見えました。
(ってぇ!? のーぶらっすか!?)
と違う方向に行きそうになった思考を上条はあわてて戻す。衝撃もありそろそろ意識も大分はっきりしてきた。
「と、言うと既に魔術は働いてるのか? もしかしてここに来るために使ったっ…て、魔術でテレポート、しかもイギリスから日本までなんてレベルでおまじないなのか?」
テレポート自体は超能力の実物だって知っているし、魔術で出来ない話は無いが、あまりにも距離がありすぎる。そもそも上条は自分が対象に選ばれる理由を思いつかない。わざわざ右手があるから手間も掛かっているようだし。
「寮は中々素敵なところではございますが、大勢の人と一緒に暮らして分かった事があるのですよ」
「オルソラさん、会話が繋がらないのはいつもの事ですがなんで肩に手を置いて顔が近づいてくるんでせう? わたくしとしてもこれは期待しつつ全く意味が分からないのですがッ!」
未だ風呂にはまったままの上条を押さえつけるように、オルソラはその肩に手をかけて徐々に腰を曲げていく。
そしてオルソラの瑞々しい唇は上条の唇へと、ではなく耳へと近づいていった。上条は一瞬残念に感じたが、
「あなた様は大層魅力的だったのでございます」
耳元で色っぽくささやかれた日には背筋だって鳥肌を立てる。
オルソラはそれ以上続けず、すっと少し顔を離して上条に回答を披露した。
「人は夢見の間、魂と体の関係が少し曖昧になるのでございますよ。今回基本とした魔術は縁を繋ぎに夢を共有するものでございますが、あなた様の右手を回避するように若干手を加えて、繋ぐ対象を魂へと名言、部分特化しているのですよ。」
ですから、とオルソラは続けた。
「ここは現実ではなく夢の中という事になるのですよ」
「夢? このリアルな感覚が夢?」
上条は肩から伝わる熱を確かに感じながら、確かに妙な始動の遅さがあったと思い出した。
(あれは夢の中で起きたせいだったのか……)
「むしろ魂同士なので返って敏感かも知れないのですよ。ですから」
静止する間もなく、上条の唇はオルソラに奪われていた。上条は直にくっ付いた皮膚から焼けるような熱と電気のような痺れを感じた。
あまりの刺激に思わず上条はオルソラの肩を押して引き剥がしてしまった。
「なッ…え…?」
困惑する上条に残念そうな視線を寄こすオルソラ。正直辛抱たまらん状態ではあるのだが、急すぎて飛びつく前に体が驚き萎えてしまっていた。
「そう言えばあなた様に肌を見られたのもお風呂場だったのですよ。そういうシチュエーションはお好きでございますか?」
「好きか嫌いかで言ったらもちろん好きですがちょっと待ってオルソラッ」
「濡れ透けがお好みでございますか」
至極マイペースにオルソラは会話を進め、上条の足の方向にある壁に掛かったシャワーへと手を伸ばした。
蛇口をひねると瞬間で沸かされたお湯が降りかかり、風呂に入ったままの上条はもちろんのこと、蛇口をひねったオルソラの背中にもかかって淡いブルーへ肌色を透かした。
「待ってと言ったら勝手な解釈せずに待ってくれると嬉しいんですがッ! これは誘われてると理解して宜しいのでせう?」
「もちろんでございます。むしろここまでして放置されてはわたくし自身残念なのですよ」
「なん…ですと…?」
振り向きざまの爆弾発言プラス背中だけではなく透けた胸(やっぱりノーブラ)に上条の自制回路は焼ききれた。
「罰当たりも良い所ではございますが、この命は救っていただいた時から主と共にあなた様のものでございます。お好きにして宜しいのですよ?」
もう上条は言葉にしなかった。ブレーキが壊れたとたんゲージは即時リミットオーバーし、迸る高校生の欲望は真正面からきれいなお姉さんへ一直線である。
「きゃ…んっ」
風呂の傍らにいたオルソラを無理やり自分もいる狭い風呂の中へと引きずり込み、後ろから抱きかかえるように乳房をつかむ。豊満なそれはとてもやわらかく、沈めば返す程よい弾力と、それでも剥がれる気がしない吸い付きは正に違う意味で夢だった。
「狼とは言ったものでございます、っね、しかもこれはっ…刺激が…大層強いのでございますよ」
上条自身、手から伝わってくる刺激でこれなのだ。性感帯を触られている方はどれだけ強いのだろうと思う。そしてそれを体験する瞬間はすぐ訪れた。
「ふふ…あなた様ばかりにさせても不公平っ…でございますね」
オルソラは息を粗くしながら後ろ手に上条の男の本意をつかみ、勿体付けもせず腰を浮かせて自分の同じ部分へ突き刺す。体制的にやや無理があったせいで激しく中を擦った瞬間、これ以上はないという刺激が双方に流れた。
「きゃああ!」
「うお!」
オルソラは痙攣しつつ達し、上条も手を止めて一瞬で果ててしまった。
「こ、れは…ぁぁ…予想以上で、ございます、よ」
「……」
息も絶え絶えといった感じで前方へ寄りかかるオルソラに対し、若さは暇など与えない。
一度果てたというのに上条の肉棒は未だ屹立し、硬くオルソラを貫いたまま。加重が前にと移動した動きを利用し、上条は右手で風呂のふちをつかみつつ、左手でオルソラの臀部を持ち上げて立ち上がりバックからピストンを開始した。
「はあぁっ! そんな! すぐには!」
オルソラの締め付けは緩まず、上条はすぐにでも果ててしまいそうだったが、不思議と肉体自体への疲れは感じない。
後になってその怖さを痛感する事になるとも知らず、上条は本能に従ってオルソラを攻め続けた。
夢の中であるせいか疲れ知らずで快感を貪った結果、夢の中でオルソラが気絶するという稀有な状況になって初めて上条は冷静さを取り戻した。
「すまーん! 何かが切れてしまった! いや言い訳のしようもない…本当にスマン!」
オルソラが気づくなり風呂の横で床にこすりつけるように土下座する上条。
「夢とは言え…こんなに中に出されては……妊娠してしまいそうなのでございますよ…」
最初と逆転した位置関係で風呂に埋もれたオルソラは、自分の下腹部から風呂の底に伝う粘液を見て静かに漏らした。
「勘弁してください。あれだけやったのに反省も知らず上条さん勃起してしまいそうです」
「こんな過程で実体験もせず孕んでは、本当にシスター失格なのですよ」
大分手荒にしてしまったのに、それでもオルソラはにこやかに笑んでいた。
何故か上条はその微笑を見て泣きそうになってしまった。
「さて、そろそろたぶん朝なのでございますよ。こんなに密な時間だったとは言え夢とは少し悲しいものではございますが、わたくしは満足しているのですよ」
ではまた。そう言ってオルソラが頭に手を置いた気がした。
「とうまー! 朝だよー! 朝ごはんだよー!」
今日も朝からうちのシスターさんはけたたましい。ちなみに知らない人が聞けば彼女が作ってくれるなんて羨ましいぞチクショウと勘違いしそうだが、あくまで彼女のは報告でなく催促である。
「あさ、か」
いつもならのろのろと起き上がるところだが、まるで体に力が入らない。夢の中で疲れ知らずだと思ったら、しっかりと反動が残っていた。
きっとオルソラも向こうで同じ思いを…いやオルソラなら笑顔で起き上がるかもしれないと彼女のちゃっかりスキルに思いを馳せる。
しかし彼女がどうであれ上条は指一本程度しか動かない事実。そしてシスターの強襲。いかな理由よりも、彼女の食欲は優先される。というかたぶん、理由を知ったら…。
(いや、考えるのはよそう)
今日も上条さんは不幸らしい。
「不幸じゃなくてしっぺ返しって言うんだにゃー」
「つ…ちみかど?」
シスターに噛み付かれている所で、風呂の入り口から声を投げたのはお馴染みの隣人だった。
「ふふふー、プロをなめてもらっちゃこまるぜよ。とりあえず、ほい」
投げて寄こされたものを上条がキャッチする前に、野性を取り戻したインデックスがキャッチしたが、不満そうな顔をして上条に渡す。なんとも怪しげな精力剤だった。
「この土御門プロ推薦の品だぜい。まあ今はそれを飲んで回復するんだにゃー」
一瞬いい奴と上条は思ったが、次の瞬間嫌らしい笑みとともにそれは打ち砕かれる。
「あとでしっかり聞かせてもらうぜい?」
なんだかんだで結構口を割らされてしまった上条。
しかも夢の癖に妙に記憶が鮮明なせいで風呂の居心地は悪いし、眠りたいけど眠れないジレンマを抱えて結局次の日も精力剤のお世話になるのだった。
「不幸だ…」
上条は不遜な言葉を吐いたと言う。