遠雷の音が微かに聞こえたと思った次の瞬間、部屋の中が真っ暗闇になった。  
「あら?」  
 親友と肌と肌を合わせた、まさにスキンシップを始めようとした矢先の出来事に、佐天涙子はキョロキョロと辺りを見回した。  
 そして、何時まで立っても回復しない無い電力供給にふと先程の遠雷を思い出すと、  
「停電!? いーとこだったのに」  
 佐天はその事実にたどり着くと悔しそうに叫んだ。  
(助かりました……)  
 そんな佐天をよそに、初春飾利は心の中でそっと胸を撫で下ろす。  
 今まさに貞操の危機は回避され――  
「うひゃっ」  
 安堵したのもつかの間。初春は腰の辺りをモゾモゾ動く感触に悲鳴を上げる。  
「や、止めて下さい佐天さん!」  
「んー、今更ここまで来て止められる訳無いっしょ」  
 佐天は楽しそうにそう言うと、初春の腰に絡めていた腕を上の方に移動させた。  
「ひっ、きっ、キャ―――――――――ッ!!」  
 初春は、さわさわと裸の上半身を這い回る佐天の手の感触に悲鳴を上げる。  
 このままでは、と大事な部分を死守するために、両手で胸を隠して前屈みに体を折り曲げる。  
 そんな初春の背中に覆いかぶさるようにしていた佐天は暗闇でニヤリと笑う。  
「う、い、は、る」  
「は、はい?」  
「隙ありー!」  
 佐天はさっと初春の背中から体を滑らせると、そのままの勢いで初春の背後、無防備に突き出されたお尻に取り付いた。  
 既にこの暗闇に目が慣れ始めていた佐天の狙いはそこにあった。  
 佐天は初春の寝間着のズボンと下着に手を掛けると躊躇無くずり下げた。  
 闇夜に白く浮かび上がる初春の尻は、まだ女性らしい肉付きは少ない。  
「£%#&!!」  
 初春が声にならない叫びを上げると、彼女らしからぬ身のこなしで立ち上がろうと腰を上げた。  
「!?」  
 初春は引き上げようとしたズボンが膝上に見当たらずギョッする。  
 当のズボンはと言うと、立ち上がった時に佐天がずり落としてしまって、今は初春の足首に絡まっていた。  
「初春、協力ごくろーさまぁ♪」  
 佐天は目の前のみずみずしい尻をぺちぺちと平手で軽く叩いた。  
「ひいっ!?」  
 初春は短い悲鳴を上げてしゃがみ込むと、正座の姿勢から体を前に倒した。  
 そしてぴったりと胸をふとももに押し付けると、両手は後に回って尻の割れ目を隠す。  
「さあ初春ぅ、観念してあたしに体を預けなさいってば」  
 暗がりに身を小さくして怯える初春の姿、そして震える声に、佐天は興奮気味に言葉を放つ。  
「ひぃっ」  
 佐天がカメになった初春にのしかかると、初春はまた短い悲鳴を上げる。  
「変な声出さないでよ。あたし、初春にイケナイ事してる気分になるじゃないよ」  
「じ、じゃ、止めてくだひゃ!?」  
「だ、あ、め」  
 初春の願いは、佐天の否定の言葉と、首筋をなぞり上げられる感触に掻き消される。  
「じゃ初春、くすぐったいかも知れないけど我慢してね♪」  
 そう言うと佐天は固く搾ったタオルを初春のうなじの辺りにそっと押し当てた。  
 佐天の手にするタオルが優しく、初春の首筋から肩、肩から脇へと下りてくる。  
「ふぅぅん」  
「いゃぁん初春ちゃん、どおしちゃったんかなぁ?」  
 鼻に掛かったようなため息を漏らす初春に、佐天は楽しそうに話かけた。  
 
 そんな佐天には、震える初春の様子が触れる肌越しに伝わってくる。  
(うふふ、あたしのくすぐり技は凄いんだから。何時まで耐えられるかなぁ?)  
 佐天は心の中でほくそ笑むと作業を再会した。  
「ひっ、きゅふっ」  
 佐天に触れられる度に、初春は小さく悲鳴を上げる。  
 実は、風邪による発熱と、極度の緊張から、初春は体の感度が敏感になりすぎていたのだ。  
 そんな敏感な肌を柔らかく撫で上げられたりしたのだから堪ったものではない。  
(な、何? 佐天さんに触られる度にびりびりって来て、何だか切ない……)  
 初春はその未知の感覚に混乱していた。  
 だから、調子に乗った佐天が、尻を隠していた手を退けてしまった事にすら気付かなかった。  
 佐天が剥き出しの尻をタオルでなぞる。  
「いひっ!?」  
 初春はビクンと一際大きく体を震わせると、胸を隠すのも忘れて上半身を起こした。  
「あら」  
 それを見逃す佐天では無かった。  
「うーいはるーん♪」  
「ッ!?」  
 直ぐさま初春の背後から抱き着く。  
 しかも佐天が手を回した場所は初春のささやかな二つの膨らみ。  
 初春は特に敏感なその部分に触れられた事に慌ててしまって、思わず佐天の手の上から自分の手を重ねてしまった。  
「ひっ、いや、止め、佐天さ、止めひぇ」  
 初春は、自分で佐天の手を押し付けている事にも気が付かないで、佐天の腕の中で身をくねらせる。  
「アハハ。押し付けてるのは初春じゃないよ。ほらほらー」  
 佐天は身もだえる初春に気を良くして、やわやわと初春の胸を揉みしだいた。  
「やっ、ひんッ!」  
「ここ、初春? ここがくすぐったいんでしょ?」  
 佐天が指を動かす度に、初春は操り人形のように歌い躍る。  
 しかし、この時の佐天はある重大な勘違いをしていた。  
 それは、初春が身をくねらせるのは、くすぐったいからでは無いと言う事。  
「あっ、ふんんっ、きゃん!」  
 その証拠に、初春が発する小さな叫びは、悲鳴では無く嬌声に変わっていた。  
(苦しい、もどかしい、切ない、頭が、私の頭が……)  
 当の初春も頭の中が既にある感覚に支配されている事が理解できず戸惑っていた。  
 責める佐天と、堕ちてゆく初春。  
 お互いに自覚は無いまま、それでも終わりの瞬間は無常にも刻一刻と近付いていた。  
「ふぅっ!」  
 初春が甘い叫びを上げながら、強く佐天の手を自分の胸に押し付けた。  
 急に予想しない力を手に加えられた佐天は、思いがけず初春の柔らかい乳房に爪を立ててしまった。  
 それも女の急所、もしくは起爆スイッチとも呼べる箇所――固くしこった乳首に。  
「きゃひゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!」  
 初春は急に大きくのけ反った後、今度は佐天の両手を力いっぱい抱き抱えたまま、その身を前に折った。  
「え?」  
 佐天は、奇しくものしかかる格好になった自分の下で、ビクンビクンと体を震わせる初春を、ただ呆然と見つめていた。  
「ぁぁ……」  
 何時まで続くものかと思われた状況は、初春の悲鳴が途切れると共に唐突に幕を下ろした。  
 後に残ったのは佐天の腕の中で、ぐったりとしてしまった初春のあられもない姿だった。  
 この暗闇のお陰で、涙と鼻水と涎まみれの顔を直視されなかった事が、初春にとって救いになったかどうか。  
「あれ、初春? 初春、初春ーっ!?」  
 暗闇の室内に、1人佐天の初春の名を呼ぶ声が響き渡った。  
 
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜  
 
「佐天さんヒドイですよ!! あ、あんな、あんな、あうぅ……」  
 布団を鼻先まで被った初春は、涙目を床に座る佐天に向けた。  
「アハハ。ごめーん。まっさかくすぐりで気を失うとは思わなかったから」  
「う゛……」  
 悪びれない佐天の声に初春は言葉も出ない。  
 あれから佐天は、気を失った初春の体を予告通りタオルで隅々まで清めると、苦労しながら寝間着を着せた。  
 そしてベッドから布団を下ろして来て――2段ベッドの上まで初春を運べない為、布団の方に下りて来てもらったのだ――床に敷くと、そこに初春を寝かせたのだ。  
(ホントは、初春ったらおもらししちゃってたんだけど、このスペシャルカードは切り札に取っておこうっと)  
 本当の本当は、おもらし等ではなく、初春が逝った拍子に秘所から溢れた大量の蜜だったのだが、この暗闇で、しかもあの時慌てていた佐天が気が付く事は難しいと言えよう。  
 かくして初春の新たな弱みを握った佐天は、暗闇とは言え見られないように必死ににやけるのを押さえながら、このいつも他人行儀な可愛い親友にどんな事――と言う名の羞恥プレイ――をさせようか、とそんな事を考えていた。  
「ど、どうかしましたか? 急に黙って」  
「え? 何でもない、何でもないってばぁー」  
 アハハハと笑う佐天に、何かうそ寒いものを感じる初春であった。  
「じゃ、あたし、今夜はそろそろ帰るね」  
 佐天は唐突に別れの言葉を言うと共に立ち上がった  
「え? あ……、あの……」  
 初春は思わず不安を顕にして聞き返してしまい、聞き返した事を即座に後悔した。  
「停電、直りそうに無いし。あんまり遅くなると危ないじゃない? 時間判らないけど」  
 初春のそんな心の動きに気付かなかったのか、佐天は聞かれたままに初春に言葉を返した。  
 どうも、佐天が帰ってしまうのは決定事項だと判断した初春は、これ以上話が長引かない様にしようと結論を出した。  
 自分の我侭で、親友を危険な目に合わせてはいけない。  
 それは、親友として、風紀委員(ジャッジメント)として当然の判断だと初春は自分に言い聞かせた。  
「そうですよね。佐天さん、今日は本当にありがとうございました。また明日」  
 初春は、佐天に感謝と別れの言葉を述べた。  
 いつも通りの初春の言葉に、佐天は立ち上がったままじっと初春を見下ろしていた。  
(一言「寂しい」って言えばいいのに、初春はそういう所がホント可愛く無いんだから)  
 佐天はコメカミの辺りを指でトントンと叩きながらイライラを押さえようと努力した。  
 そんな佐天の葛藤にも気づかず、初春は玄関に向かう気配も無く立ち尽くす佐天の様子をじっと見上げていたが、立ち去る気配が感じられない事に不安を覚えて声を掛けた。  
「佐天さん?」  
 しかし佐天からの答えは無く、代わりに足音と共に影が遠ざかって行った。  
「さ、佐天さん。気を付けて帰ってくださいね」  
 初春は、首を持ち上げて遠ざかってゆく影に向かって声を掛けたのだが返事は帰って来なかった。  
 それに少なからず寂しさを感じた初春は、額にタオルが乗っているのも忘れて、頭まで布団を被った。  
(何だか佐天さんを怒らせてしまったのでしょうか? 明日、佐天さんに謝らなくては)  
 悶々とそんな事を考えていた初春は、すぐ側に迫る足音を聞き逃した。  
 突然、初春の布団が引き剥がされた。  
「わ゛―――――――――っ!?」  
 初春の布団を引き剥がした犯人は佐天であった。  
「おじゃましまーす」  
 佐天は、初春の横に寝転ぶと、先程引き剥がした布団を自分と初春の上に掛けた。  
 そして、おもむろに硬直している初春の背中に体をぴったりと密着させた。  
「ひっ、ひっ」  
「こらぁ初春、裸で寒いんだから離れないでよぉ」  
 布団から逃げようとする初春を、抱き寄せながら佐天はのんびりと文句を言う。  
 それどころか『裸』の一言に初春は再び硬直する。  
「な、何で裸なんですか!?」  
「服着たまま寝たら皺になっちゃうでしょ? ほんと初春って女捨ててるわー」  
 初春の抗議にも似た質問も、佐天にとってはどうでもいいらしく投げやりな返事が帰って来る。  
「な、何でそんな所でおんひゃ!? や、止めて下さい! 足を絡めないで、胸を揉ま、ぃゃぁ……」  
「チッチッチッ。硬い事は言いっこ無しよ、初春。じゃ、お、や、す、みぃ」  
「いや、寝られません! このままじゃ寝られませんからぁ……、嫌ぁ……助けてぇ……」  
 身悶える初春をぎゅっと抱きしめ、その嫌がる声を子守唄に聞き、佐天は幸せそうな笑みを浮かべて眠りに付いたのだった。  
 
 
 
END  
 
 

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