シェリー=クロムウェルの部屋に招き入れられた神裂火織は、勧められるままに椅子に腰掛ける。  
 
「あ、あのシェリー、申し上げてよいでしょうか?」  
「あ? なんだい改まって」  
「その……、申し上げにくい事ではあるのですが……」  
「ん、なんだい? こっちは……おとと、探し物してんだからさっさと話せよ」  
「ン、ン……、で、でわ、申し上げますがシェリー、そ、その、下に……何か……つけていますか?」  
 神裂は顔を真っ赤にしてシェリー――正確には目の前に露わになったシェリーの引き締まった褐色のでん部――から目を逸らしながら言った。  
 そう、神裂の目からはどう見てもシェリーがショーツをつけている様に見えなかったのだ。  
 
「あ! 有ったわ――で、えーと、何の話だっけ? 私が何をつけてるって?」  
 シェリーは大き目の紙袋を抱えて振り返ると、顔を真っ赤にした神裂に不思議そうな顔を向けて聞き返した。  
 そして、聞き返された神裂は更に顔を赤くして――恥ずかしいのにまた言わせるのかと、目尻を釣り上げてより具体的に、  
 
「だ、だから貴女はショーツをつけているのですかと――」  
「ああこれ」  
「ひぃ!?」  
 シェリーが何の前触れも無く着ていたベビードールの短いスカートをたくし上げたので、神裂は悲鳴を上げて目を背ける。  
 
「んだよ神裂、ちゃんと良く見なさいよ」  
「え? ええっ!?」  
 恐る恐る目を開けた神裂は、次の瞬間思わずシェリーの股間を食い入るように見つめてしまった。  
 シェリーの引き締まった下腹部の女性の一番大事な部分を覆い隠すように何かがへばり付いていた。  
 
「『Iバック』って言うんだけど」  
「は、はぁ」  
 急にショーツの説明を始めたシェリーに対して、神裂は間抜けな顔でシェリーの股間と顔を交互に見やる。  
 
「始めは不思議な履き心地だったけど、馴れちまうと他はもう駄目だな」  
「そ、そんなもんですか」  
「ええ、変に生地がずれて気持ち悪き気分になる事も無いし、脱ぎ着も簡単だしな」  
「私もその事が気になったのです。不躾ですが、この下着はどのようになっているのですか?」  
 すっかりシェリーの話に乗ってしまった神裂は何気に気になった事を聞いてみた。  
 それがどのような結果を招くとも知らずに。  
 
「簡単よ。ほら」  
 そういうとシェリーは事も無げに、股間を隠していたそれに指を添えると取り外した。  
 それはU字型になっていて、股間を隠していた部分は広く、後ろに来るであろう部分は棒状の構造になっている。  
 
「はぁー……。こんな簡単な構造で簡単に脱げたりなどはしないのですか?」  
「それは大丈夫よ。あとついでに言っておくと、別にケツは痛くねえぞ」  
「そ、そうなんですか」  
「ええ、そうよ。後、トイレの時はこうやって――太ももにでも挟んでおけば大丈夫」  
「ああ、なるほぶっ!? シ、シェリぃぃぃぃぃ!!」  
 神裂は何気にシェリーの太ももを見つめ――薄絹越しにシェリーの大事な部分を見てしまって派手に悲鳴を上げると両手で顔を覆った。  
 シェリーもそんな神裂にびっくりして目を丸くする。  
 
「な、なによ神裂? 今日のオマエは何時になくけたたましいったらねえな」  
「シ、シェリー! そ、そそそ、そんな事より、し、下、下、下着をつけて下さいっ!!」  
「あ? あー……」  
 相変わらず手で目隠ししたままの神裂に指摘されて、シェリーは騒ぎの原因に気が付く。  
 そして、太ももにつけていた下着を元の位置に戻すと「ほら、もう大丈夫よ」と神裂に声を掛けた。  
 
「べっつに女同志だってのに……、貴女は少し気にしすぎよ」  
「そ、そんな事はありません! 女性たるもの何時いかなる時でも清楚に、慎ましやかにしていなければいけないのです!!」  
 シェリーの呆れた声に、神裂は顔を真っ赤にして声高に自分の正当性を主張する。  
 
(テメエはそんなハレンチな格好しているのによく言うぜ)  
 そんな神裂に、年上のシェリーは口には出さず胸の中でそうひとりごちるのだった。  
 
 
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜  
 
 
 神裂の剣幕も何とか納まった所で、シェリーは先程見つけた紙袋をもう一度手に取る。  
 
「さて、本題に入りましょうか。注文は水着だったよな?」  
「確かにオルソラからはそう伺っています。しかし、何故貴女に水着の用意をお願いしたのでしょう?」  
「それは、アイツが私の事を暇だと思ってるからじゃないかしら。じゃ無きゃ、アイツがバカだからだ。どっちだと思う?」  
「へ、返答しかねます」  
 返答に窮して戸惑う神裂にシェリーがにやりと笑う。  
 
「ま、それはいいわ――ただし、私に頼んでただの水着で済まそうなんて思ってねぇよなぁ」  
「うくっ」  
(だ、だから私は嫌だと言ったのです。それをオルソラが押し付けてきて。何が「そろそろお夕飯の仕度をしないといけないのでございますよ」ですか!)  
 シェリーに目の前まで詰め寄られて逃げ場の無くなった神裂は、心の中でこの騒動の中心人物に毒づいていた。  
 一方、神裂が押し黙ったのを観念したと解釈したシェリーは、神裂から離れると袋の中身を備え付けのベッドの上に広げる。  
 大きな極彩色の布が2枚と、同色の小さな布が1枚。  
 この生地が少ないものは多分、おそらく、間違いなく、これはTバックではないか、と神裂は先程のオルソラへの怒りも一気に吹き飛んで戦々恐々とする。  
 
「さぁてと、これが私が用意した水着よ――おい神裂、第一印象を言ってみろ」  
「あ、へぇ!? い、印象ですか……。日本の風呂敷みたいですね……い!? な、何でしょうかシェリー……」  
 急に聞かれた神裂は率直に水着の感想を口にした。  
 するとシェリーは目を細めて満面に妖しい笑みを浮かべる。  
 その笑みに神裂は非常に悪い予感がしたが、さりとて逃げる事も出来ずにその場に硬直する。  
 シェリーはそんな神裂の隣に並ぶと急に肩を組んで来て神裂をまたぎょっとさせる。  
 
「感心してるのよ私は。さすが極東出身者、自分の所の伝統品は見誤らねえモンだなぁと思ってよ」  
「あ、ありがとうございます」  
 シェリーの賞賛の言葉も、今の神裂には攣った笑いを浮かべて礼を述べるのが精一杯だった。  
 そんな神裂に耳を疑うような一言が飛び込んできたのはその時だった。  
 
「じゃ、早速着てみようか」  
「え? い、今何と……?」  
「寝ぼけた事言うんじゃねぇよ神裂。試着してみてって言ったのよ、わ、た、し、は」  
「あ、あのシェリー……、今すぐこれを着ろと言うのですか?」  
 悪い予感が的中してしまった神裂は、何とかこの場を取り繕おうと虚しい抵抗を試みるが、シェリーはそれを許さない。  
 神裂の首に回した腕に力を込めると、ぐいと神裂の頭を引き寄せて耳元に口を近づけると、  
 
「おい神裂。折角テメエらが水着が欲しいって言いやがるから、腕を奮って作ったのに何か文句でもあるのかしら?」  
「あ、あのですね……、確かに……こ、此方からお願いしたのですし……、ご、ご好意も大変に嬉しい事なの、で、ですが……」  
 静かだが、それだけに底知れない雰囲気を感じさせるシェリーの言葉に、怒るのも当然だと思った神裂の言葉は徐々に小さく弱くなってゆく。  
 
「ですが?」  
「あの……着たく無い訳では無いのです……。た、ただ、どのように……、その身につければ良いか判りませんし……」  
 神裂は耳元にかかるシェリーの吐息にすら戦慄を覚えながら消え入りそうなほど小さな声で返事をした。  
 そんな小動物然とした神裂ってちょっと可愛いな、とか不埒な感想を心の中で考えていたシェリーはとりあえず目の前で小さくなっている聖人に助け舟を出してやる事にした。  
 
「ばーか――だ、か、らぁ、私が今すぐって言ったんじゃないの。それに実はこれ、まだ完成って訳じゃねぇんだよ」  
「か、完成ではないとは?」  
 急に明るく話しかけて来たシェリーに神裂はあからさまにホッとした表情をする。  
 
 そのシェリーの方では神裂を解放するとベッドにある2枚の布を手に取って神裂の方を振り返る。  
 
「1枚はパレオ。テメエみたいに恥ずかしがりやの為に用意してやった」  
「も、申し訳ありません」  
「はぁ、一々謝んじゃねえよ極東流派――さて、ここで問題を出すわよ」  
 シェリーはため息をついて、すっかり萎縮してしまった神裂をたしなめてから、緊張をほぐしてやろうとちょっとした質問をしてみる事にした。  
 
「水着のパーツであと足りねえものはなんだ?」  
 神裂は急な質問にちょっと考える素振りを見せる。  
 今、パレオは説明を受けたばかり、そしてベッドの極端に布地の少ない西洋凧に似たものは多分パンツ、すると後に残るのは――  
 
「……ブラ、でしょうか」  
「大正解!」  
 神裂の答えにシェリーはにっこりと――まるで先生が生徒を称える様に――微笑んだ。  
 早速とでも言った感じにシェリーは、パレオとは別の布をベッドに広げた。  
 
「見てろ神裂」  
 その言葉に神裂が布に注目したのを確認すると、シェリーは器用に布を折り始める。  
 ただの四角形の布が、シェリーの手にかかると見る間に姿を変えて行く。  
 神裂はその光景を目の当たりにして、ふとある事に思い立つとそれを口にした。  
 
「これは、まさに日本の風呂敷の使い方に酷似して――」  
 シェリーはその一言を待っていたかのようににやりと笑うと手の動きを少し緩めた。  
 
「生徒にたまたま日本の留学生がいてな、その子が不思議な布袋持ってるなと思って聞いてみたらそれだったのよ。で、自分でも色々調べてみたら、これがまたオモシれぇのなんのって。で、早速取り入れてみたって訳」  
「さすがシェリーですね」  
 神裂はシェリーの芸術家としての着眼点の凄さと、造詣の深さに素直に感嘆の言葉を述べた。  
 そんな神裂の言葉に、ちょっと照れくさそうに「ありがと」と答えたシェリーは、  
 
「じゃ、判ったら裸になれ」  
「え?」  
 急なシェリーの言葉に神裂はキョトンとする。  
 
「頭悪いやつだなー、着ないと寸法合わせとか出来ないでしょ」  
「え、あ、で、ですが……、し、しかし――」  
「恥ずかしがること無いでしょ? 普段からハレンチな格好してるは、事故と称してみんなに裸を披露するは、幻想殺し(イマジンブレイカー)に――」  
「んなぁ!? わ、判りました! あ、ありがとうございます。ありがたく着させて頂きますから!!」  
 シェリーの言葉が神裂の触れて欲しくない部分にどんどん突き刺さってくるので、いたたまれなくなった神裂は降参の意思表示を見せた。  
 とは言え潔く服を脱ぐのは躊躇われたのかもたもたとTシャツの結び目を弄っていると、それを見ていてまたイライラしてきたジェリーは部屋の片隅にある、崩れかけた泥人形のようなものを振り返った。  
 
「エリース! この女を押さえ込んでひん剥いちまいな」  
 シェリーのこの一言で泥人形が唸り声を上げながら立ち上がる。  
 この突然の状況の変化についていけなかった神裂は迂闊にも泥人形の接近を許してしまう。  
 気が付けば、足は床から生えた泥の手に捉えられ、目の前には腰の高さまで床に埋もれた泥人形――下半身は埋まっているのではなく床の上を伝って神裂の足を捕らえている――が無骨な両手を伸ばしてきている。  
 その情景に神裂の顔が盛大に引き攣った。  
 
「ぬ、脱ぎます! 自分で脱ぎますら、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」  
 そして普段の神裂ならありえないような悲鳴が部屋の中に響き渡った。  
 
 
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜  
 
 
「……あー、なんだ……、その……、神裂もう泣かないでよ」  
 シェリーは自分の金髪を乱暴にかき回しながら、床の上に女の子座りして鼻を鳴らしている神裂に慰めの言葉を掛けた。  
 それから辺りを見回して大きくため息をついた。  
 
 実に惨憺たる有様――シェリーの部屋の廊下側に面した壁に人が通れるくらいの大きな穴が空いていた。  
 これは神裂が身の危険を感じて近くにあった椅子ごとエリスを叩きつけた為に出来た穴だ。  
 辺りには土くれと、壁の一部と、椅子だったものの残骸が散らばっている。  
 
 シェリーはもう一度大きくため息をついた。  
 そして相変わらず床の上に座ったままの神裂に、  
 
「いい加減にしてよ、聖人様だろーがテメエはよぉ」  
「せ、聖人だって女なのですよ。ち、ちょっと位は配慮して欲しかったです(クスン)」  
 言葉を投げかけられた神裂の方はと言うと、破れてしまったTシャツを手で押さえて辛うじて胸を覆っているが、露わになった背中を見るとTシャツを押さえている手を離せない訳が何となく判る。  
 すっかり目尻が下がって涙目で口を引き結んでいる聖人の姿など中々拝めない状況といえよう。  
 ただシェリーとしてはそんな悠長なことも言っていられない。  
 神裂の前にしゃがみこむと、子供でもあやすように頭を手でぽんぽんと軽く叩いた。  
 
「ハイハイ、私が悪かったわよ。全く、泣く子と聖人には敵わねぇよな――で、何時脱ぐのよ」  
 シェリーの最後の一言に神裂は我に帰ってシェリーから目を逸らす。  
 
(ど、どうあっても逃れられないのですね……)  
 神裂が流石にこの状況では観念せざるを得ないと諦めかけたその時、外から何ともこの状況に似つかわしく無いのんびりとした声が聞こえて来た。  
 
「夕飯の仕度ができたのでございいますよ」  
「「オルソラ!?」」  
 確かに、壁に空いた穴から顔を覗かせているのは、オルソラである。  
 
「よいしょっと」  
 オルソラは、年寄り臭い掛け声を掛けて穴を潜ると室内に入って来た。  
 そして、ぐるりと部屋の中とシェリーと神裂を見回して一言、  
 
「シェリーさん勝手に部屋に出入り口を増やしてはいけないのでございますよ」  
「そこを突っ込むのですか!?」  
 床に座ったままの神裂はオルソラに激しくツッコミを入れる。  
 
「馬鹿な事言わないでよ。こりゃ神裂がブチ破ったんだ」  
「なッ!? それはシェリーが無理に私を脱がせようとエリスをけし掛けたからじゃないですか!」  
 今度はシェリーに責任を擦り付けられた神裂は憤りも露わにシェリーに文句を言う。  
 
 そんな忙しそうな神裂をじっと見つめていたオルソラは、一言「なるほど」と呟くと修道服を頭からガバッと脱いでベッドの上に綺麗に畳んで置いた。  
 続いてガーターベルトからストッキングを外すと、一つずつ脱いでは修道服の上に置いて行く。  
 
「オ、オルソラ!?」  
 突然の事態に暫し硬直していた神裂は、ガーターベルトも既に外されたオルソラがついにブラを外してその形の良い乳房をさらした所で我に帰って叫んだ。  
 ところがオルソラの方は気に止める様子も無くブラを置くと、続いてショーツも脱ぎ捨ててしまうと、これはちょっと恥ずかしいのだろうか、服の間に隠してしまった。  
 そして唖然とする神裂と、神妙な面持ちのシェリーの前で生まれたままの姿になったオルソラは、  
 
「わたくしにも責任はございます。ですからご一緒に裸になれば恥ずかしくないのでございますよ」  
 その一言にシェリーも合点がいった様子で頷く。  
 
「なるほど、それは気が付かなかったわ。たまにはお前もいい事いうな。じゃ、私も脱ぐか」  
 そう言うとシェリーも、身に付けていたものをぽんぽんと脱ぎ出してあっと言う間に裸になってしまう。  
 
 神裂は目の前で繰り広げられる光景――白と黒の金髪美女の全裸――に言葉を失って硬直……してもいられなかった。  
 神裂はシェリーとオルソラに両サイドから挟み込まれるように密着されたのだ。  
 
「ひぃ!!」  
 世にも間抜けな悲鳴を上げる神裂に2人はにっこりと微笑んで、  
 
「「さあ後は神裂(さん)、お前(あなた)だけだ(でございますよ)」」  
 2人は神裂の手に力を込めると、神裂の胸を覆う布切れと手をどけようと力を加えた。  
 それを振り払いたい神裂だったが、聖人の力で生身の2人を振り払っては怪我をさせてしまうかもしれないとか、下手に動くと布が落ちてしまうとか、2人が裸なのに何故自分は意地になって服を着ているのだろうとか、そんな事が頭の中で駆け巡る。  
 すると、徐々にだが神裂の手が自身で押しつぶすようにしていた二つの膨らみから引き剥がされ始めた。  
 
(ああ……このままでは……、しかし2人が脱いだ今私は……)  
 神裂が葛藤の渦に飲み込まれようとしたその時、再び廊下から少女――アニェーゼの驚きの声が聞こえてきた。  
 
「うぁ! 何すかこの惨状……。シェリー、さっき悲鳴と爆音が聞こえたんすけど大じょ……ぶ……」  
 アニェーゼは恐る恐る穴から顔を出して部屋の中を覗き込んでその惨状――全裸のシェリーとオルソラに組み付かれている半裸の神裂――に言葉を失う。  
 
「ア、アニェーゼ助けてください! この人たちがむぅぅ!?」  
 神裂は咄嗟にアニェーゼに助けを求めようとしたが、横からシェリーが手を伸ばして口を塞いでしまう。  
 
「何やってるんすかあなたたちは?」  
 アニェーゼはそんな3人にあきれながらも、一応理由を聞いてみることにした。  
 
「ちょっとな……、イギリス流の親睦の深め方よ」  
「はぁ」  
 最近ここの馬鹿騒ぎにも慣れてきたアニェーゼは、やっぱり聞くんじゃなかったと聞き流すことにした。  
 そんなアニェーゼにオルソラは、  
 
「それよりアニェーゼさん、水着が出来上がっているそうでございますよ」  
「はぁ、そうっすか」  
「なんだ? 反応が薄いじゃねぇかよ。アニェーゼも私が作ったのじゃ嫌なの?」  
「ぐ、ぐむんんんんんんんんんんんん!(わ、私は水着が嫌だなんて言っていません!)」  
 アニェーゼの気の無い返事に、シェリーが眉間に皺を寄せてガッカリしたような声を出す。  
 そのシェリーの隣では神裂が何やら喚いているが口を塞がれているので良く判らない。  
 
「い、いや、そう言う訳じゃねーんですよ、いやシェリー、すんませんね」  
 アニェーゼはシェリーが自分の一言でショックを受けたのに気付いて慌てて非礼を謝った。  
 オルソラはそんなぎこちないやり取りをする2人のうちまずはシェリーに声を掛けた。  
 
「シェリーさん、人には色々と事情があるのでございますよ。アニェーゼさんの場合は神に仕える事を第一として質素倹約を旨にしてまいりましたから特に贅沢に繋がるような事には躊躇するものがあるのでございますよ」  
 そして今度はアニェーゼの方に向き直ると、  
 
「アニェーゼさん、まず自らが幸せでならなければ他の救いを求める方々を導く事など出来ないのでございますよ。我らが父は贅沢をしたとてお怒りになるような心の狭いお方ではございませんよ」  
 オルソラはそう言って立ちすくむアニェーゼの手を優しく手に取る。  
 そしてオルソラは囁くように――  
 
「ですからまず――こちらで一緒に神裂さんのお着替えを手伝って欲しいのでございますよ」  
 そして促すようにアニェーゼの手を軽く引き寄せた。  
 たったそれだけなのにアニェーゼは滑る様に神裂の前に移動した。  
 そんなアニェーゼは一瞬戸惑うような素振りを見せたが、オルソラの笑顔を見ると落ち着きを取り戻す。  
 
「そ、そうっすね。シスター・オルソラの言う通りかもしれないっすね」  
「むぐうううううううう!(何でそうなるんですかあああああ)」  
 神裂は味方が1人もいなくなった事に絶望を感じた。  
 
「じゃ、そうと決まれば――よいしょ」  
 一度そうと決めたアニェーゼは仕事が速かった。  
 まずは修道服を物凄い勢いで脱いでゆくと、あっと言う間に裸になってしまった。  
 幼さゆえのきめ細かい肌を惜しげもなく晒す姿にシェリーは「お! いい脱ぎっぷりじゃねえか」と感嘆の声をあげた。  
 
 そしてアニェーゼは神裂の前に跪くと屈託の無い笑みを見せて、  
 
「ふふ、私ね、実は神裂さんの胸が気になってたんすよ。ノーブラでも垂れない秘密、私に教えてくださいよ」  
「あ、それは私も知りたいわ」  
「どうやら肩もこらないご様子ですから、興味は尽きないのでございますよ」  
「お、おああああああああああ!(しゅ、趣旨が既に違っています!?)」  
 
 神裂の受難はまだまだ続くのであった。  
 
 
 
END  
 

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