穏やかな日常
「無理無理無理無理ー!! ちくしょー今日も元気に不幸だああああああああああああああ」
なんでいつも俺はこうなんだと上条当麻は内心で悪態を点くも、走る速度を緩めない。正確には緩められないのだが。
曲がり角を曲がる前に背後を確認する。まだ其処には十人の柄が悪く、制服をだらしなく着こなしたチンピラが上条に
向かって罵声を浴びせながら走っていた。
事は少し前に遡る。
学園都市からお金が振り込まれ、たまにはふぁみれすってところでおなかいっぱい食べたいかも〜と上条王国破滅宣言を
嬉しそうに言うインデックスの猛攻を振り切り、喉が渇いたのを理由に喫茶店に入ったところを偶然出ようとしていた
チンピラと肩がぶつかり、謝ろうと顔をあわせた瞬間、あの最強を倒した奴だなとか叫ばれ、
携帯で仲間を呼んでる間に走り出し今に至る。
気付けば美琴との割と痛い(主に上条が)思い出がある鉄橋の上を走っていた。
ふと上条の脳裏にあの時の出来事が浮かぶも、それ所ではない。思い出を思考の隅に追いやり、
ふと後ろを見ると、チンピラが三十人ほどに増えていた。
「なんですと!?」
さらに走る速度を上げる。と言っても既に足は限界が近づいていて、インデックスとの攻防のおかげもあり、
喉は当の昔にカラカラになっていた。
捕まってぼこられるのも時間の問題だろうと思い、その光景を脳裏に浮かべ、背中を冷や汗が流れた。
そこまで考えて、鉄橋の終わりのところに、一人の女の子が立ってるのが視界に入った。
やべぇ!? このままだとあの子チンピラと衝突すんじゃねーのか!?
と、自分の状況を忘れ、ガラガラ声で叫んだ。
「ちょっ! 其処の子! 早く逃げろ!!」
しかし、少女は聞こえてるのか聞こえてないのか分からないが、こっちに向かって歩いてくる。
えっ? なんで? なんでですか?
もしかしてあの子を抱えてチンピラどもから逃げるハメになるんですか!? ちくしょうそんな体力残ってねーぞ!!
「にげっ――」
再度、叫ぼうとするも、強制的に封じられた。
上条の顔の横を、蒼白い、見慣れた電撃の槍が走り抜けたからだ。
背後で轟音が響き、チンピラの悲鳴が聞こえ、橋の下に流れる川から大きい物質が落ちる音がする。
立ち止まり、恐る恐る後ろを見ると、さっきまで走ってた不良は全て消え、
地面には黒い焼け焦げた跡だけが残っていた。
要するにチンピラは全員橋の下の川に落ちたのだ。
「まったく、あんた前にも似たような事なかった? もしかして趣味?」
目の前に、雷撃の余韻なのか、静電気がパチパチと鳴らしつつ、
常盤台中の夏服を身に着けた少女、御坂 美琴が仁王立ちで立っていた。
「は? そんな趣味ねーし。あー、疲れる」
そもそも上条には過去の記憶がない。いったい昔の自分は何度こういう状況に陥ってんだとか思い、
もしかして昔の俺の趣味? と真剣に悩み始めた。
「ちょっと、助けてあげたのにお礼の一言もないわけ? あんたそこまで礼儀知らずなの?」
走り回って所為で疲れ、しかも自分の過去に不信抱いてる途中で美琴のあまりの言い草に流石に腹が立ち、
上条の目がだんだん据わってくる。
カラカラに乾いた喉なのだが、思わず言い返していた。
「あーはいはい、ありがとうございましたー、つーか助けてなんて言ってないし!
お前が勝手に助けたんじゃねーかよ!
常盤台のお嬢様は勝手に助けておいてお礼を求めるがめつーい教育を受けているのですね!?
なんて教育、みなりは裕福でも心は庶民なのですね!」
「あっ、あんたって人は! どうしていつもいつも素直にありがとうって言えないの!?
はん、庶民の学校はどうやらマトモな教育してないみたいね!」
「なんだとこのやろーが! 身長も小さければ胸も小さい挙句の果てには器も小さいってあれ?
ミコトサン? そのコインの数はなんですか? ってこわー!! 笑ってるけど笑ってない!
目が笑ってない! ってもしかして俺地雷踏んだ!? えっうそっ! ごめんなさい! マジでごめんなさい!」
攻めの態度をいっぺんさせ、即座に土下座の姿勢に移行する。
「人が気にしてることを……ばかーーーーーー!!」
顔を真っ赤にして、若干涙目の美琴が放つ超電磁砲を最初の数発は右手で破壊するも、
襲い来る量が多すぎた所為で防ぎ切れず、すぐに吹っ飛ばされた。
その一瞬の間に。
盛大な破壊音の中に、少年の不幸だあああああああああああああああ!! と言う悲痛の叫びが混じっていたという。