「ふぃ〜、何か喉が渇いちまった。ジュースでも飲むか・・・・・」  
だいぶ和らいだとはいえ、まだまだ日中の日差しは強い。  
喉の渇きを覚えた上条は、ジュースを買おうと公園の片隅にある自販機に近付いて行く。  
「んんっ、・・・何だこりゃ?」  
自販機の横、少し離れた所に小さな可愛いらしいポーチが落ちている。  
取り敢えず拾い上げて、しげしげと眺めながら考えてみる。  
「落とし物かな?・・・後で、ジャッジメントにでも届けとくか、今はジュース、ジュースっと・・・」  
 
「今日、蹴り入れた自販機って、あそこの自販機が最後よね・・・・・」  
御坂美琴は、少し息を乱し、公園の入り口を駆け抜けながら考えていた。  
(もう〜、なかなかジュースが出てこないからって、あっちこっち梯子すんじゃなかったわ。  
ポーチを落としてる事にも気付かないくらい、熱くなってたなんて・・・・・)  
「あそこに無かったら、誰かに拾われてるって事になるんだけど・・・・(//////)」  
(・・・ど、どうしよう〜。あれを、誰かに拾われるなんて、恥ずかしくて死んじゃいたいくらいよ。  
ええい、今は確認の方が先よ。その先の事は後で考えれば良いじゃない。確かこの辺り・・・あっ)  
ターゲットの自販機は視線の先にある。  
しかし、美琴の視線は直ぐにそこからずれ、横に設置されたベンチに固定された。  
ベンチに座りジュースを飲んでいる人物がいる。  
何時も目印にしているツンツン頭。  
しかし、それよりも重要なのは傍らに置かれている、どこか見覚えのあるポーチだ。  
(あ、あれってまさか?・・・な、何であいつが持ってんのよ〜・・・・・)  
 
「ぷっは〜。やっぱ、この『フラミンゴの憂鬱』は最高だな〜。喉越しスッキリ爽快!」  
ジュースを堪能していた上条。と、その時、目の前に何者かが急ブレーキの摩擦煙を上げながら現れた。  
「へっ!?」  
「『ゼーゼー』な、何で・・・何でアンタが、それ持ってんのよ!!!」  
「どわぁーっ!?・・・ななな何だいきなり?って、あれ?・・・誰かと思えば、ビリビリ」  
目の前で『ゼーゼー』と息を荒げているのは、一応知り合いである御坂美琴。  
これでも、名門常盤台中学に通うお嬢様にして、学園都市で7人しかいないレベル5。  
その中で、第3位の位階を拝命していると言うエリート様だ。  
「どーした?ビリビリ。そんなに汗かいて、ジュースでも飲むかぁ?」  
「『ハーハー』あっ、それじゃアンタが飲んでんのと同じのでいいわ。それ美味しいのよね」  
「お〜っ、ビリビリもそう思うか。趣味が合うな〜。よっと、ちょっと待ってろ・・・・・」  
そう言ってベンチから腰を上げると、自販機に歩いて行く上条。その右手にポーチを持って・・・。  
「だぁーっ、そうじゃない!何で、アンタが私のポーチを持ってんのよ!」  
「あれ?これって、お前のだったのか?さっき、そこんとこで拾ったんだけど・・・」  
「い、いいから返しなさいよ!」  
「ちょ、おま、急に引っ張る・・・・」  
強引にポーチを回収しようと引っ張る美琴。反射的に握り締めてしまう上条。  
「あ・・・、ああっ!?」  
ファスナーの所を掴んでいた手が、上条の抵抗により『スーッ』と滑った。  
当然の如く、開いた口からは中身が地面に向け滑り落ちて行く『バラバラバラ』。  
「わ・・・、悪い、御坂」  
慌てて地面に散らばった中身を回収するのを手伝う上条。  
「ちょ、ちょと、て、手伝わなくても良いから。み、見ないでよ。って言うか、見るな!」  
「何、慌ててるんだ?上条さんは自分の粗相を放置する程、不義理じゃありません。  
 見るなって、別に変なもん入ってた訳じゃねぇんだろ・・・ん?・・・」  
「ああっ!?」  
「ふむ・・・多い日も安心、○○○夜用って、御坂ってナプキン派なんだな・・・・・あれ?・・・うっ、 
ええっ!?」  
「なっ!?な、ななな何言ってんのよ!アンタは!!(//////)」  
 
真っ赤になったビリビリとうろたえる上条さん。  
お互い無言のまま回収作業を続け、作業が終わると立ち上がり、向かい合ったまま俯いてしまう。  
(き、気まずい。どうして良いか分かんねぇけど、御坂の方がもっと気まずいはずだよな。  
よ、良し。やっぱ、俺の方から声を掛けよう・・・)  
「あ、あの〜、御坂さん?」  
「・・・・・・・『グスッ』」  
こちらを見上げる美琴の顔は真っ赤に染まり、上目遣いになった目は普段の勝気そうな雰囲気が欠片もな  
 
い。  
そして、瞳は涙で滲んで『ウルウル状態』になっていた。  
その顔を見て、上条はこんな状況にも関わらず、こう思ってしまった。  
(か、可愛い・・・)  
今度は見詰め合ったまま、膠着状態に陥ってしまった二人。  
その時、絶叫とも呼べる大声が響いた。  
 
「な、何をやってますの、お姉様!!!」  
 
「「・・・『ビクッ』・・・」」  
突然の大声に、驚く上条と美琴。  
恐る恐る振り返ると、かなり離れた所に常盤台の制服を纏った女学生が仁王立ちに此方を睨み付けている  
光景が飛び込んできた。  
「あっ、・・・確か、白井とか言ってたよな」  
以前一度だけ会った時、そう名乗った少女だった。  
「『グシッ』あ、あれ?黒子・・・」  
「お姉様ったら、こんな所で、その殿方と密会なさってるなんて、一体どう言うおつもり・・・  
 『ハッ』どど、どうしたんですのお姉様、まさかお泣きになって・・・  
 『キッ』ま、まさか、その殿方が何か身の毛のよだつ淫らで不埒な行為をなさったんですの?」  
「オイ!何、不穏な発言してんだ。紳士である上条さんがそんな事するわきゃねぇだろ!」  
「な・・・、何でもないのよ、黒子『グスッ』」  
「あぁ、御労しや、お姉様。口にするのも憚られる程、凄惨な目に遭わされたんですのね」  
「だ・か・ら、そんな事しねーって言ってんだろ!人の話をちゃんと聞け!」  
「『ブチッ』ゆ、許せませんわ。例え、お姉様が許しても、このジャスティス白井は許せませんわ。  
 おんどぉりゃああああ!!!!私のお姉様に何さらしとんじゃいいいい!!!!」  
「ひぃぃぃいいい!!!!」  
綺麗に整った顔立ちの人程、怒りの形相は恐ろしい。普段は可愛らしささえ感じさせる黒子であったが、  
今、上条の前には、般若が降臨していた。  
その眼光に、まるで、ニシキヘビに睨まれたハムスターの様に体が硬直して動く事が出来ない。  
その驚きは、美琴も同様だったらしい。  
「えっ?ちょっと、黒子。どうしちゃったのよ?」  
「殺す」  
白井が太腿から鉄矢を抜き出し、指に挟んで構える音が聞こえる『シャキーン』。  
その音が、ハム太郎上条の生存本能に突き刺さり、呪縛を解いた。  
「どっわぁあああああああ!!!!」  
「なぁ!?ちょっ、と、な、何で私まで・・・・」  
反射的に美琴を小脇に抱え全力疾走を始める上条。  
そのスピードはとても人一人を抱えているとは思えない程であった。  
「お姉様!?お、おのれー、今度は誘拐まで実行するとは、絶対に逃がしませんわ」  
こうして、上条VS白井の追いかけっこが始まったのだった。上条の命を賭けて・・・。  
 
「『ゼーゼー』な、『ゼーゼー』何とか巻いた、『ゼーゼー』みたいだ・・・」  
流石は命が賭かっていただけあって、本能的に人込みや店の中を突っ切るなどテレポーターの弱点を的確  
に抑えて、この追いかけっこは鬼の勝利に終わったみたいだ。  
「『ハーハー』あっ、そうだ、忘れてた。おい、御坂」  
上条は小脇に抱えていた美琴を地面に下ろし話しかけた。  
「・・・・・・・・・・・」  
しかし、美琴は返事もしないで、お腹を抱えて蹲ったままだ。  
「お、おい。どうしたんだ?大丈夫か?」  
「・・・だい、大丈夫よ。・・・ちょっと、お腹が痛いだけだから・・・」  
そう言って下腹部の辺りを手で抑える美琴。  
どうやら小脇に抱えられる事で、腹部を圧迫された事が原因らしい。  
普段なら、こんな事にはならないが今は時期が悪かった。  
上条もその事に思い至ったらしい。  
全くこの鋭さの万分の一でも恋愛方向にむければ良いのだが・・・。  
「病院に連れてこうか?・・・えっと、この近くの・・・」  
携帯を取り出し病院を検索し始める上条、そこに声が掛けられた。  
「病院に行く程じゃないわ。少し横になれば、治まると思うから・・・ちょと貸して・・・」  
そう言って上条の携帯を借り、現在位置を把握して休める場所を探し始めた・・・。  
「・・・ここ。ここなら、すぐに部屋が取れるから」  
そう言って、画面を見せる美琴に、  
「分かった。そこに行けば良いんだな」  
真剣に頷きながら、答える上条。  
普段ならギャーギャー喚いて話が進まないのだが、こう言う時は話が別だ。  
う〜ん、人の体の事になると何時も真面目になるな。自分の時も考えて欲しいものである。  
「すぐに連れてってやる」  
「アンタ、何してんのよ?」  
「見りゃ分かんだろ。負んぶだよ。さっ、負ぶされ」  
「ひええっ!?なな、何で負んぶなんか・・・自分で歩けるわよ(//////)」  
「嘘付け。まともに立てもしねぇのに。負ぶさんねぇなら、お姫様抱っこで連れてくぞ」  
「わ、分かったわよ・・・(//////)」  
今度は観念したのか、素直に上条の背に負ぶさる美琴。  
「じゃあ、行くぞ」  
そう告げると、ホテル目指して歩き出す上条だった。美琴に負担が掛からない様に気を使いながら。  
(こいつの背中って、以外と広かったのね。それに、あんまり揺れない様にしてくれてるんだ。  
・・・お姫様抱っこかぁ。ちょっと惜しかったかな。・・・って、な、何考えてんのよ私(//////))  
「ん?どうした御坂。気分でも悪いのか?」  
「なな、何でもない。それより、ちゃんとエスコートしなさいよ(//////)」  
「はいはい、了解しました。お姫様」  
この時、もし上条が振り向けたなら耳まで赤く茹で上がった美琴の顔が拝めた事だろう。  
そんな事には露程も気付かずに、上条は歩き続けていた。  
 
「おっすー、御坂」  
「あぁ、とう・・・、アンタか。おっすー」  
あれから、上条と美琴は普通に挨拶を交わす仲になっていた。  
あの後、ホテルのベッドで横になっていた美琴の側に、上条はずっと付きっ切りでいてくれたのだ。  
何時の間にか眠ってしまったのか、目が覚めた時、自分の手を握ったまま眠る上条がそこにいた。  
思わず叫びそうになったが、繋いだ手から伝わる温もりに心が安らいで行くのを感じていた。  
その後、目を覚ました上条と視線があったら、慌てててを離してひたすら謝っていたのには笑ってしまった。  
あれから、自分は何かが変わってしまったのだろうか。  
普通に挨拶を交わす時さえ、思わずあいつの下の名前を呼びそうになってしまう。  
あいつの顔を見ると、何だか胸にモヤモヤとした物を感じる様になってしまった。  
一体これが何なのか、知りたい様な知りたくない様な複雑な気持ちだ。  
(まっ、あまり気にしてもしょうがないか・・・。何時か、その時が来れば分かんでしょ)  
「さってと、今日は何処の自販機を攻略しよっかな〜・・・」  
そう呟きながら、美琴は歩き出した。  
彼女が、自分の気持ちと正面から向き合う時が来るかは、また別の物語である。  
 
 
 
『落し物って何ですか?』終了  
 
 
 

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