自分の机に向かって明日の予習の為にノートを開いていた御坂美琴は、先程から隣の机で頬杖を付いて物憂げにため息をつく同室の後輩、白井黒子の様子が気になって仕方なかった。  
 白井は部屋に帰って来てからと言うもの、敬愛して止まない美琴への挨拶とお互いの愛の確認――美琴からすればはた迷惑な舌戦およびスキンシップなのだが――もそこそこに机に向かうと、ずっとこんな調子でため息を付いている。  
 いい加減進展しないこの状況にじれた美琴は、ノートを閉じると机に寝そべるようにして白井の方に顔を向ける。  
 
「どうしたのよ黒子? 帰って来てからっていうもの、すっとため息ばっかりついて」  
「え? はぁ……、その……、お見苦しい所をお見せしましたのですわ。どうかお気になさらないで下さいまし」  
 愛する美琴の言葉にも白井の反応は鈍い。  
 何時なら、この十倍、いや二十倍は言葉が返ってくる。  
 
「アンタねぇ、そんなあからさまに『私悩んでます』って感じなのに気にするなって方が無理っしょ? ほら、判ったらちゃっちゃと白状する」  
 美琴の一言に今まで沈んでいた白井の瞳が俄かに輝きを取り――戻すのを通り越して背後から後光を放ちそうな勢いだ。  
 そんな白井の姿に、美琴は頬を引き攣らせるが白井は意に返す様子も無く、椅子からすっと立ち上がるとくるくると周りながら美琴に近づいてくる。  
 そして椅子の上で体をそらせて逃げる美琴の手を両手でぎゅっと握り締めた。  
 
「お姉様……、ああ、お姉様ぁ! そこまで、そこまでこの黒子のことを考えて頂いていたとは……、ああ、黒子、お姉様の為なら例え火の中水の中、愛の炎は何処までも――」  
「あー……はいはい、それはいいから黒子、本題……、本題に入って」  
 美琴は元のペースを取り戻した白井にうんざりしたような視線を送る。  
 
「はい、ですわお姉様」  
 白井は夢見る少女から瞬時に元の状態に戻ると笑顔で返事をした。  
 そして自分の机の横に立て掛けてあった鞄を手に取ると机の上に置いて蓋を開け、そこからカプセルが入った小瓶を取り出して美琴の目の前に差し出した。  
 
「これ、何だとお思いになります?」  
「……んー、薬よねー……はっ!? まさかアンタまた変な薬……」  
「あ……、まだ覚えてらしたんですのそんな事」  
 白井は過去の過ちを指摘されて、頬を引き攣らせながら笑みを浮かべた。  
 
「ま、それなら少なからず素性も判るのですが……、お知りになりたいですか?」  
「え、何? 今更もったいぶっちゃって……、そんなヤバイシロモノなの?」  
 美琴は白井の掌の上の小瓶を指差しながら怪訝そうな顔を浮かべた。  
 白井は、ひとつわざとらしく咳払いをすると、小瓶を自分の机の上に置いた。  
 それから美琴の方に向き直ると、何時になく真剣な表情を作る。  
 
「『巨乳御手(バストアッパー)』と言うモノはご存知ですか?」  
「バスト、アッパー?」  
 豊胸薬の一種だろうか? と美琴はその言葉の響きからそんなイメージを頭に浮かべる。  
 
「その昔、能力を薬によって別の人間で再現すると言う実験があったそうなんですの」  
「能力を……別の人間で……」  
 そんな実験があってもおかしくないだろう、と美琴は漠然とその話を信用した。  
 この学園都市では能力に関する色々な研究が行われているのだ。  
 『量産能力者(レディオノイズ)計画』の被験者であった彼女には信じるに値する話であった。  
 
「透視能力(クレアボイアンス) 、念動力(テレキネシス) 、発火能力(パイロキネシス) ……、当時発見されたあらゆる能力を再現させる事を目的としていたらしいのですが……」  
「ですが?」  
「結果はご覧の通りですの。未だに学園都市ではわたくし達のように能力開発は行われております。つまり――」  
「失敗した?」  
 美琴は大きく息を吐き出すと、知らずに入ってしまっていた肩の力を抜いて椅子の背もたれに寄りかかった。  
 
「と、見た方が正解ですわよね。でも、この話にはまだ続きがあるんですの」  
 白井の一言に美琴の体が椅子の背もたれから跳ね上がった。  
 
「実は『実験は失敗ではなかった』、と言うんですの」  
「まさか!?」  
「お姉様もそう思いますわよね――ああ、やっぱりわたくしたちは心も体も一つに繋がっておりますのですねあだだだだ―――――っ!?」  
「そういう不穏当な発言は例え外じゃなくても、つ、つ、し、ん、で、ちょう、だい、ねぇ!」  
 美琴は白井にがっちりとアイアンクローを極めると、ぐりぐりと頭を押し込んだ。  
 暫くそうして教育的指導を行った美琴は、域も絶え絶えの白井を解放して椅子に座りなおすと話の先を促す。  
 
「がはっ、ぜぇ、ぜぇ。え、えと、何の話でしたかしら? あ、嘘嘘、覚えてます、覚えていますからそれ以上お怒りになりますと、流石のわたくしも体が持ちませんから、あは、あははははははは……」  
 白井は、美琴の前髪に光り輝く電撃が音を立てて集まるのを見て、誤魔化し笑いを浮かべる。  
 
「一例だけ成功したらしいんですの――その能力は肉体変化(メタモルフォーゼ) 」  
「肉体変化(メタモルフォーゼ)? 自分の顔や体を他の人のものに組み替えられるってアレ?」  
 美琴の言葉に白井は「そうですの」と頷いて見せた。  
 
「そして、その実験の成果を元に作られたのがこれ。女性に理想のバストを与える魔法の薬、それが『巨乳御手(バストアッパー)』ですの!」  
「それが……、その小瓶の中身が『巨乳御手(バストアッパー)』だって言うの?」  
 美琴は机の上にある小瓶を見つめてゴクリと生唾を飲み込んだ。  
 
「と言う都市伝説ですが聞いたことはございませんか?」  
「と、都市伝説ってアンタぁ……」  
 白井の一言に気が抜けたのか、美琴はがっくりと肩を落とした。  
 
「ま、真偽の程はその程度の代物ではありますが、ともかく、昨日わたくし風紀委員(ジャッジメント)の活動中に偶然これを手に入れましたんですの」  
「ア、アンタ、それってもしかして業務上横領」  
「ま、そこを突かれますとわたくしとしても言い訳のしようがございませんが……」  
 美琴に呆れ顔でそう指摘されて、白井はばつが悪そうに頬を掻いた。  
 
「で、どうするのよそれ? の、飲むの?」  
「わ、わたくしが! ですか……?」  
「他に誰がいんのよ」  
「それは……まあ……一応毒劇物の類が混入されていない事は確認しましたけど……」  
 妙に歯切れの悪い白井の反応に、美琴は何かピンと来るものがあったようで、にやりと意地悪そうな笑みを浮かべた。  
 そんな美琴の変化に白井は敏感に反応して珍しく美琴から距離を取る。  
 
「お、お姉様!? いい、一体どうされましたんですの?」  
「ねえ黒子」  
「な、何でございますか……?」  
「それ――一緒に飲んでみない?」  
「いっ!?」  
 美琴の突然の申し出に、白井はビクンと体を震わせた後、まるで油の切れた機械のようにぎこちなく小瓶の方を振り返る。  
 そこから物凄いスピードで美琴の方を振り返ると、  
 
「しょ、正気ですかお姉様!? わたくしのお話を聞いてらっしゃったんでしょう? でしたらそんな……」  
「何、黒子。アンタ、もしかして……怖いの?」  
「ひへ!? んな、わた、わたくしを誰とお思いですかお姉様! 泣く子も黙る風紀委員(ジャッジメント)の白井黒子ですわよ。そ、そんな怖い……、怖いだなんて、おほ、おほほほほほほほほほほ」  
 誰が見ても今の白井はただの強がりを言っているようにしか見えなかった。  
 普段からおちゃらけているか、軽口を叩きながら本心を中々見せない――一部はた迷惑な本心は見せているがこれはあえて無視して――白井が珍しく自分の目の前で弱い部分をさらけ出している。  
 このルームメイトを内心憎からず思っている美琴にとっては、これ以上のチャンスは無かった。  
 ちょっとばかりお灸をすえて、先輩の威厳をここで示してやるつもりだった――それがどんな結末を招くとも知らずに。  
 美琴はゆっくりと余裕を持って椅子から立ち上がった。  
 
 
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜  
 
 
「で、それが結果って訳か?」  
 ツンツン頭の男子高校生、上条当麻は呆れたような顔をした。  
 そして一瞬だけ美琴と白井に視線を送ったが、とある部分で視線が止まると顔を真っ赤にして物凄い勢いで回れ右した。  
 
「うう……」  
 上条の一言に返す言葉も無い美琴は悔しさのせいか、はたまた恥ずかしさからか、こちらも顔を真っ赤にして涙目である。  
 その隣には言葉も発さず目を閉じて佇むと言う普段は中々見られない白井がいた。  
 そのかわいらしい顔が若干ゆがんで見えるのは、上条の不用意な一言にイラッときたのだろう。  
 ただ、愛しいお姉様の前でも有り、尚且つ体調が万全でないのでぐっと堪えているのだ。  
 そんな美琴と白井の姿は、いつもの常盤台の制服の上からこの時期にしては珍しくストールをかけていた。  
 だが、確か名門常盤台中学では外出時の服装は『制服』と決められていた筈では?  
 しかもストールは不自然に内側から大きく盛り上がっていて、胸の前で組まれた両腕とを見るに、ストールの中に何か大きなものを隠して抱えているように見える。  
 上条はもう一度だけチラッと2人の姿を見る。  
 
「しっかしなぁ……、そこまでして大きな胸が欲しいかねぇー。カミジョーさんは健全な男子高校生ですから、女子のそう言ったデリケートな所は良く理解出来ねーけど、  
んな無茶ばっかりしてると終いに親が泣くぞ」  
「うぐぐ」  
 上条の辛らつな言葉にぐうの音も出ない美琴。  
 しかし、そんな美琴のピンチに黙っていられないのが自称お姉様の露払いこと、白井黒子。  
 閉じていた目をカッと開くと、背中を向けている上条の膝裏に蹴りを一閃、上条は膝を折ってその場に尻餅を付いた。  
 
「いっっ……。何しやがんだこの白井!?」  
「黙って聞いていれば、お姉様の涙ぐましい努力を踏みにじるなんて、この類人猿めぇぇぇぇぇええええええええええ!!」  
「え? お、おいちょっと待て、いっ!? ふわああああああああああ!!」  
 白井の剣幕に慌てて振り返った上条の目に飛び込んできたのは、跳ね上がったストールの下から現れたサラシ。  
 そこに見出せるのはあからさまに女性の乳房のそれなのだが大きさが尋常ではなかった。  
 明らかに大の大人の頭より2回りは大きい肉感を伴った2つの膨らみは、華奢で小柄な部類に入る白井の胸にあるにはあまりにも不自然で、  
それでも白井が身じろぎするたびに波立つようにゆれる様は、一種背徳的な興奮を上条に与えた。  
 それだけでも純情な少年には刺激が強すぎるのに、更に追い討ちをかけるように白井がスカートに手を伸ばした為にスカートの中が丸見えになっていた。  
 白く細い太ももに巻かれた皮ベルトと、少女の大事な部分を隠すレースたっぷりのショーツ。  
 しかもそのショーツは部分的に透けていて、地肌がはっきりと見えたりするシロノモ。  
 上条は瞬時にそれだけの情報を頭の中で整理すると、顔を真っ赤にして両手で覆い隠した。  
 
「もう許しませんわ!! ここで鉄矢の錆にしてくれ……、あ、あれ、胸が邪魔で手が届きませんわ」  
「と言うより黒子……、アンタ今能力使えないじゃない」  
 スカートまで手は届くものの、胸が邪魔でそれ以上手が届かない白井は、スカートをまくったままもじもじと体をくねらせる。  
 そんな姿を見ながら美琴は呆れたような声でもうひとつの事実――能力が使えないことを指摘した。  
 実は『巨乳御手(バストアッパー)』を服用してからと言うもの、白井は能力を使えなくなっていた。  
 もし能力が使えていたなら、こんな場所で上条に出会うことも無かっただろう。  
 そして能力が使えないのは白井だけではなかった。  
 
「それを言うならお姉様だって……、あ、ちょ、ちょっと擦れて……ぁ……」  
 非難の声を上げていた白井の声が尻つぼみになると共に、彼女は顔を真っ赤にしてモジモジと体を動かし始めた。  
 左手はそっと乳房に指を食い込ませ、スカートに伸びていた右手がススッと太もものベルトより上をまさぐる。  
 
「こ、こら黒子っ!? しっかりしなさい!! こ、こんな往来で何始めようとしてんのよっ! 止めなさいっ!!」  
「い、いやワザとじゃなくて……、だってこれ……、せ、切なくて止まらないんですの」  
「な、何頬赤らめながらモジモジしてんのよっ!! だーかーらー、止めろって言ってんでしょうが、この万年発じょ――」  
 目の前で繰り広げられようとする痴態に耐えられなくなった美琴が、白井を止めようとして上条と白井の間に割って入ろうとした。  
 ところが、普段は無い胸の重さにバランスを崩したのか、美琴の体が斜めに傾いだかと思うと、そのまま地面に座り込んだ上条にダイブする形になった。  
 
「きゃ!?」  
「のぅわ!?」  
 美琴の悲鳴に咄嗟に差し出した上条の右手があろう事か美琴の胸に触れた。  
 サラシ越しの肉の中に容易に指が沈み込む。  
 
(何だこれ!? 柔らかいってモンじゃねぇぞここりゃ!?)  
 上条はその何ともいえない感触に心を奪われる。  
 しかし、その感情も美琴の口から発せられた「熱っ!!」の一言ですぐにかき消されてしまった。  
 
「オ、オイ、大丈夫か……?」  
「ひ……、イヤ……、出る、出ちゃう……」  
「え?」  
「ふぅ――――――――――――――――――――――――――――――っ!!」  
 美琴の言葉の意味が判らず聞き返そうとした上条の掌に、じわりと何か湿った感触がしたのはその時だった。  
 上条はおそるおそる美琴の乳房から手を離した。  
 すると、美琴のサラシには大きなシミが広がっていて、そこからポタポタと何か白いものが垂れて来る。  
 上条は自分の右手に付着したそれを指先で揉んでから、おそるおそる自分の鼻先に近づけた。  
 
(甘っ!? こ、これってまさか!?)  
「だ、大丈夫か御坂?」  
「ぁぅぅ……」  
 上条は慌てて美琴に声を掛けるが、半眼になった瞳には弱々しく、それで上気した顔にうっすらと浮かんだ笑みは何だかとっても幸せそうに見えた。  
 
(さっきの感触をもっと楽しみたい。御坂の事をもっと……ぉ、いや駄目だ駄目だ駄目だぁ!!)  
 上条は心に邪な思いがゆらりと浮かび上がってくるのを必死で我慢する。  
 
「そ、そんなっ!? お姉様の苦しみを沈めようと親指よりも大きくなった胸の頂きを口いっぱいに含んで、その愛らしい桜色が情熱的な朱に染まるまで吸ってもひとしずくも出なかった母乳が……?  
 こ、これがわたくしには越えられない壁、真の愛の力と言うものなのかぁぁぁぁぁああああああああああ!!」  
「お前らそんな事してたの?」  
「ひっ、ひゃ、黒、ひょ、ばらひゃ、らめ……」  
 美琴は全身を真っ赤にして白井を黙らせようと体を起こそうとする。  
 しかし羞恥心から振起した気力もそれがすぐに途切れて、切れ切れの言葉はか細くなって最後には聞こえなくなってしまう。  
 最後には上条の膝の上にばったりと倒れて、荒い息継ぎを繰り返すだけになったしまった。  
 
「あ、いや……、お姉様……、そんな恥じらいに満ちたお顔もなんて可愛らしい……、うふ、うふふふふふふふふふふ」  
「お、おい、白井さん? ちょ、ちょっとまっ――」  
 白井が壮絶な笑みを作ってにじり寄ってくるのを、上条は美琴を抱き寄せながら後ずさる。  
 
「待てるわけがないでしょう? たとえ玉砕覚悟といえど、乙女には……、乙女には戦わねばいけない時がありますのよ、と、の、が、た、さん?」  
 次の瞬間、あろう事か白井は上条に向かってダイブした! と見えたのは上条だけで、実際にはつま先が数センチ地面から離れた程度で、地べたに座る上条にのしかかるようになった。  
 それでも恐怖に駆られた上条は、白井を静止させようと咄嗟に右手を突き出した。  
 そして、  
 
「「あ」」  
 2人の目はその一点、白井の大きな乳房に釘付けになる。  
 そこには指を半ばまで食い込ませた上条の右手が……。  
 その事実に凍りつく2人――だがそんな状況もすぐに一変する。  
 
「きゅ――――――――――――――――――――――――――――――ぅ!?」  
「し、白井っ!?」  
 悲鳴と共に胸を押さえた白井が身を捩りながら上条の胸の中に倒れこんできた。  
 そのまま小刻みに痙攣する白井に上条は必死になって声を掛ける。  
 
「……ひぬ、きもひよひゅぎてひぬ……」  
 しかし、白井の方も既に焦点の合わない視線を漂わせて、うわごとのように何かを呟くだけで返事は返ってこない。  
 それに白井の乳房からも母乳らしきものがあふれ出してきて、瞬く間に上条の服にべったりとシミを作ってゆく。  
 美琴に続いて白井までも……。  
 
(こ、この状況を誰かに目撃されたら俺に未来は無い!! とは言え2人がこうなったのも俺が呼び止めたりしたから。うう、うぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬんうううううう!!)  
「ぬうぇ―――――い!! カミジョーさんの隠された力を今こそ得と見よォぉぉおおおおおおおおおお!!」  
 上条は意味不明の叫び声と共に――あろう事か美琴と白井の2人を抱えてすっくと立ち上がった。  
 
「御坂、白井、少しだけだから我慢しろよ」  
 上条は額に青筋を浮かべた真っ赤な顔で、茫然自失となってしまった2人に優しく声を掛けた。  
 それから、前方を力強く睨みつけると、一歩足を踏み出した。そして、少し腰を落として前傾姿勢を取ると、  
 
「んもぉぉぉぉぉおおおおおおおおお! 不幸だぁ――――――――――――――――――――!!」  
 雄叫びを上げながら2人を抱えたまま路地裏から飛び出していった。  
 
 
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜  
 
 
「先生、2人は大丈夫なんですか?」  
 とある病院の診察室で、上条は神妙な面持ちで、目の前に座る見慣れたカエル顔の医者に話かけた。  
 
「うーん、随分興味深いね?」  
「興味深いって……、先生、2人は一体どうなるんですか!?」  
「愚問だね。私を誰だと思ってるんだい? 治すさ、完璧にね」  
 そう言うと、彼はふいと視線を上条から外して、机の上のディスプレイに向けた。  
 
「ただ今日は泊まって行って貰うけどね。何、学校の方にはそれとなく言っておいたからね?」  
「そうですか。ありがとうございます」  
 その一言に安心したのか、上条は診察室に入って初めて笑顔を見せた。  
 
「彼女たちは病室に移って貰ったよ。会って行くかね?」  
 そんな上条の様子に、カエル顔の医者の顔も心なしかほころぶ。  
 
「ところで、プライベートな事で申し訳ないんだけどね。いつも君の事を心配している白い修道服の女の子、彼女の事は大丈夫なのかね?」  
「え、大丈夫って?」  
「もう大分遅くなったけどお腹をすかせてるんじゃないかと思ってね?」  
「あ……、ははは、いやぁー、それは一応手を打って置いたんで大丈夫だと思います」  
 そう言いながら上条は遠い所を見つめるようにしながら頭を掻いた。  
 実は病院に着いてすぐにインデックスと小萌先生のところに電話して段取りは済ませておいた。  
 その時、何故か双方から『何処の女の子を助けたの!?』と言ういわれの無い……事も無い非難を受けた事が思い出される。  
 
(何か俺、とっことん信用が無いんですけど、って言うかこの状況を考えると……やっぱ俺って不幸だぁ―――――っ!)  
「本当に大丈夫かね?」  
「あはは、大丈夫、もうぜっぜん大丈夫っす! もうオールオッケー、全面クリアー、ラスボス攻略? ってヤツですよ!」  
「ふむ、一応『問題ナシ』と」  
 カエル顔の医者は、キーボードを叩いて電子カルテに何か打ち込んでゆくが、空元気を撒き散らす上条は気が付かない。  
 
「じゃ、彼女たちが目覚めるまでちょっとかかるから、それまでに腹ごしらえ、してもらうからね?」  
「へ?」  
「あ、いや、なに、新作の病院メニューが出来たんでね? 最近は食べ盛りの子が良く入院してくるからね。僕も少しはそういった方面のニーズも汲んで上げようと思ったのさ」  
 そう言ってカエル顔の医者は、不思議そうな顔をしている上条の手を握って笑いかけた。  
 
「ま、ボランティアだと思ってさ。協力してくれるかな?」  
 
 
 病院食にしては妙にスタミナたっぷりな食事を終えた上条は、ある病室の前で1人所在無げに佇んでいた。  
 ノックをしようと手を持ち上げる事十数回、そうしてこの場所に立ってかれこれ10分以上は経過しようとした。  
 
(上条当麻、貴様何を怯える事がありましょうや!?)  
 いや実際上条はかなりビビっていた。  
 2人が倒れた時の一部始終を目撃しているのだから、もしかしたらこの場で口封じをさせるかもしれない。  
 とは言え2人の顔を見ないまま帰るのも何だかとっても人の道に反する気がする上条は、ついに覚悟を決めると扉をノックした。  
 
「か、上条だけど」  
 返事は無い。  
 
「おーい、もしもーし、上条当麻さんですわよー……」  
 もう一度扉をノックした。  
 これで駄目なら今日は帰ろう、そう思っていた時、  
 
「……入ってきていいわよ」  
 中から美琴の入室OKの返事が返ってきた。  
 上条は過去の経験――着替え中とか全裸でカプセルに浮いていたりとか――から慎重に扉を開けると、病室内を直視しないようにお尻の方から室内に入る。  
 
「し、失礼しまぁ――」  
「あ、ちょ、ひょっとまっれ」  
 すると再び美琴から、ちょっと舌足らずで聞き取りにくかったが待ったの声がかかる。  
 
「んくっ、ちょ、ちょっと着替え中なのよ……だか、あんっ、黒子ぉ……」  
「お、俺すぐ出てくよ、な、ふ、ふた、2人とも」  
 明らかに只ならぬ雰囲気を感じて上条はすぐに逃げ腰になった。  
 先程から聞こえる湿った音も、病室に入ってからずっと気になっているつい最近嗅いだ事のある甘ったるい臭いも、上条を酷く不安にさせた。  
 
「ぁ……ン、待って」  
「ぇ……?」  
 美琴の艶を含んだ声に上条の動きが止まる。  
 
「眼を瞑って、こっち……、来てぇ」  
「ハ、ハイ!!」  
 上条の背筋がピンと伸びた。  
 そしてまるで機械仕掛けの人形のようにぎこちない動きで回れ右する。  
 
「じ、じゃ、そっち行くからな」  
 そう言うと、上条は不自然な美琴の要求に律儀に答えてぎゅっと目を瞑ると、ギクシャクした足取りで歩き出した。  
 
「まっすぐ……そう、まっすぐよ」  
 心の中に沢山の不安を抱えたまま行進を続ける上条に、美琴からの吐息交じりの甘い指示が飛ぶ。  
 そしてそのままどれぐらい歩いたのだろうか?  
 
「ストップ……もう目を開けていいわよ」  
「お、おう」  
 上条は強く閉じられた瞳をそっと開けた。  
 あまりに強く閉じていたので、最初はぼやけていた視線が徐々に像を結び始める。  
 
「ぁ……」  
 上条は目の前に広がる光景に唖然とした。  
 ひとつのベッドの上で裸で絡み合う2人の少女の姿。  
 その全身は乳白色の液体にまみれていて、巨大な乳房は絡み合ってどちらがどちらの乳房を抱いているのかすらも判らない。  
 そして少女たちはあの時白井が言ったように大きな先端を口に咥えて吸っている。  
 特に白井の方は、小さな唇に2つの大きな先端をいっぱいに頬張って一心不乱に音を立てて吸っていて、飲み切れなかった分のミルクがだらだらと滝のように唇の隙間から溢れている。  
 
「ンフフ、こうしないといっぱい汚しちゃうのよ。先生は汚してもいいって言うんだけど。やっぱり……ねぇ……」  
 美琴は咥えていた乳首から唇を離すと、唇の端に零れたミルクを舌を出して舐め取った。  
 2人の何とも言えない淫靡な光景を前に、上条の喉が知らずにごくりと鳴った。  
 
「んく、ほ、本当は殿方なんかにひとしずくたりともお渡ししたくない所なんですけれども、お、お姉様のたってのご希望ですから……」  
「ちゅむ……、アンタ自分の方から「殿方に吸ってもらったらもっと気持ちいいですわよ」なんてアンッ?」  
 痺れるような痛みに一瞬言葉に詰まった美琴は、とろんとした瞳を白井に向けると、そこには白い歯をわざと見えるようにして真っ赤になった先端に歯を立ている白井がいた。  
 
「やったわねぇ黒子……。覚悟は出来てんでしょうねぇ?」  
 そう言うと美琴は両手に乳房を片方ずつ掴むと親指でその頂きをこね回す。  
 そのたびにじわっと先端からミルクが染み出す。  
 
「フフフ、このくらいで許されるとか甘い事考えてないでしょうねぇ?」  
 美琴の言葉に、責められている筈の白井は次の責めを期待するような眼差しを向ける。  
 
「たく、期待してちゃお仕置きになんないでしょうがっ!!」  
「ひんっ!? あ゛――――――――――っ!!」  
 次の瞬間、美琴は両の掌にありったけの力を込めて乳房を握りこんだ。  
 びちっと一際大きな水音が響くと、美琴の手元から大量のミルクが吹き上がる。  
 それは、美琴と白井の顔や胸にシャワーのように降りかかった。  
 
「あはは、ぴゅーだって、おっかしい、ホントにぴゅーって音するのね、あはははははははははは」  
「あ゛へー……、き、気持ひいいれすわぁ……」  
 こうして痴態を繰り広げる2人を前に、上条は既に声も出ない。  
 頭の中では先程から『逃げろ』と言う言葉がずっと鳴り響いているのだが、上条がそれを正常に理解で来ていないのだ。  
 
「?」  
 上条は手首に何か触れたような感触がして、ゆっくりと下を向こうとした。  
 
「こっち来なさいよアンタは」  
「お姉様の言うとおりですわ」  
「ひぶっ!?」  
 美琴と白井が何か言ったと思った時には、上条は顔面からぶつかっていっていた。  
 世にも情けない叫びを上げた上条は、暫く自分が何にぶつかったのかも判らないままぶつかったそれに顔を埋めていた。  
 柔らかくて暖かくて、濡れてはいるがそれでもずっとこれに顔を埋め続けていたい――そんな気分にさせる何かに、上条は思わず自ら強く顔を押し付けた。  
 
「きゃふっ」  
「あんっ!」  
 少女たちの嬌声を聞いて、霞のかかった頭にじわじわと何かが像をなし始めた。  
 
(おい、待てよ……、この感触、この臭い……)  
 上条は呆然としながらゆっくりと顔を上げた――2人のミルクまみれになったその顔を。  
 
「……オマぶっ!? もがが……」  
「無駄口はいいから……吸えってのよ」  
「吸ってくださいな、殿方さん?」  
 
 
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜  
 
 
「これでもう大丈夫だろうね? 勿体無いかもしれないけれど、これで明日にはみんな元通り……、かな?」  
 そう言うとカエル顔の医者はディスプレイに写る3人の痴態の映像を消した。  
 
「一応想定出来る結果に対しては処置しておいたけど、万一彼女たちに子供が出来たら彼は驚くだろうね? 全く幻想殺し(イマジンブレイカー)とはよく言ったもので、彼は時々僕の考えの先を行くからね。  
彼には申し訳ないけど、本当に医者泣かせの患者だよね?」  
 そういうと苦笑を浮かべながら髪の毛の乏しい頭に手をやってぐりぐりと撫でる。  
 
「それにしてもあんな物がまだ残っていたなんてね? 流石の僕もちょっと驚いたよ」  
 そう言うと彼は、片手でマウスを動かして画面上のデータを本のページをめくるように次々と送り始めた。  
 そうしていくつかのデータをめくり終えた所で、ふとマウスを動かす手を止めた。  
 
「あったあった。『母乳の利用価値に関する研究』、これだ」  
 カエル顔の医者は深く椅子に座りなおすと、ゆっくりとデータの中身を目で追い始めた。  
 そのデータには『授乳と能力の遺伝』とか『大量の母乳を確保する方法』とか『乳腺と性欲の関係』などと言った妖しげな見出しの付いた項目が踊っている。  
 ひとしきりそれに目を通した彼は、小さくため息を付いてその資料を閉じてしまうと天井を見上げた。  
 
「あの時は随分と尻拭いをさせられたんだけどね? うん、それでもやはり興味深い事には変わりないね」  
 そうひとりごちた彼は、おもむろにポケットから携帯端末を取り出すと、フムとそれを眺めて一息つく。  
 
「しかし今更こんな物が出てくるなんて意図的なものを感じるね? どうやら彼は暇を持て余しているらしい。ここは一つ悪戯好きの友人の暇つぶしに付き合ってやるついでに、今回の件を問いただしてみるとするかな?」  
 そう言ってカエル顔の医者は椅子から立ち上がると、そのまま診察室の出口を潜って廊下に出ようとした。  
 ところが、出入り口でふと立ち止まると、顔を上げて難しそうな顔をしてうーんと唸り声を上げた。  
 
「ふぅむ、防音にはもう少し気を配らないといけないね?」  
 夜の病院に響くある不幸な少年の叫び声にカエル顔の医者は、彼をその場所に送り込んだ本人として、ほんの少し罪悪感を感じながら廊下の奥、彼らのいる病室に思いをはせるのだった。  
 
 
 
END  
 
 

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