「あーちくしょう不幸ですよ不幸ですね不幸だー!!」  
わめいて騒いでみても変わらない現状だが、それでも騒いで見せるのがこの拘束された男、  
上条当麻である。  
なにやら無駄に高性能っぽい拘束着を付けられた上、体中が痛みと休憩を訴えて現在猛抗議中。  
俺はMじゃありませんのことよー?とか担任のロリ教師の真似をしてみるが、現状は全く変わらない。  
そもそもこうなったのはほんの数時間前に行った大々的な、いつもの、馬鹿げた規模で巻き込まれた戦闘の結果であり、  
それもまた上条当麻という人間にとっては日常の茶飯事な出来事である自己満足の末で負った怪我のせいだ。  
一気に肺に溜まった不幸の塊を吐き出すように息をつく。  
こちとら今までの不幸を取り戻すかのように当たった北イタリア旅行の真っ最中だったのに、  
わずか一日の滞在で学園都市に帰らなければいけなくなったのだ。ため息の一つもついていいだろう。  
しかしまあ、自分の体を張ったのには後悔は無い。  
果たしてアニェーゼにとっては救いになったのかはわからないが、それでも、最悪の事態は回避できたのだ。  
小さな自己満足を覚えながら、一人の少女を助けられたならば、たった一日でもこの旅行に来てよかったと思いながら―――  
「…拘束着で身動きを封じられてなお笑うとは、あなたは変態ですか?」  
シャム猫のような眼で見下ろしてくるシスターに軽蔑された。  
 
「んなっ…!る、ルチア!?」  
思わぬ来客に上体を起こそうとするが、完全拘束状態。もぞもぞと芋虫のように上条は動くしかできなかった。  
そんな彼の姿を再び極寒の視線で見つめながら、はあ、とため息一つつく。  
安全ピンで留められた、鳥を連想させる修道服を軽く揺らし、  
「その状態では起きられないことは明白でしょう。大人しくしていなさい」  
と、呆れた口調でベッドからずり落ちそうになった上条の体を支え、動かしていく。  
そのなんとない優しさに礼を言おうとし、ふと、疑問が先に頭に浮かんだ。  
「なあ」  
「なんですか。ほら、こちらに体を寄せてください。これではきちんとベッドに寝れませ―――」  
「ほら、昔はさ、触っただけで車輪ぶっ放してきたのになーとか思ったりしたわけなんですg」  
「―――〜〜〜ッ!!」  
ズバババッ!!と。上条が全部を言い切る前に一気に部屋の壁まで後退した。  
普段は無表情を貼り付けているその顔に、赤みが差しているのは上条の気のせいか。  
 
「……あの時は、あの時です」  
凄く言い訳になってない言い訳に、上条は頷くしかなかった。  
だってポケットから小型車輪を取り出しているんですもん。この怪我で直撃は死にます。マジで。  
「…さあ、もう少し腰を浮かせてください。上手く動かせません」  
先ほどに比べて緩慢な動きで上条の体に触れようとするルチア。  
しかし、指先が体に触れるか否か、といったところで手を止めてしまう。  
「あー…ルチア。なんだ、無理なら無理で―――」  
「いいえ」  
なんとかフォローに回ろうとする上条の言葉を、ルチアは一言で切って捨てた。  
その眼に浮かぶのは、どこかで見たドロドロに溶けたバターのような熱。  
「そう、異教の徒なのよ、上条当麻は。なのになんで触れても大丈夫なのですか私は。  
 汚らわしいのに、なぜ触れ合えるのですか。それどころかなぜ心が安らぐのですか。  
 今も彼に触れたいと思うのは、話したいと思うのはなぜですか…!?」  
ああ、どっかで見たなこんな状況ー。などと思いながら、ブツブツ呟いているルチアをベッドから  
ずり落ちそうになりながら見上げる上条。  
「…そうよ、こうすれば良かったのよ。初めから、こうしていれば私の苦悩なんて無かった。  
 考えてみれば単純なことだった。なら今すぐにでも行う方が……!!」  
うわあなんか知らないところで俺にとって重要なことが決まっちゃってますよー?  
不幸だー、とか心の中で思いつつ、いよいよもって傷だらけの体が床に落ちそうになり、  
「一つ、聞きたいのですが」  
落ちかけた上条を軽々と支え、ベッドに戻しながら瞳がヤバイ色に染まっているルチアが上条へと顔を近づけた。  
「な、なんでせうか?上条さんは清らかな身ですよ??だから宗教裁判なんかは」  
「イギリス清教へと改宗しませんか」  
「……はい?」  
唐突で突然な提案だった。  
なぜ、今更になってこの上条当麻が、イギリス清教に改宗しなければいけないのか。  
いやそもそも改宗もなにもこの上条当麻、宗教の類に入信なんかしていない。  
なによりも…  
「散々いろいろあったってのになぁ…俺は科学の側なんだけど」  
「形だけ…まあ、私たちも改宗して間もないのですが…それに」  
「それに?」  
彼女にしては珍しく口ごもり、やがて意を決したように、猫のような目を真っ直ぐに向けた。  
「貴方と、契れません」  
 
世界が、止まったように感じた。  
 
「え、えー…ちょっと待ってくれルチアさん俺の耳にイマジンブレイカーはついていないから  
 変な幻想を幻聴してしまったんですよいやさ俺にとっては非常に都合のいい解釈をこの薬漬けの  
 脳みそは誤変換を起こしながらも再び聞きなおしてしまいますよ!?」  
「何度も女性に言わせる気ですか」  
うわ絶対零度、とか思いながらもガクガクブルブルな上条。  
しかし先ほどの言葉を思い出し、更に頭に熱が篭った。  
「あー…つまりなんだ。告白…か?」  
「こっ!こく、はく…に、なるのでしょうか…」  
真剣な表情に再び朱が指し、動揺に崩れていく。  
(うわ可愛っっええええ!!)  
いつものクールな仮面を脱ぎ捨て、今まさに女の子としての恥じらいを前に出しているルチアに、  
上条の精神はぐらぐらと揺れていた。  
もともと年上好きな嗜好を持っている上条にとって、ルチアはかなりの上条ランク上位に入っていた。  
年齢はそう離れてはいなさそうだが、自分と同じくらいか、わずかに高いくらいの身長。  
修道服の上でもはっきりとわかる女性としての身体のライン。  
なによりもこのギャップが、見事に上条ランクの上位へとルチアが駆け上ったのだ。  
「だ、だけど、なんでいきなり潔癖症な貴方様がわたくしめに何故にホワイ!?」  
「…悪いですか」  
「…え?」  
「ええ、悪いですかと言います。人を愛することが、異性を愛することが悪いと言うのですか貴方は!  
 どうしようもないじゃないですか!折れそうになった私の心を!私の仲間(とも)を!貴方は守ってくれた!!  
 その言葉で!その行動で!!その、心で……」  
言葉が、出なかった。  
強く、身体の奥底から打たれるその言葉。  
隠すことも偽ることも無いその本心が、ルチアの叫びが、当麻の心に突き刺さる。  
好きになること。理不尽で唐突で突然なその感情。  
それに戸惑い、しかし、真正面から受け入れ、自分で答えを導いた。  
「どうしろというのですか…!愛するという気持ちを知ってしまった私は!」  
「…悪い」  
だから、  
「そうだよな、好きって気持ちは」  
その言葉に、  
「止められない。どうしようもない気持ちだから」  
その心に、  
「だから」  
応えよう。  
「その幻想(きもち)を…貰うぞ、ルチア」  
 
 
「んっ…洗礼のためとはいえ、男子に身体を見られるのは……」  
安全ピンを一つ一つ外していくごとに、修道服のパーツが脱ぎ捨てられていく。  
十数本の巨大な安全ピンを外し終えたルチアの姿は、辛うじて胸と下半身を隠す程度しか布地が残らなかった。  
なぜこんな状況になっているのか、上条は現役シスターのストリップショーを堪能しながら思う。  
ルチア曰く、神父でもない一介のシスターでしかない自分では洗礼はできない。  
神父という言葉でどこぞの2m炎髪灼眼年下魔術師が脳裏に浮かんだが、強制排除。  
閑話休題。そこで代用となる行為。それは、  
「…なあ、ルチア。その、本当にいいのか?」  
だって、と上条は言葉を続ける。  
「神の嫁(シスター)を辞めて、俺に純潔を捧げるなん―――」  
そのただの確認に過ぎない言葉は、ルチアの唇で止められた。  
ただ押し付けられるだけの稚拙な口付け。しかし、ただ一点の意思が込められた誓いの口づけ。  
上条当麻は女性の気持ちには疎い。だがこのキスの意味をわからないほど愚鈍ではなかった。  
「……悪い。お前の気持ち、踏み躙るところだった」  
「まったくです。私は、貴方だからこそ―――」  
そのただの確認に過ぎない言葉は、上条のキスで止められた。  
見つめあえる距離だったからこそこちらからもキスができたのだが、  
「っ痛ぅ…!」  
無理に上体を起こしたのが災いしたのか、鈍痛が体中を走った。  
「あ…む、無理をしないでください。私が全てをしますので」  
「いやさ、それじゃ男としての矜持が…」  
その言葉も、再び唇で止められた。  
相変わらずただ言葉を止めようとするだけの押し付けるくちづけ。  
柔らかい感触と、それ以上を与えないただのフレンチキス。  
ふにふにとしたルチアの唇を感じながら、だが、上条はそれでは満足もできなかった。  
「ん…ッ!?」  
押し付けられた唇を割り、ルチアの中へと舌を差し入れる。  
自らの口内と違った味。舌先に感じた硬く閉ざされている歯の門をなぞり上げる。  
「う、あっ!」  
思わず唇を離すルチア。僅かに二人を繋いだ唾液の糸が音も無く切れた。  
僅かながらの寂しさを胸の奥に感じながら、しかし、ルチアは自らへと無断で踏み入ってきた  
目の前の少年へと厳しい視線を向ける。  
「わ、私が、私が…全てをすると、言ったで、しょう…!」  
「いやさ、我慢できなかったし…それによ、経験、あるのか?」  
核心をつく言葉に、ルチアは顔を真っ赤にすることで答えた。  
上条当麻はそれほど経験豊富というわけでもない。性行為だって数回ほどの経験しかない。  
まあ、これは記憶が無くなってからのことなのだが。  
だがその数回が、ルチアとの圧倒的な差だった。  
神の花嫁として異性と交わることなく過ごしてきたその人生経験において、男性との交わりは  
まさしく未知への挑戦であり、知識も経験も無く戦場に放り出されるに等しい出来事なのだ。  
「…じゃあ、よ。俺の言うとおりにしてくれ」  
だから、上条は手を差し伸べる。  
わからないなら教えてやればいい。上手にできなくとも、初めは皆そうなのだ。  
少しでも経験があるのなら、導いてやるのが経験者の義務なのだ。  
 
「…甚だ不本意なのですが」  
ジト目で縛られたまま主導権を握ろうとしている上条を見下ろすルチア。  
しかし性行為というものの本質を知らない彼女にとっては渡りに船。  
ブツブツ文句を口の中で言いながらも、上条の次の言葉を待つ。  
「じゃあ、まずは…そうだな、全部脱いでみてくrぐはぁっ!?」  
殴られた。ぐーで。  
本人としては軽く叩いたつもりだったが、ここは怪我人である上条さん。  
鳩尾に沈んだ拳に悶絶しながら、それでも自らの要求を通していく。  
「い、いや、さ、ルチアさん……そんな克己バリの下段突きはよりいっそうの症状を呼び覚ますのことよ…」  
「あ、あたりまえです上条当麻…!いきなり女性に対して全裸になれとはどういう了見ですか!」  
「あ、あったり前でしょうが!そういう行為をするには裸!全裸!マッパ!!人類の常識です!!」  
ごーん、と、ルチアの頭に和風な鐘の音が鳴ったように感じた。  
「せ、性行為というものは…裸でなくては、いけないのですか…!?」  
「いや必ずしもそうじゃなくちゃいけないってことは無きにしも非ずなんだが」  
むしろ半脱ぎが好みなんです!な心の叫びは封殺。  
さすがに初めてな彼女を相手にそういった特殊嗜好(マニアック)なことを教え込んじゃいけないでしょう。  
アニェーゼ部隊に変な風聞を広めたらあとで撲殺を喰らいかねんし、とか思いつつ。  
「…わ、わかりました。では…」  
彼女なりの葛藤の末、渋々と上条の言葉に従った。  
しゅる、と布地が肌を擦るような音が上条の耳に伝わる。  
聴覚でだけ感じる、その言いようも無い期待感。  
それに逆らえるほど、上条は大人ではなかった。  
マナーとして閉じていた眼を、僅かに広げる。  
薄く開いた目に飛び込んできたのは、おそらくこの世で最も美しいと思えた裸体だった。  
しなやかに伸びた肢体、まるで一流の建築家が設計したといわんばかりの黄金率。  
女性としてはやや大きめの背でありながら、少女の清らかさ、婦女の色気を兼ね備えたその姿。  
頭のフードは取る気は無いのか、それともここだけはシスターとしての象徴として残しているのか。  
上条にとってはできれば後者のほうが萌えるシチュエーションではあった。  
「…あちらを向いていてはくれませんか」  
「いや、動けないし」  
がっちりと固定されている上条にとっては、首を動かすことも重労働になっていた。  
しかも忘れ去られているような気もするが、わりと重傷も負っていたりする。  
「目を閉じればいいでしょう!」  
「……正直に言うとさ、なんかルチアすっげー綺麗で目が離れなかったんだ」  
「〜〜〜!!」  
ぼんっ、とまた顔が真っ赤に染まる。  
案外こういう方面に耐性が無いのかなー、とか思いながらも目を離すことは無い。  
いや、離せない。これを見逃してしまうほど、上条は大人でも子供でもなかった。  
できればこの腕で抱きしめたかった。体中でルチアを感じていたかった。  
しかしこの拘束着ではそれが叶わない。  
身体を動かそうとするたび締め付けてくるその拘束具に反発しようとして、止めた。  
「…全部、してくれるんだろ。ルチア」  
真っ赤な顔で、しかし、ルチアは真っ直ぐ上条へと視線を向ける。  
少しだけ口を開き、少しの躊躇いと共に、上条の言葉に頷いた。  
 
「あ……こ、これが…」  
拘束具にも一応排泄用の穴が開いてある。  
そこから上条のペニスを引きずり出したルチアは、初めて見る男性のシンボルに目が離せなかった。  
雄々しくそそり立つ(若干の誇張有)一物。目の前数センチという至近距離で観察している。  
「あ、ちょ…み、見ないで…」  
「自分で命令しておいて何を恥らっているのですか貴方は」  
「いやそうは言ってもムード的にはこれが最適だとカミジョーさんは思うわけで」  
「…もういいですから、次は何をすればいいのですか?」  
じゃあ、と。上条はルチアの右手に視線を向けた。  
目線をたどり、これですか、と自分の右手を掲げて見せるルチア。  
「右手で何をすれ…ば…」  
何かに気づいたのか、尻すぼみに声が小さくなり、反比例するように顔が赤くなる。  
つまり、上条は、  
「…て、手で、その……です、か…?」  
「お、飲み込みいいなルチア」  
う、くっ。と言葉を詰まらせる。  
男性器に触り、あまつさえ、刺激を与える行為。  
経験も知識も無いルチアにとって、それは生身で月まで行けと言われんばかりの出来事だった。  
しかし、確かに自分の口で全てを行うと誓ったのだ。  
これを破ることは、信仰を破るということにも繋がる。  
すでに神の嫁でなくなることを決意はしているが、これ以上信仰を汚すわけにはいかない。  
ごくり、と喉を鳴らし、恐る恐る両の手を上条の半勃ちになったペニスへと伸ばす。  
ふにっ。  
「……―――!!!??」  
声にもできなかった。  
「んっ…ルチア、もうちょっと強くてもいいぞ」  
「―――な、え、で、ですが、その…手、手が…」  
動かない。まるで両手が強力な磁石になったように上条のペニスから動かせない。  
手のひらに感じるのは、ぐにりとした固いゴムのような感触。他の部位より熱い体温。  
どくん、どくんと脈打つペニスは、手が触れているだけでより固く、より大きくなっていく。  
初めて触れた異性の象徴に、ルチアの頭は混乱の極めにあった。  
「ど、どうして、う、動かせないんです…離れ、ないんです…!」  
必死に身体を動かそうと、上条の言葉に従おうとするが、一向に両手は離れない。  
「ルチア、俺を見ろ」  
「な、なんですかこれはなんで私は私の身体が私の意志に従わないのですか何で何でなんで……!!」  
自分の意思でどうにもならない事態。  
今思えば、ルチアはこういう突発的な事態には弱い。  
例えば上条が彼女の肩に触れただけで車輪を爆裂させ、結果的にアニェーゼの全ての企みを暴露させてしまったり。  
例えばアンジェレネが仲間のシスターたちを庇い大怪我を負った時の様に。  
そして、上条は、そんな彼女を導く術を知っていた。  
身体は動かない。幻想を砕く右手も振るえない。  
己に動かせるのは、この唇だけ。  
「大丈夫だ、ルチア」  
その言葉は、混乱の最中にいたルチアの耳に届いた。  
添えるだけの両手から力が抜ける。慌しく動かしていた視線が上条の目を捉える。  
「大丈夫だ。俺を見ていろ。俺はここにいる。ルチア、お前は一人じゃないんだ」  
「…ぁ」  
「考えてみろよ、いまからやることはルチア一人だけのことじゃないんだ。俺も、お前と契りたい。  
 お前と一つになりたい。全部をしてくれることってのは、全部を背負わなくってもいいんだ。  
 だからよ、ルチア―――」  
一つ、息を吐く。視線の先には、未だ強張った顔のままの愛しい人がいた。  
ああそうだ。最初が最悪でも、最後が最高ならそれでもいいじゃないか。  
言葉は決まった。稚拙で幼稚で素直で真っ直ぐな言葉。  
「…好きだぞ。だから、俺にも背負わせろ。お前の幻想(きもち)を―――」  
 
幻想殺しですら殺せない、確かな幻想。  
あ、と。言葉と共にルチアの肩から力が抜けた。  
解けるように両手が自由に動く。僅かに上条のペニスから離れる。  
「―――まったく、貴方という方は…」  
本当に、好きになってよかった。  
その言葉を出さずに、その代わりに行動で示す。  
屹立した一物へ唇を寄せ、軽くキスをした。  
「う、おっ!?」  
びくん、とペニスが触れる。不意の刺激に、ペニスの先から透明な何かが滲み出てきた。  
「あ、い、痛かったですか?」  
「え、えー?い、いやちょっと不意を打たれたというか、上条さん的にはもう少しやって欲しかったというか」  
「痛くはないんですね?」  
「あーその、そういうことは無きにしも非ずといったところで――」  
「気持ちいいんですね?」  
「…はい、キモチイイデス」  
あっさり屈した。  
事実、痛いまでに反り返ったモノには、ルチアの唇の感触はレベル5クラスの衝撃だった。  
「……すこし、静かにしていてください」  
「は、」  
い?と言葉を最後まで続けようとした上条だったが、それをかき消すような衝撃が脳幹を揺さぶった。  
「ん…ちゅ、じゅ…」  
唇をペニスの先に触れさせ、僅かに覗かせた舌先が上条の鈴口をちろちろと舐める。  
亀頭を押さえつけるように、時には吸い付くように唇の圧力を変化させていく。  
先の先、ペニスにしては一部分だけの愛撫。  
「ぺちゅ、んむ…ちゅ…」  
だが、最も感じる部分だけをピンポイントで攻められる愛撫に、上条の腰が浮かぶ。  
「あ、くぁっ!」  
「むんぅっ!」  
突然の突き上げ。唇を半開きしていたルチアの口内に、半ばまでペニスが埋まった。  
「〜〜〜んぅぅ!」  
口の中で味わう男の欲望。  
ゴムのような弾力と鋼のような硬さ、そして、舌先で感じていた青臭くて苦い味が一気に口内で広がった。  
その未知の味を、ルチアは思わず吐き出そうとし…  
「―――ん、じゅ…はむ」  
だが、止めた。  
むしろより深く、より味わうように深く、深く上条を飲み込む。  
「うっ…ぐ」  
その感触に、上条は身体を震わせた。  
裏筋を嘗め回す舌の感触。唾液と生温い息がペニスの全体を包む。  
すすり上げ、吸い込み、舐め、唇で締め上げる。  
夢中で行っていた口での愛撫。初めて体内に誘い入れた男性に、ただ集中する。  
「んぷ、ちゅっ、は、むぁ…じゅる、るる――」  
苦い。臭い。苦しい。  
だけど。  
「はむ、んちゅぅ…ちゅぅぅ――んはっ」  
なぜ、こんなにも、愛おしいのか。  
青臭い苦味が湧き出るたびに下腹が疼く。  
嗅ぎ慣れない男の臭いが頭を痺れさせる。  
息もつけないほど彼のことを愛している。  
結局はそれに帰還することだった。  
ああ、私は、この男を愛している。  
 
「んむぁ、は、ちゅるぅ――じゅ」  
そう決めてしまえば、後は簡単だった。  
自身の中に燻る、従属の快楽に酔えるだけ酔えばいい。  
この上条当麻という少年に酔ってしまえばいい。  
「はむ、んむぅぁ――ふあ、あむ…」  
次々と湧き出る雫を飲み干し、喉の奥までしっかりとくわえ込む。  
胃の中まで男の臭気に染められていることを感じつつ、それでも喜びが尽きない。  
「〜〜ッ!る、ルチア、もう、出―――!」  
「んぷっ…は、ん、だ、出して、出してくださ…ん、んむ―――」  
愛しい人が気持ちよくなってくれる。無上の喜びにルチアは更に強く吸い付いた。  
ペニスの奥底に溜まり続けていたそれを、根こそぎ奪い去るような吸い付き。  
それに、上条は耐えられるはずも無かった。  
「か、あ…っ!!」  
せり上がってくる自身の欲望が、もう理性では止められなかった。  
どくん、と。尿道からありえない量の精液が昇ってくる。  
「る、ちあっ!!」  
せめてルチアの口内から引き抜こうとするが、それを嫌がるように腰に手を回し、がっちりと固定する。  
ぐり、と亀頭が何かに嵌る感触。それがルチアの喉の入り口だと思った瞬間、上条の愚息は暴発してしまった。  
「む、んんん―――ッ!!!」  
どぷり、と、一回。尿道の先まで上っていた先走りが吐き出される。  
今までとは段違いに濃くなった苦味に、ルチアは眉を顰め―――  
どくん、と、次の一撃が喉へと容赦なく絡みついた。  
「ご、むぅんっ!?」  
それは一撃目よりも、さらに粘度が高く、喉へと絡みつく。  
苦味は先走りの比ではない。粘りも更に凶悪になっていた。  
だが、健気にもルチアは上条の吐き出す欲望を飲み干そうと喉を鳴らしながら胃へと送る。  
「ん、んぐっ、ご、く…んぐっ」  
喉が鳴り、流れ込む精液を一滴すら零さないとばかりにより唇を窄めて吸う。  
「はっ、はっ…うう…」  
びくん、びくんとルチアの口内で男根が震える。  
精を吐き尽くしてなお固さを失わないペニス。尿道に残っていた一滴を吸出し、唇を離す。  
「ん…ん、ぐ…」  
「っく、は、あ…る、ルチア。無理して飲まなくても」  
いいんだぞ、と続けようとした上条の目の前で、ごくりと白い喉が動いた。  
唇から一滴、白い液体がこぼれる。  
「あ――か、勘違いしないでください。これ、これも洗礼に必要な儀式なのですから!」  
「そ、そうなのか!?というかイギリス清教ってこういう洗礼をするんですか!??」  
もしかしてインデックスやら神裂やらオルソラやらもこんなことをヤッているんですかー!?  
そんな心の中の叫びを見透かしたのか、ルチアの切れ長の目が上条を睨みつける。  
「…誤解無きように言っておきますが、正式にはこういった手段はとりません」  
「え?」  
「そ、その…貴方だからこそ、私はこの身を捧げられるのです、か、ら…」  
「あー…う、え、そ、の…」  
お互いの顔が真っ赤になる。  
先ほどまであんなことをヤッていたとはいえ、今のルチアの表情は反則物だった。  
「…で、では、その、続きを…よろしいでしょうか」  
その返答をする前に、ルチアがベッドへと上り上条を跨ぐ。  
仰向けに寝転がったままの上条の視線に飛び込んできたのは、奉仕されているときとはまったく違った光景。  
例えるなら猫のようにしなやかな肉体。女としての主張は十二分に備えられている。  
視線を下に向けると、淡く濡れた銀色の草むらが僅かに生い茂っている。  
やっぱ髪と同じ色なんだな、と眺めていると、ルチアに睨まれた。  
「…貴方の負担にはならないようにします」  
たしかにまあ、拘束具の下は包帯だらけの傷だらけ。  
触れられるだけで痛みが走るのだ。もしルチアが倒れこんできたりしたら、それはもう大惨事になる。  
「そ、それでは…行きます」  
 

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