「やっちゃった」  
 憂いを帯びた声がトイレの個室に響く。  
 蓋を閉めたままの便座に腰掛けた如何にも和風な長い黒髪の少女、姫神秋沙は小さくため息をついた。  
 姫神がそのかわいらしい顔に憂いを浮かべるその訳はほんの数分前に遡る。  
 彼女のクラスメートであり命の恩人であり地獄から引き上げてくれた黒髪の少年、上条当麻との楽しい昼休みの一時に事件は起こった。  
 姫神が自分の手作り弁当のかぼちゃの天ぷらとトレードした上条お手製の里芋の煮付け。  
 内心の喜びを押し殺す余り無表情になりながらも一気に口の中に頬張って、「ああ。こんなのも悪くない」なんて幸せに浸ったのもつかの間。  
 姫神は里芋を喉に詰まらせると言うらしからぬ――浮かれすぎていたのだろう――失敗をして自ら幸せな時間を台なしにしてしまった。  
 いや、それだけならまだ挽回のチャンスは有った。  
 万人に優しいと酷評される上条は、姫神が指示するままにやさしく背中を摩ってくれた。  
 苦しみにもがきながらも、上条の掌の温もりを感じて「苦しいけど幸せとは。なんてジレンマ」などと状況にそぐわない事を考えていた矢先――何ともあっけない抵抗感を残してブラのホックが外れた。  
 姫神はその瞬間、条件反射とも思える素早さと的確さをもって上条にボディーブローをみまってしまったのだ。  
 
「わざとじゃないのに殴る事は無かった」  
 そう言うと姫神はもう一度ため息を付く。  
 あの直後、教室を飛び出した姫神と入れ違いに上条に近付く吹寄と一瞬目が会った。  
 彼女からは大丈夫後のフォローは任せてと目配せはもらったけど、むしろその方心配だったりする。  
 きっと吹寄は上手くフォローしてくれるだろうが、その時には上条の頭の中から姫神が殴った事も一緒にお弁当を食べた事も忘れているに違いない。  
 
「折角。私をもっと知ってもらうチャンスだったのに」  
 そう愚痴を零すと姫神はまたため息を付いた。  
 
「あっ。そうだ。ブラ」  
 忘れてた、と言いながら制服の裾から手を差し込む。  
 そのまま背中に回そうとした手を、姫神はふと胸の方に回す。  
 
「フロントホックにするべきかな? そしたら――――」  
(そしたら何? 今日の私。何か変……)  
「あっ」  
 考え事をしながら手を動かしていたらか偶然指が大事な部分――ブラがずれた為に無防備になった胸の頂に触れた。  
 
「硬くなってる……」  
 瞬時に姫神の顔が赤くなった。  
 そこには戸惑いの表情が一瞬浮かんだのだが、それは瞬く間にとろけたような表情に入れ替わってしまう。  
 そして姫神は、今度は確信を持って指に力を込めると頂を転がしたり押し潰したりして刺激した。  
 
「あ……。あんっ」  
 姫神の口からは指の動きに合わせて自然と甘いあえぎ声が漏れる。  
 すると頂はますます硬くしこって来て、心地良い感触を触れる指の腹に返してくる。  
 
(背中を摩ってくれた温かい掌……。手……。これは上条君の……手)  
「き……もちい……。かみっ……じょ……くっ……」  
 自分の手を上条の手と思い、その温もりを上条の温もりだと思う――そんな陳腐な暗示ではあったが、それでもあっという間に姫神を虜にした。  
 姫神は更なる快楽を求めてブラの中に手を滑り込ませた。  
 そして、ますます自己主張を強くする頂を掌で転がすように膨らみの中に押し込んだ。  
 するとじりじりとした疼きが体の奥から湧き出してくるのだが、  
 
「も……。もっと……つよ……くっ!」  
 姫神の言葉に応じるように伸ばされたままだった指が強く握りこまれた。  
 柔らかい二つの膨らみに爪を立てながら揉みしだくと、姫神は体を小さく痙攣させて小さく喘ぐ。  
 その薄く閉じられた目尻からつうっと涙がこぼれ頬を伝って行くのだが、その涙とは裏腹に唇は愉悦の笑みを浮かべながら、  
 
「はぁっ。いい……。かみじょ……くっ……。も。もっと」  
 すっかり快楽の虜となってしまった姫神は心の中の上条に更なる陵辱を求めるのだった。  
 そしてそれに答えるのは自分(かみじょう)の両手。  
 その手は自身の柔らかな膨らみに無残な指と爪の痕を残して次の獲物を求めて動き出す。  
 
「かみ……じょ……くん。どうす……るの……?」  
 心の中の上条に問いかける姫神に自分(かみじょう)の両手は――先程から掌にコリコリとした感触を伝えていた膨らみの先端に牙を剥く。  
 
「きゅふっ!」  
 薄い爪を硬くしこった部分に立ながら根元を強くねじりながら引っ張る。  
 すると、まだかわいらしいピンク色をしていた頂は徐々に赤黒く変わってゆく。  
 
「すて……き。かみ……じょ……くん。わたしに。き……みを……きざ……みつけ……て……」  
 止め処なく涙を流す瞳は既に何も映してはいない――いや、そこに上条の姿を見ているのだろうか?  
 唾液を滴らせながら突き出された舌は見えない上条の舌を絡めようと妖しく蠢く。  
 
「ふわぁ……。はぁ。もぉ……。きてぇ……」  
 姫神は舌足らずな声で上条に止めを懇願する。  
 すると自分(かみじょう)の両手は苛め抜いた先端を開放すると、再び柔らかい膨らみに狙いを定めてその爪をつき立てた。  
 
「はかっ」  
 さらに手を金庫のダイヤルかドアノブでも回すかのようにねじり上げる。  
 ぎりり、と手が動くとそれにつられる様に姫神の瞳が大きき開かれて――瞬間姫神の体が大きく跳ねた。  
 
「ぎぃい゛――――――――――――――――――――っ!!」  
 姫神は大きな叫び声と共に便座の上で両足を体の方に引き寄せて体育座りのような格好になった。  
 艶やかな長い黒髪が滝のように膝や足の間に流れ落ちてゆく。  
 その姿勢で膝に顔を埋めると姫神はぶるっぶるっと体を震わせる。  
 嬌声を上げながら体を震わせる姫神、その間隔は急速に弱くなってゆく。  
 すると今度は前に倒れるような姿勢からだらんと四肢を投げ出した。  
 
「はっ。はわっ。はぁ……」  
 ぐったりと下を向いた顔からは、ぽたぽたと涙と鼻水と涎が滴り落ちるが今の姫神にはそれに構う余裕は一切無い。  
 ただ危ういバランスで便座に腰掛けたまま肩で息をするのが精一杯の様子だった。  
 呆然と脱力する彼女の耳に、夢の終わりを知らせる目覚めの鐘のように学校のチャイムの音が聞こえて来た。  
 
 
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜  
 
 
 姫神は昼休みの情事ですっかり脱力してしまって午後の授業を遅刻した。  
 しかも、ブラを付け直す筈が、胸を激しく愛撫したお陰で大事な部分が腫上がってブラなど出来る状態ではなくなってしまった。  
 そのままでは服も満足に着られないので、応急処置として絆創膏を貼って対処したのだが、いわゆる『ノーブラ』である。  
 そしてもうひとつ。  
 ショーツがお亡くなりになった。  
 これには姫神も一瞬洗って穿こうかとも考えたが、いくら搾った所で乾く訳も無く、濡れたままでは今度はスカートがやられてしまう。  
 かくして姫神は現在、ノーパンノーブラと言うとんでもない格好で授業を受けているのだが……  
 
(頼りない)  
 姫神は心の中でひとりごちる。  
 一時はこのまま帰ってしまおうかと考えた。  
 しかし小萌に何と説明していいか思いつかなかった為に学校に残ったのだ。  
 
 
(やっぱり頼りない)  
 やはりこんな状態では授業など身に入る訳が無い。  
 姫神は黙々と黒板の内容をノートに書き写すと後は気を紛らわす事に尽力を注ぐ。  
 そんな彼女は今、教室に帰って来た時の事を思い出していた。  
 
 
「大丈夫か姫神!?」  
 教室に戻った姫神の元に上条が駆け寄ってきた。  
 姫神はそんな上条に顔を真っ赤にしながら視線を逸らすと、  
 
「大丈夫。さっきは殴ってごめん」  
「そんな事はどーでもいいんだ姫神。それより喉につかえた里芋、あれ大丈夫だったか?」  
「味。共に問題無し」  
 姫神は照れくさそうに上条にブイサインで答える。  
 
「そっか、良かったぜ。とは言いがたいかな……」  
「?」  
「弁当、食いそびれちまっただろ? 折角早起きして作ったのに食べられないなんて……スマン姫神っ!」  
「ひゃ!? き。気にしないでいい」  
 上条ががばっと平身低頭土下座したお陰で、要らぬ風が姫神のスカートを巻き上げた。  
 しかも上条の頭の位置は明らかにスカートや上着の裾より下で、姫神にとっては更に危険度が増す。  
 姫神は両手を使ってスカートと上着を押さえながら、じりじりと上条から距離を取る。  
 
「上条君。気にしてないから。立ち上がって欲しい」  
「ん? だがそれでは俺の気持ちがおさまらねえよ……。そうだ! 姫神、俺に何でも言ってくれ! 俺はお前が満足したって言うまでお前の言う事を何でも聞くぞっ!!」  
「え゛?」  
 珍しく姫神の表示が驚愕に歪む。  
 それと共に奇異の視線が姫神と上条に集中する。  
 その多くは、姫神に対する哀れみと、上条に対する怒りなのだが……。  
 
(む。むむ。これは明らかに私への嫉妬の視線)  
 姫神は気持ちを引き締めるとちらりと辺りに視線を送る――いるいる、嫉妬の眼差しを姫神に向ける少女たちが確かに教室にいる。  
 こうして無様に床に這い蹲る上条だが、姫神を含めて上条に恋心を抱く女性は多い。  
 ただ彼は本当に恋愛感情と言うものには疎くて、色んな女性からアプローチを受けても気が付かない、もしくは気のせいと一笑にされてしまうのだ。  
 彼を振り返らせるのは本当に難しい。  
 それこそ命がけでないと彼は答えてくれない。  
 ゆえにこれはちょっとした優越感。  
 早く上条が立ち上がってくれればもっとこの優越感を楽しめるのだが。  
 そんな姫神の贅沢な悩みをぶち壊す大音声が響き渡ったのはその時だった  
 
「くぉら、上条当麻!! 貴様は姫神さんに乱暴狼藉を働いた上に今度はストーカー行為でもしよっての!!」  
 そこに立ち上がったのは、全ての髪を完璧なまでに後ろに流したオールバックをさらにヘアピンで固定した、その名も『吹寄おでこDX』。  
 吹寄は怒りの表情も露わに足音を響かせて上条に近づいて来た。  
 
「ふえ? ほああああああ。ご、誤解だ吹寄。お、俺はただ姫神の努力を無駄にした償いをしようと――――」  
「男なら言い訳するな、この……大馬鹿野郎っ!!」  
「ごばぁ!!」  
 吹寄が凶器ともいえるおでこを上条の頭に振り下ろすと、ゴキィと派手な音と共に上条は床の上に沈黙した。  
 上条が先程の土下座よりも低く潰れて沈黙したのを、「フン」と鼻息一つで終わりにした吹寄は、くるっと向きを変えると、唖然として状況を見守っていた姫神の方を振り返る。  
 
(あんな音がしたのに。おでこが赤くなってない。これが吹寄さんの能力?)  
「姫神さんどうしたの?」  
「え? いや。おで……」  
「え?」  
「あ。いや。何でもない」  
 珍しく歯切れの悪い返事をする姫神に吹寄はいぶかしむ様な素振りを見せるが、  
 
「上条当麻ぁ!! 貴様、姫神さんのスカートの中覗いたでしょ!!」  
「ぶ、ふぇ? め、めめめ、滅相もございませんのことよ吹寄さぁああん!! な、姫神、俺は何もっ!」  
 首根っこを捕まれて背中に馬乗りにされた上条は、背中から伝わる感触に「ふ、吹寄は胸だけじゃねぇ!?」とどぎまぎしながらも必死で姫神に助けを求めた。  
 ところが助けを求められた姫神の方は、上条の目線が気になって顔を赤くしながらささっと距離を取る。  
 スカートの裾を目一杯引っ張ったその姿を見た吹寄は、  
 
「ほら見ろ上条。貴様の目はいつもいやらしいのよ! す、こ、し、は、は、ん、せ、い、し、ろぉ!!」  
「あば、あばば、お、お、の、脳が、ゆ、ゆれ、る……」  
 襟首をつかまれてロデオマシーンの様に激しく揺さぶられた上条は、暫くすると完全にぐったりして動かなくなった。  
 それでも微かに「ぐぁ、ぁ、ぁ……、ふ、こ……だぁ……」と聞こえるので、何とか意識だけはあるのだろう。  
 吹寄はバンバンと手を払いながら立ち上がると、再び姫神に話しかけた。  
 
「ねえ、姫神さん、今日暇?」  
「?」  
 ぐったりした上条を見ながら、「私も背中に乗ってみたい」などと不埒な事を考えていた姫神は、我に帰って不思議そうな顔を吹寄に向けた。  
 そんな姫神に、吹寄は髪を止めていたピンを外しなが、先程とは打って変わって屈託の無い笑みを見せた。  
 
「姫神さん、今夜はクラス全員ですき焼きパーティーよ」  
 
 
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜  
 
 
 その後何とか無事に授業を終えた姫神は、すき焼きパーティーまでの時間を使って一度寮に戻ると、とりあえずショーツだけは身に付けた。  
 そして、鏡の前に立って自分をチェック。  
 上から下へ、下から上へ、時にはくるっと周ってみたりもする。  
 吹寄と並ぶと見劣りしがちだが、姫神もそれなりに育ってきている。  
 むしろバランスから言えばこちらの方が良いと言えない事も無い。  
 ま、それは主観とも言えなくも無いが、姫神が気にする主観の持ち主は何かと女性の胸が気になるお年頃らしい。  
 ふっと下から持ち上げるようにして、乳房に手を添えてみる。  
 少し力を加えると、それなりの重量感が感じられる。  
 ちょっと寄せてみたらどうだろうか? などと考えて手に力を加えると、チクッと痛みが走り姫神は表情は変えずともぴくりと眉を動かした。  
 それから改めて自分の胸をじっと見つめると、  
 
「自分の事ながら。激しすぎ」  
 二つの膨らみに残る昼間の情事の跡を改めて見ると顔が熱くなる。  
 こんな場所に塗るような薬の買い置きが無い姫神は、とりあえずまた先端に絆創膏を張ると、長めのインナーを2重に着込んでその上から制服を羽織る。  
 それからもう一度鏡の前に立つと不自然な点が無いかチェックした。  
 
「うん。完璧」  
 鏡の中の自分にブイサインを送ると、姫神は荷物を持ってそそくさと玄関に向かった。  
 
 
 とりあえずすき焼きパーティーは無事に終了した。  
 途中、吹寄が『吹寄おでこDX』に変身して場を取り仕切ったり、インデックスが暴走して鍋まで食べそうになったり、土御門の飲酒疑惑を塗りつぶす為に小萌に飲ませすぎて小萌がダウンしたりもしたが、  
とりあえず何事もなく終了した――一名を除いてはだが。  
 
「え―――――っ!? お、俺の肉、俺の肉はどこだぁ――――――――――っ!!」  
「とうまぁ、そんな事はどうでもいいかも。それより私……、もうとっても眠い……ふわぁ……」  
 いつも腹ペコな修道女、インデックスはゴシゴシと目を擦る。  
 そんなインデックスの胸に抱かれた上条家第二の居候、スフィンクスと呼ばれる子猫も『くわぁ……、もう帰って寝ようぜ』と言わんばかりにあくびをした。  
 
「なっ!? 家主たる俺がまだ腹が減っていると言うのに、この居候どもと来たらホントに胃からの指令に忠実と言うか本能のままと言うか。不幸だぁー」  
「んにゃー、喰った喰った――あら、カミやんどうしたんぜよ?」  
 見捨てられて一人途方にくれる上条に、ご機嫌な様子の土御門が爪楊枝を口にくわえながらやって来た。  
 
「っ!? 土御門、テメエのお陰で俺は喰いっぱぐれの腹ペコですよっ!! ふざけんなこのやろー!! お、俺の、俺の牛肉をかえしやがうわぁ――――――――――――――――――――っ!!」  
「おほっ!? 珍しくカミやんが我を忘れてるぜよ。こりゃよっぽど肉が食えなくてムカついてるとか? はてさてどうしたモンかにゃー」  
 子供じみたグルグルパンチを繰り出す上条を、右手一本で制した土御門は心底困ったと言うような表情を作ると自分の顎を撫でた。  
 そんな不毛な争いも、その内上条のエネルギー切れで幕を閉じる。  
 徐々に土御門の腕一本に押され始めた上条は、最後に路上にぺたりと尻餅を付いた。  
 
「ぶぇぇー。む、無駄な体力使ったら余計に腹が減っちまったぜ」  
「もぉ、とうまー、遊んでないで早く帰ろうよー」  
「そうそう。諦めて家に帰ってカップラーメンでも啜って下さいよ、カミやん?」  
「ふざけんな、最初っからお終いまでテメエは……、次、舞夏が来たら覚えてろよ」  
 上条の口から『舞夏』の名前が出た途端、今まで余裕綽々だった土御門の顔色が一変する。  
 
「テメ、カミやん、舞夏はカンケーねえだろ? つか、今ここでお前を潰すっ!」  
「おらやってみろこの変態ロリシス軍曹がっ!! テメエの義妹に対する幻想をぶっ殺す!!」  
「幻想じゃねぇ!! お前に俺の現実(リアル)が殺せるかっ!!」  
 上条の渾身のアッパーと、土御門の振り下ろすような拳が交錯した次の瞬間っ!  
 
「ふっ!」  
「「ごっ!?」」  
 相手に拳が届くよりも先に、お互いの額同士を打ち付けた上条と土御門が重なり合うように路上に沈む。  
 その向こうに仁王立ちする影は……?  
 
「ふ、きよ、せ……」  
「帰って……無かったにゃ……」  
「ふん。あんたたちみたいな馬鹿がいると思って残ってたのよ。ったく、残ってて正解だったわね」  
 吹寄が冷たい一瞥を投げかける中、まず上条が覆いかぶさった土御門を押しのけてのろのろと立ち上がる。  
 それから路上に転がる土御門を助け起こそうと手を貸す。  
 
「俺は、もう駄目だにゃー……。カ、カミやん……舞夏に会ったら伝えてくれ『お兄ちゃんはお前を愛してていた』って……」  
「お、おいしっかりしろ土御門っ! 傷は、傷は浅いぞ!!」  
「もう一発食らいたいのかしら?」  
「「ノーサンキューであります、マムッ!!」」  
 吹寄に向かって軍隊仕込みの最敬礼をする上条と土御門であった。  
 そんな直立不動の上条の上着をちょいちょいと引っ張る者がいた。  
 
「何だ、姫神?」  
「上条君。ちょっと付き合って欲しい所が」  
「え、これから?」  
「そう。これから」  
 上条は一瞬天を仰いだが、すぐに気持ちを切り替えると、  
 
「土御門っ」  
 上条は小さな声で土御門の名前を呼びながらインデックスから見えない角度で土御門に紙幣を握った手を突き出した。  
 土御門は一瞬上条の顔と握られた紙幣を見て、そっと紙幣を受け取るとズボンのポケットに仕舞いこんだ。  
 そしてインデックスの方を振り返ると、  
 
「おーい、禁書目録。アイス買ってやるから先に土御門さんと一緒に帰るにゃー」  
「アイス!? いや、え、えっと……、先に帰るってどういう事なのか説明してほしいかも」  
 アイスと言う言葉に一瞬怯むも誤魔化されずインデックスが上条を睨みつける。  
 
「あ、ははは……、あ、あれだ金が足りないんでこれから吹寄と姫神と一緒にみんなの家を周らなくちゃいけないんだ。お前もバクバク食べたんだから判るだろ?」  
「うー……、またバクバク食べたとか言って……、そんなに私は音を立てて食べるようなはしたない女の子じゃないんだからっ!」  
「ご、ごめん、インデックス。とにかく、な、土御門に送ってもらえ」  
「う―――――っ!」  
 インデックスは、まず上条を恨めしそうに涙目で睨み付ける前に、チラッと姫神と吹寄に視線を投げた。  
 
(あれは。嫉妬する女の目)  
(あからさまに疑われてるわね)  
 それぞれに心の内で感想を述べる2人。  
 にらみ合う上条たちを余所に、吹寄はすっと姫神の側によると耳元に顔を近づけて、  
 
「姫神さん頑張って。あたしもいつか追いつくから」  
「ありがとう。追いつかれるのは困るけど」  
 そう言うとお互いの顔を見合ってくすりと笑い合う。  
 
「ほら、行くぜよ禁書目録」  
「うー……」  
 上条、姫神、吹寄の3人はそれぞれの思惑を隠したまま、インデックスを引き連れた土御門の背中が路地に消えるまで黙って見送っていた。  
 
 
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜  
 
 
「じゃ、あたしも帰るわね」  
 土御門の背中が見えなくなった途端、吹寄がそう言った。  
 
「え? 吹寄も一緒じゃ――――」  
「じゃ。お休み」  
「お休み、姫神さん――上条当麻っ!」  
「は、は、い……?」  
 急に名前を呼ばれたので返事をして顔を見れば、茹蛸のように真っ赤になった吹寄がそこにいた。  
 
「吹寄、お前……」  
「な、何、ひゃ!?」  
 吹寄は返事する間の無く上条に肩を捕まれた。  
 続いてぐいっと上条の顔がアップになる。  
 
「「っ!?」」  
 吹寄と姫神が息をのむ中、上条の顔が吹寄の――顔のすぐ近くでストップすると、すんすんと鼻を鳴らした。  
 
「さっきからテンション高いし顔も真っ赤だからてっきり酒でも入って――おい、どうした吹寄?」  
「い、いや、何でも。そ、それより離して」  
 何時になくしおらしい吹寄の姿に首を傾げながらも上条は肩から手を離す。  
 
「じ、じゃ、上条当麻、お休み」  
「おう、お休みな――――って、オイ吹寄1人で帰……早っ、もう行っちまった」  
 あっと言う間に視界から消えた吹寄に一抹の不安を覚えながらも、上条はその気持ちを切り替えるように髪を乱暴にかき混ぜた。  
 そしてくるっと姫神の方に向き直ると、片膝を地面について片手を胸に当てると頭を垂れた。  
 
「さって姫神。ご用件を何なりとお申し付けくださいませ」  
 上条の様子に絶句する姫神だったが、このままでは話が進まないとばかりに気力を振り絞る。  
 
「君の乗りの良さには呆れる」  
「平身低頭お使えする身と致しましては、不慣れながら粗相が無い様に対応する所存だ」  
「あっ。そ」  
 姫神は勤めて上条の悪乗りに――――  
 
「それでは上条君。エスコートお願い」  
 とことん付き合う覚悟を決めた。  
 
「畏まりまして御座いますれば、いざ参りましょうか――で、どちらに?」  
「まずは買出し。よろしく」  
 
 
「おお! これが女子寮」  
 両手に一杯に膨らんだエコバッグを下げた上条は、わりと遅い時間なのも気にせず大きな声で感想を述べた。  
 そんな上条を置いて先に玄関を潜った姫神は、玄関の明かりを付けると上条に手招きする。  
 
「お、おう――お邪魔しまーす」  
「どうぞ」  
 上条の緊張気味な声に姫神が振り返らずに相槌を打つ。  
 玄関から入ってまず目に付いたのは、自分の部屋より数段立派な備え付けのキッチン。  
 綺麗に掃除されたそこは、一見すると使われていないような感じさえ受ける。  
 
「後は私が片付けるから買ってきたものはそこに置いて。自分のジュースだけ取ったらこっち」  
「お、おう」  
 いつも饒舌な上条の様子がおかしい。  
 とにかく口数が少なくなってきているのだが、それもその筈、初めて――記憶を失う前の事は上条にも判らないので、記憶を失ってからの事になるのだが――女の子の1人暮らしの部屋にお邪魔したのだ。  
 何も無いとは判っていても上条の心臓は勝手に早鐘を打つ。  
 そんな上条は姫神に誘われるまま部屋の中に通される。  
 上条が最初に受けた感想はシンプル。  
 ベッド、テレビ、ローテーブルに座布団代わりと思われるクッションが一つ。  
 その一つしかないクッションに上条を座らせた姫神は、  
 
「あまり見られると恥ずかしい」  
「あ、ああスマン」  
 あまりに落ち着きの無い上条の姿に、姫神はそっと釘を指す。  
 それから隣に腰を下ろすと、じいーっと穴が空くかと言うくらいに上条の顔を眺めた。  
 段々と居た堪れなくなる上条は声を裏返らせて、  
 
「ひ、姫神っ。な、何でしょうか?」  
「気にしないで」  
 にべも無く返した姫神はすっと立ち上がると、  
 
「じゃ。私は着替えさせてもらうから」  
「ひ、ひゃい!?」  
 変な声で返事を返す上条を置いて、姫神は備え付けのクローゼットに向かうと衣類を手に部屋の奥へと消えていった。  
 
 
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜  
 
 
 姫神は脱衣所の中に入ると、途端にその場にしゃがみこんでしまった。  
 気が付くと顔が真っ赤で息遣いも荒い。  
 
「この緊張感は。生まれて始めて」  
 自然に振舞おうと頑張ってきた姫神だったが、上条があからさまに緊張しているのを見ていたら、緊張が移ってしまったのだ。  
 とにかく今の状態を鎮めないと上条に会わせる顔が無い。  
 姫神は何度も深呼吸を繰り返し、次に小さな声で「落ち着け。落ち着け。落ち着け」と呪文のように呟いた。  
 
「あ。あの時も緊張したけど。それとは比べられない。私。怖いくらい意識してる」  
 あの時とは――かつて上条のいる学校に編入した時の事、それを思い出すと自然と自嘲の笑みが湧いて来る。  
 あの時の上条の反応と来たら、もう少し衝撃的な反応がもらえるかと期待していたのだが……、上条にそう言う色事的なモノを期待するのはお門違いだったと、今の姫神には理解出来た。  
 だからこそここで失敗する訳には行かない。  
 
「この後何か作ってあげるつもりだったけど。今のままだと無理そう」  
 数少ない取り柄――と姫神は思っている――で失敗する事は出来ない。  
 
「いっその事。このまま帰ってもらおう? ――いや。駄目。これ以上のチャンスは二度と無い。ここで頑張らないと。吹寄さんに先を越される」  
 姫神ファイト、と拳を作って鏡の中の自分を鼓舞した姫神は勢い良く、ばばっと制服を脱ぎ捨てる。  
 そして、自分の裸をまじまじと見つめて姫神は愕然とした。  
 
「あっ。ブラ」  
 鏡に映る姫神の裸身。  
 胸の谷間に光るのは自身を守る十字架。  
 そして、谷間を作るその胸の頂上に貼られた絆創膏。  
 その間抜けな自分の姿を見た瞬間に、昼休みの情景が姫神の頭の中を駆け巡った。  
 すると急に、絆創膏の下からずきんと甘い痛みが姫神を襲う。  
 
「あつっ!?」  
 姫神は胸を押さえて蹲る。  
 途端に顔だけにさしていた赤みが瞬く間に全身に広がり白い肌を朱色に染めた。  
 心臓は早鐘を打ち頭にどんどん血流を送り込んでくる。  
 そして……、触れなくても判る布地に隠された部分の湿り気。  
 
「いや。上条君がいるのに。だめっ」  
 姫神はいやいやをするかのように頭を振って、自分の中の熱を追い出そうとする。  
 しかし、一度意識してしまうと意識はどんどんそっちの方にばかり向かってしまう。  
 もう絆創膏の下では、それを突き破らんばかりにしこった先端が出口を求めてぐいぐいと押し上げてきている。  
 
(いやらしい私。上条君はどう思う? 好き? 嫌い? 嫌われたらどうしよう。嫌わないでっ)  
 姫神の心の中は上条への感情で一杯になっていた。  
 だから……  
 
「お、おい姫神……」  
「きゃ!?」  
 思いがけないほど近いところからの声――上条に急に呼ばれた姫神は飛び上がって驚いた。  
 その瞬間胸にチクッとした痛み……、とその後に開放感を感じて思わずホッとするが、  
 
「ああ……」  
 姫神は鏡に映った自分の姿に再び唖然とした。  
 先程の痛みは驚いた拍子に絆創膏が剥がれた為、その後の開放感は硬くしこった頂が顔を出した為であった。  
 数時間ぶりに外気に触れた頂は、自分の体の一部なのにまるで見たことも無いものの様に淫らにそそり立ち存在感をアピールする。  
 姫神は、恐る恐るその紅い頂に指先を触れた。  
 
「くっ!?」  
 瞬間ピリッと電気の様なものが体の中を駆け抜けると、姫神の中で何かが弾けた。  
 
「その……、大丈夫……か?」  
 そんな姫神の耳にいとおしい上条の声が聞こえた瞬間、霞掛かった頭の中で愛と欲が実を結ぶ。  
 
(欲しい。ここに……。触れて欲しい。)  
「姫神……?」  
「かみ……じょ……くん」  
 脱衣所の外から聞こえる上条の声に姫神は途切れ途切れに返事を返した。  
 その脱衣所の外にいた上条の方はと言うと、姫神の弱弱しい声に戸惑う。  
 しかし、着替えると言って席を立った姫神の事を考えると……。  
 
(カ、カミジョーさんとしては、ここで飛び込んで姫神の裸を見る、なぁーんてテンプレ通りのお約束は御免被りたい訳ですよ)  
 姫神の事は心配だが、要らぬお世話で姫神に恥をかかすわけには行かない。  
 ましては、今失敗すれば1日に2度も姫神にいいのを貰う可能性が見えてくる。  
 姫神の右は世界を狙える、と実際に貰った上条は本気で思っている。  
 そんなこんなで躊躇する上条の目の前に、  
 
「かみ……じょ……くん」  
「うわっ!?」  
 脱衣所の入り口からにゅーっと白い腕が伸びてきた。  
 
「姫神?」  
「こっち」  
 白い腕は上条に向かって手招きをする様に振られる。  
 上条にはその意味が全く掴めない様で「え?」と言ってその場に硬直する。  
 
「こっち。来て」  
 姫神が言葉に出して上条を呼ぶと、まるで操り人形の糸にでも操られるかのようなぎこちない動きで上条が脱衣所に近づく。  
 上条が近づくにつれ腕の先が徐々に見えてきて……。  
 
「姫が……え?」  
 姫神と目が合った瞬間上条の頭の中には盛大に危険を知らせるベルが鳴り響いた。  
 それもその筈、そこにいた姫神はいつもの姫神ではなかった。  
 白い肌を紅く上気させ、表情豊かに妖艶な笑みを湛えた姫神に背筋に寒いものを感じた次の瞬間――――  
 
「どわっ!?」  
 上条には何が起こったのか判らなかった――実際には姫神に手を手繰り寄せられて脱衣所の中に引き込まれたのだが。  
 その時躓いた上条は、脱衣所の床の上に転がると一回転して壁に激突した。  
 
「い、いってぇ―――――え?」  
 天地も判らぬまま体中の痛みに悲鳴を上げる上条。  
 その腹に何かがのしかかる感覚に、ぎょっとして体を起こそうとした。  
 そんな上条の目に映ったのは――――!?  
 
「吸って」  
 頭上から姫神の声がした。  
 上条は目だけを上の方へと動かしてゆく。  
 すると、水平より少し上に形の良い唇、その上には美しい稜線を描く鼻梁、そして若干潤んだ黒瞳と目が合った。  
 ごくりと上条の喉が大きな音を立てる。  
 
「私の。いやらしい乳首。吸って」  
 姫神はもう一度、今度ははっきりとそれを口にした。  
 上条は視線を下げると、目の前にあるもの――姫神の乳房の先端を凝視した。  
 その目の前に突き出された赤みを帯びてそそり立つ肉芽に上条は息を呑む。  
 
「おね……がい」  
 その一言が上条の心にどんな変化を及ぼしたのだろうか?  
 上条は、一度ぎゅっと目を瞑ると、緊張の面持ちのまま舌を突き出す。  
 そして慎重に、慎重に舌を伸ばすと姫神の膨らみの先端にそっと触れた。  
 
「あっ」  
 艶を帯びた姫神の声に、その意味するところが理解できない上条が心配そうに見上げてくる。  
 
「だい……じょ……ぶ」  
 姫神のその言葉に、上条は視線を元の位置に戻すと動作を再開した。  
 そんな上条を期待と情欲の入り混じった眼差しで見つめる姫神。  
 上条の生暖かい吐息と舌から微かに伝わる震えが姫神の性感を緩やかに刺激する。  
 ゆっくりとした上条の動作は姫神をじりじりと追い詰めていたが、既にもう姫神の位置からは自分の先端は見えない。  
 
(来る……。もうすぐ……。あと。もうちょっと)  
 心の中で執行のカウントダウンをしていた姫神の期待に答えるように、ついに上条の口が膨らみに吸い付いた。  
 
「あふ」  
 瞬間姫神の口からは安堵とも取れる声が漏れた。  
 今度は上条も迷わず姫神の膨らみを吸い続ける。  
 更に吸いながら硬くしこった頂に舌を擦り付けた。  
 
「きゃ!?」  
 姫神の体が上条の体の上で跳ねる。  
 その嬌声に気をよくした上条は、頂の更に先端に舌の先を合わせると、ぐりぐりとねじり込むように押し付ける。  
 
「舌ぁ……。それ……すご……」  
 上条は姫神の言葉を聞いて更に舌に力を込めて押し込む。  
 舌から来る押し返すような感触と、姫神の声と腹に押し付けられた部分の熱さが、上条の心を狂わせる。  
 上条は、舌を一度引っ込めると先端に弱く歯を立てた。  
 
「あ。は? なに。すゆのぉ――――」  
 姫神が快感に酔ったまま声を掛けて来たのも無視して、上条は一気に立てた歯の先端で頂を扱いた。  
 その強すぎる刺激に姫神は声も無く体を硬直させる。  
 瞳は焦点を失い、呆けた様に開かれた口の端から垂れた涎が自身の胸と上条の顔を汚した。  
 しかしその変化に気が付かない上条は一心不乱にその動作を続けていたが、次の瞬間――――  
 
「ぶっ!?」  
 上条は、姫神に頭を力強く抱きしめられて顔を胸に押し付けられた。  
 その息苦しさから思わず顎に力が入ってしまいこりっと言う感触が帰って来る。  
 
「ん゛――――――――――――――――――――っ!!」  
 姫神は押し殺すような低い唸り声を上げて体を痙攣させた。  
 尋常じゃない震えと、頭を締め付ける腕の力に上条は驚いて声も出ない。  
 そんな状態がほんの僅か続いたと思うと、にわかに上条の腹の部分が生暖かくなる。  
 上条はそんな事にことに気付く余裕も無かったのだが、姫神は快感のあまり少し漏らしてしまったのだ。  
 そんな状態から暫くして腕の締め付けも緩んできたので、上条は姫神の胸から口を離す。  
 艶かしい音を立てて離れたそれは唾液のまぶされて先程以上に淫らな姿を見せ付けた。  
 
(もう一度……)  
 そんな気持ちに捕らわれそうになる上条だったが、それよりも姫神の状態が心配だった。  
 
「だ、大丈夫か、姫が……み」  
 先程から一言も発さない姫神に声を掛ける。  
 すると言葉の代わりに、姫神の手が上条の頭を優しく撫でた。  
 さわさわと柔らかく触られると、火照った体に心地よく、上条は目を細める。  
 その手が頬から顎の辺りに差し掛かったところで、くいっと力を加えられて上条は顎を上げさせられた。  
 夢見心地だった瞳が、姫神の目と合う。  
 純粋に綺麗だと思った。  
 いつも綺麗だとは思っていたが、今の姫神に比べたら普段の美しさは妙に作り物めいている様に感じる。  
 そんな魅入られたかの様に呆けた上条の顔に、姫神の顔が覗き込むように近づいて来た。  
 
「いやらしい私。好き?」  
「ひぅ――――」  
 上条はその質問に答えることが出来なかった。  
 上条の言葉は姫神の柔らかい唇に吸い込まれ、やがて夜の闇の中に消えていった。  
 
 
 
END  
 
 

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