『学習中の身ですから多少はね』
「って前に言ってたけどさ、お嬢様なら家に専属のコックがいて
料理は全部その人任せなんじゃないのか? 習う必要あんのかよ」
「まあ、常盤台の教育方針でそういう授業もやってるのと、
淑女としての嗜みだとか趣味で個人的に習ってる人もいるのよ。
中には好きな男に手料理作ってあげたいって人もいるわ。
花嫁修業も兼ねてる場合もあるみたいね」
「じゃあ、お前の場合教えられたからできるってだけなのか。
趣味って感じには見えないしな。嗜みとか花嫁修業に近いのか」
「まあ、そうね。……私には、自分がお嫁に行くっていうか、
誰かに自分が料理を作るような光景が想像できなかったんだけど……」
「だけど?」
「だけど、初めて誰かに料理を作ってあげて、その人が美味しいって言って
嬉しそうに食べてくれたとき…私もすごく嬉しかった。
そしたら、今度はもっと美味しいものを食べさせてあげたいって思った。
どんな料理を作ったら美味しいって言ってもらえるかな。
もし不味いって言われたらどうしよう。
悩んだり不安になったりするけど、でも美味しいって言ってもらいたい。
そう思うと頑張っちゃうの。それで、いつの間にか料理をするのが楽しくなってた。
ただ誰かに作るんじゃなくて、喜んでもらいたいって気持ちがあって、
一緒いるのが楽しくて、ずっと一緒にいたいから結婚とかしたいのかなって。
そう思うようになったの。一緒に居られるなら結婚しない人もいるらしいけど」
「結婚のことはともかく、俺も料理作って嬉しくなる気持ちは分かるよ。
喜んでくれたり、幸せそうだったりすると、何でだろうな…
もう一回頑張りたくなるんだよな。
もう一回、嬉しそうに笑ってくれるなら、笑わせてあげたい。
いつも、笑っていて欲しいって。その逆は絶対に見たくない。
その逆の思いをさせるようなものがあるなら、
もし、そんな幻想があるなら俺は――」
「『その幻想をぶち殺す』――でしょ?」
「俺は、上条当麻だからな。…ところで、その初めて作ってやった相手って誰?」
「気になる?」
「いえ。上条さんは冗談でショック死とかしたくありません」
「ふーん。…さて、今日は何を作ってあげましょうか