ここは、聖ジョージ大聖堂の一角。
「ふ、ふ、ふ」
そこで、イギリス清教の最大主教、ローラ=スチュワートはあやしい笑みを浮かべていた。
「『幻想殺し』の資料を基に組み上げしこの作戦、完璧たりけるのよ!」
二週間程前、土御門に焚き付けられ、上条を接待することを決定したローラ。しかし、彼女もただで焚き付けられるようなタマではない。そこには、最大主教としての打算がしっかりとあったのだ。
(『幻想殺し』をロンドンの女子寮に放り込みてから三日。シスター達は、恥らいたり、足を引っ張り合いたり、と進展見られずにつき。やはり、『自然篭絡(カップル誕生)』ではなく、命令にすべきだったか……)
そう、ローラはあわよくば、『幻想殺し』をイギリス清教の手中に収めようとしていたのである。
「もはや、ランベスの小娘達に任せておけず!よりて、このわたしが、直々に『幻想殺し』を篭絡したりて、我が手中に収むるわよ!!」
ぎゅ、と小さな手を握って意気込むローラ。それを少し離れた所から見ている人物がいた。
「……………」
いい歳こいて何やってんだぁ?的な目で見ているのはステイル=マグヌス。
「な、何、その目は!?不敬のオーラをビンビンに感じけるわよ!!」
ローラもその目に気付いたらしく、赤面して吼える。
ステイルは可哀想なモノを見る目で一瞥し、「いえ、別に……」と言って退室していった。
女子寮近くにあるカフェ。ここで、ローラ=スチュワートは『幻想殺し』の少年を待っていた。
「くふふ、昨日の内より女子寮のシスターに言いて、幻想ごろ……上条当麻に呼び出をかけてありけるし、私も地味な装束を選(え)ておるし、完璧♪」
それはまるで、自分の仕掛けた悪戯が成功するのを想像して、ウキウキしている子供のようだ。
「まだかなぁ〜」と、これまた子供のように店の前の通りを覗き込む。すると、
「んん〜、ここか?」
手に持った地図と自分の周りをキョロキョロと見回す黒髪ツンツン頭の少年がやってきた。
(きたぁ〜☆)
上条を見て目を輝かせると、なぜか、テーブルの下に隠れ、
「…プ、くく、…くふ」
隠れながら笑いを堪えるローラ。彼女からは『見つけて見つけて』という『自分で隠れたくせに見つけてほしいオーラ』が出ていた。
「えーと、んん?」
上条が呼び出されたカフェの店内を見回すと、通り側に面した席、そのテーブルの下に『見つけてオーラ』を出す金色の物体を発見した。
「………いや、あれは違うだろ。ないない、上条さんには関係ない。きっと、かくれんぼでもやってるんだな」
カフェの中でかくれんぼ、というありえない結論を出し、回れ右をする上条。しかし、
「ぷくく…、ん?あ、あれ?ま、待てい!待ていなのよ!」
その金色の物体に捕まってしまった。
その後、自己紹介を終えた後、ローラがロンドンを案内してくれるというので、上条は好意に甘えることにした。
夕暮れのロンドン。
有名所はほぼ回り、現在、女子寮への帰路につく二人。
「なんか悪かったな、最大主教って忙しいんだろ?なのに観光案内なんて」
「こちらが言い出したことにつき、気にすることあらずなのよ〜」
ローラはのんびりとした調子で答えた。が、内心穏やかではなかった。
(ど、どど、どういふけること!?この少年の武器は『幻想殺し』だけのはず、なのに何なの!?)
――話は観光案内中に遡る。
公園にて
昼時、ちょうど公園にいたこともあり、オープンカフェで昼食を取ることにした。
(先程のはアクシデントにつき仕方なしなのよ。次こそは!)
気合を入れ直し、ローラがメニューから選んだのは、大きめのクラブハウスサンド。
(ふふふ、コレを上条当麻が食べたれば、頬にケチャップがつきけるはず、そこをおねーさん的に優しく拭きたれば私の勝ちじゃー!)
「さぁ、頬張って食べたれば、良きことがありけるわよ」
そう言って、上条に紙に包まれたサンドを渡す。
「はい?よくわからんけど、いただきます!」
意味不明の言葉だったが、彼は元より頬張るつもりだったのでそうする。
「うまー!」
(あら?上手に食べたるわね……)
それもそのはず、上条は普段からファーストフードは食べ慣れている。だから、頬っぺにケチャップなどというベタなことはやらないのだ。上条よりむしろ――
「くく、ケチャップついてるぞ。ほら」
「〜〜〜〜っ」
上条に紙ナプキンで頬っぺたを拭かれてしまうローラ。彼女はかぁと顔を赤らめた。
市場にて
「おお!すごい人だな!」
市場は人でごった返していた。
「今度こそ、年上のおねーさんなりける所を…」
なにやらブツブツ言いながら、フラフラと露店の裏へ行こうとするローラ。
「お〜い、どこ行くんですか〜?」
「うふふ、待ちて待ちて、そんなに慌てずとも、おねーさんは、わわっ!」
おねーさん的?笑顔で振り向いた途端、段差も何も、障害となる物がない場所で彼女は躓いた。
「おっと、何もない場所でコケるとは……」
(なかなかの不幸ですね)と内心付け加える上条。
ローラは、上条に肩を抱かれるように支えられている。
「――――――」
ローラは驚いた表情で彼を見上げる。
「お〜い、大丈夫か〜」
上条はローラの前で手を振ってみた。すると、
(な、な、なあ!?)
現状を理解したのか、彼女の頬が真っ赤に染まった。
他にも
観光客相手に路上で写真を取っているおっさんに、カップルに間違われたり。
二人でジュースを飲んでいれば、どちらが自分の物か分からなくなったり。
バスに乗るため手を取って走り出し、乗れたは良いが次の停留場まで手は繋いだままだったり。
と、フラグイベント満載だった。
上条帰国三日後。
(はぅ……、上条当麻のことが気になりて仕方なしなのよ……)
「は、まさか!この年になりて、小娘のごとき片思いっ!!?」
勢いよく立ち上がり、ボムっと一気に顔を真っ赤にする。
「い、いけなし!とと、と言いけるか、べ、別に、好きじゃナっ……ぃっ、ひたひぃ……」
などと、ツンデレなことを言おうとし、舌を噛み失敗した。
上条が帰国してからずっとこんな調子である。
ローラ=スチュワートは、上条当麻の持つ『幻想殺し』より恐ろしい武器に気付くことになる。
しかし、気付いた時には既に手遅れなのだった。