雑踏とは、様々な服を纏った不特定多数の人物が集う場所とも言える。  
そこですれ違う人々は、互いの姿を眼に反射することあれど、目に入れることはなかなか無い。  
その人混みのど真ん中で、目に入れたくなる人物が立っていた。  
和風美人の趣を感じさせる長い黒髪を持つ少女、姫神秋沙だ。  
 
彼女を目に入れたくなる理由とは、なぜか赤く染まった美しい顔立ちと、彼女が着ているその場違いな巫女服。  
すれ違う人は一瞥すると、美しさに驚いたり、美しさに嫉妬したりしていた。  
それだけの美人なのに、不思議と声をかけようとする男性が皆無なのは、身に纏った巫女服が異次元のような存在に思え、抵抗があるからなのかもしれない。  
 
「はぁ、はぁ…」  
彼女の息は荒く、見る人によると、どこか体調が悪いのかと思ってしまうだろう。  
事実、おせっかい焼きな人が数名ほど、「大丈夫か?」「病院に行きましょうか?」など心配してくれていた。  
そういった優しい言葉を「なんでもありません」「大丈夫です」と返すたび、姫神の胸は少し痛んだ。  
しかしすぐさま、彼女の意識は違う方向に向けられる。真っ赤な袴の下、下着よりもさらに下、自らの股に。  
(…………もう。限界)  
 
プルルルルル!  
 
ビクッ!と、携帯電話の呼び出し音でしかないのに、不必要に驚く姫神。  
そして彼女の驚きは、焦りや緊張、恐怖、そして僅かな―本人も気がつかないほどの―喜びへと変わる。  
 
ピッ  
 
「も。しもし」  
『もしもーし。電話出るの遅いなー、どうかしたか?』  
明るい声が返ってきた。しかし姫神は電話を持つ右手を震わせたまま、会話を続ける。  
「…………別に。なんでも無い」  
『ま、いいか。ちょっと待って…おー、ちゃーんと約束通りの格好だなー』  
あくまで陽気な電話の声は、どうやらどこか遠くから彼女を見ているようだ。  
 
『でも上だけかも知れないからなー、下も見せてよ』  
「…え。ここで?」  
『そう、そこで。そこから赤い広告が屋上にあるビルが見えるだろ?そっちに向かって見せてよ』  
姫神は、ゴク…と溢れだしてくる唾液を飲みこんだ。  
そして、袴の裾を大きくめくった。  
その下には彼女の白い脚と、それよりさらに白いガーターベルトとパンティ、  
そしてそれらに支えられ、股に深々刺さって唸り声を上げているどす黒いバイブがあった。  
『ほほー、なるほどなるほど♪』  
「…………………ぅぁ」  
満足そうな声が電話から聞こえた。  
 
巫女さんが袴を持ち上げ下半身を露出するという異様な光景を、  
たまたま目撃した人々の反応は、概ね以下の4種類に分けられる。  
顔を赤くして目を逸らす者。  
照れながらも様子を伺う者。  
嫌悪感を表情に出す者。  
下品な笑みを浮かべ注視する者。  
そんな視線を一身に浴び、姫神は身震いをした。キラキラとした液体が、彼女の内股にいくつもの筋を作っていく。  
 
「…………もう。許して。お願い」  
耐えきれなくなった姫神は、電話に向かって哀願をした。  
『えー?、しょーがないなあー』  
と、電話の声は、もったいないという思いを隠そうともせず、仕方なく許した。  
フゥ。と、姫神は胸に手を当て一息ついた。  
先ほどまでの視線の主たちの咳払いが聞こえる。照れ隠しのつもりなのだろうか。  
 
(いつまで。こんなことをすれば。)  
―――いや、そもそもいつからこんなことを―――  
『なあ?』  
「えっ?」  
自問していた姫神は、急の呼びかけに意識を引っ張られた。  
『どう?』  
「………どう。と。言われても」  
電話からのあまりに漠然とした質問は、姫神を困惑させた。  
『だーから、今どんな気分かって聞いてんのー』  
「………………………」  
 
そして、やや具体的となった質問は、顔をさらに紅潮させた。  
左手で袴を握り、姫神は振り絞った声で答えた。  
「……………恥ずかしい」  
『ふーん、恥ずかしいだけ?』  
「………………………」  
『気持ち良くないの?』  
「……気持ち良く。ない」  
彼女は嘘をついた。  
朝から入れっぱなしのバイブが、うねりながら咎めた。  
これだけの大衆の中で、こんな恥ずかしい格好をする。  
すでに肉体の快楽は、全身を満たしていた。  
一方で彼女の頭はというと、  
理性や恥じらい、もっというなら「快楽という事実を認めたくない意地」が、  
かろうじて冷静にさせていた。  
しかし。  
 
『そっかー、気持ち良くないのかー。せっかく姫神にいい気分になってもらいたかったのになー』  
「………………………」  
『そーゆーことなら仕方ない。悪いけど、自分で気持ち良くなってもらうしかないな』  
「え…………どう。やって?」  
『どうって言われても、いろいろあると思うよー?例えばー……、おっぱい揉んだりとか?』  
「………………」  
提案の体を為してはいるが、その実は命令だ。  
 
――自分の胸を揉め――  
彼女は握っていた左手を解き、ゆっくりと自分の胸元に持っていき、布越しに撫でた。  
「はぁぅ…」  
ただ撫でただけなのに、甘い痺れが走った。今の彼女は、それほどまでに追いつめられていた。  
スッ、スッ、と撫であげられるたび、美しい顔が快感に歪む。  
すると電話から声が響いてきた。  
『どうした?たったそれっぽっちじゃ全然気持ち良くなれないだろ?  
 我慢しなくていいからさ、思いっきり揉んじゃえよ』  
 
――もっと強く揉め――  
「…………は…い…」  
言われるままに姫神は、グシャアと、乳房を握り潰した。  
そして、  
「はぁぁぁぁぁん!!!」  
その刺激的な快感をこらえることができず、絶頂に達してしまった。  
「はぁっ!んんっ!!ふぁあっ!!」  
しかし彼女は揉むことを止めなかった。一揉みするたび、喘ぎ声を上げる姫神。  
その淫靡な姿は、好色な人々の足を止めるには十分すぎた。  
いつの間にか大勢の人々が、彼女の周囲を囲んでいた。その表情は皆、下品に歪んでいた。  
 
(見られている…こんな姿を。見られている……)  
「はぁああぁんんっ!!!」  
そう意識したら、自然と乳房を揉む強さも速さも上がってきた。  
『はぁ、はぁ……気持ち……良さそうだな………』  
「……………はぃ」  
電話の声のなぜか荒い息づかいにも気がつかないほど、今の彼女は出来上がっていた。  
『ギャラリーが…増えて……はぁ、来たな………』  
「はぃ…………」  
『布越しは……ツラいだろ……?』  
「は。ぃ………」  
『上…脱いでいいよ………』  
 
――上着を脱げ――  
「はひぃ………」  
もうさっきのような躊躇いは彼女にはなかった。  
白い小袖の前をはだけさせ、白いブラジャーをずらすと、  
そこから真っ白な美乳が姿を表した。  
きれいなピンク色をした先端部分は、すでに痛いほど勃起していた。  
オオッ!と周囲の観客が歓声を上げた。  
そしてそれを聞いた姫神の興奮は、さらに高まった。  
(あぁ………みんな興奮している。私に。興奮。している。私に。私に)  
「ふあぁぁぁ……」  
ペタンッと、地面に腰を下ろした姫神は、いよいよ本格的に乳房を愛撫し始めた。  
大衆の面前で乳房を揉みしだき、乳首を転がす。  
うごめくバイブは、下着をグチョグチョに濡らし、袴に濃い染みを作っている。  
観客達は彼女の痴態を、嘗め回すように見つめていた。  
(ぁあ………見ている。みんな。私を見ている。私を…!)  
 
―――個性が欲しかった。  
自分のクラスの友人達や、「彼」を取り巻く女性達と比べて、圧倒的に個性がなかった自分。  
―――目立ちたかった。  
時折、誰も自分のことに気がついていないんじゃないか、そんな不安に駆られた。  
―――見てほしかった。  
もっと、私を見てほしかった。  
 
 
そのことを「彼」に打ち明けると、  
「では、ワタクシが知恵を搾ってしんぜよう!」  
「彼」は笑顔で、そう答えた。  
それからだった。  
授業中にローターをつけっぱなしにされたり、  
担任との通話中に背後から襲われたり、  
夜の公園で全裸でされたりしたのも、  
それからのことだった。  
「これも個性だよ」  
「バッチリ目立ってるよ」  
「みんながお前を見ているよ」  
そう、「彼」からの言葉を聞くたびに、自分の中の何かが疼いた。言い表せない何かが。  
 
今、「それ」は確実に、自分の中から外へ溢れ出し、暴れ出している。  
そう、「それ」は――――  
 
『イキ、たい…か?』  
電話から質問が響いた。  
「………イキ。たい」  
姫神は、嘘偽り無く答えた。  
『じゃあ…イッて……いいぞ……』  
 
―――イけ―――  
「はいぃ!!」  
ついに念願の命令を受け取った姫神は、乳房を握っていた手を、股間の位置まで持ってくると、  
グリュッと、袴越しにバイブをねじ込んだ。  
「あぁあああぁぁぁぁ!!!」  
凄まじい電流が全身に流れた。  
そのまま姫神は、自らの膣をバイブでかき回した。  
「あぁ!!あ゛っ!!いぃ!!はあぁあんっ!!!」  
ギャラリー達の目からは、どんどん広がっていく袴の染みの下が、どのような事態になっているかは見えはしない。  
しかしそれが逆に、彼らの妄想を一層掻き立てた。  
「ふあ゛あ゛っ!!ああぁあああ!!」  
真っ赤な袴の向こう側にあるバイブを、一心不乱に動かす姫神の耳に、「彼」の声が聞こえてくる。  
『はあ、はあっ!……気持ちっ、いいか?』  
「いい!!気持ちいぃ!!」  
『ハハッ、姫神は、本当にっ!淫乱だなあ!!』  
「はいっ!淫乱ですぅ!!」  
『バッチリ…目立ってるよ……!』  
「私…目立ってる……?」  
『ああ!みんながお前を見ているよ!!』  
「みんなが見ている…」  
(みんなが私を。見てくれている。私を。私だけを!)  
 
「はあああぁぁぁぁぁぁん!!!」  
 
そして、姫神の「意地」は、完全に消え去った。  
 
「見てぇ!!みんな見てぇぇ!!淫乱な私を見てぇぇぇぇぇぇ!!!」  
無個性に悩む少女は、心の底からの願望を叫んだ。  
グリグリグリグリと、バイブを動かすスピードが速くなっていき、そして、  
 
「はあぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」  
ビシュッ、ブシュッ  
 
まさしく叫び声を上げ、姫神は果てた。  
噴いた潮が、袴の不自然な位置に染みを作った。  
彼女はついに、念願の個性を手に入れた。ひどく淫乱な個性を。  
 
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  
 
 
パンパンパンパン…  
 
「はあっ、はあっ、くぅ!」  
「あん!やっ!!あぁっ!!」  
『はあぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!』  
「うあっ!!」  
「ふぁあああぁんっ!!」  
 
ドピュッ、ピュッ、ドピュピュッ、ドピュ  
 
「はあ…はあ……」  
「ふあ………………」  
「はあっ…こーゆーのも…いいな……」  
「ふぅっ………………」  
「はあ………じゃ、向こうに行くとしますか…!」  
「ふぇ………………?」  
「ほらほら!早くしないと姫神が犯されちまうだろ?」  
「ふぇふ………………」  
「しっかりしてくれーレベル5さんよー。お前は周りの連中をビリビリさせるだけでいいからさ。」  
「………………ふぁい」  
(なんで私が……別の女を……助けなきゃならないのよ………?)  
「それじゃ、急ぐぞ!」  
(ねぇ………なんで?)  
 
[終]  
 
 

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