『あれだけお膳立てして握手止まり!?』  
「土御門、あまり大声を出さないでください。耳が痛い」  
ある日、土御門がわざわざ神裂に電話をかけてきた。  
内容は言わずもがな、先日の上条と神裂の仲についてである。  
「それに握手だけでなくちゃんと交際も申し込み、互いに……  
 その、こ……恋仲にもなりました。これは大きな進歩だとおもうのですが」  
受話器片手にポーっと熱に浮かされたような顔で思いを馳せる彼女。  
『最近の中学生でももっとアクティブにいちゃいちゃするぜよ……』  
「土御門、私たちは清い交際をしているのです」  
あきれる土御門にえっへんと返答。  
『しかしその清い交際とはねーちんがカミやんに押し付けているからこそ続いている関係じゃないのかにゃー?』  
「何を言うのです。上条当麻もそれをわかってくれているに……」  
『ではカミやんがねーちんに逆切れした際の音声をながすぜい  
 ――思春期ど真ん中の上条さんの前でそんな衣装で現れやがって、  
 もう私はリビドーの限界なのですよ!――下心は感じないのかにゃー?』  
「……」  
そういえばそんなことを言われた気が。  
『わかったか!カミやんは紳士なだけで中身は男の子してるんだにゃー!  
 それを知らずに自分の清純さを押し付けおってからに!このエロメイドはぁ!』  
言い返す言葉もない。あ、いやあった。  
「エロメイドはやめなさい」  
『すいません流れでつい調子に乗りました』  
凄んだ声で怒られて土御門折れる。  
「しかし土御門、私も実のところもう少し彼と深い関係になりたいとは思っています。  
 何か良い案はないですか?」  
『任せておけ。この土御門、ねーちんやカミやんのためなら一肌二肌脱ぎまくるぜい』  
 
 
「追っ手がいなくなった、やけに早くねぇか?」  
とある広場で足を止める。  
 
 
本日も上条当麻は俺なりジャスティスを実行していた。  
ぶらぶらと下校していたら頭に花飾りもとい花畑していた子がお世辞にも世間体が良いとはいえない人たちに絡まれていた。  
無論彼はおびえる少女を見捨てるわけもなく、  
『ちょっとごめんよ〜。全くこんなところにいやがったのか、母さんが心配してるぞこいつぅ』  
と、仲の良い兄妹設定を演じて頭が春な子を連れていったが、数秒後追いかけっこが始まった。  
女の子の足はお世辞でも速いとはいえなかったので途中当麻がデコイとなって全員を引き付けた。  
ということで無事帰宅できたはずだ。  
その際全員をやたらめったに挑発したので激昂しまくっている。  
そんなわけでこんなにあっさり引き下がるとは思えないのだが、  
はて、と首を傾げていたら脇の道から足音が。  
「上条当麻。あなたは前にできるだけ怪我しないように気をつけると、私と約束したはずでは?」  
夕日を逆光に神裂が歩み寄る。彼女の顔は少しばかり呆れている。  
「その通り。よくみろ、上条さん傷一つ負っていませんよ」  
「それは結果論です。私としては怪我を負うかもしれない行為を自重して欲しいところですが  
 ……まあ貴方のことです、止めても無駄でしょうね」  
やれやれとため息をはく。  
「ところで、あのチンピラさんたちは神裂がやっちまったのか?」  
「ええ。全員今頃公園のベンチで寝ているでしょう」  
当身でもしたのだろう、彼女は手加減のできる人間だ。無駄に外傷を負わせたりはしない。  
彼らもどこかのビリビリ中学生に感電されるよりは苦痛のない気絶をしたはずだ。  
それを理解している上条はそっか、と笑いかける。  
「ありがとな、助かったぜ。女に助けられる男ってのは情けないけど」  
少し傷ついていた。思春期の心はナイーブである。  
ちょっと情けない顔をする当麻に神裂はゾクゾクとしたものを感じた。  
「ぷあっ、ちょ。神裂さん?」  
気が付けば熱烈なハグをしていた。  
当麻の頭を手で下げさせ胸に押し付ける感じだ。つまりパフパフである。  
これは上条たまったものではない。  
風斬の胸にはさまれて悶絶していたウチの馬鹿猫の気持ちがわかった。  
これは凄まじい。  
「挨拶が遅れましたね。上条当麻、久しぶりです」  
「久しぶり……って程の間があったわけでもないけどな」  
胸から開放されてはにかむ二人。  
かなり初々しい。中学生レベルの恋愛である。  
味で言うところ甘酸っぱいというところか。  
「ちょうどベンチがあそこにあります。少しここで語りませんか?  
 部屋にはあの子がいるでしょうし」  
「ああ、そうだな。じゃあベンチで待っててくれ、ジュース買ってくるよ」  
「いえ、貴方がベンチで待っていなさい。ここは年上の甲斐性を見せるところです」  
 
「え〜……」  
ここでもリードされる上条さん。  
しかし姉属性に憧れのをもつ彼にとって微妙に美味しい状況だった。  
ということで大人しくベンチで待つことにする。  
ふと、ここであることに気づいた。  
「あれ、そういえばあの自動販売機って」  
そう、あれはいつか上条さんの2千円札を食べたままジュースとおつりを出さないマネーイーターだった。  
あわてて神裂に駆け寄るがとき既に遅し。  
神裂さん呆然としていた。  
「あ〜、やっちまったか」  
「上条当麻。これはいったいどういうことなのでしょう。ボタンを押しても反応がないのですが……」  
はぁ、とショボくれた顔でため息を吐く神裂さん。  
犬耳があればしょんぼりと垂れた所か、不覚にも幻想した上条、萌えています。  
「俺もこれに以前金食われてさ、そのときは知人がこれに思い切り蹴りいれてジュース回収してたが」  
「こうですか?」  
神裂さんは真似しちゃいけませんよ、と付け加える前に即実行していた。  
ぼぐしゃぁっ!  
鉄のひしゃげる音がした。  
目の前で不動の体制をとっていた自販は無残、くの字に折れて横に転がっていた。  
それから数秒呆然としていたところ、急に自販機が稼働した。  
凄まじい勢いで中身のジュース缶を吐き出す。  
もってけドロボーといわんばかりに吐き出す。逃げなければ。  
「これは大当たりですか?」  
「いいえバチ当たりです」  
とりあえず落ちていた缶を適当に2つほどとって神裂の手を引きその場を急いで離れることにした。  
 
「……」  
「……」  
二人とも二時間ほど他愛のない話をして話題も既にない。  
しかし以前のような息苦しさは無かった。  
ベンチで二人並んで座り、ただ夜景を眺める。  
眺める事に意味もなければ理由もない。ただぼけっと眺めるだけだ。  
しかしその空間も心地よいと感じる。  
「その、上条当麻」  
「ん?なんだ?」  
「夜景をみるのも良いですが、夜空を見るのも悪くない。どうぞ」  
言うないなや本日二度目となる頭鷲掴み移動を神裂が行う。  
今回は豊かな胸ではなく、  
「なんと、これは男のロマン……桃源郷ではありませんか」  
太もも、膝枕状態である。  
うわーやわらけー。  
太ももに顔をすりすりする上条。  
神裂も怒ることは無く、くすりと笑い当麻のツンツン頭を優しくなでる。  
まさしく姉さん女房である。  
これはたまらん、と上条は一人ごちる。  
 
「失礼します」  
「え、神裂?」  
自分の太ももの上に頭をおく上条の目を手で閉じる。  
そのまま驚いている彼の唇に顔を近づけ、  
「ん、んん!?」  
頂いた。  
だがまだ離さない。  
彼も驚いてはいるが目で見ずとも今何をされているのか理解しているのだろう。抵抗はない。  
ただ唇を合わせる力加減は上から当てている私にある。  
彼の唇の感触を丹念に味わう。  
10秒も口づけをしていると当麻のほうも力が抜け切っていた。  
「ふぅ」  
一旦唇を離し、一呼吸する。  
当麻も酸素を求め飢えるように息を吸う。  
その当麻が十分に息を吸いきったのをみて、再び唇を押し付ける。  
「〜〜っ……」  
無防備に半開きになった口に舌を挿し込み、そのまま彼の歯茎や唇の裏に舌を這わせる。  
ただひたすらに彼の口内を蹂躙し、征服する。  
くちゅ、くちゅり。と粘性のある液体が交わる音が周囲に響く。  
まるで貪っているかのように舌を彼の口内の隅々まで味わう。  
何十秒たっただろうか、再び呼吸のために唇を離したときには彼に陶酔の色が宿っていた。  
互いの口のあいだにはクモの糸のような唾液がつながっている。  
それを呆然とながめる彼の瞳は酔ったようにトロンとしている。  
「ごちそうさまでした」  
意識が半分飛んでいる当麻に向かって熱を帯びた顔で微笑む。  
 
「で、どうしたんだよ。いきなりあんなことするなんて」  
「おや、貴方は嫌でしたか?」  
「いえ、むしろ嬉かったです」  
「私もです。互いに良かったと思っているのだから理由なんてどうだっていいでしょう」  
神裂火織、お堅い人間ではあるがサービス精神も結構ある。  
自分が清純な交際を望んでいたとしても、上条当麻が一歩進んだ関係を望むのならそれも良い。  
彼自身が神裂を思って一歩踏み出しかねるのなら彼女はそれをリードすれば良いだけだと考える。  
「上条当麻。突然ですが私は今から貴方の呼称を当麻と呼び捨てすることにします。  
 口付けまでして今更フルネームというのもいかがかと思いますし」  
「あ、ああ。じゃあ俺も……火織って呼んでも良いんだよな?」  
「もちろんです」  
にこり、と母性に溢れた笑みでうなずく。  
上条、にこりとされてポっと照れる。ニコポ状態。ヒーローなのにヒロイン気取りである。  
「さて、そろそろ貴方は帰ったほうがいいのでは。あの子も待っているでしょうし」  
「そうだった!やべぇインデックス絶対もうきれてますよ!」  
慌てて鞄を取る。  
 
「火織、今日は嬉しかったぜ。じゃあな」  
一歩進んだ関係になれたことが嬉しかったのだろう、顔には幸せの色で満ちている。  
「当麻、ちょっと待ちなさい」  
「ん?」  
呼び止められて振り返る瞬間、当麻の頬にキスをした。  
「無いとは思いますが、これはマーキングです。浮気はダメですよ」  
結構強くしたらしい、頬にキスマークができた感じがする。  
「ちょ、これインデックスに見られたら!」  
「我慢してください。それでは」  
手をひらひらと振ってその場を後にする神裂。  
残された上条はただ呆然としていた。  
 
 
「なんなのかなそのキスマークは!!どうせ街中で女の子と遊んでたんでしょ!もう許さないかも!」  
ガジガジガジ!どぴゅー  
「さっきまで幸運だったのに今は不幸だああアアア!!!!」  
 
 
「さて、これの出番もそう遠くなさそうですね」  
以前土御門から渡されたコンドームを財布にしまう神裂。  
あのキスでタガが外れたらしい。  
ディープキスしている際、上条の下腹部に膨らんだものに気づいた時からどうも体が火照る。  
体は熱に浮かされたように熱く頭もクラクラとする。  
「……?」  
くちゅり、と下着が濡れた感触がした。  
なんだろうと手を這わせると、気づいた。  
つまり彼との口付けで感じていたと。  
「随分久しぶりですが……」  
既に欲情してしまった体を慰めようと彼女はベッドの上に転がったのであった。  
 
 

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