そこはとある病院の一室。  
カエル顔の医師の前に佇むシスターズの一人は無表情なままで医師の言葉を待っていた。  
 
「……それが君の望みなのかい?本当にそれで」  
「はい。とミサカは逡巡する事無く答えます」  
「……いいだろう。手配は私の方でしておくよ。細かい事はこちらでなんとかしよう」  
「ありがとうございます。とミサカは丁寧にお礼をしてみます」  
 
頭を下げる彼女に「君が礼をする事は無いよ」と医師は礼を遮り、ふと窓の外に視線を向ける。  
彼女から目を逸らすように。  
 
「時間が惜しいだろう?もう行きたまえ……君の望みのままに」  
「では失礼します。とミサカは退室を宣言します」  
 
少女が退室した後も彼はその場を動こうとはしなかった。ただ一言、言葉を発したまま。  
 
「頼んだよ……上条君」  
 
 
 
上条当麻は固まっていた。  
突然、以前にある事件で知り合う事になった同じ顔をした10000人程のクローン姉妹。ミサカシスターズの1人が自分の部屋のインターホンを鳴らしたのだ。  
否、インターホンを鳴らし、来訪するのは構わない。当麻自身、彼女達の事は気になっていたし、彼女達の現状を見てみたいという気持ちもあった。  
だがおよそ2分前にこのシスターズ。彼女の言うところの、シリアルナンバー.13045番は上条当麻の想像の斜め上の発言をのたまった。  
曰く  
 
「今夜一晩、貴方と共にこの部屋で過ごしたい。とミサカは自分の希望を述べます」と。  
 
 
「あの……ミサカ妹さん?私には貴女の言っている意味が判りかねるのですが」  
戸惑う当麻に?を浮かべながらも  
「私を一晩こちらに宿泊させてください。と言った意味なのですが判りかねますか?とミサカは言い換えて確認を取ってみます」  
それならばどうやら当麻の耳や頭は正常のようだ。しっかり自分の認識と一致している。が、  
「いいいいいくらなんでもソレは不味いだろう!」  
「何故ですか?とミサカは疑問に思った事を口にしてみます」  
「いや!ウチには俺の他にも居候がいてだな」ピリリリリ!  
とナイスなタイミングで電話が鳴ってきたのですが  
 
「!はい。すいません先生、今チョット取り込ん…はい?インデックスと?…鍋で泊まらせるっ…て先生!なんで今日なんですか!  
困ります!インデックスを返し!先生?せんせーーー!!」  
プツリ。と無情に切れる電話を手にする当麻の前には無表情で立ち尽くす少女が一人。  
 
「どうやら居候の方は今夜はいらっしゃらないんですね?とミサカは少し強めに確認します」  
「いや、だったとしてもですね。やはり血気盛んな男子高校生の下に突然一夜の宿を借りるというのは問題があるのではないしょうか?ミサカさん」  
当麻が多量の汗をかきながら言うも  
「私は既に外泊の予定で行動していますので、万が一貴方の部屋で宿泊出来ない事態になればどこかの公園で野宿をしなければなりません。とミサカはあまり考えたくは無い未来予想図を口にしてみます。  
私の様な者が独りで公園で夜を過ごせば、もっと考えたくない者達にもっともっと考えたくない行為をされるかも知れません。とミサカは不条理にも貴方に非難を浴びせる様な目で見つめて言います」  
「………」  
上条当麻が脅迫に負けた瞬間であった。  
 
 
それからの上条当麻は自身曰く「不幸だ」と言をもらし、周囲曰く「羨ましい奴!」と云う、ほのぼのな時間を過ごす事になった。  
夕食の買出しに同行するというシスターズを連れだって町を歩くのだが、何故かもうぴったり!という言葉の通りにNO.13045は当麻にくっついていた。  
腕を組んでいるのか腕を抱え込んでいるのか定かでは無い。  
周囲の視線に当麻は恥かしい思いで一杯であるのだが、どうにもシスターズには羞恥の感情が希薄のようで、まったく気にする風が無かった。  
早々に買い物を済ませ、猛ダッシュで帰宅。  
だが一度家に戻ってしまえば、当麻にしても予想外にも落ち着いた空気になった。  
当麻が夕食を作ってる間、ミサカは黙って座って待っていたし、夕食も穏やかに進んでいった。  
 
食事中の会話はもっぱら当麻からの質問にミサカが答える、といったものだったが、それは悪くは無かった。  
シスターズのその後は当麻にも気掛かりの案件でもあり、その最もな回答を持っているのは目の前の彼女なのだから。  
 
「ふ〜ん。そうか。じゃあ今はお前達もそれなりに暮らしてるんだな」  
「それなりに、と言う生活がどのようなものかは測りかねますが、概ね平穏に暮らしています。と、ミサカは自分達の現状を貴方に報告しておきます」  
相変わらずの口調に苦笑いもこぼれるが、それも彼女達の個性だと当麻は思う事にしている。  
「そっか〜……ところでさ」  
「?」  
「なんでお前さんは俺の所なんかに泊まりにきたのですか?別にナニする気は無いけど突然すぎやしませんか?」  
当麻が疑問を口にすると、ミサカはそんな事か、と溜息を漏らしながら  
「ミサカがこの部屋に泊まりに来た理由はミサカがそれを望んだからです。とミサカは少し顔を赤らめて言って見ます」  
「………はい?あの、それはどういう」  
「?つまりミサカは貴方とセックスをする為にココに泊ま「ちょっとまてーーーー!!!」話の途中です。とミサカは眉を歪めて咎めます」  
さっきまでの平穏はなんだったのかと当麻は立ち上がり叫んでいた。  
 
「お前等まだ中学生とかだろう!そんなのまだ早すぎます!」  
ほとんど叫びに近い当麻の声に、キョトンとしながらも  
「しかし雑誌によるとミサカ程の年齢の何割かはその様な行為の経験が有るようですし、貴方の年齢の男子はその様な行為に興味が多いに有ると書いて有りました。とミサカは知識を披露してみます」  
「そんな知識は持たなくても宜しい。まったく、大体、そんな理由でよくココに来たな。今は施設にいるんだったよな?施設の人にはなんて言って来たんですか〜」  
そんな訳は有る訳ないと思っていた当麻の耳に。有る訳ない返事が  
「そのままの事を言って出てきました。とミサカは当たり前の事を聞かれて不思議に思いながら返答します」  
「………どんな施設だよそこは」  
女子中学生程度の年齢の少女が男子高校生の部屋に行ってSEXして来ます。と言って、行ってらっしゃい。と見送る施設。  
当麻の頭の中では、その施設に対する苦情と陳情の文句が箇条書きでびっしりと上げられていた。  
「だいたい、なんでそんな事になったんですか」  
もう疲れました。と言わんばかりに腰をおろして聞いた当麻に、ミサカは言葉を返した。  
「ミサカが今望む事を言いなさい、と言われました。とミサカは言われた言葉をココで言います」  
「望む事?」  
「はい。どんな望みでも、出来うる限り叶えてくれると先生は言いました。とミサカは言葉を続けます」  
「それでこの有様ですか。ったく、随分と気前の良い話だこって。なぁ?お前等ってそんなに大事にされてんの?」  
望みを可能な限り叶えると言われている。だとしたらたいしたVIP待遇だ。だが当麻に返って来た言葉は予想に反するものだった。  
 
「特別な扱いは受けてはいません。これがミサカの最後の望みになるからという理由以外、別の意味合いはありません。とミサカは貴方の誤解を訂正しておきます」  
「……はい?……あの、言ってる意味が判りかねるのですが」  
当麻が思わず聞き返すも  
「?もうすぐミサカの生命活動は停止すると言う事です。ですから最後に望む事はな「なんだよ!それわ!!」…もう一度最初からですか?とミサカは呆れた感じに問い掛けます」  
本当に当麻の困惑が判らない、という感じのミサカに当麻は声を荒げていた。  
「なんで!寿命を回復させる為に施設に入ってるんだろ?それがなんでもうすぐなんて事になるんだよ!」  
当麻の聞いてる話ではシスターズは体内のバランスを調整する事によってある程度の寿命の回復が可能とのモノだった。  
通常の者と同じとは行かないまでも、ソレが終わるのはまだずっと先の筈だった。  
「他のミサカはある程度の寿命の回復が可能です。ですがこのNO.13045は他の個体とは異なるプロセスを組んでいます。と、ミサカは自分の事を貴方に教えます」  
「他の……プロセス?」  
「はい。ミサカ13045番は他のミサカより力を引き出す為の調整が成されています。他の個体がレベル2〜3の能力値なのに対し、13045番はレベル4程度の出力を引き出す事に成功しました」  
自分の事を彼女達は成果として語る。当麻の顔がはっきりと歪む。  
「ですが、急激な成長と過度の出力は体細胞の崩壊を早める事になります。このミサカは他のミサカに比べ、極端に活動限界が早いのです。とミサカの言葉がわかりますか?とミサカは確認します」  
上条当麻も馬鹿ではない。それだけ親切丁寧に教えられれば判らないわけは無い。  
だが、まだ確認してない事が有る。  
 
「……もうすぐって?」  
 
表情の乏しいシスターズからは読み取れない。その残された時間。当麻には、目の前の表情が一層の無表情に映った。  
「既に能力は消失しています。五感も衰えて来ています。もって明日の朝でしょう。とミサカは自分の予測を言います」  
少女ははっきりと、自分の時間を当麻に示したのだった。  
 

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