(姉か妹なら俺は……)  
      『甘えさせてくれるお姉ちゃんかな』  
    →『面倒見の良いお姉ちゃんかな』  
      『おとなしい妹かな』  
      『ちょっぴり生意気な妹かな』  
 
深く考えず答えたが、以外としっくりきていた。  
(俺、弟キャラだったのかも……)  
自分の新たな一面に衝撃を受ける上条。  
「まぁまぁ、それでは、ルチアさんのような方でございますね?」  
のんびりとした調子で、オルソラがそんなことを言い出した。  
「な、なにを?」  
オルソラの発言に驚くルチア。  
「あ、そうですね!この中だとシスター・ルチアがぴったりです!」  
アンジェレネは「すごい発見です!」と嬉しそうに言う。そんな中、  
「むむ……」と、ルチアを睨むアニェーゼ。  
よく見れば、ニコニコ笑うのオルソラ笑顔にもある種の影が差していた。  
(あ、あれ?なんかまずかったかな?)  
上条は周りの様子に内心不安になった。すると、  
「も、もうこんな時間ですね、就寝するとしましょう。行きますよシスター・アンジェレネ?」  
早口に言って、ルチアはアンジェレネを小脇に抱え、  
「それでは、おやすみなさい」  
振り返って律儀に挨拶をし、そそくさと上条の部屋を後にした。  
「では、私達も」  
「そうですね、今日はこれぐらいにしときましょう」  
言って、オルソラとアニェーゼは、先程までが嘘だったかのように柔らかい笑顔を浮かべ、  
「お休みなさいませ」  
「そんじゃ、おやすみなさい」  
それぞれ就寝の挨拶を残し自室へと帰って行った。  
 
真夜中。  
尿意と激しい喉の渇きに、むくりと起き上がる上条。  
おぼつかない足取りで部屋を出て、フラフラと真っ暗な廊下を進む。  
眠りの深い時に起きたので恐ろしく眠い。  
「ん〜……ねみ………」  
彼は殆ど寝惚けたまま『食堂』へと入って行く。  
そのまま隣接されている台所に移り、巨大な業務用冷蔵庫からペットボトルを出した。  
昼間、修道女達と買い物に行った際、何か自分で買ってみようと購入したのがコレだ。  
中身は水。何の変哲もない水だ。蓋を開け、中の液体を一気に煽る。  
「ング……ング……」  
ゴクリと小気味良い音を鳴らして飲み干していく。彼は気付くべきだった。  
水に微かな苦味があったことに。  
彼意外誰もいないはずの台所、彼の背後で小さな人影がスッと蠢いたことに。  
「うぅ………?」  
急な眩暈を覚える上条。そして彼の意識は遠のいた―――。  
 
 
「ひゃ!」  
深夜の台所で、何とも可憐な悲鳴が上がった。  
「はぁ…、なんでこんな所で寝ているのですか、あなたは」  
呆れ調子で言ったのはルチア。どうやら夜の見回りのようだ。  
「……ぅ…………」  
僅かに呻き声をもらす上条。そして次の瞬間、  
「………といれ」  
彼は頭をフラフラさせながらズボンを下ろそうとした。  
「ちょ、ちょっと!」  
間一髪、ルチアによってズボンは上げられた。  
「まったく……」  
溜息混じりに言う。  
彼女も、上条が単に寝惚けているだけと思い無駄な叱咤はしなかった。  
「おトイレはあちらです」  
廊下に出て暗闇の向こうを指し示すルチア。  
「…ん………」  
理解しているのか、上条はコクッと俯いた。  
「では、私は部屋へ戻ります。ちゃんとおトイレを流すんですよ」  
細かいことまで気を回しつつ、「おやすみなさい」とルチアは去ろうとした。  
 
が、しかし、  
「ま、待ちなさい!」  
フラフラと『風呂場』に入る上条を見て慌てて止めに入る。  
「だから、おトイレはあちらですと、」  
「………………」  
「……はぁ、仕方がないですね」  
説明は無駄と判断し、ルチアは彼をトイレへ連れて行くことにした。  
基本的に女子寮の為、男子トイレは一階の来賓客用しか備えていない。  
「少し距離がありますね……、まったく、何で私が……」  
ブツブツと文句を言いつつも、フラフラ歩く上条を支えて真っ暗な廊下を進む。  
「ほら、階段ですよ?」  
と、声を掛け、上条を支えながら一段一段下りて行くルチア。  
(ぅく……なんか、段々重くなっているような……?)  
そう思って上条を覗き見る。  
「すぅ…すぅ…」  
呆れたことか、上条は規則正しい寝息を立てていた。  
ルチアは一気に脱力してしまい、  
「ひゃわぁ!」  
ルチアは、上条の重さに耐え切れずに崩れた。  
唯一の救いは、階段を下りきっていたこと。  
ルチアの上に伸し掛かる上条。この状況で彼は、  
「ん……といれ」  
ブルブルと身震いをしてそんなことを呟いた。  
「だ、だめです!こんな所でしては!」  
上条の身体の下で必死にもがく。  
今されては、ルチアも床も大変なことになる。  
「うう……くぅ」  
彼女は床を這い、やっとの思いで脱出した。  
 
 
様々なアドベンチャーを経て、やっとトイレに辿り着いた二人。  
「では、私はここで待っていますから、一人でできますね?」  
と、ドアを開けてやる。  
「ん〜………」  
意味不明な唸りを上げ、上条がトイレへと入って行った。  
一人で出来ない、と言ったらどうするつもりだったのか……。  
彼女はドアを閉め、その前で上条を待った。  
「フフ………」  
彼女は一人笑いをもらす。  
(私達を打ち負かし、私達を救った彼にも、こんな一面があったのですね……)  
それは、出来の悪い弟を愛おしむような微笑だった。すると、  
『うぅ………ぅ…』  
トイレから呻き声が聞こえてきた。  
「?、どうしました?」  
心配になり声を掛ける。が、  
『んん…………』  
帰ってくるのは呻き声。  
「開けますよ?」  
大事があっては大変と、ルチアは割と躊躇無くドアを開ける。  
「なっ―――――」  
彼女の目に飛び込んできたのは、これでもかと言うくらい腫れ上がった上条の逸物。  
というか、なぜ最初にそこが目に入るのか、彼女に、ツッコミを入れたいが、  
ルチアの目には、なぜか、そこが最初に映った。  
「あ、か、隠しなさい!」  
言いつつも、真っ赤な顔をして『そこ』から目ははなさない。  
だが、次の瞬間、  
「ハッ!もしや、このままですと………」  
と、彼女は急に顔色を変え―――  
 
―――シュ、シュ、シュ  
何かを擦る音がトイレの壁に反響している。  
(早くしないと……)  
そう思い、ルチアは改めて上条の『陰茎』を握り直した。  
―――シュ、シュ、シュ  
上条の硬く反り立った陰茎を扱き上げるルチア。その表情は至って真剣だ。  
(こんなに腫れて、全然収まらない……)  
―――シュ、ニュチ、ニチ  
響く音に、湿り気を帯びた音が混じってきた。  
ルチアの柔らかな手の中で、カチカチに硬くなった陰茎がビクビクと跳ねる。  
(早く、しないと、膀胱炎に……)  
ルチアがこんなことをしているのは、なぜか、それを危惧してのことだった。  
彼女の中では、『排尿できない=即膀胱炎』という図式があるらしい。  
きっと、真面目が故の勘違いだろう………。  
―――ニュチ、ニチ、チュ  
(男性器は射精することで納まると聞いたことがあります)  
などと、どこぞで耳にした保険体育のような知識を引っ張り出す。  
ルチアの柔らかく滑らかな手に擦られ、ブワッと傘を広げる硬い陰茎。  
(それにしても……、すごく大きい……)  
眉をたわめ、切なげな表情で陰茎を見詰める。  
跪き、両手で陰茎を扱くその様は、許しを請いているようにも見えた。  
―――ニュチュ、ニチ、ニュチ  
「はぁ……はぁ……」  
と、ルチアの熱い吐息が上条の亀頭部分に当たり、  
その亀頭の先から出た透明な粘液が、彼の陰茎とルチアの手を汚す。  
両手を動かし、顔を紅潮させながら、必死に射精させようとするルチア。  
そんな彼女の姿は痛々しいほど真摯だった。  
 
「んんっ……」  
上条の眉間に僅かばかりの皺が寄り、有りっ丈の精をルチアの手に放った。  
ドロドロとした大量の白い粘液が両手に広がっている。  
(こ、れが……)  
惚けたように精液で犯された手を見つめるルチア。  
青臭いような独特の臭いが鼻を突く。  
しかし、嫌いではないようで、手に鼻を近づけ、すぅーと深呼吸をするように嗅いでいる。  
そして、知らず知らずの内に溢れた、口内の生唾をコクリと飲み下した。  
 
その時、  
 
「……るちあ…?」  
突然、ルチアの頭上からそんな声が掛けられた。  
その一言で、サァーと血の気が引いていくようだった。  
「これは……その」  
言い淀みながら上目遣いに上条を見上げるルチア。  
彼女の特徴の一つである、シャム猫のような目も弱ったように、  
というか、目尻に涙を溜め今にも泣きそうであった。  
「……んん?」  
上条はボーと辺りを見回している。  
「ぁ…ぁ……」  
青ざめた顔で唇を戦慄かせ、可哀想なくらい怯えている。  
「ん、あれ?…ルチア?」  
パチリと今更になって、本当に今更になって、呆け状態から再起動する上条。  
「き、きゃあああ!!」  
 
―――ドゴッ  
 
悲鳴と共に、上条の下顎にヒットする強烈な掌底(精液付き)を繰り出すルチア。  
「ガぁッ」  
と、奇妙な音を口からもらし上条は昏倒した。  
 
 
翌早朝。  
アニェーゼはまだ静かな廊下を一人進んでいた。目的地は『台所』。  
(この時間なら、まだ『あのペットボトル』があるはずですね……)  
彼女の言う『あのペットボトル』とは、昨晩、上条が飲んでおかしくなった物のことである。  
 
早朝の台所。  
朝食の仕込みまで、まだ三十分もあるため今は無人だ。  
するとそこに、一人の修道女が入ってきた。  
彼女は、迷い無く流し台の前まで行き、落ち着いた動作で、  
その横に置かれたペットボトルを取り、中に残った液体を処分した。  
そして、ペットボトルを処分しようとしたところで、食堂から足音が近づいてくるのに気付いた。  
彼女は慌てることなく、それどころか、クスリと笑って、空のペットボトルを元の場所に戻し、  
廊下へと続く別の出入り口から台所を後にした。  
 
台所に入ってきたのはアニェーゼ。  
「んん?」  
彼女は顔をしかめた。  
(確か昨日の夜、上条さんは全部飲まなかったはず………)  
と、流し台の横に置かれた空のペットボトルを手に取って、その口を舐めてみた。  
「ンっ…………」  
口の中に広がる微かな苦味。  
(速効性は私のと同じくらい……でも、持続力はないタイプですね……)  
彼女は懐から『薬』の入った小瓶を取り出し思考を巡らせた。  
アニェーゼは昨晩この台所にいた。目的は上条のペットボトルに細工をした人物と同じ。  
上条の背後で蠢いた人影はアニェーゼの物だったのだ。  
彼女はルチアの接近に気付き、素早くその場を離れたのである。  
つまり、上条のペットボトルに一服盛ったのはアニェーゼではない。  
「いったい誰が………」  
彼女は何かを考えるように目を閉じる。  
この話の終わりに、決して小さくない謎を残す結果となった。  
 
 
epilogue  
「ふあ〜ぁ…」  
欠伸を一つ、上条はベッドから降りる。  
窓から差し込む白い朝の光が眩しくも清々しい。  
だが、上条は寝起き早々、何やらすっきりしない顔で、  
(う〜ん、昨日何かスゴイ夢を見たような……)  
よくあることだが、昨晩見た夢の内容が思い出せない。  
彼は、顔を洗ったり、着替えをしたりしている間中考えたが、やはり思い出せない。  
「ま、大抵覚えてないもんだよな」  
そう結論付け、食堂へと急ぐ上条だった。  
 
朝食を取る為、多くの修道女で賑わう食堂。  
今日の料理当番リーダーはオルソラというだけあって全員出席状態だ。  
「うお、スゲー人だな」  
朝からお祭りのような光景に、ちょっぴりテンションの上がる上条。  
何人かの修道女と挨拶を交わしながら席へと向かう。その途中、  
「よう、ルチア、アンジェレネ。おはよう!」  
少し高目のテンションで挨拶する。  
「おはようございます!」  
釣られたのか、元気良く返すアンジェレネ。  
しかし、ルチアは、  
「―――――」  
上条を見たまま凍りついたように動かない。そして、  
「っ!!」  
ボンッと派手に赤面するルチア。  
その後、彼女は赤い顔のまま勤めて冷静に、「おはようございます」と言って席に着いた。  
 
 
上条はその日、やたらルチアと目が合う一日を過ごしたのだった。  
 
 

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