「あなた、ジャッジメントに来なさい」
「何いってんだお前」
「おやおや、随分と精度の低い耳をお持ちですのね。もう一度言いますから次は聞き逃さぬよう」
「いや、言い直さなくていい。あのな、上条さんレベル0なんですよ?」
「それが何か?」
「それが何かって……ようするに俺にはジャッジメントは入れる資格が無いっていってんだよ」
「ああ、何を言っているのかと思えば。貴方が無能力なのは知っています。
私はジャッジメントに入れではなく来いと言ったのですの」
「来いって、俺なんか悪いことしたか?いや、そういえば思い当たる節が無いこともないな……
ビリビリがATMをバグらせたり自販に蹴りいれたり、しょっちゅう起きる停電もアイツの仕業だが俺の責任が無いとも言い切れない」
「……御託は構いませんから早く動きますの!」
「あ〜、どうせ逃げても無駄だよな。仕方ない、大人しく付いていきますか」
白井黒子。彼女が勝手にライバル視する上条当麻をジャッジメントに誘うのは意味があった。
「げ、ビリビリ」
「私には御坂美琴って可愛い名前があるのよん。いい加減おぼえろや」
「不服。恐ろしく不服ですの」
白井黒子。彼女は日夜どうすれば御坂美琴が自分に振り向くのか検討している。
セクシーな下着で迫ったり勢いにまかせて熱いベーゼを送ろうとしたり、
寝込みを襲い既成事実を作ろうとしたり。誠に遺憾だが一生懸命だった。
しかし最近愛しのお姉さまに想い人ができたらしい事に気づいた。
その男が今ここにいる上条当麻である。
これは拙い。このままではお姉さまをとられる、それはならぬと黒子は焦る。
「お姉さま。約束は守りました、そちらの約束も守ってもらいますの」
「わかってるって。美琴さんは約束はちゃんと守る人間ですよ?」
「誰の真似だそれ、凄く似合わないぞそのしゃべり方。うっわー、
この人凄く変な話し方してる〜。っし、見ちゃいけません!」
「あんた、久しぶりに顔をあわせたと思ったら随分な言い草ね」
上条当麻のイジリに耐えかねた美琴は額から高電圧の雷矢を飛ばす。
「あぶねっ。おい、こんなイジリで切れて放電すんなよ。俺じゃなかったら防げず悶絶してんぞ」
「アンタ以外には手加減全開よ。これでも私は手加減上手いのよ?」
「どの口がいいやがるんですか」
傍から見たら凄く中の良い友達が冗談を言い合っているようにしか見えない。
無論、黒子の視点からもそう見える。
だからだ、彼女にはその光景を見ていられなかった。
「お姉さまが私の仕事を手伝ってくれるというから喜んだというのに」
ある日、暇を持て余していた御坂美琴は同室の黒子にある提案をした。
『そうだ、骨のある奴を探すのならジャッジメントに協力すれば良いんじゃない!』
これには黒子大層喜んだ。
しかし次の言葉がいけなかった。
『でもな〜。どっかに属するのは私のガラじゃないし。ん?それならお手伝い程度で関与すればいいって?
それなら良いけど、けどそういうのって周りから見たら凄く浮いちゃうのよね〜。
え、だったらもう一人誰かと一緒に手伝えば注目も分散して問題ないかって?
それは良い案ね。そうだ!それなら丁度良い奴がいるじゃない!
あ〜、でも私からいうのもな〜。黒子、アンタから頼んでくれない?』
ここで快く頷いた自分が馬鹿だったと後で黒子は後悔した。
まさかそのアイツなる方が上条当麻とは思っていなかった。女友達だと思っていたのだ。
しかし結果このザマであった。
お姉さまを独占できると思ったら仇敵までセットで現れた。これでは本末転倒。
「お二人とも、到着しましたの。ですからいつまでもはしゃぐのは止めて頂きたいですの」
なんかもう空回りしすぎて泣きたくなってきた黒子であった。
夕焼けに染まるグラウンドの中、複数の人間が走っていた。
「なんで俺までジャッジメント手伝う事になってんだ、俺頷いた覚えないんですが」
「何よ、アンタどうせ暇なんでしょ?別にいいじゃないのよ」
「オーウジーザース。なんて横暴な奴だ、こんなの俺のイメージのお嬢様じゃねえ」
「こんなの言うな!」
二人ともどつきあいながらも結構早いペースでランニングしていた。
その二人のほかにもグラウンドには複数の能力者が走っている。
いわずもがな、ジャッジメント見習いだ。
その見習いたちもかなり疲労濃い顔をしている。
しかし上条当麻と御坂美琴はまだ余力をもてあましている。どつき合いながら走る程度に。
そりゃそうだ。
上条当麻は日ごろから広い街をステージにチンピラさんや美琴と鬼ごっこをしている。
美琴は元々の運動神経が良い上に鍛えている。
そんな二人にこの程度のランニングは別に苦痛でもなかった。
まあつまり、二人とも基礎体力はかなりのレベルだったということだ。
「で、ランニングおわったら次は何するわけ?」
「え〜と、確か腕立てらしいわよ」
「きゅうじゅうはちっ、きゅうじゅうきゅうっ、ひゃく!だあああああ!終わり!」
「遅いわよ。私はとっくに終わってたし」
「お前は女子だから俺ら男子と回数ちがうだろうが。っつーかさ」
「なによ」
「いや、なんで俺たちお手伝いなのにジャッジメント志望の人たちと一緒に研修うけてんの?」
「私が知るわけ無いでしょ。まあどうせ私たちが足手まといになるか判定してるって所だとは思うけど」
「なんだそりゃ。だったらわざとヘタレて情けない所みせたらドロップアウトできるのか」
「そんなマネしたらマジで許さないわよ」
「別にレベル0の上条さんなんてジャッジメントも必要ないだろ。
というか超能力者の御坂だけでも事足りるだろうし、俺はそろそろ失礼することにするわ。
こう見えて俺結構忙しいんだぞ、飯の用意やら洗濯やらしないといけないし」
「ちょっ、それじゃ私が困るのよ!」
焦るように上条の手を掴む美琴。
さっきまでの余裕はどこへやら、顔を真っ赤にして必死に引き止める。
「なんでビリビリが困るんだよ。お前なら一人でも他のジャッジメントより良い仕事できるんじゃねえか」
「そ、そうじゃなくて」
実は美琴、ジャッジメントの手伝いを申し出たのは別の理由があった。
その理由とは単純明快、上条当麻と会う時間を増やすためだったり。
美琴は中学生、当麻は高校生。
学校が違えば当然下校時間も違う。
そうなれば当然片方が会いたくとも思い通りにならないことが多い。
だから黒子に話をつけて機会を作ったんだが、この展開は予想してなかった。
「とりあえず、アンタが帰ったら私が困るのよ!」
「何が困るんだよ、週一とかならともかくしょっちゅう訓練とかさせられたら俺の私生活に問題が出るんだよ」
そういわれると困る。
美琴には上条当麻を引き止める大義名分が存在しない。
このままでは彼はそのまま帰ってしまうだろう。
困りきった美琴は顔を真っ赤にしてひたすら引き止める。
「お願いだから、一緒にいてよ!」
「……ったく」
当麻悩む。
なぜ美琴がここまで自分を引き止めるのかいまいち理解できないが、それでもコイツがここまで必死になるのなら意味があるのだろう。
懸命な女性の願いを無碍に断るほど当麻は冷血漢ではない。
ここは折れるしかないとため息を深く深く吐く。
「仕方ない。けどあんまり忙しいようだったら本当にリタイアするからな」
「……ありがと」
この選択が当麻にとって悲惨なこととなった。
1ヶ月ほど訓練を受けた頃だろうか、二人とも黒子や他のジャッジメントの手伝いを任せられるようになった。
ジャッジメントになるのに9枚の契約書にサインする事やら13種類の適正試験を受けるやら4か月に及ぶ研修を受ける
などなど大変面倒くさい工程が必要なのだが、二人は手伝いな上にもともとのスペックが良かったので破格の待遇といえた。
『あんた、学業面最低レベルだったけどね』
『うっせー。なんで風紀守るのに連立方程式とかなきゃなんねえんだよ』
『そんなこと言ってるからいつまでも勉強苦手なのよ』
などなど仲良さげだった。
まあ、とりあえず美琴な有頂天極めり。ここ1ヶ月気分よかった。
しかし当麻と黒子はゲンナリしている。
黒子はいわずもがな美琴と当麻の関係にである。
当麻はというと、お手伝いの事だった。
「白井!なんで俺が盾になんなきゃいけないんだ!」
「そういうのに便利な能力だからですの。適材適所。んっん〜、良い言葉ですの」
白井黒子、上条当麻がサポートの時は積極的に能力者による問題に首を突っ込む。
美琴がサポーターの時は逆に巡回といった語り合う時間の多い仕事をしていた。
「だからって少しは俺にも安全な仕事を回したっていいじゃないですかー!」
「口よりも右手を動かしなさい」
今回はレベル3の能力者が銀行強盗を行った。その取り押さえが目的である。
二人はその事件にたまたま居合わせたのだが、黒子がジャッジメントであることに気づいた強盗は暴れだした。
強盗は『絶対等速』という能力だった。
効果の詳細は単純なもので、投げた物体はいかなる障害物に当たろうとも、投げた物体が壊れないかぎり等速直線運動をし続けるものだった。
この能力自体は悪くないのだが相手が悪かった。
「なんだよ!なんで能力が利かないんだてめぇ!」
「うっさい馬鹿!とっとと諦めやがれ!こっちだっていっぱいいっぱいなんだよ!」
等速直線運動をするのはいいが、投げた物体を当麻が触れた時点でそれもなくなる。
つまり彼にとってはただの投擲攻撃にしかならなかった。
「さっきからいてえんだよ!少しは自重しやがれ!」
やけくそに周りの物を投げてくるため当麻は普通に痛かった。
「はい、そこまでですの人質ももういない事ですし、投降なさってはどうですの?」
「あぁ!?いつのまに!?」
上条が強盗を引き付けている間にテレポートで片っ端から人質を転移させていた。
まあそんなこんなで二人は中々の仕事振りをしていたわけだった。
「植木鉢投げるとか反則だろ。受け止めても砂ぶちまけられたし、まだ口の中じゃりじゃりするぞ」
「怪我が無かっただけ御の字ですの」
「そりゃそうだけどさ、きつくなってきたな最近。生傷がたえないし」
「ほらウジウジしないで傷を見せなさい」
「いでででで!もうちょっと優しくしてください!」
「わがまま言わないで欲しいですの」
実のところ、黒子と当麻は以前とは比べ物にならないほど仲良くなっていた。
意地悪のつもりで当麻にはキツイ仕事をさせていたのだが、それが原因だったのだ。
実戦で危険な状況を潜り抜けているうちに二人には連帯感でも生まれたらしい。吊り橋効果か。
黒子はというと、美琴に関することでは譲れないのは変わらないが男らしい上条を認めてはいた。
「明日も俺が手伝うやつって白井だっけ?」
「ええ、ここ最近浮かれた方が多いようなので明日も多少は忙しいかもしれませんの」
「で、俺はまた囮兼盾役ですか。もう慣れたけど」
「いいではありませんの。女性を守るのは男性の本懐では?」
「まあ、女に守られる男よりはマシだと思うけど」
「あら頼もしい」
「なんか上手く乗せられてないか、俺」
「気のせいではありませんの」
「せめてごまかそうよ、白井」
そんなこんなで更に1ヶ月後の美琴の部屋
「なんっつーか。最近アイツと会ってないな〜」
御坂美琴はベッドの上で一人愚痴る。
研修していた時期は二日に1回は会っていたのだが、それが終わってからはめっきり会う機会が減った。
なまじ彼女が優秀すぎるため彼女は黒子の手伝い以外の日は大抵面倒な仕事を抱えた人のアシストをしている。
要するに一人にお手伝い2人は多いから大抵別けられるのだ。
正直こんなはずでは、と愚痴の一つも言いたくなるのは仕方ない。
同じく、同室にいる黒子は机に向かい日課の日記を書いていた。
結構な量なので一気に紹介する。
『☆月○日
お姉さまが私のお手伝いをしてくれるというので嬉しかったのですが、予想外の事態が発生。
なぜ類人猿もセットで付いてくることになっているのですの。こんなはずでは』
『☆月★日
お姉さまとあの殿方が楽しそうにトレーニングしていましたの。自分は仕事があるので混ざれない。
それにしてもあの男、思いのほか体力がありましたの。
これならば私の手伝いも頼めそうですわ』
『Φ月Ω日
二人が私の仕事を手伝っていただけるようになりましたの。
本日は当麻さんが私のサポーターでした。二人っきりとなったのは始めてでしたが中々面白い方ですの。
お姉さまの事が無ければ良き友人となれたかもしれませんの』
『Φ月¥日
今日は危なかった。昔遭遇した絶対等速のタイプの能力者が強盗をしていた。
どうも私は昔の件であの能力に苦手意識があったらしく、目の前に鉄球が来ているのに固まっていた。
しかし横から助けてくれたあの方のお陰でたすかりましたの。
あの時の彼は雄々しくて……いえ、だからどうというわけではなくて。
周りの人質に被害が出ないように立ち回った姿が凛々しくて……いえ、だからどうというわけではなくて』
『й月Я日
彼が傍にいるだけで胸が高鳴ってしまう。あの方がお姉さまと仲良くしている所を見ると胸のあたりがモヤモヤする。
いえ、これは以前どおりですが何か、質が違う気がしますの。いったいどうしてしまったのでしょうか』
『й月η日
授業中も仕事中もあの方の姿ばかり思い浮かべてしまう。
この感情に記憶がある、まさかわたくし……
まさかとは思いますが……これは、恋!?』
『д月Γ日
お兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお
兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄
さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さ
まお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さま
お兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さま
ああああああわたくしだけのお・に・い・さ・まーーーーー!!!』
翌日の黒子と上条ペア
「お兄さま!私と熱いベーゼを!」
「お前はいったい何を言っているんだ?」
前回あったときとキャラが全く変わった黒子に戸惑う当麻だった。
因みにこの日から上条には過激な任務が減った代わりに黒子と巡回の仕事が劇的に増えたらしい。
黒子フラグ、回収せずともオートで進行するものであった。
同日、美琴
「やってられるかーーーーー!こうなりゃ独断で動いてやるわよ!」
「待ちなさい、独断で動く前に目の前の仕事を終わらせましょう。
でなければ始末書になりますよ」
「こんなはずではー!」