「ん、ん〜……」  
上条当麻、とある夜の病室でノンレム睡眠。  
病院にいる理由は言わずもがな、先日のリンチの怪我によるものだ。  
その怪我も医者が良いせいかそれほどの痛みを覚えていない。  
おかげで外傷系の類で入院しているのに寝苦しいこともなく安眠していた。  
このまま朝までグッスリと思ったが、  
「か〜み〜や〜ん。土御門華麗に登場だぜい」  
いた。確かにいた。馬鹿が。  
扉をこっそり開けてはいってくる。  
「おやおや、怪我は軽くなさそうだがよく寝ているんだにゃ〜」  
土御門は上条を起こす気は無いらしい。  
こそこそと扉を閉め物音一つ立てずに上条の側まで到着。  
警戒心ゼロで安眠する上条をみてニヤリとほくそえむ土御門。  
「カミやん。フラグ回収の時が着たんだぜい」  
 
その日、上条は夢を見た。  
なんてことは無い、ただ何もない空間に自分は立っていて空から質問が来ただけだ。  
「カミやんが現在回収できるフラグは6つあるぜよ。今からそれを言うから好きなのを選ぶんだにゃ〜」  
夢の中だからか、イマイチ自分の意識が定かではない。いや、夢の中で意識あったらそれは凄いが。  
「ひと〜つ。『最初はツンデレ、しかしフラグ回収すればデレデレ。すっごいデレるよツンデレールガン御坂美琴』  
 ふた〜つ。『愛に目覚めればひたすらに尽くす淑女?パンダみたいな名前だ白井黒子』  
 み〜っつ。『初心純心に見えるが結構辛辣、デレた時が想像つかない。頭が花畑初春飾利』  
 よ〜っつ。『平凡。裏が無くひたすら普通の女の子。特にいじるところが無いぞ佐天涙子』」  
ここまで呼吸なし。  
さすがにきつい為思いっきり酸素を取り込む。  
「いつ〜つ。『奥手な美琴、積極的な黒子。二人合わせていただきます。お嬢様丼』  
 む〜っつ。『親友の仲は大切だ、ならばどちらも選べば万事解決天道地獄。初春アンド佐天の親友丼』  
 さあさ盛り上がってまいりました!」  
空からワケのわからない声がしているが、夢の中だと体が思うように動かせない。  
上条は薄ぼんやりな意識のまま棒立ちする。  
「さて、カミやんの目の前にには6つの選択肢がるぜい。好きなのを選びな」  
なんだか良くわからないが目の前の選択肢をとりあえず選ぶとしよう。  
そんな曖昧な気持ちのままフラグの前に立つ。  
「俺が選ぶのは――――――」  
 
「御坂美琴、か。まかせとけカミやん、俺が責任もって面倒みてやるぜい!」  
催眠誘導で上条の本心を聞き出した土御門は急ぎ足で病室の窓から飛び降りた。  
 
 
翌日。  
 
「じゃんっ。美琴さんがお見舞いにきてあげたわよん」  
時計を見ると3時半、本日は平日である。  
「おまえ、学校抜け出してきたのかよ」  
「そんなのアンタの知ったことじゃないでしょうが。それよりも私がお見舞いに来てあげたのよ?  
 もっと両手上げて喜ぶとかしてもいいんじゃない」  
「はいはい、うれしーなー。上条さん嬉しくて寝ちゃいそうだよオヤスミ、グランマ」  
「中学生にグランマ言うな」  
しょっぱなからテンションの高い御坂に上条は少し疲れていた。  
どうも病院にいると上条のテンションはそんなに上がらない。  
体は不便だし何か今日はあらゆる箇所が打撲骨折の疼痛がしている。  
同時に学校に行きたくとも今は無理なのだ。  
「はぁ、そろそろ薬飲む時間かな」  
片腕が使えないため腹筋だけの力で起き上がる。  
そのまま物置においているコップをとり水を汲みに行こうとするが。  
「私が汲んできてあげるわよ。お見舞い来て上げてるんだからそれぐらい頼りなさいよね」  
「ん、悪いな。助かる」  
そのまま上条のコップをひったくるとちょっと離れた箇所にある冷蔵庫を開きミネラルウォーターをとりだす。  
「どうせ水道水でも飲もうとしてたでしょ?だめよ、水もちゃんと気をつけないと」  
キャップをはずしコップに注ぐ。  
「ほら、どうぞ。薬は片腕で飲める?」  
「ああ、それくらいならできる。これでも数日の片腕生活で器用さは磨きがかかってますよ」  
「ふ〜ん。っていうかさ、今思ったんだけど」  
「なんだよ」  
「いや、打撲骨折系なのに粉薬ってどうなの?」  
「あ〜、それは俺も思ってた。けどあの先生、腕は一流らしいからこの薬にも何か凄い成分でもあるんだろ」  
何度も入院をくりかえす上条。すでに医者の腕は身をもって体感している。  
はじめこそ彼の渡す薬に疑問をもっていたりしてたが、今は完全に意味がある薬なのだと信用している。  
美琴も別に食って掛かるわけでもなく、そっか、と一言つぶやいてパイプイスに腰を置く。  
「あ〜、マッズイ。フルーツ味だったら最高なんだけどな」  
「良薬は口に苦し、でしょ。あんな甘い薬飲んでも効く気しないし」  
「まあ薬は苦くないと飲んだ気しないよな」  
空になったコップを棚において壁に背中を預ける。  
「どうだ、最近ジャッジメント行けてないが何か変わったことでもあったか」  
「別に、いつも通りよ。いつも通りに退屈なだけ」  
「退屈ねぇ。俺は仕事中は結構充実して悪くは無かったけどな、お前は違うのか」  
少し拗ねた様な態度の美琴に上条は質問する。  
しかし美琴は答えることも無くただため息を吐いただけだった。  
 
二人が談笑しているとふと扉が開いた。  
「おや、君は」  
「あ、こんにちは」  
「どうも、先生」  
「ああ、二人ともそのまま座ってていいよ。診断をしにきただけだから直に終わる」  
そのまま彼女から目をはずし上条の側に立つ。  
折れた腕のある左側の肩から下をなでる。  
「うん、骨に歪みが出ることも無く無事くっついているね」  
次に足や顔の傷跡を看る。  
「これも大丈夫だね。始めは頭をしこたま殴られてたからクモ膜下出血の可能性も心配してたが無事でよかった」  
満足げに頷く先生。  
患者が無事に癒えているのがわかって嬉しいのだろう、上条も悪い気はしない。  
「あの、あとどれくらいでコイツ退院できそうなんですか?」  
横から美琴が質問した。  
「そうだね。今のところあと半月ほどを目標に治療を行っているよ」  
「そうですか、あと半月もあるのか……長いなぁ」  
「……ふむ」  
彼女の態度に何か感づいたらしい。  
医者はそのまま彼女に振り向く。  
「ああ君、病院内では絶対に能力を使わないでね。この機関には電磁波に弱いものがあまりに多い。  
 手術器具、心電図計は当然として君らにはなじみが薄いだろうけどペースメーカー使用者に対する危険が大きい」  
ペースメーカーというのは心臓に対する電気刺激発生装置である。  
これは本当に電磁波に弱い。どのくらい弱いかというと、  
「アレは携帯電話を密着させるだけで故障する危険性がある。君の電撃なら一発だね」  
医者として他の患者を考えて美琴に厳重な注意をする。  
「わかりました。気をつけます」  
「うん。まあ君だから心配はしてないけどね。それじゃあ失礼するよ」  
カルテに何か文字を書くと立ち上がりドアに向かった。  
「ああそうだ、ひとつ言い忘れていた。君たち、あまり激しくしないように」  
「「は?」」  
「今は意味がわからなくていいよ。それじゃあ」  
何か意味ありげなことを言って医者は病室から出て行った。  
残された二人は疑問を浮かべた顔で互いに目を合わせていた。  
 
「―――でね、その生意気な子供がね……って、寝ちゃったか」  
あの後も会話を続けていた二人だったが、薬の副作用が効いてきたらしい。  
上条は数分前からウトウトしていた。  
「ほら、座ったまま寝ないの。ったく仕方ないわね」  
口は嫌そうだが内心は役得ラッキーといった具合だ。  
やさしい手つきで上条の体をずらして寝かせる。  
上条は半分夢の中らしく特に反応することも無く横になった。  
 
それから何分たっただろうか。美琴は何かをするわけでもなくただ椅子に座って上条の寝顔を眺めていた。  
「寝たっぽいわね」  
上条の息が深い物となったのを確認して美琴はつぶやいた。  
「これはただの愚痴だから、もし聞こえてても無視して」  
声をかけるが反応はない。  
「アンタさ、やっぱりジャッジメント辞めるべきだと思う」  
御坂は独白を始めた。  
彼女の顔は先ほどまでの明るいものではなく、何か追い詰められたようなものであり、  
普段の彼女の声質ではない。  
「以前だって、ただのレベル0なのに自分から問題事に巻き込まれにいって入院。  
 けどジャッジメントに入れば仲間もできる、だから入院するほどの怪我なんてしないって思ってた」  
手の上にあるストラップを思い切り握り締める。  
「けど、アンタはやっぱりアンタで。初春さんや佐天さん助けてまた入院。  
 本当に、怪我ばかりしちゃって。心配する私の身になれってのよ」  
僅かに、本当に僅かだが声が震えだした。  
「それに、アンタとジャッジメントに入ればアンタと同じ土俵に立てると思った。  
 けどそれも違った、結局アンタと私は違う仕事ばかりで傍にもいられない。  
 その怪我をした時だって、私がいたら無かったかもしれない」  
上条は特に反応することも無く、ただ呼吸音が無機質に部屋に響く。  
「結局ジャッジメントでもアンタを縛る事にはならなかった。全く、どうやればアンタを危険から遠ざけれるのやら」  
なんだかんだで、上条のことを彼女は心配していた。  
人のために無茶をする性格なのは彼女が良く知っている。  
彼女自身が彼の無茶によって命を救われたのだ。  
だからこそ、誰よりも彼の身を心配しているのだ。  
「アンタはね、御坂美琴の中で特別な存在なの。だからこそ、アンタからも私を特別な存在だと認識して欲しい。  
 けど、アンタは相変わらずまた誰かのために体を張って無茶をしてる。  
 だからジャッジメントに入れたのにそれも無駄。あらら、何もかわっちゃいない」  
ほとんど自嘲じみてきた。  
「アンタが危険から遠ざかることもなく、私がアンタの特別になることもなく。  
 だったら私はどうすればいいのよ。もうわかんなくなってきちゃった」  
彼を思うが故の行為、彼を想った故の行動。その両方に意味はなく。  
結果として彼はまた入院して、更には自分の好意もまるで進展なし。  
全くもって笑いそうだ。その空回り振りに。  
俯く美琴。しかし彼女は泣かない。  
泣くという事は諦めることと同義である、彼女はまだ諦めていない。  
ただ、どうすればいいか判らななくなっただけなのだ。  
今の自白はその不安が漏れただけなのだろう。  
ふと、上条の体が揺れた。  
「アンタ、もしかして起きて――――」  
「今から言うことは、ただの寝言だ。聞き流してくれ」  
上条は彼女に背を向けて寝転がったまま言葉を発する。  
「俺は、多分かわらないと思う。退院してもまた、そう長くない期間で入院するだろうな」  
美琴はとくに言うこともなく、ただ上条の背中を見つめる。  
「けどな、俺が入院するまでの事に意味はあるんだ。インデックスの記憶だって、  
 お前や御坂妹の人生だって、しまいにゃ世界だって守れたんだ。  
 それが俺の入院程度と引き換えに守れたんだ」  
 
美琴は彼に言い返したいことが沢山ある。  
けれどこれは彼の寝言なのだ、言い返すことができない。  
「俺はさ、今だってお前を助ける事ができてよかったと思ってる。  
 あの時、お前に親切を押し付けて電撃くらったけど、学園都市最強と戦って死に掛けたけど、  
 それでも今となってはそれが正しい選択だったと思う」  
上条の独白は続く。  
「だってさ、助けた奴が今じゃこれだけ俺を心配してくれてんだぜ。だからさ、俺は思うんだ」  
ここで上条は一拍間を置き、呟いた。  
「こんなに良い奴なお前の力になる事ができてよかったって……なんてな」  
さすがに照れたらしい、最後のほうは少し声が小さかったが確かに美琴の耳に届いた。  
その言葉に美琴は返す言葉もない。  
そうだ、コイツはそういう奴だった。  
ただ自分の選んだ選択を全うしているだけ。  
前が見えなくなりへたり込んだ人に手を差し伸べ続ける男。  
コイツはそういう人間だったのだ。  
「なによ、私馬鹿みたいじゃない」  
コイツはいつか言った。  
困ったのならば、立ち上がれなくなりそうなら俺を頼れと。自分はその言葉に救われた。  
けれど、コイツはまだ困っていない。  
なのに必死に手を差し伸べようとしている自分が酷く滑稽なようで。  
あまりにも馬鹿らしくて笑ってしまいそうになる。  
だが、何か肩の荷が下りた気がした。  
「そうか。うん、だったらもういいわ。私はもう遠慮しない」  
椅子から立ち上がり上条の方を掴む。  
「せい!」  
「うおわ!?」  
そのままマウントポジションをとり驚いている上条の目を見つめる。  
「私の独り言聞いてたんならわかったでしょ。私、アンタが好き。  
 アンタのためならなんだってできるし、なんだってしたい」  
真摯な瞳で見つめられて上条は言葉を返せない。  
「だから私は決めた。アンタが助けを求めず手をのばさないなら、私が下げてる手を引っ張る。  
 アンタが死んじゃわないように、私が引きずってやるわよ」  
それはつまり、助けを求めない人間に助けを押し付けるということであり。  
上条これにはたまらず噴出す。  
 
「っぷ、くくく。なんだそりゃ、親切の押し付けする気かよ。  
 っていうか告白のつもりかよそれで」  
「なによ、これでも精一杯の告白なのよ」  
精一杯の告白を笑われて顔を真っ赤にして怒る美琴。  
怒りと羞恥で能力を制御できなくなったのか、周りからビリビリと電撃の音がしている。  
「バカ、先生に電撃は出すなって言われただろうが」  
上条は組み伏せられたまま美琴の右手で頬に手を添える。  
すると途端に電気は消えた。  
「そんなんじゃ、俺以外といたら他の奴らに迷惑かけまくっちまうぞ」  
「それでいいわよ。私はアンタ以外の男には興味ないし」  
添えられた手を握り美琴は照れながらも答える。  
「そっか。それじゃあ俺が傍にいてやらないとな」  
添えた右手を一旦はずし、そのまま彼女の頭を自分の胸に引き寄せた。  
美琴も始めは驚いていたが、特に抵抗することも無く彼の胸の厚さを感じていた。  
「その、さ。それはつまり、えと。私と付き合ってくれるってこと?」  
「ああ、そうだな。こんな俺でよかったらな」  
「そ、そっか」  
嬉しさのあまり自制が効かなくなる。  
悶える気持ちは治まりが効かず、その気持ちは上条の胸に顔をこすることで発散させていた。  
 
それから何分たったか。  
ようやく落ち着きを取り戻した美琴は一歩踏みだそうとする。  
「つ、付き合う事になったんだからさ。やっぱり今まで通りの呼び方じゃ支障あるわよね。  
 アンタとかお前じゃなんか違う気がするし。うん、そうよね、きっとそう」  
テンパリながらも懸命に伝える美琴。  
「だからさ、私は今日からアンタのこと。と、とととと、当麻って呼ぶから!  
 それから当麻も私のこと名前で呼んで良いから!」  
「……美琴?」  
「うん!」  
熱に浮かされたように気だるげな声で名前を呼ばれて美琴は心が跳ねる。  
もう跳ねすぎて収まりつかん。  
美琴、大人の階段登る。君はまだシンデレラさ。  
「当麻、いいよね?」  
この『いいよね』とはキスしてもいいよね、である。  
エッちい事を考えてはいけない。彼女はまだ中学生。  
で、美琴のお願いを聞いた筈だが当麻から返答がない。  
まさか付き合い始めて数分なのにいきなりキスを求めて引かれたかと美琴は焦る。  
「当麻、ごめんっ。いきなりで引いたよね、お願いだから引かないで!」  
「ん〜?あ〜、キスですか。キスしましょ〜か〜」  
「……ん?」  
 
さっきから何か当麻の様子がおかしいことに気づく美琴。  
心なしか彼の心音も少し緩やかなような。  
自分はバクバクとうるさいくらいなのに。  
「ねえ、当麻?」  
胸から顔を離して彼の顔を確認すると。  
「ん〜……」  
寝ていた。何の悪気も無く、ただ無垢な子供のような顔で寝ていた。  
「どこから、どこから寝てたわけ?」  
まさか精一杯の告白のところからはないだろう。  
あの時は間違いなく起きていた。  
とすると、キスをねだったところからか。  
いや、まああそこは今更思い出されても恥ずかしいから構わないが。  
「まあ、今日はここまでかな。ん、明日から楽しみだな〜」  
名残惜しいが彼の胸から顔を離して帰り支度をする。  
あとは帰るだけとなったが、やはり名残惜しすぎる。  
「彼氏彼女ならこういうのもありよね」  
美琴は上条の前髪をかきあげて額にキスをした。  
「や、やっちゃった」  
誰も見ていないが、照れる美琴はそのまま顔を真っ赤にしてそのままダッシュで帰った。  
数秒後。  
「いや、実は起きてたんだけどな。おいこら土御門、カメラ撮ってんなよ」  
『気づかれてたか』  
備え付けのスピーカーから土御門の声がした。  
「まあな。ところで、どうやって美琴を焚き付けたんだ?」  
『寝ているところを耳元でちょこっと語って焦燥感をちょちょっと』  
「犯罪じゃねーか!」  
 
 
一ヵ月後  
「当麻、お待たせ!」  
「お待たせって、約束時間より10分はやいけどな」  
「それでも当麻を待たせちゃったからね。ほら、行こ?」  
街中で美琴は恥ずかしがりながらも彼の手を取った。  
羞恥はあるものの、以前のような焦りはなく。  
彼女を知るものが見たら、今の彼女はその誰の記憶にあるものより柔らかなものだろう。  
 
「お兄さまとお姉さまではないですの」  
「あら、お二人ともどうしたんですか?私も付いていきます」  
「当麻さんじゃないですかー。あそこでクレープ一緒に食べましょう!」  
デート先でアーメン。  
「こんなはずではーーー!」  
 
 

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