浜面は麦野との死闘のあと、半蔵と別れ、病院にいた。もちろん来た理由は滝壺の見舞いだ。
浜面が病室に入ると、滝壺は寝ていた。近付いて見ると、ふと目を覚ました。
彼女も浜面だと認識し、脱力感溢れる眼差しと、安堵に満ちた声を出す
「あ・・・はまづら・・・生きてたんだ・・・」
滝壺そんなことを言って、上半身を起こす
浜面は彼女の言葉にキョトンとするが、すぐに滝壺を睨んで
「なに言ってんだ、テメーが死にそうだったんだろ!少しは自分の心配をしろよ」
滝壺は浜面の言葉に目をパッと開く
そしてごめん、と一言。滝壺は浜面をもう一度見ると、耳をケガしていることに気付く
ダークマターにやられたのだろうかと思った瞬間、ハッと大事なことを思い出す
「そうだ。ダークマターは?」
浜面は軽く返す
「あぁ、あいつならなにもせずに消えた。抵抗できない格下はどうでもいいらしい」
滝壺はほっとため息をつき、浜面をみて
「そうなんだ・・・でも、よかった・・・はまづらが死ななくて・・・」
滝壺がさりげなく言った言葉に、浜面は顔を赤くして目をそらす
そんな浜面をみて滝壺はポカンとした顔をしながら聞く
「どうしたの?黙って・・・」
浜面はハッとしたような顔をして
「なんでもねえよ」
滝壺も深くは考えなかった
と、同時に辺りを見回す
「そう言えば麦野さんがいないね・・・ダークマターを追うために私を使うはずなのに・・・」
何気なく言われた言葉に浜面は胸が詰まる。麦野を(おそらく)殺したのは自分だからだ
滝壺は今度は不信そうに尋ねる
「はまづら?さっきからおかしいよ?」
浜面はどうしようか迷ったが、どうせわかることだと思い
「あ、あぁ・・・麦野なら死んだ・・・と思う」
滝壺はそのことに驚く
「えっ!?誰が殺したの!?ダークマター!?」
滝壺のあわてふためく声に浜面は少し驚く
「お前が取り乱すなんて珍しいな・・・」
滝壺もハッとしたように調子を戻して
「だって第4位だし・・・気にならない方がおかしいよ・・・」
これもどうせいつかはバレる。浜面はそう思い、覚悟を決める
「・・・・・・俺が殺した・・・」
一瞬、間が空く
滝壺はその意味が理解できない。どう考えても嘘で、何か隠し事をしているとしか考えられないのだ
「え?なに言って・・・嘘ならもっとわかりやすい・・・」
滝壺の言葉は最後まで続かなかった。浜面が遮ったからだ
「これが嘘をついてる顔に見えるのか?」
浜面は滝壺の顔をみる
滝壺は彼が嘘をついている様には見えない。だからこそ疑問に思う
「そんな・・・だって、はまづらはレベル0なんだよ?どうやったら第4位に勝てるの?」
浜面は目線を左下に落とす
「知らねーよ・・・死に物狂いで闘ったから・・・」
「で、でも・・・麦野さんはアイテムのリーダーで、はまづらが闘う理由なんてないよ?」
そう言われても理由が滝壺なのだから面と向かって言えるはずもない
それに殺した理由を彼女のせいにする訳にはいかないのだ
「俺には闘うだけの理由があった。それだけだ」
浜面は曖昧な答えを出すが、すかさず滝壺はきく
「麦野さんを殺すほどの?」
訊かれても浜面は黙ったままだ。
そんな浜面にしびれを切らした滝壺は核心へと迫る
「大体理由ってなに!?」浜面は黙ったままだったが、チッと舌打ちし、自分には隠し通す自信がないことに気付く。
そして、それは自分が言うべきことだと・・・。静かに口が動き出す
「これ以上体晶を使えば死ぬとわかってるのに、麦野はそれでも使わせようとしていた」
滝壺は目を見開く
「そんなの許せるはずないだろうが」
最後は叫びに近かった。
そんな言葉を聞いて、滝壺は全てを理解する。目の前が揺れる。言葉が紡げない。そんな状態になりながらも、声を震えさせて推測を確信へと変える
「はまづら・・・それって、私の・・・こと?」
浜面は否定しない
「じゃあ・・・はまづらが闘った理由って・・・私の・・・ため?」
無言を通していた浜面も、その言葉に顔を赤くする。そして今にも泣き出しそうな滝壺を見て
「か、借りを返しただけだ!別にそれ以上の理由なんかねえよ」
浜面は強がった理由を言ってしまう
そんなとき、滝壺は浜面の耳に傷ができていることに改めて意識を向ける
滝壺はまさかと思い、浜面の耳を指差していう
「あの・・・じゃあその耳の傷も?」
浜面は耳のほうに目を向け、
「あぁ・・・こいつと引き換えに麦野に勝ったんだ。安いもんだろ?ハハハ」
真実を話して楽になった浜面は笑いながらそう話す。そんな浜面をみて滝壺は目を潤ませながら
「はまづらのばか・・・私なんか捨てて逃げれば良かったのに・・・うぅ・・・」
浜面は、なに言ってんだこいつ、という顔をしながら
「馬鹿はお前だ!あの状況で逃げてたら俺は人間失格だっつーの!」
浜面は適当なことを言いつつ、一拍おいて
「まぁいいじゃねーか。お前は助かったんだろ?」
滝壺はそんな気楽な言葉に胸が痛む。そしてうつむきながら
「はまづらの・・・ばか・・・」
続けて小さく、小さく、照れながら
「ありがとう・・・」
と言った。しかしとうの浜面はあまり意識していなかった
「ん?今なんて?」
滝壺はピクッと動いた。そして顔がみるみる赤くなっていく
「はまづらのバカッ!!!」
そして、病室は夕暮れを迎えていった・・・