夏の気配がだんだんと色濃くなってきた頃、星の瞬く夜の学園都市を、小さな笹の枝を持った少女が走る。
路地の角を曲がるとき、勢い余って人にぶつかってしまう。
「わ、ゴメンナサ……っ! あなたは!!」
「ちィっ!」
ぶつかられた方の少年は慌てて去ろうとするが、少女が小さな体を張って引き止める。
「待って、ってミサカはミサカはあなたの腕に縋り付いてお願いしてみる。半年ぶりくらいだね、ってミサカはミサカは微笑んでみたり」
「……人違いだろォ」
「髪、染めたんだね、でもミサカが間違えるはずないもん、ってミサカはミサカはあなたの綺麗な紅い瞳を見つめながらびしっと言ってみたり」
「……」
「ねぇ、今日は何の日か知ってる? ってミサカはミサカは見えないけど天の川を笹の葉っぱで差しながら訊いてみたり」
「……七夕、かァ?」
「そう、織姫と彦星が一年に一回だけ会える日なんだって、ってミサカはミサカはさっき聞いたばっかりの知識を披露してみたり。あとあと短冊にお願いを書いて笹にぶらさげとくんだよ、ってミサカはミサカはホンモノを見せびらかしてみる」
「あァ、そォだな……」
「でもね、ミサカのお願いはもう叶っちゃった、ってミサカはミサカは報告してみたり」
「……」
「ね、来年もミサカのお願い叶えてくれるよね、ってミサカはミサカはあなたが来年まで忘れないようにミサカの笹と短冊を渡してみる」
二人の約束だよ、と少女は悪戯っぽく笑って、今来た道を走っていってしまった。
短冊は二枚。一枚は白紙、もう一枚は――、
「あの人に会えますように、か……」
少年もいずこか、学園都市の闇へと消えていった。
心の中で、白紙の短冊に同じ願いを描いて。
「どこ行ってたじゃんよ」
「そうよ、急に走り出したりして、心配したじゃない」
「あれ、カエル先生からもらった笹と短冊はどうしたじゃん?」
「彦星にあげてきたの、ってミサカはミサカは夜空を見上げながら呟いてみる」
見えない彼女の彦星を、そこに見つけようとするように。