二人と別れてからコーナーの入り口で待つまでの約三十分、姫神は服の密林から出てくる当麻と美琴の姿を見つけた。  
寄りかかっていた柱から体を離し、「こっち」と二人を呼ぶ。  
「──う、うっさいわね。たまたまだったのよ今日は」  
「そりゃあまた頻度の高いたまたまなこった。──おお、そっちか」  
姫神の姿を認めた当麻と美琴が並んで歩いてくる。  
当麻の右手──何人もの命と、敵までも救った『幻想殺し』は───今ではただの荷物持ちだ。  
中身は見ずとも、おそらく二人で選んだ服が入っているだろう。  
「遅くなってゴメンな。携帯で連絡してから随分経っちまったし、待っただろ」  
「大丈夫。ここに来たのはほんの少し前」  
「ならよかった。 いやぁーコイツが選ぶ服をいちいち着るもんだから無駄に時間喰っちまってな」  
「そっ、そりゃ肌触りとかあるでしょ。 そういう細かい所が大切なのよ」  
「どうだかなー単にお腹周りが気になる年頃だったり」  
なんだとビリビリィ!とやっぱりいつもの流れになった。  
 
「………」  
傍でグーパンチ時々雷な美琴の様子を見ている姫神には分かる。  
何だかほくほくしてる。  
というかさっきから微妙に口元が緩んでる。  
(……別に。大したことではないけど)  
ちなみに、姫神の『ほんの少し』というのは二十五分くらいのことである。  
一人になった後、何故かあっさりと服を決めてすぐにここに来た。  
『十分くらいで終わるとから、先に終わったら少しだけ待っててくれ』  
と伝えられ、結局倍以上の時間を待ったことには決して怒ってはいない、決して。  
 
 
「そろそろ昼前だし、どっかそのへんにでも食いに行くか」  
いつの間にか当麻は携帯を取り出しており、液晶画面を見てそう言った。。  
つられて姫神も服を入れた袋を左手に持ち替え、携帯(使いすぎはダメなのですよー?の御達し)を取り出す。  
昼の一時過ぎ。 確かに腹も気になる時間だ。  
「そうね、アタシもさっきから歩き回っててお腹減ってたし」  
「とか言って馬鹿食いするなよ? せっかくサイズ合わしてたのにどっかのバカみたいにバカバカ食ってたら  
せっかく買った服のボタンがプチンとアッハッハってごめんなさいごめんなさいプチンってキレないでください電撃はもっと駄目ーッ!!」  
当麻の生命線がプチンと切れそうになっている横で、姫神は「んー」と午前に見た案内板を思い出していた。  
「確か。一階に外食店系が集中してたと思う」  
「そ、そうか。 んじゃ降りてみるか」  
ようやく防衛戦を果たした当麻が言う。  
「あーもうこんにゃろうなんで当たらないのよ……」  
殲滅戦に失敗した美琴が続ける。  
「そういやどこに入るのよ。 やっぱファミレス? ハンバーガーでもいいけど」  
その提案に、当麻は何故か姫神の顔をチラッと見てから首を振って、  
「いや、別のにしよう」  
「? どうしてよ」  
少しムッとなった美琴が聞き返す。  
「あー……姫神はちょっと前に大怪我しててな。  
退院はしてるけど、病み上がりだしあんまり重いのはよくないから、な?」  
最後は本人に確認するかのように言った。  
対して姫神は、当麻の思いがけない言葉に少しキョトンとしている。  
「でも。もう一週間前のことだし。そんなに気を使わなくてもいいのに」  
遠慮しがちな姫神に、当麻が手を振って答える。  
「いいっていいって気にすんな。もっと自分の体を大切にしろよ?」  
彼の普段の行動を見ている者なら、十中八九「お前が言うかッ」と答えるだろう。  
だが彼女は他に何も言わず小さく、  
「……ありがとう」  
「あーだから気にするんじゃありません。 それよか行きたい店がありゃ遠慮せず言ったらいいぞ」  
「うん」  
やや俯きながら姫神が肯定する。 その表情は、少しだけ綻んでいた。。  
 
「──ってなワケで御坂、それでいいよな?」  
「へっ!? あっ、そ、そうね……」  
突然話を振られた美琴が、少し慌てたように答える。  
「そんじゃ一階に降りよう。こっちは上りだから下りは反対側だな」  
目の前のエスカレーターの周りの通路に沿うように当麻が歩き始め、それに習い姫神が後に行く。  
やや反応が遅れた美琴は、二人の後に続く形となった。  
 
「──そういや、───の店に──?」 「屋外の──。──と思うの」  
「ほほう、──それも──」 「む。確かに───、──だけじゃ──」  
「……」  
眼前での会話は、不可視のほんわかシールドによってほぼ進入不可能である。  
堅固な壁の外で美琴は一人ムスッとした顔をしているしかなかった。  
(べぇーつーに、体調の心配は良い事だしね)  
今の美琴の中に、怒りやそれに準ずるような感情はない。  
(……悪いことじゃないけど)  
例えるなら、とある教師が教え子達と一緒に遊園地のローラーコースターに乗ろうとして、  
すみませんが小学五年生までの方は保護者同伴で……と一般社会の先入観を悲観したり、  
申し訳ございませんが身長140cm未満の方は……と5cmの距離の偉大さに打ちひしがれたり、  
更にはベンチで一人アイス片手に正座している所に、教え子達が笑いながら手を振っていたことに──  
───要するに拗ねている。  
「………ん?」  
不意に感じる違和感。  
発信源は、前を歩く二人。  
「……」  
ゆっくりと瞼を閉じ、数十秒前までの光景を思い浮かべる。  
それを瞼に焼き付けながら、またもゆっくりと眼を開く。  
「……………………………………ほーおぉ」  
圧縮された20cmの空間に対して、確かな感情があった。  
 
 
空になっている左手と、姫神の右手に握られている荷物を見て当麻は思う。  
(──ここはやっぱり持つべき……だよな、うん)  
一人分だけを持つというのは何となく不公平な気がする。  
姫神の分を持つ義務はなかったのだが、先程の発言もあった手前なので、結局  
「あー姫神、荷物持ってやるよ。丁度左腕空いてるし」  
と、当麻が左手を差し伸べ、「ほれ」っと姫神の右手の買い物袋を掴んだ。  
突然の行動に驚いた姫神が一瞬硬直して、  
「別に。これくらいは自分でする」  
「まーまー、一つも二つも同じだし」  
「いいの。自分で持つ」  
何故か頑なに拒否を示す。 多分何回繰り返しても同じ結果かもしれない。  
(変なところで頑固なんだよなこいつ。 ……おお?)  
そこで、とある考えを思いついた当麻は、ニヤァと口の端を吊り上げた。  
ふっふっふ、ととても良いとは言えない笑いを作る。 というかむしろ邪悪だ。  
視線の先は、二人の境界。  
「……? どうしたの」  
当麻の様子に疑問を抱いたのか、姫神が問う。  
「いやーこれはアレですなぁ」  
「アレって。 何」  
聞き返されて、当麻は自分の左手と姫神の右手によって宙に浮く袋を見つめながら、  
 
「周りから見ると……誤解を生む景色だったり?」  
 
瞬間、ババッ!と姫神が弾かれる様に手を離す。  
「っしょっと」と袋を持ち直す横で、姫神は当麻に分かる程度に赤くなった。  
明らか不意打ちを喰らった様子を見て、してやったりとでも言うような顔をする。  
「……。」  
「睨んだって無駄ですよーっだ! さてさて行きますかい」  
少しだけ複雑な表情になっている姫神を、嘲笑うかのようにスタスタと歩いていく。  
(大覇星祭の時もそうだけど、気にしてないようで気にしてるタイプだからなー)  
なっはっはーと闊歩する当麻の後ろを、姫神と美琴が黙って付いてくる。  
ガキ大将にでもなったかのように、二人を先導していく。  
そんな時  
 
──パチィッ  
 
「ん」  
不意に、何かが聞こえたような気がして辺りを見回すが、特に何も変わったことはなかった。  
(ま、気のせいか)  
当麻は特に気に留める事もなく、再び歩を進めた。  
 
 
「──チーズケーキとチョコレートケーキ、ご注文は以上で宜しいでしょうか?」  
「あーすんません……まだか御坂」  
「あ、あとちょっと」  
美琴は小さく唸りながら目を細めメニューから目を離さない。  
周りの客の声とお冷の氷の音が、より時の流れを遅く感じさせていた。  
 
三人が訪れたのは、正面入り口の反対側にある控えめなオープンカフェだ。  
パリをイメージしたようなお洒落な店で、オープンテラスには程よいくらいに陽光が射している。  
加えて学生でも食べやすい値段とメニューの豊富さがあり、小さいながらも人気がありそうなカフェだった。  
「………えーっと」  
ケーキだけでも40種を超えるメニューを見ながら、美琴は思考する。  
(……苺タルト……子供っぽい………チーズケーキ……被ってる………イカ墨ケーキ……合うんかいッ)  
既にメニューに目を通し始めて三順目を経過している。 が、結論には至らない。  
「決まんねーんなら次の追加で頼むぞ? それでいいか?」  
どこかデジャヴを感じた当麻が腕を組みながらそう言った。  
「あ、ちょっ! そのっ」  
──ええい何でもいいからとにかく!  
名前さえちゃんと確認せずに、ザーッと上から下へフードメニュー欄を"眺める"のではなく"流す"。  
その時、美琴の目にある一つの料理名が飛び込んできて──  
 
「ほ、ホットドックッ!」  
 
──躊躇えばよかった。  
「ホットドック、ですね。以上で宜しいですか?」  
ウェイトレスが少し慌てたように伝票にペンを走らせる。  
「あっ!? ……はい」  
諦めと後悔を半々ずつ胸に溜めて虚しそうに美琴が答える。 というか取り消した方が後で後悔するだろう。  
「いつからホットドック愛好家になられたんで? それともアレか、御坂センセーはホットドックを守ろうの会常盤台中支部長なんすか?」  
「うるさい。こんなもん腹が膨れりゃなんでもいいでしょうがッ!」  
わーますます誰かさんに似てきてるー、と当麻が呆れたように首を振った。  
 
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を姫神がぼんやりと眺めている内に、ウェイトレスが料理を持ってきた。  
三人の目の前に綺麗に並べ終えると、ごゆっくりと伝票を置いて静かに歩いていく。  
「さーて食べるかー、いただきますっと」  
流石に高校生(+α)が揃って『いただきます』とはいかないものの、それぞれがフォークやら素手やらで手を付けていった。  
「昼下がりのお洒落なオープンテラス。 と、そこへ突然現れた妖怪『一人だけ料理鷲掴み』」  
「マヂで殺ふわよ」  
「あーはいはい頬張る美琴たん萌すいませんすいませんもう言いませんところで姫神はどうしてチョコケーキにキャロットジュースなの!」  
「逸らすなっ!」  
「チョコレートと人参。共に貧血防止やスタミナ向上効果。さらに増血作用があったり」  
コップを片手に、姫神が淡々と説明する。  
「あ、何だそういう事か」  
対して当麻は、自分の考えとまるっきり違っていたような反応を見せる。  
「? 君は何を想像してたの」  
「へ? いやーてっきりこの前テレビでやってた美肌かと、もしくはただの嗜好」  
「……怒る方にする」  
とりあえずじとーっと睨んでおいた。  
 
 
「──ほーほー、成る程」  
「それとカフェでよく飲むコーヒー。 実は鉄分吸収阻害効果がある」  
「へー。自分で詳しい言うだけのことはあるじゃねーか」  
姫神による豆知識披露コーナー(コーヒーなだけに、と突っ込んだら更に三割増しくらい睨まれた)を聞きながら食事を進める。  
パッ見無表情でも、当麻にしてみれば話をする姫神が誇らしそうにしていることくらいは分かった。  
おそらく、姫神秋沙という人物にもう少し連射機能を付けたトークがあれば『えっへん』とか『フッ』とか言ってただろう。無表情で。  
そんな姫神もやはり友人との食事が楽しいのか、いつもよりもちょっぴり楽しそうに見える。  
「……」  
そんな中黙々ともぐもぐホットドックを食べている美琴は思う。 またかこの野郎。  
「ふー食ったぜ食ったよ食いました、っとごちそーさん」  
カチャリとフォークを皿に置いて静かに当麻が両手を合わせた。  
男の当麻にとっては満腹とは言いがたい食事だが、空腹を解消するくらいにはなったようだ  
一方姫神は話をすることに夢中だったのか、まだ四割ほどケーキが皿に残っている。  
会話に参加していなかった美琴も、思ったより大きいサイズのホットドックを三分の一ほどを残して紅茶を飲んでいた。  
「あー……ちょっといいか?」  
呼びかけに、二人がそれぞれ当麻に焦点を当てる。  
「ちょっくら夕食の食材を買ってくる。 ここに来る途中に食料品店あったろ、あそこでな」   
最近色々と忙しかったため、上条家の食物は確実に減少している。  
せめて今日の夕食の食材を買いに行かなければ確実に死人が一名出るだろう。  
(アイツが餓死するかオレが食われるかの死活問題だよな……)  
その提案に、美琴が何故か少し考えた後、  
「あーはいはい行っといで。もう少し掛かりそうだし」  
と、手をひらひらと振って答えた。  
「そうか。んじゃ行って来る」  
「いってらっしゃい」  
さりげなく手を振る姫神に返した後、席を離れ再びデパートの中に入っていった。  
 
かくして、三人は二人となる。  
 
 
『あらあらーん?何でしょうねぇ今のやり取り。 まるで会社に出勤する殿方を玄関先まで送り出すみたいなぁ?  
  ねぇアナター、今晩は早く帰ってきてねー……ですの、ぷぷっ!』  
多分美琴の同室の後輩が見ればこう言ってただろう。 実際はもっと酷いかも知れない。  
「どうしたの?」  
当麻が消えた方向を睨みつけている美琴に、姫神が首を傾げた。  
「へっ? あっ、いや、別になんでもないんだけど」  
「そう」  
微妙に素っ気無く返して、そのまま手に持っていたジュースに口をする。  
腹八分目で収まるかどうか分からないホットドックを前に、美琴も食事を再開させた。  
「あー……やっぱりあそこのホットドックの方が美味しいわね。 まぁ値段が四倍くらい違うからしかたないけど」  
「御坂さん。意外とお嬢様?」  
「え……っとまぁ、アイツよりは」  
「ふむ」  
言って、姫神は一口分に切ったケーキを口に運ぶ。  
『意外』という言葉が少々引っかかったが、何も言わないことにした。  
 
 
「……こほん。……」  
「……」  
暫しの間、人の口から出る音はなくなった。  
聞こえるのは、食器が擦れる音と、遠くから聞こえる笑い声。  
それと、サァッと二人の触れ幅の違う髪を静かに揺らす風だけだ。  
「……ふう」  
「………」  
カチャカチャ、とフォークでケーキを口に運ぶ姫神。 無言で。  
カプリ、とパンと具とをバランスよく食べている美琴。 無言で。  
チチチ、と群れを成して空を飛ぶ小鳥達。 とても元気そうに。  
仮にここが、添水鳴り響く長閑な日本庭園を茶室から眺めているという情景なら全く違和感はないだろう。むしろ似合う。  
だが、今周りに溢れているのは雑談や笑い声である。  
見方によっては悠然とも一触即発とも言えるような雰囲気で、二人は食事を進めている。  
「……」  
「……」  
程よい昼下がりの陽光が、美琴の肌を撫でている。  
遠くのから、店員がお客を呼び込む声がする。  
風に揺られた長い髪を、姫神が緩やかに掻き上げる。  
 
時計の針は、丁度二時。  
 
 
「ハイハイハイちょっとそこの元気なさそうな人ッ! 『マムシハンバーグ』が今人気だよっ、試食でもしていきなッ!」  
あーこういう人どこにでもいるよなー、とか考えながら当麻は安売りの鶏肉を漁っていた。   
年齢と覇気からして大のつくベテランだろう、今も貧相な高校生を捕まえているところだった。 ご愁傷様。  
(それにしても)  
値段と量を瞬時に見分けていきながら、当麻は思考する。  
(どうなってんだろなー、あの二人)  
その中から手に取った一パックを買い物カゴに入れて、次なる野菜コーナーへと向かう。  
(……まぁ美琴は結構人がいいし、姫神も人付き合いは苦手でもないだろ)  
ふと前を見ると、小さな子供が二十本ほどの缶コーヒーをカゴに入れて走っていく姿が見える。飲むんだろうか?  
(女同士だし、話に華が咲いてるだろ……アイツが馬鹿やらない限り)  
途中、お得な値段で置いてあった食パンをインデックス用に二、三袋カゴに入れる、  
そしてそのまま道なりに進もうと足を出した時、  
 
チリンチリーン。と鐘を鳴らすような音が聞こえて、  
「店内のお客様各位に申し上げます! 只今より三十分間のタイムセールを行います! 対象商品は鳥のもも肉、豚ひき肉、さらに──」  
 
大急ぎで来た道を戻っていった。  
 
 
 
ようやく食べ終わった。  
空になった皿を見て、御坂美琴は静かに溜息をつく。  
紅茶でしっかりと胃に流し込んで、テーブルの上のおしぼりを手に取る。  
そして  
「……ちょっといい?姫神さん」  
ゆっくりと口を切った。  
その呼びかけに、チョコレートケーキを味わっていた姫神がこちらの方を見て、  
「どうぞ」  
しっかりと答える。  
美琴は、頭の中で自分が質問する内容を何度も確認して、  
「その……アイツとは、ただのクラスメートなの?」  
解釈次第では、どうとでも取れるような質問をぶつける。 もちろんワザと。  
対して姫神は少しばかりキョトンとしている。 おそらく質問の意味がよく分からなかったのだろう。  
ようやくその意味が分かると、特に反応を見せることもなく、  
「ただの。と言えばそうかもしれないけど。違うとも言えばそうなるかも」  
落ち着いた様子で曖昧に返す。 無論故意に。  
その反応に美琴は「ふーん」とだけ答えて、紅茶を飲む。  
(ってことは、やっぱりアタシと同じようなもんね……)  
どのように同じなのかはあえて避けるが、おそらく当たっている。  
「それじゃあ」  
今度はこちらから、とでもいう風に姫神が口を開いて、  
 
「あなたは。上条君のガールフレンド?」  
 
危うく紅茶を吹きかけた。  
 
どうやら紅茶が横道に逸れたのか、目の前の美琴は涙目で少し赤くなりながらけほけほと咽返っている。  
(……まぁ。そうだとは思ってたけど)  
分かり易すぎる。  
誰がどう見ても慌てていることくらい分かるだろう、とある不幸な少年を除いて。  
『私が聞いたのは単なる女友達って意味なんだよっ!』と記憶の中で銀髪シスターの言葉が繰り返される。  
因みにその少女から「あいさとか以外にあんまり当麻のガールフレンドに会った事ないかも」言われ硬直したのはまた別のお話。  
「けほっ……はぁッ、ふぅ……」  
ようやく落ち着いた美琴が、息を整え持ったままだったカップをテーブルに置く。  
「……そういえばあん時のシスターもそっちの意味で使ってたわね」  
「別に深い意味はないの。 友達なのかどうか聞いただけ」  
「いや、そっ、ただの……と、友達よ」  
奥歯どころか口腔全部に物が挟まったような言い方である。  
少し面白くて滲み出てきそうな微笑みを抑えつつ、あくまで平然を装う。  
(あの子もそうだけど。中学生にまでとは。 しかも)  
今美琴の着ている制服を見れば、ほとんどの学生が無言のプレッシャーを受けるだろう。  
プリッツスカートに半袖のブラウスと袖なしセーター、そしてその『常盤台中学』の校章を見れば、  
「……?」  
不意に、姫神の頭に何かが引っかかる。  
「? 顔に何か?」  
いつの間にか顔を凝視していたらしい。 美琴が自分の頬を不思議そうに撫でる。  
「……もしかして」  
「……もしかして?」  
「前にどこかで会った?」  
「へっ? アタシは今日始めて会ったんだけど」  
「……ごめん。見間違えだったみたい」  
首を振って、何でもないよ、と答えた。  
 
 
とある病室で、やれやれ、という溜息が漏れる。  
「ん…あっ、当麻さんそこは…、とミサカは微力な抵抗を…ぅん……すぅ……」  
「……医者としては平常な夢を見て欲しいんだけどね」  
 
 
とりあえず一杯食わされた。  
何とも言えない気持ちになったのでとりあえず紅茶をもう一杯頼んでおいた。  
(アイツと同級生だから忘れてたけど……年上なのよね一応)  
問題はそこである。  
上条当麻は自分の事を、『女友達』というより『(悪)友達』の方が多い割合で扱っている。  
しかし姫神に対するそれは、友達はもちろん女性意識が高い。  
仲の良いと言えば確かインデックスと呼ばれていたシスターがいたが、何となく扱いが小動物的なので今は無視。  
「むぅ……」  
改めて両者のスペックを比較してみる。  
姫神が着ているのは、少しフワッとした白のブラウスと青っぽいシルクのギャザースカート、  
そしてその上からは紺のガーディガンを羽織っている。 どこか当麻の母親に似ているような服装だ。  
しかし、向こうが『貴族の令嬢』という形容なら、姫神は『温和な姉』と言ったところか。  
どこかぼんやりとした態度がなければ、麗らかとも言える容貌に長い黒髪。  
今どちらが女性らしいといえば、二対八くらいの割合で票が集まるだろう。  
(くっそー……せめて当たり障りない服を着とくんだった……)  
昨夜、数少ない私服の中から散々悩みぬいた末の結果で、  
下手に新品やら凝ったのを選ぶと何となく狙った感がしそうなのである。  
しかし、そこまで考えていて今買った服を着ようという考えに至らなかったのが不思議だなぁ。(他人事)  
 
「ま、まぁ友達と言っても? 一緒に登下校したりたまに食事したりするくらいだけどね」  
とりあえず自分のレベル引き上げを狙ってみるが、発想が既に小学生レベルだった。  
対して姫神は、「私も。そこまで仲が良いわけじゃないけど」とぼんやりしながら、  
「強いて言えば。上条君から遊びに誘われる程度だし」  
「へっ、ぇ……そうなの、そう」  
美琴的判定負け、ちょっと凹んだ。  
 
「……にしてもアイツ性格はホント困ったもんよね」  
「それには。大いに同意する」  
どうやら姫神の方も共通認識を持っていたらしい、こくこくと肯定している。  
「不幸不幸言ってる割に自分から首突っ込むし」  
「しかも。結構な頻度で」」  
「女の子のためなら命張るようなよく分からん熱血野郎だし」  
「毎回。ボロボロで」  
「ま、前もアタシを、何時何処で何度でも、たっ、助けてやるとか、ぃったり……」  
「うん。そういうことを。誰にでも言う人だし」  
「なっ……っ、でしょうね」  
さり気なく作戦失敗。 むしろこっちにダメージ。  
(……やっぱり誰にでも手ぇ出してんのかあの馬鹿は……!)  
パチッ、パチッと音をさせればさり気なさも何もないのだが、冷静に紅茶を飲む様子を見せる。  
「でも。そのどれか一つが欠けても。上条当麻という人はないだろうし」  
不意に、姫神がそんな事を言った。  
「ま、まぁ確かに、たまーに良いとこもあるんだけどさ、たまに」  
「うん。彼の周りに人が集まるのは。そういう理由だと思う。 それに」  
それに? と美琴が聞き返すと、姫神はよく見ないと分からない程度に顔を赤く染めて、  
 
「ナイトパレードに誘ってくれた時は。私も嬉しかった」  
 
みさかみこと は 300ポイント の ダメージ を うけた!  
 
 
とある昼下がりのオープンカフェに、動揺感が走る。  
 
───だ、この威圧感──ちょっと、あそこの─女───まさか、アレは…?──前に座ってる──誰──?  
──ベル5?───何かイベントなのかも───し怒ってないか──と、ミサカはミサ──  
 
それぞれが何かしらの違和感や威圧感、好奇心により、喧騒が生まれた。  
オープンカフェの前に、即席の人だかりが出来上がる。  
彼らの目線の先にいるのは、二人の少女。  
一人は、二皿目のチョコレートケーキに手をつけていて、  
一人は、三杯目の紅茶を緩やかに飲んでいる。  
どちらも微笑みながら、穏やかな談笑を交わしている──表面上は。  
 
──何か、バチバチって音──すみませーん、コーヒー───今細かく光ったぞ──だから前の人誰──  
───あれ、携帯が──ェ繋いでる時に急に止まるンじゃ──怖ぇ……──っさとイくぞ──  
 
紅茶を緩やかに飲んでいる少女──御坂美琴からは、少なくとも抑え切れてない威圧感と電撃が漏れだしている。  
対して目の前に座る少女──姫神秋沙は、幾つかの過去の経験によりこれくらいは何ともない、寧ろ少し楽しそうだった。  
 
「──、───」 「───。─────」  
 
人ごみからは会話はよく聞き取れないが、一歩近づくことに尋常ではないプレッシャーが彼らに襲い掛かるのでこれ以上の接近を断念した。  
 
「──……───、──?」 「──。─────。───。」 「……───?」 「─────。──」 「! ……───」  
 
ズオオオォッ!とまた一段階重圧感が増したため、彼らはもう一歩下がることにした。  
 
 
 
お気楽な鼻歌を混じりに、当麻は二人を待たせているカフェへと向かう。  
(いやーイイ買い物だったなー。 ここ二、三ヶ月で一番お買い得商品だったぜい)  
ふんふふーん♪ と軽快なリズムを取りながら、デパート反対側入り口までやってきた。  
「………?」  
カフェの周りに、何やら人が集まっているような気がする。  
(この時間から混む店なのか? だとしたらラッキーだったな)  
そんな事を考えながらやって来て、あーちょっとごめんよーと言いながら人ごみをかき分けようと、  
その脚が、カフェへと一歩近づいた瞬間、  
 
 
ズンッ、と凶悪な重圧が当麻の体に圧し掛かった。  
 
 
「なっ……!」  
───んだよこりゃ!?  
頭に、肩に、腕に、足に、毛髪の一本一本にまで伝わる威圧感。  
踏み出した足は硬直し、四肢で胴を支えるだけで精一杯だ。  
不意に体が呼び覚ました、アドリア海での一戦。  
ローマ正教の司祭───絵に描いたような原理主義者ビアージオから降り注いだ、あの十字架。  
それに劣らぬ物理的精神的プレッシャーが、当麻の体に襲い掛かっている。  
(まさ、か……ま、じゅつし、か……!?)  
ぞくっ、と背中に悪寒が走る。  
床に落ちた袋がガサッと音をたてる。 震えはしないものの、足が麻痺していた。  
だが、  
(……冗談じゃねぇぞ)  
上条当麻はある魔術師に誓った。 御坂美琴を必ず守る、と。  
上条当麻は自分自身を悔やんだ。 もう姫神秋沙を傷つけない、と。  
二つの思いが、壊されるかもしれない。  
(そんなのは……もう御免だ……!)  
震える脚を、奮える心で止め。  
壊そうとする意思を、殺そうとする意志で止め。  
上条当麻は、重圧の中心へと大きく踏み出す。  
「御坂ぁ! 姫神っ! 大丈夫……」  
やがて、視界に入った美琴と姫神の微笑み合う姿に安堵し─────  
 
 
───発信源が分かると、ゴロゴロゴローッ!と盛大に転がっていった。  
 

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