ここは学園都市にあるとある高校の一年七組の教室。  
 ただ今の時間は昼休みの真っ最中である。  
 弁当持参の生徒達がそれそれに場所を確保して食事をし、食事が終った生徒達は生徒達で別の輪を作ってとりとめも無い話に花を咲かせている。  
 そんな怠惰な時間に似つかわしく無い大きな音が教室内に響いたのはその時だった。  
 その音を一番身近で聞いた、この輪の中心になっている席の主、黒髪の少年上条当麻と、青い髪に耳に光るピアスがトレードマークの青髪ピアス、金髪サングラスアロハシャツと言うおよそ学生らしからぬ出で立ちの土御門元春は、それぞれに表情を凍りつかせた。  
「三バカども。貴様達今何と言ったのかしら?」  
 そう静かに言ったのは、このクラスの委員長である吹寄制理だ。  
 因みに先ほどの音は、吹寄が上条の机を両手で思い切り叩いた為であった。  
「え……あ……何とと言われてもやねぇ……」  
 青髪ピアスが有るか無しかの細い目を土御門に向けると、  
「あ……、あははは……吹寄さん? 一体何の話を指して言ってるのか判らないんだにゃー」  
 土御門が口元を引き攣らせながら必死で笑顔を作る。  
 上条に至っては椅子の上で真一文字に口を結んで、俺はここにはいません、ここにいるのは置物か何かです的な空気をかもし出していた。  
「そう。私の口から言わせたい訳ね」  
 吹寄は先程よりも数段低い声でそう言うと3人の顔を睨み付ける。  
 すると、その様子に三バカ(デルタフォース) の顔に隠しようの無い悲壮な影が落ちた。  
 そんな3人を前に吹寄はひとつ溜息をつくと、机の上についていた両手を挙げるとその手を組んで大きく背伸びをした。  
「さっき何と言ってたかしら――そう、私が残念だとか勿体無いとか言ってたように聞こえたけど?」  
 吹寄がそう言うと、3人の肩が一様に跳ねた。  
「ま、待て吹寄。お、お前は何かまた勘違いをしているぞ。お、俺たち……いや、俺は別にお前の体になんか興味無いし」  
「あっ、カミやん。ひとり逃げるんはずるいんやないのっ!?」  
「そうだぜいカミやん。そもそも『吹寄さんナイスバディ説』をプッシュしたのはカミやんぜよ?」  
 一足先に逃げを打った上条に、その罪を押し付けあうように青髪ピアスと土御門が食い下がる。  
「おまっ!? また本人を前にして人聞きの悪い事をいうんじゃねぇーよ! 俺はただ吹寄は服を脱いでても変わらないって言った――」  
 そう上条が口走った瞬間、  
「また貴様か上条当麻。あの時の事は忘れろとあれほど言ったのに貴様は……」  
「へ?」  
「カ、カミやん?」  
 地獄の鬼もかくやと言う吹寄の呟きに青髪ピアスと土御門は高速で上条を振り返った。  
 その一方で上条の方はと言うと目の前で鬼に豹変して行く吹寄に恐れをなしたか、椅子を鳴らして立ち上がると後ずさりした。  
「ま、待て吹寄。誤解だ! 俺は何も言って無いぞ! 例えばお前のむ――」  
「言葉を慎め貴様ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!」  
 その時上条の目に映ったのは、翻ったスカートの裾と、かわいらしい純白のショーツと――そして少し汚れた上履きの裏だった。  
「うごぎゃ!!」  
 吹寄の怒りの前蹴りが机を挟んで上条の顔面を綺麗に捉えた。  
 仰け反る上条、そこに追い討ちを掛けるように上条は椅子に足を取られて派手に後ろに飛んだ。  
「「「あ!」」」  
 その様を見ていた青髪ピアスと土御門、そして上条に蹴りを見舞った吹寄は驚きの声を上げた。  
「へ?」  
 その時上条は1人澄み渡った青空とそこに漂う雲を見ていた。  
(空? 何で空? 俺は確か吹寄に蹴られてよろけた拍子に……、…………あ!?)  
「ふぐぉおおおわああああああああああああああああああああ!!」  
 3人の見ている前で、悲痛な叫び声と共に上条の足先が窓枠の向こうに消えて行った。  
 暫く呆然とそれを眺めていた3人だったが、  
「「カミやん!!」」  
 
 窓の外に消えた上条を追って青髪ピアスと土御門が窓枠に飛びついて下を覗きこむ。  
 慌てるのも無理は無い――ここは2階、当然窓の外にはすぐに地面がある訳ではない。  
 落下防止を兼ねた庇も無ければ、上条に空を飛ぶような能力も無い。  
 はたして上条は!?  
「丈夫やねーカミやんは……」  
「心配して損したにゃー」  
「では土っちー」  
「はいにゃー。カミやん回収に行きましょうかにゃー」  
 先ほどとは一変して、窓際で和やかに話し合った青髪ピアスと土御門は、まるで購買にパンでも買いに行くような気軽な様子で連れ立って教室を出て行ってしまう。  
 そんな2人を黙って見送った吹寄は、  
「はっ!? か、上条当麻!!」  
 先ほどの2人と同じように窓枠に飛びつくと窓から身を乗り出して階下を見た。  
 そしてそんな吹寄の目に飛び込んできた光景は――芝生の上で胡坐をかいているいつもどおりの上条の姿だった。  
 しきりに体をさすっているのは何処か痛いのだろうか?  
 それにしても驚くほどの頑丈さである。  
「はぁ――――一体何を食べたらあんなに丈夫になれるのかしら?」  
 吹寄は脱力すると教室に向き直って窓枠に背中から寄りかかった。  
 するとそんな彼女の耳に昼休みの終わりを知らせるチャイムが静かに聞こえて来た。  
 
 
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜  
 
 
 結局午後の授業に上条は姿を現さなかった。  
 あるじの帰ってこない机をちらりと目の端に止めた吹寄は小さく溜息をつく。  
 それと同じく2つの机が空いていたのだか、これは青髪ピアスと土御門のものだ。  
 あの2人も結局あの後帰ってこなかった。  
「あの三バカども」  
 吹寄は苦虫を噛み潰したような顔でそう吐き捨てる様に呟くと黒板に集中した。  
 やがて午後の授業も終わり、ミーティングを経て小萌先生が教室から出て行くと、1人また1人と教室から人が減って行く。  
 吹寄は自分の机の上でノートを広げながらそんなクラスメイトたちの動きをちらちらと観察していた。  
 やがて最後のひとりが吹寄に声を掛けながら出て行くと、教室に残るのは吹寄だけになった。  
 そんな吹寄は、軽く背伸びをするとノートを閉じて立ち上がる。  
 そして机の上と、机の中にある教科書とノートを律儀に全て鞄に詰めてゆく。  
 厚みの増した鞄に全てが納まった所で、  
「さて、帰りますか」  
 とひとりごちた。  
 しかし、ふとある事が気になってちらりとそちらに視線を向けた。  
 そこは上条の机であり、その脇には平べったい傷だらけの学生鞄がぶら下がっている。  
 吹寄は暫くそれをじっと眺めていたが、  
「仕方ない。持って行ってやるか」  
 そう言って上条の鞄を手に取ると、自分の鞄と一緒に握り締め教室を出て行く。  
 吹寄はまず職員室に寄った。  
 そこで小萌先生にクラスメイトが全員帰った事を報告した。  
 すると小萌はそんな吹寄の手に握られていた鞄に目を留めた。  
「あら。吹寄ちゃん所でその鞄は誰のですかー?」  
「上条当麻のです。保健室にまだいるんですよね?」  
「吹寄ちゃんはえらいですねー。そうしたらこの鍵――」  
 そう言って小萌はポケットから鍵を取り出すと、吹寄の目の前につまんでぶら下げて見せた。  
「保険医の先生から預かってたんですよー。吹寄ちゃん、カミジョーちゃんをさっさと追い出したら、ついでに戸締りもお願いしたいのですよー」  
 
「判りました先生」  
 吹寄が返事をすると、小萌は満面の笑みをたたえて「吹寄ちゃんはホントいい子なのです。お願いするのですよー」と吹寄の手に鍵を握らせた。  
 保健室の鍵を預かった吹寄は小萌に一礼して職員室を後にすると、まっすぐ保健室に向かった。  
 はめ込まれたすりガラスから室内の光が漏れる扉を開いて中に入った吹寄は、  
「上条当麻。いるわよね?」  
 呼びかけてはみたが返事は帰ってこない。  
 ただ、備え付けのベッドのひとつがカーテンを引いたままにしてあった。  
 吹寄は無言でつかつかと歩み寄ると躊躇無くそのカーテンを横に引いた。  
「いた」  
 吹寄がそう呟いた通りそこには上条が眠っていた。  
 頬や鼻の頭に絆創膏を貼った上条は、上掛けも乱れること無く規則正しい寝息を立てている。  
「上条当麻」  
 先程より大きな声で呼びかけてみるがやはり反応は無い。  
 そんな上条を見ていると、吹寄の脳裏には普段から教室でもいつも眠そうにしている上条の姿が浮かんで来た。  
「貴様は何でいつも眠そうなのかしら? 寝不足? 栄養不足?」  
 そんな事を呟きながら幸せそうに眠る上条の顔を見つめていた吹寄の心に、ふっと悪戯心が芽生えた。  
 吹寄はにやりと笑みを浮かべると、そぉっと右手を伸ばして上条の鼻の穴が塞がる様に人差し指と親指で鼻をつまんだ。  
 そのままじっとする事数十秒――上条の顔が段々赤くなり、それと共に眉間に深い皺が刻まれてゆく。  
 そして次の瞬間――、  
「ぶはっ!」  
 上条の体が九の字に跳ね上がった。  
「起きたわね上条当麻」  
 上条の体が再びベッドに沈み込んだのを見計らって吹寄は声を掛けた。  
「おまっ! 今鼻つまんだだろ!」  
 口元に笑みを浮かべた吹寄の顔を上条はベッドの上から恨めしそうに見上げる。  
「気のせいよ。き、の、せ、い――それより具合はどーなのよ?」  
「あ? ああ特に何ともって事はねえって事はねえけど、ま、大した事じゃねーよこんなの。もういつでも教室に戻れるぜ」  
 そう言って寝たままシーツの中から両手を突き出して元気さをアピールする上条の姿に吹寄は軽く首を振る。  
(2階から落ちたのに大した事無いって言えちゃうんだ貴様は……)  
 吹寄は心の中でそう呟くと、  
「貴様、今何時だと思ってるの? 授業所かホームルームもとっくの昔に終ったわよ」  
「え、そうなの? そう言えば日差しが随分と斜めだ」  
「貴様は本当に……」  
 額に右手をかざしてきょろきょろする上条の様子に、吹寄は頭痛を覚えて自分の額に手を当てた。  
「ここの鍵も先生から預かってきたんだから。貴様はさっさと帰り仕度をする」  
 吹寄はそう言うと上条に背を向けて歩き出した。  
「何だよぉ。これでも俺は2階から落っこちたんだぜ。もうちょっと労わってくれたっていいんじゃ無いでしょうかとか思うんですが?」  
「貴様。今度はベッドから落ちてみる?」  
「うーす。上条当麻帰り支度しまーす」  
 吹寄に最敬礼をした上条はベッドから降りようとした。  
 ところが、  
「ああっ!?」  
「うるさいわね。今度は何?」  
「俺何でズボンはいてねえんだ?」  
「知らないわよそんな事。それよりさっさと仕度し……」  
 吹寄はさも煩わしそうに振り返ると上条に切りつけるかのように言い捨てようとした。  
 しかしシーツを半ば持ち上げた状態の上条とばっちり目が合った。  
「何よ?」  
 そんな上条の目が悪戯っぽく細められると、  
「見た?」  
「見てない」  
「見たい?」  
「そう。貴様はもう一度蹴られたいのね?」  
 
「あっ! い、いや、すぐに仕度し――」  
 吹寄の足が軸足の膝より高く上がった所で上条は慌ててベッドから降りようとした。  
 ところが、  
「どわはっ!?」  
 上条は急にバランスを崩すともんどりうって床に転げ落ちた。  
「うぐ。ふ、不幸だ……ぁぁ……」  
 天地が逆の格好でぐったりと手足を投げ出していつもの口癖を呟いていた上条は、その時ふとある視線に気が付いた。  
 目だけを動かしてその視線の主にを捕らえると名前を呼んだ。  
「吹寄?」  
 しかし吹寄から返事は帰ってこない。  
 ただ真っ赤な顔に硬い表情を浮かべて身動きひとつせずにじっとこちらを見つめている。  
 上条はその視線に妙な居心地の悪さと、普段と様子の違う吹寄に何だかそわそわした気分になる。  
 そして、上条はそんな気分を吹き飛ばそうとしてわざとおどけたような表情を作ると吹寄に話しかけた。  
「あ、あれぇ? どうしたのかなー吹寄ちゃん。お顔が真っ赤っかなんですけど大丈夫ですかー?」  
「…………」  
 少し小萌を真似して話しかけるも、相変わらず吹寄からは返事は無く、ただ2人は暫く黙って見詰め合っていた。  
 
 
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜  
 
 
 あれから、上条はベッドから落ちた時の格好のままで、先ほどから目の前を行き来する吹寄を目で追っていた。  
「おーい、吹寄。一体どうしたんだよ? おーい」  
 上条が、こうして呼びかけても吹寄は返事をしない。  
 あれから一言も話さずにただ黙々と戸締りの準備をしていた。  
(うわぁー。またなんか俺吹寄の事怒らせちまったのかなー。何したんだ俺? まず吹寄が来ただろ……)  
 上条が無言で自分の今日の不幸を指折り数えて反芻している間に、カーテンを閉めた吹寄は今度は入口に近寄る。  
 その吹寄の手元から程なくして「カチリ」と金属がぶつかり合うような小さな音が聞こえた。  
「?」  
 上条はその音にふと我に返ると改めて吹寄を目で追う。  
 しかし入口付近には吹寄の姿はすでに無く、吹寄は上条のすぐ近くの机の上に置かれた自分の分厚い鞄を開けて何かを取り出したところだった。  
 それは一見すると大きな糸巻きに拳銃のグリップが付いたような不思議な代物だ。  
「何だそれ?」  
 上条は感じたことをそのまま口にした。  
 すると吹寄は、  
「本来はこう使うんじゃ無いんだけど――」  
 と言いながらその不思議な物体を上条に向けた。  
「へ?」  
「貴様、危ないからちょっと動かないでよね」  
 そう言うと吹寄は人差し指を引き絞った。  
 すると――空気が噴出すような音と共に先端から何かが飛び出して上条の胸に張り付いた。  
「ふぇ?」  
 上条が奇妙な声を上げるのも無理は無い。  
 それは何かオモチャの車のようなもので、そこから伸びた紐のようなものが吹寄の手に握られたものと繋がっている。  
「何こ――」  
 そう言って上条はそれをつまみあげようと右手を伸ばした。  
 しかし、  
「うぇ!?」  
 上条の言葉は自身の驚きの叫びにかき消された。  
 それと言うのも体に張り付いたオモチャの車が上条の体の上を縦横無尽に走り出したからだ。  
 さらにその車が通り過ぎた後には、わだちの様に紐が巻かれて行く。  
「う! うぉ!? な、何だこれ!! おいこれ何だよ吹うぉ!? うぉぉおおおおお!!」  
 悲鳴を上げている間にも上条は紐でぐるぐる巻きになって行く。  
 
 そして上条が身動き1つ出来なくなった頃、吹寄の手元から伸びていた紐が無くなった。  
「ふぅ――――。こんな所で通販で買った『テキパキ梱包キット君』が役立つなんて思わなかったわ」  
 そうひとりごちる吹寄に、  
「おい吹寄! ちょっといくらなんでもこれは無いんじゃねーの?」  
 蜘蛛に捕まった哀れな昆虫のような姿の上条が怒りとあきれと驚きをない交ぜにしたような複雑な表情を見せた。  
 ところが吹寄はそんな上条に向かって人差し指を突きつけると、  
「お黙り上条当麻。そう言うのは下着からはみ出したその無様なモノを仕舞ってから言うのね」  
「へぇ……?」  
 上条は指差された部分に視線を向ける。  
 はたして上条の目に映ったものは……パンツから顔を覗かせた上条の大事な部分だった。  
「の、のわっ!? わ、わわ、悪ぃ吹寄。す、すぐに隠す……から……これ、解いていただけませんかね?」  
 ジタバタと暴れるのだが、がんじがらめにされた体はピクリとも動かない。  
 更にご丁寧にも両足もベッドに固定されてしまって足を閉じることも出来ない。  
 まさに手も足も出ない状態の上条に吹寄は一言「駄目」と言葉を返した。  
 しかし上条もここで諦めるわけには行かなかった。  
 声に悲壮感を滲ませて吹寄に縄を解くように説得するのだが――、  
「し、しかしですよ。このままですとわたくしめは粗末なものを貴女様の目にさらし続けることにぃぃ!?」  
 上条の言葉尻が奇妙な悲鳴に置き換わったのも無理は無い。  
 近付いて来た吹寄が戸惑う事無く上条の頭を跨いだのだ。  
 白いものが目に飛び込んできた時点で上条はギュッと目を瞑ってしまったので吹寄の顔は見えない――と言うかこの状況では目を閉じていても開いていても一緒なのだが。  
「ふ、吹寄?」  
 上条が不安そうに名前を呼ぶが返事は無い。  
「ふ、吹、き、吹寄さーん」  
 上条は無様に震える声でもう一度名前を呼んでみた。  
 しかし――、  
「黙ってて!」  
「ひゃい!?」  
 吹寄の鋭い声――だけではなく敏感な部分に熱い息を感じて上条は悲鳴を上げた。  
 上条はますます混乱する頭の中を整理出来ずにいた。  
 それでも黙ってこのままにしていても状況は変わらないと思ったのだろう。  
 上条は大きく深呼吸をすると、  
「お、おい吹寄黙れっておま一体何をする気なんだよ!」  
 上条の精一杯の虚勢――しかし帰って来た答えは、  
「大きくなってきた……」  
「う゛」  
 吹寄の一言で上条は短い呻き声を上げると、もうそれ以上何も言えなくなってしまった。  
 上条にはすでに実感があったのだ――下腹部に血が集まってくるような例のあの感覚が……。  
 しかも、こうしている間も生暖かい風――吹寄の息遣い――が上条自身を刺激してくる。  
(く、くそっ! やべえぞ! これ以上大きくならないように……、な、何か気を紛らわすもの、気を紛らわすものぉ……)  
 そうやって上条が無言の抵抗をしていたその時、死刑判決ともとれる衝撃の一言が吹寄の口から漏れた。  
「触るわよ」  
 その言葉にたっぷり一分近く沈黙した上条は、  
「……やだって言ってもいい?」  
「駄目」  
 最後の抵抗も吹寄からあっさり拒否された上条は「う゛ー」と負け犬が威嚇でもするような呻き声を上げた。  
 そんな上条から見えない位置で、吹寄はにわかに緊張した面持ちで上条自身を見つめた。  
(止めるなら今ね……。これ以上したらもう後戻りは出来ないわ。大体こんなトンチキ絶対好きになる訳無いんだけど……)  
 吹寄は心の中でそう呟くと、目を細めて――それからにやりと笑った。  
「好きにはならないけど……知りたいのよね。貴様の全部」  
 そうひとりごちると、何の迷いも無く上条自身を握り締めた。  
 だが、少し思い切りが良すぎたのか握り締めた瞬間に上条が「ぐぁ」と呻き声をあげたのだ。  
 
 それに驚いた吹寄は握り締めた上条自身を離すと、  
「ごめっ!? い、痛かった?」  
 今度はそっと両手で包み込むように上条自身を持ち上げた。  
 そしてそんな上条をいとおしそうに撫でながら上条自身を隅々まで観察する。  
「変な感じね。人肌ともちょっと違う……。それにしても……」  
 そう言うと吹寄は上条自身に鼻先を近づけて顔をしかめた。  
「ちょっとオシッコ臭いわよ貴様。ちゃんと洗ってるの? あっ、先から何か染み出て来たわ」  
 吹寄の口から次々と襲い来る羞恥攻撃は上条の我慢強さを鉈で叩き切る様に削り取ってゆく。  
 そうしてますます居た堪れなくなった上条は口を開くと、  
「な、なぁ!」  
「うるさいわね! 何よ貴様は。今大事な所なのに――」  
「いい加減にしないと終いに怒るぞ!!」  
「…………」  
 相変わらず目を瞑ったままの上条には今の状態は判らない。  
 ただ言いたい事を言った今、後は吹寄の出方を待つばかりだ。  
(それにしても吹寄のやつ一体どういうつもり……)  
 上条の頭の中に再び思いが浮かび上がる。  
 上条には吹寄の意図する所が全く読めなかった。  
 何度吹寄に『嫌い』『好きにならない』と言われた事だろう。  
 そんな吹寄が自分にこんな事をするのだろう?  
(もしかして嫌がらせ? いや、吹寄はそんな事するやつじゃ……)  
 などと考えていた時だった――急に大事な部分への圧力が無くなったのだ。  
「吹寄」  
 上条は安堵の気持ちを込めて優しく名前を呼んだ。  
 この後は縄を解いて貰ったら服を着てさっきの事――吹寄にあれを見せてしまった事だ――は平身低頭詫びを入れて、後は帰るだけ。  
 上条はそんな幸せなビジョンを頭の中に思い描いていた。  
 しかし、それは顔の上に何か布のような物が掛けられた事で無残に打ち砕かれる事になった。  
「ふ、吹っ、き……」  
 慌てて目を開けてみても目の前には黒い布が見えるばかりで吹寄の姿を確認することは出来ない。  
 しかも相変わらず縄が外される気配も無いので、上条にはこの布をどける事が出来ない。  
「な、なあ吹寄。これ以上悪ふざけはやめ……」  
 上条が不安を押し殺して吹寄に呼びかけたその時、目の前を覆っていた黒い布が取り除かれた。  
 上条は一瞬眩しそうに顔をしかめると、再び目を開けて部屋の中の吹寄を探した。  
 入口の方に吹寄の姿はない。  
 上条は視線を横方向にゆっくりとずらして行く。  
 すると視線の端に最近良く見慣れたものが飛び込んで来た――学校指定の上履き。それもかなり近い距離に見える。  
 そしてその上履きからは短い靴下――本人を表すかのように真っ白な靴下が見えた。  
 上条は無言で瞳を大きく見開くとぎこちない動作で視線を上の方に向けて行く。  
 健康的に引き締まったふくらはぎから膝へ、膝から歳相応の肉付きを見せる太もも――とそこまで視線を上げた所で、上条の動きが再び止まった。  
 何かがおかしい。  
 ここまで視線を上げると見えるはずのもの――スカートが見当たらない。  
「ふ、吹っ……!?」  
「どう? これでおあいこ。文句は無いでしょ?」  
 驚愕の事実に凍りついた上条に吹寄はそう言うと、さも楽しそうに笑うのだった。  
 
 
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜  
 
 
 上条は再びぎゅっと目を瞑って苦行に耐えていた。  
 その苦行とは――下着姿の少女に顔の上に馬乗りになられた上に、自分の大事な部分を弄り回されると言うものだった。  
「(何でこんな事に……)」  
「男がぐずぐず言わない」  
 吹寄は上条の愚痴を一刀両断で切り捨てると、上条自身をマイクのようにぐいと握り締めた。  
 そして、先ほどからしているようにゆっくりと上条自身を扱いた。  
「お、おい?」  
 その刺激に上条は驚きの声を上げると、それと同じくして上条自身の先端からは透明な液が零れて吹寄の指をぬらした。  
「男でも濡れるのね。初めて知ったわ」  
「う゛ー」  
 上条は吹寄の恥ずかしい言葉に、顔を真っ赤にして言葉にならない呻き声を上げた。  
 吹寄はその後もゆっくりと上条自身を扱き続けた。  
「んっ、んっ」  
 その度に吹寄の足の間で上条が小さく呻く。  
 そして上条自身はますます血の気を帯びて赤く染まり、自身の零した液でてらてらと光を反射して輝く。  
 その時吹寄の喉が大きく鳴った。  
「はっ、初めより……随分グロくなったわね。こ、こんなになって大丈夫なの?」  
「…………」  
 卑猥な肉の塊を握り締め頬を上気させながらそんな事を聞く吹寄に上条は無言を通す。  
「答えなさいよ貴様!」  
「…………」  
 再びの無言に吹寄の眉間に深い皺が刻まれると今まで上下に動いていた手の動きが止まった。  
 そして代わりに指に力が加えられて行く。  
「んぐっ」  
 その刺激に上条は額に玉の汗を浮かべ歯を食いしばって耐えるが、吹寄の手の中の上条自身は先端をひくつかせて爆発寸前だ。  
 と、そんな事などつゆ知らず怒りに我を忘れた吹寄は、  
「上条当麻! 貴様何時まで私の事無視して――」  
 自分の尻の下にいる上条の顔を見ようと腰を上げた所で、  
「きゃ!?」  
 ずっと無理な姿勢――吹寄なりの羞恥心からお尻が上条の顔に触れないように浮かせてしゃがんでいたのだ――が祟ってか前のめりにこけたのだ。  
 そのこけた先は、  
「ぐおっ!」  
 お約束どおりの上条の股間だった。  
 しかも爆発寸前の上条自身を自慢のおでこで刺激すると言うおまけ付だ。  
 上条自身の根元から先端まで今までに無い強い感触が駆け抜けた。  
 更に上条の腹と吹寄のおでこが先端をぐりぐりと挟んで刺激すると、  
「だっ、吹ッ!!」  
「きゃ!」  
 上条は吹寄の顔に至近距離から熱い猛りを吐き出した。  
「ん゛っ、ん゛っ」  
 上条は、ぎゅっと奥歯を噛み締めても愉悦に染まった声が漏れる事が恥ずかしかった。  
 そんな上条が我慢に我慢を重ねた後に吐き出した性はかなりの量で、吹寄のおでこを中心に長い黒髪や上気した頬やピンク色の唇や鼻の頭……顔のいたる所や、胸や肩にも白濁した粘液がまぶされて行く。  
「お、おでこで出すなんて……」  
 勢いが納まった所で吹寄が熱に浮かされたような声でそう漏らす。  
 言われた上条の方は目尻に涙を浮かべて荒い呼吸をしていて反論する気力も無いようだ。  
 吹寄は顔に掛った白濁を指ですくうと人差し指と親指の腹で揉んで感触を確かめた。  
 それから体中にこびり付いたものを入念にチェックした後、  
「も、全部ぐちゃぐちゃじゃないのよ。この根性無し」  
 
「はぁ……おま……無茶苦茶も大概にしろよな……」  
 文句とは言え久々に会話が成立した吹寄は口元を少しほころばせると、  
「復活したのね貴様。さ、第2ラウンドよ。いいわね」  
「へ? まだすんのかよ!?」  
 上条が驚きの声を上げると、吹寄は背筋を伸ばして純白のブラに包まれた豊かな胸を張る。  
「ト、ウ、ゼ、ン。私はまだ試したいことがあるの。もちろん貴様には最後まで付き合ってもらうわよ。いいわよね?」  
 すると上条は胸の中の空気を盛大に吐き出すと、  
「へいへい。もうどーにでもしてくれよ。どーせ俺には選択肢なんて無いんだろ? はぁ、不幸だ……」  
 諦め気分でかぶりをふる。  
 そんな上条の様子に少し気分を良くしていた吹寄の心がにわかにかき乱される。  
 吹寄は片方の眉を持ち上げると自分の尻の下にいる上条を覗き込んだ。  
「不幸ですって? 私にされるのが不幸だって言うの貴様はっ!?」  
「おうとも。大体だな、こんな逆レイプみたいな真似されて喜ぶ男がいるなら……あ……ああ1人いるなぁ、そんな馬鹿が」  
 相変わらず身動きひとつ出来ず、変なもの――吹寄の下着姿。今なら愛液で半ば透けた秘所のドアップを見る事が出来ただろう――を見まいと目を瞑ったままの上条が吹寄に言い返す。  
 途中でふと言いよどんだのは、ある友人の顔を思い出したからだ。  
「何言ってるのよ貴様は?」  
「へん! と、に、か、く。今の俺が不幸だっつーのはぜってー譲れませーん」  
「貴っ……」  
 上条の言葉に吹寄の眉がますます釣りあがる。  
 思わず拳を握り締める吹寄だったが、振り下ろすすんでの所で拳を下ろすと、大きく2度、3度と深呼吸を繰り返した。  
 そして少し腰を浮かせたかと思うと、  
「そう! じゃ私の好きにさせてもらうわ。貴様は貴様で勝手すればっ!」  
 吹寄は言葉の最後に思いっきり上条の顔の上に持ち上げていた尻を落とした。  
「おぶっ!?」  
 上条は吹寄の尻と床に挟みこまれて悲鳴を上げる。  
 床に頭を打ち付けて痛いやら、顔にぬくもりや湿り気やらで恥ずかしいやら、上条の頭の中は大混乱だ。  
 更に追い討ちを掛けるように今度は股間の辺りが何やら暖かいもので包まれた。  
「おがっ!?」  
「あん! 騒ぐと響くでしょ?――んふふふ。何だか判る?」  
「…………」  
 吹寄の挑発的な態度に乗るまいと上条は無言を通す。  
 本当の所は「響く」と言われたのが恥ずかしくて仕方なかったのだが。  
「まただんまりなの!? じゃあ言うけど――今貴様を挟んでいるのは私の胸よ」  
「!?」  
 吹寄の告白に上条の自由になる頭と、胸の谷間から顔を覗かせた上条自身が大きく震えた。  
「ん……ふふ。急に大きくしてどうしたの?」  
 吹寄は更に挑発するようにそう言うと、  
「ほらっ、こうしてあげるからっ、早くっイっちゃいなさいよっ」  
 自分で自分の胸を両側から挟みこむと上条自身と一緒に揉みしだく様に両の乳房を擦り合わせた。  
「ん゛ん゛っ!」  
 そうして吹寄が強弱を加える度に上条の頭が大きく跳ねる。  
「あんっ。ほらぁ、もうイクんでしょ? あ、あっ、あんんっ」  
「ぶっ! んぶっ!」  
 すっかりノリノリの吹寄にいい様に翻弄される上条は、肉付きの薄い恥骨がガンガン鼻先に当って痛いやら何やらの状態ながらも二度と失態を見せまいと肛門に力を入れて我慢する。  
 ところがそんな上条を窮地に立たせる事態が起こる。  
 吹寄は自分の胸で上条自身を刺激するのを辞めると、それを右手で握り締めた。  
 そして、  
「今度はここに出しなさい。ほらあーん」  
「!?」  
 
 吹寄の言葉に何かを悟った上条が、ひときわ大きく体を振るわせる。  
「どうしたのよ?」  
(冗談じゃねえ。吹寄の口なんかに出したら……出したら俺は……)  
「ぐ……ぎぎ……」  
 上条としては大事なクラスメイトの口を汚すなど考えられない行為だ。  
 先ほどにも増して奥歯と肛門に力を込める上条に、吹寄もその事を察したのか口元に妖しい笑みを浮かべた。  
「貴様、まだ我慢出来ると思ってるんでしょ? ふふ、貴様にしちゃかわいいじゃない。んじゃ、取っておき。あーん」  
 そう言うと吹寄は赤黒く膨らんだ上条自身の先端を唇に含んだ。  
「ぶがっ!? おぶおぶっ!!」  
 ねっとりとした感触に上条ががむしゃらに暴れ出すが、吹寄はその感触を心地よさげに楽しみながら口に含んだものを吸い上げた。  
 すると今まで暴れていた上条の体がピタリと止んだ。  
 吹寄の股間には上条の吐き出す熱い息遣いが感じられる。  
(すごい……溺れちゃう……)  
 やがて上条の快感のリズムと吹寄の快感のリズムがリンクしたその時、  
「あっ!!」  
 吹寄は口腔に上条の熱い猛りを感じながら、自ら絶頂を迎えた。  
 それと共に空気を求めてあえぐ上条の口の中に吹寄の秘所から溢れた蜜が降りかかる。  
 2人はお互いの熱いほとばしりを敏感な粘膜で味わいながら、押し寄せる快楽に体を震わせていた。  
 
 
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜  
 
 
 ひと時の夢から覚めた吹寄は、改めて自身の口の中に広がる青臭い性の香りに眉をしかめた。  
「ふぅ。美味しくないって本当ね」  
 そう言って隣を見ると、今だ逆さまの上条が茫然自失の表情で何か呟いていた。  
「やっちまった……。吹寄の口に……。ふ、不幸だ。これから俺は一体どうすれば……」  
 吹寄は、そんな上条の顔を見て小さく溜息を付くと、  
「流石に2回も出すと元気無いわね」  
 などと言いながら、力なく垂れ下がった上条自身を人差し指で突いた。  
 すると、急に上条の表情が険悪なものに変わる。  
 ジト目で吹寄の顔を見上げた上条は、  
「な、何でこんな事したんだよ?」  
 弱々しく迫力に欠ける詰問の言葉に吹寄は表情1つ変えず、  
「さあ?」  
「さあって吹寄……」  
「じゃあ興味本位で」  
「じゃあとか興味本位とかふざけんなよ吹寄」  
 吹寄ののらりくらりの回答に、上条は眉間に深い皺を寄せた。  
 すると今度は吹寄から、  
「じゃあ貴様は何て言えば納得するのよ?」  
「うっ。そ、それは……」  
 上条は言葉に詰まると、何も後ろめたい事葉無いはずなのに視線を逸らせた。  
 そんな上条に吹寄は上半身までを上条に向けると、  
「因みに言っとくけど貴様が好きだからとかそう言う訳じゃないんだからね。それだけは癪だから誤解しないで欲しいわ」  
 それだけ言うとフンっと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。  
「あ、そ」  
 吹寄の言葉に釈然としない気持ちを内に抱えた上条は、げんなりしたような顔をしてそのもやもやした気持ちを吐き出さんばかりに大きく溜息を付いた。  
 そんな上条に吹寄は、  
「そんな事より貴様は余計な事考えないで体力回復に努める。ほらこれ飲んで栄養ドリンク」  
 そう言うと何処からか取り出した、茶色い小瓶の口を上条の口に押し込んだ。  
「うぷっ? こ、こらっ。俺は逆さなんだからもちょっと丁寧にぷふっ!?」  
「つべこべ言わずに早く飲む。それで元気になったら3ラウンド行くわよ」  
「ぷわはっ! さ、3ラウンドだって? 今後は何すんだよ」  
「ふふふ。知りたい?」  
 楽しそうに笑いかける吹寄の姿に上条は内心冷や汗ものだ。  
 
 彼の目には吹寄が、悪戯が今まさに完成すると言う瞬間をわくわくしながら見守る子供に見えた。  
 その罠に今まさにかからんとする上条としては答えは慎重に選ばなければいけなかったのだが、  
(聞けばきっととんでもない目に合わされるに決まってる。とは言え聞かないでやられるのは正直もっと怖い気がする……)  
「……よろしくお願いします」  
 上条苦汁の選択だった。  
 その苦虫を噛み潰したような顔に吹寄はずいと顔を近づけると、  
「何その嫌そうな顔――ま、でも今日は許してあげるわ」  
(ついでに拘束(これ)も許して欲しいんだけどな……)  
 上条は吹寄からついと視線をそらせると心の中でそう呟いた。  
 そんな上条の願いなど知るよしも無い吹寄は、すっくと立ち上がるとまた上条の頭を跨ぐような位置に立つ。  
 流石に慣れたのか上条も今度は目を閉じずに下からじっと眺める。  
 ただ顔が真っ赤になるのは致し方ない事と言えよう。  
 そんな上条の顔を覗き込むように腰を折った吹寄は、ふっと意味深な笑みを口元に浮かべると、  
「ここ」  
 と立てた人差し指で両の足の付け根――半ば透けたショーツに隠れた女の子の大事な部分を指差したのだ。  
「お、おま……」  
 驚きで言葉も出ない上条。  
 そんな上条を見下ろして吹寄は胸の前で腕組みすると、  
「やっぱりスケベね貴様は」  
「なっ!? 何勘違いしてるかしらねえけどマジ取り返しつかなくなるから止めとけ」  
「今更?」  
 不服そうな吹寄に上条は自由になる首を激しく上下に動かして同意の意思を示す。  
 しかし、  
「冗談はその顔だけにしておいてよね。今の話だけでこんなになってるクセに」  
「え?」  
 上条は吹寄の言葉の意味が理解出来ずにキョトンとした顔をした。  
 すると吹寄はそんな上条の方に右手を伸ばすと――いつの間にか力を取り戻していた上条自身を握り締めた。  
 その刺激に一瞬体を強張らせた上条は、驚いて目を大きく見開くと吹寄に握り締められた自分自身を仰ぎ見た。  
「こ、これは……はっ!」  
 何かに気がついた上条は、視線を吹寄に移すと、  
「お前普段から何てモン持ち歩いてんだ! あ、ありゃ栄養ドリンクとかそんな生易しいもんじゃねえだろ!?」  
「はぁ? 何言ってんのよ貴様は……。疲れた時結構いいのよ、あ、れ、は――貴様も身をもって感じてるじゃない」  
 吹寄はそう言ってからやりと笑うと、手の中で上条自身を遊ばせた。  
 その刺激にますます怒張する上条自身に、当の本人は目尻を下げて何とも情け無い顔をしている。  
(はめられた……)  
「と言う訳で覚悟しなさい上条当麻――あと言っとくけどはめるのは貴様で、はめられるのは、わ、た、し。オーケー?」  
「んな!? 何人の心読んでやがるんですかこの人は!? だ、大体なんだその下ネぇ……へ?」  
 吹寄に食い下がろうとしていた上条の顔の上に、その時何かが落ちて来た。  
 若干湿っていて顔に張り付くそれを必死に頭を振って振り落とすとそこには――上条自身を自分の秘所にあてがおうとする吹寄の姿があった。  
「ぎゃ――――――――――っ!! 止め止め止め、止めろぉ――――――――――!! ホン……トに取り返し付かなくなんだろうがっ!! 止めろってのこの……も、今日はホントなんつぅ不こふぐっ!?」  
 ギョッとして目を見開くと、目の前にはいつの間にかガムテープを手に持った吹寄の姿が――上条はそこで自分の口を塞いだの物正体を確認した。  
 吹寄はガムテープをベッドの上に放り出すと、気だるげに髪をかき上げた。  
 その仕草は何とも悩ましげで、上条はその姿に一瞬見とれてしまった。  
「ん、もう……。うるさいわよ貴様ぁ。あんまり男が騒ぐんじゃないわよみっともない。興が削がれるでしょお? 初めてはぁ、静かにっ。む、か、え、た、い、ん、だ、か、ら、ねっ」  
 今日一番の笑顔でそう言い切った吹寄は、再び上条自身を自分の大事な場所に誘導し始めた。  
(お、おい吹寄? じょ、冗談だよな? じょ、冗談だって、言って……)  
「ン゛――――――――――――――――――――!!」  
 暗くなりかけた保健室の中に、上条の悲痛な呻き声が虚しく響き渡った。  
 
 
 
END  
 
 

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