御坂美琴は、また上条当麻が入院したと聞いての病院を訪れていた。  
「ほっんとにあの馬鹿は毎回毎回何が楽しくて入院するのかしら? そのたんびにお見舞いに来る身にもなって欲しいもんだわ全く」  
 上条が聞いたら憤激しそうな事を呟きながら、美琴は勝手知ったると言う感じに病院の通路を歩いて行く。  
 程なくして『上条当麻様』と書かれた表札の前で、美琴は足を止める。  
 その場で大きく深呼吸する事数回。ポケットから手鏡を取り出してあらゆる角度から自分の顔をチェックする事数分。  
「おらおらおらぁー! 美琴様がお見舞いに来てやったんだから、平伏叩頭して出迎えるくらいしなさいよ!!」  
 勢いよく病室に踏み込んだ美琴が見た光景は、  
「御坂……?」  
 全裸でベッドに腰掛けて自分に向かって足を広げている上条だった。  
 そして美琴の記憶はそこでぷっつりと途切れた。  
 
 
 美琴が目を覚ますと、清潔感漂う白い壁が目に飛び込んで来た。  
「こ、ここ……は? 私……」  
「目が覚めたか御坂?」  
 美琴が呟くと、今度は視界に心配そうな上条の顔が飛び込んで来た。  
「あれ、アンタ? 何でこんなとこにいんのよ?」  
「何言ってんだ御坂? ここは病院。お前は入って来てそうそう気い失って倒れたんだよ」  
「へー、そりゃ大変だったわね」  
「おま……。ホント大丈夫か……?」  
 上条は、あまりに会話がかみ合わない美琴の額にそっと右手を当てた。  
「ふふん……。私の事心配しようなんてアンタ、百年早いんだから……」  
 美琴は、ちょっと冷たい上条の右手が心地よくて目を細める。  
「で、私は何で倒れたんだっけ?」  
「あ……」  
 その一言に、上条の肩がびくっと跳ねあがった。  
 そして、そのままじりじりと後ずさりを始める。  
「あの……、怒らないで聞いてくれますか?」  
「何で離れて行くのよアンタ? アンタは人と話すんのに距離を取るのか?」  
 美琴は、折角心地よかった右手が離れたのも手伝って苛立った表情を浮かべる。  
 それにつられていつもの様に、額の辺りから放電が起り始める。  
「いや……、ちょ、ちょっとな」  
 上条はとっさに逃げようかとも考えたが、いかんせん入口に向うには美琴の前を通るよりほかに無い。  
 かと言って『真実』を話すには……相当の覚悟が必要だった。  
 上条は、しばし自分の運命を天秤にかけてみた。  
 そして、  
「じ、じゃいくぞ。お前が入って来た時……、俺は着替えてたんだけどな……。それで……」  
 そこまでしゃべって口ごもる。  
(やっぱ止めた方がいいんじゃねえか? て言うかホントの事言う必要無いだろ)  
「き、急にお前がふらっとして倒れたんだどわぁ!?」  
 しどろもどろの上条に向かって10億ボルトの雷撃の槍が飛んできた。  
 いつもの様にとっさに突き出した右手でかろうじて対応する。  
 その右手の向こうで、雷撃を放った美琴(ちょうほんにん)が顔を真っ赤にしてこちらを指さしている。  
「ア、アアアアアアアアアアアア……あぅ」  
「待て待て御坂!? また気い失うんじゃねぇよ!!」  
 美琴が倒れこむ様に椅子に座ったのを見た上条は慌てて駆け寄ろうとするが、  
「触るんじゃないわよこのド変態やろう!! せ、折角見舞いに来た私に、い、いいいいい……いきなりあんなもの見せつけちゃってくれちゃって――――――――――――――――――――!!」  
 美琴は怒りの叫びと共に、無数の雷撃を辺り構わずまき散らした。  
 上条は包帯だらけ傷だらけの体で、器用に雷撃をかわす。  
「おわわわわわわわわわわわわわ!! スイマセンスイマセンスイマセンスイマセン!! 俺が悪かったから電撃止めろって、この突発型落雷娘がぁぁぁぁああああああああああああ!!」  
 さらには雷撃の間を縫って美琴を取り押さえる事に成功した。  
 
 ところが、  
「嫌っ!? 触んないでよこのクソ野郎!!」  
「ぐっ!?」  
 美琴が暴れた拍子に振り上げた脚が、ものの見事に上条の急所を直撃した。  
「ぁ……」  
「ふ、不幸だぁ……」  
 上条はそう呟くと力無く床の上に崩れ落ちていった。  
 美琴は、暫く足もとでうずくまって背中を震わせている上条を見下ろしていたが、さすがに何時まで待っても復活してこないのでバツが悪い気がしてくる。  
 そもそもここに来たのも上条の怪我の状態を気にしての事――それが怪我をさせたとあっては次は無いと言う事になるのではないか? そんな考えが頭を過ると、取り合えずフォローくらいしておくかという気分になった。  
「大丈夫?」  
 取り合えずしゃがんで背中などさすりながら聞いてみる。  
 すると、  
「だ、大丈夫じゃねえよちくしょう。これで使い物にならなくなったら誰が責任とってくれるって言うんですか?」  
「そんな大げさな……」  
 上条の痛がり様から察するにあながち冗談じゃないかもしれないが、『責任』なんて言われてしまうとさすがの美琴も少し腰が引けてしまう。  
(せ、責任てやっぱり私がコイツの面倒見るって……。そ、それって使えるか使えないか確認……。え、ええっ……!?)  
 ところが、そんな美琴の葛藤に追い打ちをかけるような事を上条が言い放ったのだ。  
「大げさなんかじゃありません!! これでもわたくし上条家の1人息子ですから――お父さんお母さんどうやら当麻はあなたたちに孫の顔は見せられそうにありません。むしろ息子を止めるかもしれません」  
「んな!?」  
 美琴は打ち消そうとした内容が、より明確にイメージされて一気に気が動転した。  
(や、やっぱり!? やっぱり私がコイツのアレを確認するって事!? ど、どどど、どうしよう……!!)  
「う゛――――――――――――――――――――――――――――――っ!!」  
 美琴は頭を抱えてしまった。  
 すると、そんな美琴の地雷を踏んだ上条(ちょうほんにん)は、  
「ど、どうした御坂? 腹でも痛いか?」  
 などと、安易に声をかけた――それが起爆ボタンのスイッチとも知らずに。  
「そ、そんな事言うなら、わ、わた、私が、ちょちょ、ちょっと……」  
「はあ?」  
「見てあげるからズボン脱ぎなさいってって言ってんのよ!!」  
「な、何ぃ!?」  
 驚きに痛みも忘れて美琴の顔を覗き込んでいた上条を、美琴は立ちあがってその襟首をつかむと、何処にそんな力があるのかと言う勢いでベッドまで引きずって行く。  
 そしてベッドに上条を押しつけると、  
「ほ、ほら、早く、さっき見たいに脱いで見せなさいよっ!!」  
 何の迷いも無くズボンとその下の下着に一気に手をかけた。  
 上条は、その行動にギョッとするもののとっさにズボンを掴んで抵抗する。  
「こ、これ以上辱められてたまるか!! コ、コラ御坂!! お前はズボンから手を放せ!!」  
「手を放すのはアンタの方よ!! 何よ男が一度や二度見られたくらいで!! むしろこの美琴様に見られるんだから喜んで差し出しなさいってくらいなもんよ!!」  
「どこぞの女王様ですかオマエは!? ってオマ、両手が使えないんだからバチバチは勘弁しろ!! マジでカミジョーさん死んじゃいますから!!」  
「ほらほらさっさと諦めないと、後で履くモン無くなっても知らないわよー!!」  
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいい!!」  
 上条はぷすぷすと煙を上げ始める自身のズボンを目の前にして、情けない悲鳴と共にズボンと下着から手を離さざるをえない事を悟る。  
 そんな上条を前に美琴はにんまりと笑うと、  
「ふふ、いい子にしてたらご褒美あげるから」  
 まるでどこかの悪者の様なセリフを言うと、上条からズボンと下着をはぎとるのだった。  
 
「うう……」  
 ついに下半身を美琴の前に晒してしまった上条――しかし、最後の砦とばかりに両の太ももをぴったりと閉じて最後の抵抗を試みる。  
「さあ脚を開きなさいよ。それじゃ見えないでしょ」  
「御坂さん。今ならまだ間に合う……。お互い今回の事は忘れて――」  
「男ならっさと覚悟を決める」  
「ああ、くそっ!! 何でここはすいすい誰でも入ってくんだよぉ!!」  
「何か言った?」  
「いいえ!! 自分の不幸を噛締めていただけです!!」  
 御坂に何を言ってももう無駄だろう、と覚悟を決めた――と言うか自暴自棄になったが正しい――上条は、羞恥に体を震わせながらベッドに浅く腰かけた姿勢でゆっくりと脚を開く。  
「うう……。いっそ殺して欲しい……」  
 そしてついに美琴の眼前に露わになった上条自身は、  
「すご……」  
 上条の意に反して隆々と天を向いていきり立っていた。  
「さ、触っていい?」  
「もう好きにして下さい……。ああ……不幸だ……」  
 傷心の上条は美琴に何を聞かれたのかもわからずにただ返事をした。  
 だから、自分自身に圧迫感を感じてもとっさに何が起きたのか理解できなかった。  
「!?」  
「こんなに固いんだ……。痛くないのかしら?」  
「な、何してんだオマエは!?」  
「許可はちゃんと取りましたが何か?」  
 上条は、自分の股の間で興奮と好奇心で顔を真っ赤にしてとんでもないものを握りしめた美琴の姿に愕然とする。  
 それでもすぐ立ち直ると、美琴の手を振りほどく為に右手をのばす。  
「ふ、ふざけんな!! お年頃の女の子にそんな気持ちいい……もとい!! そんなもん握らせたとあってはカミジョーさんお天道様に顔向け出来ません!! さ、もうそんなものはポイしなさい!!」  
 だが――、  
「嫌っ!!」  
「うぎっ!!?」  
 美琴の叫びと、上条の悲鳴が交差する。  
 あろう事か美琴は上条自身に弱いながらも電撃を浴びせたのだ。  
 上条の悲鳴に、半ば目をつぶっていた美琴は恐る恐る上条を見上げた。  
 するとそこには、今まで見た事の無い様なおびえた目をした上条の顔があった。  
 その顔を見た瞬間、美琴の頭の中に何か閃きの様なものが駆け抜ける。  
 今日何度目かの意地悪な笑顔を浮かべた美琴は、  
「ふふーん」  
「や……、あの……。びっ!!」  
 再び上条自身に電撃を流した。  
「ひいいいいいいいい……」  
「大人しくする?」  
 上条は2度の電撃にすっかり観念したのか、無言でぶんぶんと頭を縦に振った。  
 そんな上条に満足げな笑みを見せると、早速上条自身の観察を再開する。  
 青筋の浮かんだ竿の部分や、赤く膨らんで口を開けた先端、反り返ったカリに、その細い指を丹念に這わせてゆく。  
「(やっぱ授業とは違うわね……)」  
「お前……、お嬢様学校では何教えてんだよ……」  
「うるさいわね何だっていいでしょ。普段は無視する癖にこんな時ばっかり聞き耳立ててっ」  
「ぐっ!?」  
 美琴は、くぐもった声と共に上条の表情が急に歪んだのを見て怪訝な表情を浮かべた。  
「急に何よ? 変な声なんか出して……」  
「おま……、御坂っ……。んなトコに爪っ……」  
 そう言われて自分の手を見ると、いつの間にか親指の先が上条自身の先端に爪を立てていた。  
 美琴は何となくその指をぐりぐりと動かしてみる。  
 
「くっ、うぐっ」  
「ははーん……」  
 美琴は、上条の反応にしたり顔を見せつつ親指を動かし続ける。  
「うっ、ぐっ、くくっ。お、おい止めろ……。んな事すんなよ……」  
「そんなかわいい声で凄んだってちぃーとも怖くないわよ。ほらほら、カナリアちゃん。美琴様にもっとお歌を聞かせてみそ」  
 美琴は、この普段は生意気な上条が自分の親指の動き一つで眉尻を下げて悩ましい声を上げる反応が楽しくて仕方無かった――そして、その一方で上条は焦っていた。  
 この痛痒い感覚が、段々とある取り返しのつかない感覚とリンクし始めたからだ。  
「くっ、こ、この……はぅ! や、止めろって……のが……かぅ、くっ、ふっ!」  
「うふふ……。どうしたのよいつもの威勢は? ほら、こんなに濡らしちゃって女の子みたい」  
 美琴がそう口にしたように、先端からは透明な液があふれて美琴の手を濡らしていた。  
「ね、もしかして『イク』の? 私の手で『イッちゃう』の?」  
「バッ!? じょ、冗談言ってねえで……くっ、はっ、離せ……」  
 さっさと美琴の手を振りほどきたい上条だったが、もうそれどころでは無い。  
 今はただこの甘美な責め苦を気力を持って押さえるだけで精一杯だった。  
 この時点で勝負はついていたと言えるだろう――そして、  
「ね、アンタ」  
「くあっ、あんだよ……? 今、それどこ……じゃ……」  
「『イッて』」  
 美琴はその言葉と共に、いつの間にか袋の部分に添えた手から先端に向けてごく微量の電気を放出した。  
 それはごく微量で、普段の上条だったら針に刺された程度も感じなかった事だろう。  
 しかし――、  
「うぁ!? バッ!! 御さ――」  
 美琴の放った一撃は、上条が必死に保っていた理性の糸をやすやすと断ち切った。  
 上条の叫びと共に白濁した液がほとばしる。  
 入院してから一度もしていない上に、よりにもよって美琴に抜かれ、さらには下手に上条が我慢したせいで勢いもすさまじいその白濁は、美琴の見ている目の前で爆発するように飛び出すと、美琴に襲いかかった。  
 美琴は、二度、三度とほとばしるそれを茫然と無言で顔や手に受けていたが、すぐに勢いをなくして白濁のほとばしりが止まると、  
「(た、大した事ないじゃない……)」  
 そうぼそりと呟くと、まだいきり立っている上条自身から手を離した。  
 上条は、そんな美琴に心底ばつの悪そうな顔をすると、  
「わ、悪ぃ御坂……その……大丈夫か?」  
 おずおずと声をかけた。  
 しかし、美琴からは全く返事は無い。  
 上条は、スカートのポケットからハンカチを取り出した美琴が丁寧にこびりついたものをぬぐって行くのをただ見守る事しかできない。  
(やべ……御坂の制服……、いやいや制服姿の御坂を汚すなんて、俺って何て鬼畜なんどぅわあああああああああああああああああ!!)  
 内心後悔から絶叫する上条――もしそんな彼がもう少しだけでも冷静だったら、  
「(ぜ、全然平気。こ、こんな事全然大した事無いんだからね。だ、だからこのままコイツと先に進んじゃったって平気なんだから。も、美琴さんはきっちり覚悟しちゃったんだから)」  
 これから訪れる不幸に少しでも対処できたかもしれない……かもしれない。  
 それぞれの思惑が交錯する中、いち早く行動を起こしたのはやはり美琴であった。  
「御坂?」  
 急に美琴が立ちあがったので、上条はびくっと肩を震わせて後ずさりした。  
 ついでにベッドの上に投げ捨てられたズボンを手繰り寄せるのも忘れない。  
(こ、今度はなんだ? ま、まさかもっと見せろなんて言うんじゃねえだろうな? カミジョーさんにはこれ以上見せられるものなんて……)  
 しかし、美琴の行動は上条の予想のはるか先を行っていた。  
「脱ぐ」  
「はあ?」  
「私も脱ぐって言ったのよ」  
 そして上条に背中を向けると、まずは靴をそろえて脱ぐ。  
 続いて美琴のトレードマークのルーズソックスを脱ぐと綺麗に畳んで靴の上に置く。  
「あ、あの……御坂さん?」  
 上条はそんな美琴におずおずと声をかけるが、美琴は振り返る事も無く今度はサマーセーターを脱ぎ捨てた。  
 
 ここに至っても美琴が何を始めたのか理解できない上条は、続いて美琴が背中を丸めて何かしているのを戦々恐々としながら見つめていた。  
 すると、美琴は一気にブラウスを脱ぎ捨てたのだ。  
 その白い背中に一瞬目を奪われた上条だったが、  
「み、御坂!? オ、オマエ一体なにするつもりなんだよ!!」  
 すぐさま全力で誘惑ごと美琴への視線を振り切る。  
 一方の美琴はそんな事などお構いなしに、スカートを脱いで、今ブラのホックを外したところだ。  
 何という気前のいい脱ぎっぷり――しかし、視線を逸らして必死に誘惑と戦っている上条はそれに気が付かない。  
 そんな色気皆無のストリップショーも終盤に差し掛かっていた。  
 残すは短パンと、その中に隠されたショーツだけになり、美琴は先ほどと同じように一気に下ろそうとした――のだが、  
「あれ?」  
 ところがその手が半ばでストップする。  
 美琴の声に上条がかすかに反応を示す。  
「どうした御坂?」  
 もし上条が美琴の方を見ていれば、お尻の割れ目を半分出したまま美琴が固まっている美琴と言う中々お目にかかれないものが見れただろうが、いかんせん健全なコーコーセーにはそんな勇気は皆無なようだ。  
 一方の美琴は、何故凍りついたのか? それは……、  
「無い……」  
 美琴の視線の先には、彼女らしいつるんしてくすみどころか産毛すら見当たらない綺麗な恥丘が下着から顔をのぞかせている。  
(つい先月やっと生えて来たアレが無い……!?)  
 そう、美琴の言う『アレ』とは、大人になった証である『アレ』――恥毛である。  
 先ほど見た上条にも結構生えていてびっくりした美琴だったが、自分も先月くらいから濃くなって来ていたので内心ホッとしていたのだが。  
(嘘!? こ、こんなはず……。昨日お風呂に入った時もちゃんと生えて……)  
「あ!?」  
 心の中で葛藤していた美琴の頭の中にあるワンシーンが思い出された。  
 それはつい最近シャワールームでルームメイトの黒子に図らずも全裸を見られた時の事。  
『お、お姉さま!? そ、そうですか。最近妙によそよそしいと思ったら、黒子はまた一歩お姉さまに女として置いて行かれたのですね……。いえいえ黒子は悔しくなんかありませんよ。ええ、ぜぇんぜん悔しくなんかありませんですわ。ほほ、ほほほほほほほほほ――』  
 あの時の目は、普段のお姉さまを慕う後輩の羨望に輝く瞳では無く、一歩先を行くライバルを蹴落とそうとする狡猾な眼光だった。  
「(黒子の奴ぅ……)」  
 美琴は図らずも計画をくじかれた上に、大事なものを失った怒りに奥歯を強く噛締めていた。  
 そんな葛藤があったなど露とも知らない上条は、  
「無いって何が? まさかオ○ン○ンが無いなんてベタなギャグ言うつもりじゃ……」  
 その瞬間、美琴から鋭い視線と一緒に全ての怒りを凝縮した電撃が飛ぶ。  
「うぎゃ!?」  
 それを上条は視線を逸らせていたのに見事右手で打ち消す。  
「馬鹿言ってんじゃないわよ!! 何で私にオ○ン○……」  
 そこまで言って御坂は顔を真っ赤にすると、大きく数回咳払いをする。  
「と、とにかく今日は用事を思い出したわ。また今度にしましょ。そう、そうね一ヶ月後くらいに」  
 美琴はそう言うと脱いであったブラを拾うと身につけ始めた。  
 その様子を目の端でチラ見して確認した上条はほっと胸をなでおろす。  
「あー、はいはいまた今度ね」  
 しかし、安堵した上条の言った不用意な一言にブラウスに袖を通した美琴の動きがピタッと止まる。  
「アンタ、全然残念そうじゃないわね」  
 その言葉に、本日負けっぱなしの上条の中にむらむらと敵愾心と言うか無駄な負けん気が浮上して来た。  
「これでもカミジョーさんにはそれなりのスキルがありますからして、今更婦女子の裸の一つや二つで、『うっわぁー、ここまで来てお預けなんて不幸だぁー』なんて言うと思ったか?」  
 するとこちらも負けず嫌いな美琴が黙っていない。  
「聞き捨てならないセリフね――何処で見たって言うのよ。その『婦女子の裸の一つや二つ』とやらは。何時何分何曜日地球が何回回った時に見たか言ってみてよ?」  
「オマエは小学生か!?」  
「答えられない訳?」  
 その一言に口をパクパクさせた上条だったが、ここまで来てふと我に返って  
(おっとー、危ない危ない。ここでホントの事言ったら元の木阿弥だったぜ)  
「ふ、ふふん。これはとぉってもプライヴェートな事ですから黙秘権を行使させて頂きます」  
 度重なる失敗に学習したのかごまかすことにしたらしい。  
 
 ところが、  
「嘘なんでしょ? 大体アンタに裸なんか見せるような間抜けがいるもんですか」  
「な、何を言いますか姫!! 数えりゃいくらでもいるんだぞそんな奴は!! 例えばインデゅ……」  
 前言撤回、学習など上条の辞書には無かった様だ。  
「何ですって……?」  
「な、何でも無い!! 俺は何も言ってないぞ!! ほら御坂用事があるんだろ? 今日は見舞いに来てくれてサンキュ――」  
「話を逸らすんじゃないわよアンタはぁ!!」  
 美琴から本日何度目かの雷撃が上条へと飛ぶ。  
「ぎゃー!!」  
 それを難なく右手で消す上条を、恨めしそうな目で眺めていた美琴は、  
「決めたわ」  
「いや、諦めて下さい」  
 間髪言わずにそう言われて、美琴は一瞬姿勢を崩すと、  
「わ、私はまだ何も言ってないんだけど」  
「言わなくても何となく察しはつく。な、悪い事は言わないから今日は帰りなさいよ御坂さん」  
 しかし、上条の意見が美琴に聞き入れられる事は無かった。  
 あれから数分後……。  
「い、言っとくけど昨日の夜までは生えてたんだからね!」  
 全裸でベッドの上に正座する美琴と、  
「そ、そうですか……」  
 恐縮しながら床の上に正座をする上条の姿があった。  
 お互いに見つめ合うように座った二人。  
「じゃ、じゃあいくわよ」  
「……どうぞ」  
 上条の返事に美琴腰を浮かせると折りたたんでいた膝を立てて、ちょうど上条に足を開くような格好になる。  
 それだけで上条は腰を浮かせて前のめりになると、大きな音を立てて生唾を飲み込んだ。  
 その息がかかるほど近づいた上条に、  
(ふふ……どうよ。もう子供なんて言わせないんだから。さ、もうひと押し……)  
 そう心の中でつぶやいた美琴はさらに大胆な行動に打って出た。  
 それは……、固く閉じた自身の秘所に指を添えると、上条に見えるようにとゆっくり開いて見せたのだ。  
 透明な糸を引いて開かれた女の子の最も大切な部分が、今上条の目の前に露わになる。  
「どう?」  
 満足げな笑みを浮かべる美琴、その内心には勝利の二文字が浮かんでいた。  
 しかし、世の中そんなに簡単にはいかないようだ。  
 その証拠に、上条の頭がにわかにかしぐと、ベッドの上に一度バウンドしてからごろりと床に転がったのだ。  
「え? え? な、何? 何なの?」  
 床の上に大の字になってしまった上条の姿に、美琴はついて行けずにベッドの上で布団を巻いておろおろするばかりだ。  
 すると、そんな病室のドアが突然開かれた。  
「はいそこまでー」  
「え?」  
 驚いて振り返る美琴の視線の先には、カエル顔の医者――この病院の院長が立っていた。  
 カエル顔の医者がつかつかと病室に入ってくると、その後ろからストレッチャーを押した看護師たちが入ってくる。  
 その扉の影に、見知った暴食修道女やら自分によく似た妹達やら上条のクラスメイトの巨乳と長髪、それから何時ぞやスパで出会った巨乳と、それから見た事も無い小さいのやら巨乳やら巨乳やら巨乳やら……、  
(き、気のせい……気のせいよねきっと)  
 取り合えず悪いイメージは抱かないのが美琴の美点の一つだ。  
 そんな美琴を尻目に、カエル顔の医者は上条の脈やら瞳孔やら調べていたが、  
「ふむ。頭に血が上りすぎて貧血を起こしたみたいだね? 何、心配する事は無い。すぐに良くなるさ」  
「そ、そうですか」  
 取り合えずカエル顔の医者に返事を返した美琴だったが、あまりに突然の事にそれ以上反応する事が出来ない。  
 その内カエル顔の医者もストレッチャーに乗せられた上条も看護師たちも出て行ってしまい、気が付くと病室に一人取り残されていた。  
「何なのよ一体? 何でこう上手くいかないの!? もう!! 私の覚悟はどうなんのよぉ――――――――――――――――――!!」  
 美琴の血のにじむような心の叫びに、廊下にたむろしていたデバガメ兼同志兼ライバルたちはみな一様に無言でうなずくのだった。  
 
 
 
END  
 
 

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