「初春〜」  
「あっ佐天さん」  
「授業中ずっと携帯してたでしょ」  
「げほっ、げほっ、どっどうしてそれを」  
「しかも上条さんと」  
「えっえええ、みっ見たんですか」  
「さぁ〜」  
「さぁって見たんですね」  
「あははっ、私が先に上条さんとメールしてたから分かったわよ」  
「佐天さんも上条さんと?」  
「一時間目の授業つまんなかったから、メールしたらすぐに返ってきて、それからずっとね」  
   
 昼休みになり、グループで集まって食事を取り始める。  
学園都市の中は基本的に小学校以上は昼食は持参のために可愛らしい弁当箱にいろいろと自分のものを詰めよってくる。  
 
「上条さんって本当に優しいよね」  
「そうですね。いつも親身になって考えてくれますよね、本当に優しいです」  
「あれ初春、顔赤いよ」  
「えっ?」  
 佐天に言われて思わず自分の顔をぺたぺたと触ると、佐天は手で口を押さえて笑い声を抑え込んでいた。  
そのしぐさで自分が謀られたと事に気づき、その犯した失敗にも気付く。  
 
「初春もとうとう春を……初めての春を迎えるのね〜」  
「佐天さんかっからかわないでくださいよ」  
「えっ初春、上条さんのこと気になるんじゃないの?」  
「ききっ気になりません」  
「あたしは気になるな」  
「えっ?」  
「だってこの学園都市でレベル0は落ちこぼれと言った目で見られるのに、上条さんはそんなの全く気にしない様子で、それどころか無能力者の方が能力者の方より勝ってるって言ってくれたんだよ。気にならないわけないじゃない」  
「佐天さん」  
「で、初春はどうなの?」  
「わっ私は……私もその気になります」  
「どういうところが」  
「私もよくわかないですけど、なんて言うか温かみがあると言うか大人の男性って言うか……って何言わせるんですか」  
「あははっ――――――でも初春」  
 そこで佐天の口調が変わった。前半は笑いを含めていたが、ここにきていきなり口調が低くなったので、初春は思わず一歩引いてしまいそして思わず佐天に聞き返してしまった。  
 
「佐天さん、なんですかいきなり真面目になって」  
「どういう結果になっても恨みっこなしだからね」  
「!?」  
「これだけは……上条さんのことだけは初春にも譲らないから」  
「分かりました。私も佐天さんが敵だろうと負けません」  
「ライバルね」  
「そうですね。私たちライバ……そう言えば御坂さん前、上条さんのことが気になるって言ってませんでした?」  
「いっ言ってたわね、思わぬところに強敵が……しかもお嬢様学校+レベル5だからあたしたちじゃ……」  
「佐天さん、もう諦めるんですか。ライバル宣言して早々くじけてもらってうれしいです」  
「なんですって女を捨てたようなパンツばかり持ってる初春に言われたくなわね」  
「パンツは関係ないでしょ」  
 食事をしながら凄い討論を繰り広げていた。そしていつの間にかライバルから御坂さん打倒同盟が発足したが、  
御坂を倒そうが何をしようが、上条と仲良くならないと意味がないので携帯でメールをよくやるようになった。  
 
なんだかんだで仲の良い二人は週末にいつも通りデパートに買い物に行く。多少当麻と会えるだろうかなどと期待していたのは言うまでもなく……そう言う場合に限って全く予期してない方向の人物にあってしまう。  
 
「あっ御坂さん、白井さん」  
「ん、初春さんに佐天さんじゃない、今日も買い物?」  
「はい、今日は初春の勝負パンツを購入しようと思いまして」  
「ちっ違いますよ、今日はただこのあたりを見て回ろうってだけですからね」  
「そんなに大声を出さなくても分かってるので大丈夫ですの」  
   
といつものメンバーが集まった。で結局四人で行動することになった。いつも通りの、平凡な日常なのか?  
「お姉さま、どこに行かれますの?」  
「そうね、ゲームセンターでいいんじゃない、どう?」  
「そうですね。たまにはいいですね」  
「初春にさんせー」  
「では決まりですの」  
「今思ったんですけど、御坂さんって月いくらぐらいの補助金が出てるんですか?」  
「そうねー。35万+αってところかしら」  
「35万ですか?すごく多くありませんか?」  
「確かお姉さまは学園都市だけではなく、常盤台からも貰っていたと記憶にあるのですが」  
「そこっ余計な事を言わなくていい」  
 
 『ずびしっ』と人差し指を立てて言い争いをする。ぎゃあぎゃあ、がやがやともう楽しそうに地下街にあるゲームセンターへと向かう。  
 地下街の入口はいつもなんらかのビラをくばる少女たちが何人も立っている。月のお小遣いが足りないときはいつもこうして稼いでいるのだ。  
「凄いですね、それだけあったら1カ月なにもしなくてもいいじゃないですか」  
「そうでもないわよ。レベル5ともなるといろいろな保険に強制的に入れられるし、私の場合だと携帯の寿命とか電化製品の寿命が極端に短いから、いろいろと支出も大きいわよ」  
「へー、そうなんだ。ならあんなふうなビラ配りとかのバイトもしたことないんですか?」  
「そうね……ないわね。と言うより基本的に学校が認めてないからねー」  
 
 
 
「“今話題の映画ですー”」  
と映画のことを宣伝していた。はっきり言って話題なら何も宣伝しなくても客は入ってくる。だが宣伝すると言うことはその逆と言うことだ。  
「話題ねーどうでもいいわ」  
「さすがお嬢様です、ビラの拒否の仕方も一流です」  
「一流っておおげさだな」  
「あっゲコ太だ」  
「!!!?」  
「うわっ」  
 ゲコ太と聞いた瞬間的に美琴が佐天の持っていたビラを奪い取った。もうそれは破れそうなぐらいに。  
知っているとは思うが、御坂美琴は大のゲコ太というかカエル好きである。当然本物ではなく人形なのだが、そのためならなんでもできるのだ。  
学鞄にはケロヨンをつけて、携帯もカエルをモチーフにしており多少不気味さが表れている。  
 
ここで予定が変更になった。  
「5人で映画を見れば、ケロヨン一家ぬいぐるみプレゼント!!?」  
「おっお姉さま、もっもしかしてみにいかれるおっおつもりなのですか?」  
「当然よ」  
「でも私たち4人しかいませんわよ」  
「適当に拉致っていけばいいでしょ」  
「あのゲームセンターは?」  
「また今度連れてってあげるわよ。佐天さん」  
「えっ映画の内容もゲコ太何ですか?」  
「違うみたいよ。えっと“空白の三日間:愛、恐怖。そして笑い”」  
「うわー、思いっきりC級映画の匂いがしますね」  
 
 もうC級映画であり、それ以外考えられない。もう10人全員が認めるほどの題名だ。  
どうやら、ヒットしなかったようなので、プレゼントと言う餌をつけることによって、狙う予定なのだろう。  
「そんなのはいいのよ。問題はケロヨンよケロヨン。しかも家族なのよ」  
「お姉さま、少し落ち着いてくださいませ」  
「それにしてもあと一人必要なんですよね」  
「そうだ。御坂さん私の知り合いに良い人がいるのでその人呼んでみます」  
「初春さんお願いね」  
「初春、まさか」  
「佐天さん、私が先に思いついたんですからね」  
「むっ」  
 
 と携帯を弄ってメールを送る。たぶん彼はすぐに見てくれるだろう。  
今日はなにもやることがなく、暇をしていると言っていたから。それに彼のことだ、いいよと絶対に行ってくれる自信があった。  
「あっ大丈夫だそうです。えっとどこで待ちあわせますか」  
「そうね、デパートの所でよくない」  
「分かりました」  
 再び携帯を操作して待ち合わせ場所をおくり、自分達は一足先に待ち合わせ場所へと足を向ける。デパートの前はいろいろと人があふれかえっていた。やはり休みの日となると学生は遊びが本分となるために、かなりの数が野外で遊んでいる。  
 
 
 
 
 
「黒子ー」  
「お姉さま、なんですの」  
「最近なにかあった?」  
「とっ唐突に何なんですの」  
「いや、だってあんたなんか最近おとなしいじゃない。前なら何かあるたびに私に抱きついてきてたし」  
「そっそんなことありませんわよ」  
   
黒子ピーんち、黒子は上条さんが女になってしまい、無意識のうちに美琴と当麻の順位が入れ替わってしまっていたのだ。  
と言ってもお姉さまLOVEは健在なのだが……。  
「んーまぁどうでもいいけど」  
「お姉さま、やっと私を求めてくださるように―――」  
「なってないから、ところで初春さん、その知り合いの人って同級生?」  
「いえ、この前知り合った高校の人です」  
「そうなんだ。あれなら黒子が迎えに行ってあげてもいいのに」  
「大丈夫だと思いますよ。すぐに来てくれます」  
 なにやら熱い期待と自信が込められていた。なにやら黒子は嫌な予感しかしなかった。  
もう、何となく察しがついてしまったのだ。この展開でやってくるであろう高校生を……。なのでさっさと話を進めるとしよう  
 
初春は一一一の音楽が鳴っている携帯を取り出してメールを確認する。そして携帯を閉じてあたりを見回して、大きく手をふった。  
「こっちですよー」  
「んっ来た?」  
「はい、上条さーん。こっちです」  
「ふぇっ?」  
「予想通りの展開ですわ」  
「すまん、すまん。ちょっと道が混んでた」  
「いいですよ。私たちも今来たとこなんですよ」  
「なっなっ何であんたがここにいんのよ」  
   
 御坂がこんな反応をしたのはわけがある。そう初春が呼んだ高校生とは上条当麻だったのだ。  
最近頻繁にメールをしており、今度また遊びましょうねとメールをしたばかりでとても誘いやすかった。  
「なんでって、初春に映画に誘われたからだよ。っていうかビリビリも一緒なのかよ」  
「えっと、映画を見ようって言いだしたのが御坂さんでして」  
「マジで」  
「ちょ、ちょっと、なんであんたが初春さんと連絡取れんのよ」  
「いや携番とアド交換してるから、できるだろ」  
「私もしてますよ」  
「ええっ!」  
「お前ともしてるだろ」  
「そっそうだけど」  
   
 自分がやっとの思いでゲットした上条当麻の携帯の番号をこの二人はあっさりと手に入れていたのだ。  
しかも、この二人が上条当麻に出会ってからを数えるとまだ2週間と経っていないのだ。  
「……私とはしておりませんわ」  
「そうだっけ?」  
「そうですわ」  
「なら後で交換しとくか。何かと都合が悪いしな」  
「忘れてもらっては困りますの」  
   
 黒子はそう言えば自分が当麻の携帯のことを知らないことに気づき、当麻に遠慮がちに伝える。  
本当はさっさとしたいのだが、美琴の目もあるために堂々とすることができないのだ。  
「悪かったって……ところで、なんて言う映画なんだ?」  
「えっと“空白の三日間:愛、恐怖。そして笑い”って言うらしいですよ」  
「佐天、それマジか?」  
「大マジです」  
「明らかにC級映画じゃねーか。御坂は何でこんな映画を」  
「いっいいじゃない」  
「お姉さまの目的はおまけで貰えるケロヨンですわよ」  
 
 『ふんっ』とそっぽ向く美琴に代わり、黒子が代わりにそれに答える。これも美琴を思っての荒治療だ。  
こうやって美琴に素直になってもらいたいのだ。だがその美琴は根っからの負けず嫌い、特に当麻に関してはどんなことがあっても曲げようとしない。  
「ケロヨン〜?そのために折角の休日にお呼ばれしたんでせうか?」  
「なによ、文句ある」  
「いえいえ。………そうだ、初春」  
「なんですか上条さん?」  
「今日は水色だろ?」  
「えっあっはい―――――」  
 何のことか分からなかったがとりあえず答える。しかし、水色って何のことだろうって考えていると、今日自分が身につけているのもので唯一水色の部分があった。そう下着である。  
「――ってええっ?!ええええっっ。どっどうして上条さんが知ってるんですか?」  
「勘かな」  
「初春、なんですの。水色は?」  
「えっあっそっそれは………そのー……今日の…下着です」  
 
 今にも消え入りそうな声だったが、はっきりと聞こえる。セクハラ発言だ、親父ギャグだ。  
これは酷い、何と言うか酷い。美琴とと黒子の空気が固まっており、初春は顔を真っ赤にして俯いていた。  
 
「あんた、なんで初春さんの下着の色知ってんのよ」  
「おい、ビリビリって帯電すんな。分かったから答えるって」  
「早く答えなさいよ」  
「ふっ実は俺には透視能力“スキャンネート”で洋服など関係ないのだ。初春は今日は水色で縞パンだろ」  
「なっなっ」  
「御坂は――」  
「ちょっちょっと」  
   
 と当麻がまじめ顔で初春を見てそう呟くと、初春は唖然とし、次  
に御坂の方を見ると一気に自分の胸と股に手を持って行ってそれを死守しようとする。  
「はははっ、嘘に決まってるだろ。上条さんは無能力者ですぜぇ。んな都合のいい能力知ってるわけないだろ、それに初春の下着の色が分かったのは佐天が言えって言ったからだからな。なぁ、佐天」  
「えへへっ」  
「やっやっぱり佐天さんだったんですね」  
「いいじゃない。下着の一つや二つ」  
「よっよくないですよ」  
「あたしは見せてもいいですよ。上条さん」  
「マジで」  
「あんたは……なに鼻の下伸ばしてんのよ」  
 
 はっきり言おう、別にいまさら下着の一つや二つで伸ばすような鼻は持ってなかった。  
ありとあらゆる下着の種類を見てきた上条当麻にとって、下着を見ることは女子が更衣で同性の下着を見るレベルのものだったのだ。  
 完全に美琴のいいがかりであり、この心の内秘められたモノを解放するためについた言い訳である  
「おっお姉さまいけませんわ、ここには一般人も多数おられます」  
「御坂さん、電圧が上がってます、上がってますって」  
「帯電したビリビリを解放すんなよ」  
 
 今にも雷撃を飛ばしそうなほどに帯電した美琴は迷うことなく当麻にぶち当てようとするが、当麻は一歩美琴に近づき、頭を撫でそう言った。  
一瞬にして身体に溜まった電気は打ち消されて、美琴自身の怒りの感情も一気に別のもに変わった。  
 頭をなでられたせいで一気にしおらしく、照れと恥ずかしさが出てしまったのだ。そして当麻は美琴の横を通り過ぎてデパートの中にある映画館へと足を向ける。  
 
「ほら、そろそろ中入んねーと時間だろ?」  
「御坂さんいいです」  
「今度お願いしよっと」  
「あーずるいです」  
「納得がいきませんが、お姉さまなら許せますわ。ほら行きますわよ。置いて行かれますわ」  
「あっ上条さん待ってください」  
「ほら御坂さんも行きますよ」  
「えっ?えあっ、うん。分かった」  
 佐天に引っ張られていく感じで、デパートの中へと入っていく。  
 
 ではここで席の順を説明しよう。  
 先ほど頭を撫でられて、思考回路が停止した美琴は一番左にきて、その隣に黒子、佐天。  
そして佐天にじゃんけんで勝った初春は名誉の当麻の隣に座ることができたのだ。  
 
「と、そうだな。ジュースとポップコーンでも買ってくるか」  
「あっありがとうございます」  
「そうですわね、上条さんお一人だけでは持ちにくいでしょうから、私もご同行させてもらいますわ」  
「おっサンキュー」  
 黒子はテレポートを使ってうまく他人の前を通らず通路に出る。上条さん達の席は比較的真ん中下で、階段で上の売店に行かないといけない。  
「そんじゃ行ってくる」当麻がそう言って黒子を引き連れて売店へと向かう。  
 
「うまくいきましたわ」  
「ああ、開演まであと20分はあるな。さっさとすませるか」  
「そうですわね。それはそうと当麻さん」  
「んっなんだ?黒子」  
「私にも当麻さんの携帯の番号を……」  
「ああ、そう言えばそうだったな。んっと、よし、こっちは光通信の準備できたけど」  
「こちらも準備できましたわ」  
「送受信完了っと」  
「ありがとうございますわ」  
「んー……黒子」  
「当麻さん、なんで――――」  
   
 当麻の顔を見上げた黒子の唇に唇を重ねる。突然の攻撃に戸惑いを隠せない黒子だったが当麻を受け入れる。  
さすが上条さん、周りに人がいようと関係なくキスをする。  
「んんっ」  
「久しぶりにしたな」  
「はぁ、はぁ、そうで、すわね。先週以来ですわ」  
「本当は毎日のようにしたいんだけどな。インデックスに……本妻に怒られた」  
「ハーレムも大変ですわね」  
「まあな、っと、早く買わないとあいつが怒るぞ」  
「そうですわね」  
   
 売店に入り、黒子は飲料水を買いに出る。当麻はポップコーンを買おうと店の中を歩き、他のお客が……少女が取っていた。  
 だがその少女は身長が足りないようで一番最上段に置かれた巨大ポップコーンを取れないでいた。  
当麻は一息ついて少女を持ち上げようか考えたが、変質者になりかねないのでその行動は止めて、普通にとってあげることにした。  
 フラグ的には無自覚な行動だろう。  
「ほら」  
「ありがとう、ウルトラC級映画をポップコーンなしで見る所でした。超感謝します」  
「そんな感謝するなって、ほら早くしないと始まるぞ」  
「おおっ、開演まであと15分ですね。超助かりました、では」  
 と言って少女は全速力で消えた。当麻はその少女の元気の良さに思わず苦笑して、自分もポップコーンを買い店を出ると既に黒子は買い終えていた。  
トレーの上に5つの飲料水を乗せて。  
 
「すまん、遅れた」  
「別にいいですわよ。それよりポップコーンは二つですの?」  
「ああ、あんま多いとあれだし、黒子が一つ、俺が一つで隣同士で食べればいいだろ」  
「なるほど、そうですわね。当麻さんは何味のジュースがお好きですの?」  
「んーそうだな。変なのじゃなかったら、それでいい」  
「それでしたら、普通にメロン味でいいですわね」  
 二人が戻るとすでに5分前のテロップが画面上に流れており、すぐに席に着く。  
他にはお客はほとんどおらず、この映画を見るのは物好きか、美琴のようなおまけ目的の人間しかいないだろう。  
 席に着きポップコーンをつまみながら、多少期待を込めて映画を見始める。  
 
 
「にしてもつまんねーな」  
「そうですね」  
 開始10分、文字通りつまらなかった。当麻は隣に座っている初春に小さい声で話しかける。  
最初から予想はしていたが、あまりにもつまらない。普通すぎて笑えないのだ。  
 
「メロン味はおいしいけど、すぐに飽きるからなー。初春のジュースは何味なんだ?」  
「私のはグレープ&レモンですよ」  
「……おいしいのか、それ」  
「おいしいですよ」  
「一口貰っていいか」  
「えっ、あっはい」  
 
 初春はひとまず当麻に自分の持っていた容器を渡す。そして当麻は何の抵抗もなくストローに口をつけて飲んだ。  
そこで初春は考えた。今飲んでいるのは自分のジュースで、当然口もつけている。それを当麻が飲んでいた。今まで自分がつけていたストローに口をつけて……。  
 
「かっ上条さん」  
「んっ?なかなかうまいな。だが俺のメロンソーダもなかなかだぞ、飲んでみろ」  
「そっそうじゃなくてですね。そのストローは」  
「ああ、そう言えば間接キスになったな。すまん」  
   
 ぼふっと初春の顔が赤くなり、頭を振ってなんとか現実に戻す。  
本当にすまなそうな顔をしていた当麻を見て、なにかを言わなければとあたふたして、結局出てきた言葉が――  
「わっ私にも当麻さんのジュースをのっ飲ませてください」  
「ああ、いいけど。間接キスは気にならないのか」  
「だっ大丈夫です、さっ最近の中学生はこっこれくらい普通なんです」  
「それならいいんだけど――――、ん。サブタイトルの愛の部分の山場を迎えたな」  
   
当麻の一言でスクリーンの方に目を戻した初春は思わず、噴き出しそうになった。  
なぜなら、映し出されたいたのは男と女。しかも全裸で抱き合っていた。なかなか際どいアングルだった。  
 主役の男は「大丈夫?」と女の方を気遣っており、女の方は「最後までして」と言っている。  
隣では真っ赤になり俯いている初春、同じく顔を赤くしながらも映画を凝視している佐天、そして赤くなりながら口をパクパクとさせている美琴がいた。  
 黒子はすでに経験済みのために多少免疫ができているのか、やれやれと言ったご様子である。  
当麻に至っては欠伸をして、初春が抱えているポップコーンをぼりぼりと食べていた。  
実際のところ一般男性であればこう言った映画にも反応するのだが、すでにいろいろなプレイに携わった当麻にとって映画では物足りないのだ。  
 
 
 そのシーンも終わり、いきなりホラーに変わる。先ほどのいかがわしいシーンはどこへ行ったのかと言うほどの変わりようだった。  
しかも何気に怖い、と言うかC級映画特有の無駄なところに力を入れていた。  
 佐天や黒子、美琴は半ば笑いながら見ており、初春だけは涙目になりびくびくと震えて当麻の服をちょこんとつまんでいた。  
「『ぐはっ、これはあれか、あれなのか。アンジェレネと同じ属性なのか、破壊力が高すぎる』」  
 このままではやばいと悟り、慣れている方向で初春を安心させる。そう慣れている手をつなぐと言う行為で……。  
 自分の服を掴んでいた初春の手をそっと離して右手で手をつなぐ。驚いたように、顔と繋がれた手を交互に見比べている。  
優しく微笑んであげると、一気に顔が赤くなり、体温が上昇したのが分かった。  
「かっ上条さん」  
「なっこうしたら怖くないだろ?」  
「――はい」  
 そして初春は最初緊張して映画どころではなくなっていたが、徐々に慣れていき1時間半が過ぎた頃には安心しきって眠ってしまった。  
しかも上条当麻の肩にあずかるようにして……。  
 
 
「ホラーの方がよっぽど笑えるわね。ねーういはっひぃ――――」  
「大きい声を出してどうしたんですの?さてん、うっ」  
「何よ二人とも息を詰まらせたような声を………出し…て?」  
   
 まず佐天が左を見た、止まった。  
その佐天の声につられて左を見て黒子が止まった。  
二人の声に引き寄せられて左を見た美琴がと止まった。  
もう空気が固まったと言うレベルではない、空気が死んだのだ。  
   
 左の方では当麻が『なにやってんだ』と言った表情で固まっている3人の方を見ていた。  
だが当麻には突っ込みどころが万歳であった。いや正確に言うなら当麻だけではなく、隣に座っている初春にもあるのだ。  
 
突っ込みどころ一、  
「なんで、初春と上条さんが手を繋いでるんですか?!!」  
突っ込みどころ二、  
「どうして初春が“上条”さんの肩で寝てらしゃるんですの?」  
突っ込みどころ三、  
「あんたは初春さんの頭を撫でてんのかしら?」  
   
 以上、三つの鋭い突っ込みが飛んできた。だがその突っ込みも華麗に切り返す能力を持つのがこの上条当麻である。  
「えーと、ホラーで初春が怖がったからな。手を繋いだら安心したようで寝てしまったんだよ。で俺は初春の頭からいい花の香りがしたから撫でてた」  
「………初春、抜け駆けしすぎ」  
「上条さん、本当にやりすぎですの」  
   
 二人は小さな呟き声で済ませていたのだが、若干一名ほど呟きではなく怒りにが溢れ出しているお方がおられた。  
映画館にも関わらず帯電をはじめようとしている。  
「あんたはこんなところに来てまで何やってんのよ」  
「おっおい、美琴こんなところで帯電すんなよ」  
「そっそうですわ。お姉さま、ケロヨンが貰えなくなりますわよ――」  
   
 黒子はすぐさま美琴を制止する。それは当麻のためだけではなく、美琴のためなのだ。  
当麻のことになると周りが見えなくなり、突っかかってしまう。逆にそれが当麻に近づけない原因になっているのだ。  
 これではいつまで経っても当麻に近づけないばかりか、女性関係を知り美琴自身が耐えられなくなることは目に見えている。  
それだけは阻止しなければ。大好きなお姉さまと、愛している当麻さんの仲を取り持つために……。  
「―――それに、当麻さんに嫌われますわよ」  
「!!!?」  
「お姉さまの気持ちは分かりますわ、ですが今電撃をしますと、初春に当たって上条さんはお姉さまのことをお許しにならないと思いますわ。ですから今は……」  
「………っそうね」  
 黒子の言葉にはっとして自分がやろうとしていたことにはっとする。  
この男は自分が何をされようと対して怒らないが、誰かが傷つくようなことがあれば絶対に許さない。  
自分が一番身をもって知っているはずなのにと自己嫌悪に陥りそうになる。  
 
 
 エンディングロールが流れ、上映が終わる。最後は一発ギャグで終わると言う微妙な終わり方だった。  
数少ない客が一斉にため息をついて出ていく。当麻たちも初春を起して出ていくことにする。  
 
「初春……初春」  
「んんっ」  
「ほら初春起きないと、上条さんが立てないでしょ」  
「んっ……なんで………すか、佐天さん……もう少し寝かせて………ください」  
「初春、そろそろ起きてくれないか」  
「んぅ〜」  
「こうなったら最終手段を使うまでね。本当は御坂さんに電撃をお願いしたいところだけど、ブルーが入っておられるみたいだし」  
   
 佐天は安心しきった顔で眠る初春の鼻と口をふさいだ。  
当麻が「おいおい、無茶すんなよ」と言うものの、「平気、平気」と言い返されて何秒で起きるか数えはじめる。  
 
「――10、11、12、13」  
「んッッ……ぷはっ、なっなんですか」  
「おっ起きた」  
「なっ何するんですか初春さん」  
「おはよう、初春」  
「えっあっはい。上条さん、おはようございます」  
「初春――、とっくに映画終わってるんだけど」  
「あっ」  
「初春、よっぽどその手が愛おしいようですわね」  
「白井さんもなに言ってるで――――えええっっ」  
「初春、ホラーで怖がってただろ」  
「そっそう言えば、そんな気が……そっそれじゃぁそれからずっと繋いでいてくれたんですか」  
「ああ、怖い夢見たら嫌だろ」  
「ほら初春、上条さんのお邪魔になっていますわ。いつまでもそうしてないで行きますわよ」  
   
流石に黒子も耐えられなくなってきたのだろう。いけないと分かってはいるが、嫉妬してしまう。  
自分も手をつなぎたかった。肩を貸してもらいたかった。もっとデートをしたかった。やりたいことはたくさんある、だが我儘で当麻を困らせることだけは避けたいと思っているのだ。  
「はっはい。上条さん、ごめんなさい」  
「そこは謝るところじゃなくて、感謝の言葉のほうが嬉しいんでせうが」  
「あっありがとうございます」  
「よし、んじゃ行くか」  
「はい」  
 
 
 
 
映画館の出口の所に行くと、5人で来ている客にケロヨン一家の人形が配られる。  
「ほら、美琴。これが欲しかったんだろ?」  
「うん、いいの」  
「そのために俺は呼ばれたんだから、素直に喜んどけって」  
「ありがとう」  
   
 やはりプレゼントを貰えるということは嬉しく、顔が赤くなる。  
そして貰ったケロヨン父の人形を大事そうに握りしめている。多分美琴にとってこの人形はとても大切なものになるだろう。  
「んじゃ、俺は帰るかな」  
「途中まで送りますよ」  
「別にいいって、佐天もまだ皆と遊ぶんだろ?」  
「いえ、今日は大事なようがあるので」  
「んっそうなのか?」  
「わっ私も送ります」  
「ああ、ありがと」  
「私はお姉さまを寮につれてかえりますわ。意識がここにありませんですの」  
「頼む」  
 黒子は美琴の肩に触れて空間移動の能力を使い寮へと戻っていく。  
どうやら美琴が人形を握ったまま思考を停止したための処置である。このままここに放置していくわけにもいかないのだ。  
 
「行こうか」  
「「はい」」  
「当麻さん、今日は大丈夫だったんですか?」  
「ああ、今日は休みだったからな、他の用事は入れてなかったし」  
「すいませんでした。休日に呼び出してしまって」  
 
 初春は本当に申し訳なさそうに、頭を下げる。まぁ実際に当麻はこの日休みだったのだ。  
文字通り他の用事……デート、逢引、etcなどを入れない日が月に3日ほどある。そのうちの一日が今日である。  
 他の日は休日であろうが、平日だろうと関係なくデートやショッピングが入れてあるのだ。  
 
「いやいや、初春の寝顔も見れて良かったし」  
「えっええぇ」  
「いいなー、初春」  
「よくないですよ、ねっ寝顔を見られたんですよ」  
「ふーん」  
   
 二人の間に何やら不穏な空気が流れ始める、どうやら初春の言葉は佐天の気に障ったようだ。  
これは二人の性格の差のために仕方がないことなのだが、まだ中学生の二人にはわかってないのだ。  
「まだ時間早いしどっか寄って行くか?」  
「いいんですか」  
「あたしは上条さんが行きたいところでいいですよー」  
「初春は?」  
「私もどこでもいいですよ」  
「さて、上条さんてきには公園の芝生でゆっくり過ごしたいんでせうが、どうでしょうか?」  
「おっいいですねー、賛成でーす」  
「私もゆっくりしたいので、それでいいですよ」  
「んじゃ決定な」  
   
 当麻はゆっくり休める場所である公園の芝生へと移動する。  
公園自体は小学生の遊び場に使われているために、ゆっくり休めないのだ。  
 予想通り公園は小学生で賑やかになっていたが、周りの芝生はほとんど人がいなかった。ただカップルが何組か休んでいた。  
「もうそろそろ冬服ですね」  
「あー、そう言えばそうだったな。ネクタイするの嫌なんだよな、時間かかるし」  
「そうですか、似合ってると思うんですけど」  
「そうか?俺的には初春の頭の花の冬バージョンを見てみたいな」  
「えっそっそんなかっ変わりませんよ」  
「初春の花って日替わりだろ?なら季節替わりもあるって思ったんだがな」  
「分かってたんですか?」  
「ああ、初春は花が目立つからな、どうしても目が行くんだよ」  
 
 ぼふっと音を立てるかのように、一瞬にして初春は顔を真っ赤に染める。それは頭の上に飾られている花よりも赤く、紅く染まりあがり、煙を吹いて動きが止まる。  
 当麻の左に座っている初春は動きを止めた。右に座っている佐天も俯いて、動きを止めた。二人の姿を見てられなかったのだ。  
これだけ見せつけられると、付き合ってないと、自分にチャンスがあると分かっていても弱気になってしまう。  
「俺的には佐天の黒髪も綺麗だと思うけどな。俺の中でも三本の指に入ったな」  
「上条さん?」  
 
 一瞬で佐天の心情を察した当麻はフォローを入れる。“全てを平等に扱う”ことをモットーにしているために、視野を広く保っているのだ。  
当然当麻の言う髪の綺麗さの三本指には、神裂火織、姫神秋沙、そしてここに佐天涙子が加わったのだ。  
前者二人は上条当麻によって攻略されているのは言うまでもないだろう。  
 突然髪の毛を優しく撫で下ろされた佐天は目を丸くしていた。思わず髪を撫でている当麻の手に自分の手を重ねてしまう。  
何をされているか最初は理解できていなかったが、その手の感触を堪能していくうちに、それが当麻の手で、自分の髪の毛がなでられ、ほめられていることが分かった。  
 
「えっほっほんとですか」  
「ああ、嘘じゃねーよ、綺麗だよ。将来が楽しみだぞ」  
「えへへ」  
「当然、初春も楽しみだぞ」  
「あっありがとうございます」  
 
 佐天は一度は初春のほうを見て深呼吸をして、初春を見ている当麻の横顔を見る。  
 今しかないと佐天は目を一度つぶり、そのあと当麻の顔を見ずにあさっての方向を見あげる。  
 
「上条さん………」  
「んっ」  
「上条さん」  
「なんだ、佐天」  
「大事な話があります」  
「なんだ」  
「上条さん――――」  
 初春は佐天が唐突に真面目に話し始めたので「どうしたんだろう」といった表情で見ていた。当  
麻も佐天が大事な話があるということで、一気に真面目モードに入る。  
 一度佐天は言葉を区切り、そして覚悟を決めたかのように当麻と目を合わせて―――  
 
 
 
 
 
 
「―――好きです。付き合ってください」  
 
 
 
 
 
 一世一代の大告白、自分が抱いた恋心をぶつける。  
 例え好敵手が自分の親友であろうと譲ることのできない気持ち―――――できれば分かち合いたい気持ちなのだが、それはできないことが分かっている。  
 
 
 初春は佐天の言葉を聞いて目を大きく見開くが、すぐに真剣な目になり、上条の顔をじっと見つめる。  
 自分が初めて抱いた恋心を……好敵手が親友で、とても複雑な感情があった。だが、その親友には負けたくなかった。  
真剣勝負で絶対に勝ちたかった。でも本当は親友にも幸せになってもらいたいそんな感情が………。  
 
 
「―――佐天さん抜け駆けは許しませんから。上条さん―――上条さんのことを見ていると胸が痛むんです。この痛みが人を好きになる気持ちなんだとわかりました。  
 
 
 
 
 
上条さん、お願いがあります―――――私と付き合ってください」  
 
 
 
 
   
当麻は立ち上がり二人と距離を置いて頭を下げて、その二人の真剣な告白をした。ならば、当麻も真剣に答え返さなければならない。  
「………二人とも、ごめん」  
   
 帰ってきた言葉は、一番聞きたくない言葉だった。答えてほしくない返答だった。  
私たちが抱いていた恋心………私たちが抱いていた幻想を殺された瞬間だった。  
 「その気持ちには答えられないと思う」  
「「…………」」  
 二人の眼に涙が溜まり始める。今返された答えをゆっくりと理解し始めたのだ。  
 
「俺は女とあれば誰でも手を出す節操なしだぞ、そんな節操がない俺と付き合いたいと思うか、俺のことを嫌ってくれたほうが、佐天や初春のためのこれからの為になるぞ」  
「上条さん……私はそんな上条さんに助けられたんです。そんな上条さんだからこそ私は好きになったんです。今更、上条さんのことを嫌いになんてなれません」  
   
 涙目になりながらも決して曇ることない思い、自分の中にあるその思いを当麻に伝える。  
駄目だと言われたにもかかわらず、初春は最後の最後まであきらめない、諦めたらそこまでなのだ。  
 諦めたら全てが終わりなのだ、ならば最後まであがく。  
 
「優しいんです、その誰にでも優しい上条さんが好きなんですから、いつも親身になって相談に乗ってくれる上条さんが好きです。皆のことを思わない上条さんなんて嫌いですよ」  
   
涙目になりながら劣ることのないはっきりとした声、絶対に変わることのない思いを当麻に伝える。諦めきれない気持ちをぶつける。  
まだ完璧に玉砕されたわけではない。もとより玉砕覚悟、最後まで言い切ってやる。そんな精神なのだ。  
 
 
「……………、月に4回か5回しか会えないかもしれないんだぞ。それでも我慢できるのか?」  
「「できます」」  
「さっきも言ったじゃないですかー、誰かに優しくしない上条さんは上条さんじゃないじゃないですかー」  
「佐天さんの言うとおりですよ」  
「本気なんだな。あともう一つ言っておくことがあるけど、俺が他の女の人といろいろやっても、その人と仲良くやれるか?」  
「嫉妬はしますけど、でも仲良くやれますって」  
「上条さんがそれを望むなら、一生懸命やってみます」  
「そうか、なら合格だ。付き合おうぜ」  
   
 座っている二人に笑顔で答える。二人は万年の笑みを浮かべる。人間あげて落ちるのはとても辛く思うが、落ちてあげるのはとてつもなく嬉しいのだ。  
 がそこで二人は顔を見合わせた。そこで「あれ」といった表情を浮かべる。果たしてこの人はどちらに向かって言ったのか分からなかった。  
少しの沈黙の後、佐天が恐る恐る口を開いた。  
「あのー、上条さん、あたしと初春どちらと付き合うんです?」  
「んっ。両方に決まってるだろ」  
「えっえぇぇえええええ」  
「なっ何驚いてんだよ、さっきから言ってただろ」  
「そっそれって私と佐天さんを試練にかけてただけじゃないんですか?」  
「かけるわけないだろ」  
「上条さん、話の順番間違えたんですけど、誰かとお付き合いされてるんですか?」  
「えっと、13人ぐらいと……ああ、黒子とも付き合い始めたから14人だな」  
「「えっえっぇぇえええええぇええええぇええええ」」  
   
 本日最大級の絶叫だった。それはもうあり得なかった。どこをどう間違えたら14人と付き合えるのか、全く分からない。  
しかも一番最近付き合い始めたのが黒子………白井黒子、自分の友達で、風紀委員の同僚で、いつも仲良くやっている4人の一人。  
 そして何よりお姉さまLOVEの少女がまさか男の人と、しかも自分たちが告白した相手と付き合っていたなど全く予想だにしなかった。  
 
「初春、落ち着けって。黒子は前になちょっとした問題があってそのときに助けて、それ以来ずっと俺のことを思っていてくれたらしい。それでこの前黒子の寮に行ったときにそれを教えてくれて、付き合い始めたんだよ」  
「そっそれじゃぁ御坂さんは怒らないんですか?」  
「御坂とはまだ付き合ってないぞ」  
「そうなんですか、てっきり白井さんと付き合ってるから御坂さんとも付き合ってるものと」  
「黒子が言うには自分は美琴と俺両方好きで、二人が仲が悪い姿など一番見たくないんだと。だから自分は愛人になるって言ってたぞ。周りから見たらそこまでやるかって言う感じだけど、俺にとってはそこまで思っていてくれてとても嬉しかったな」  
「14人って白井さんの他に誰が居るんですか?」  
「えっとだな。あー外人が9人で、同級生が2人と教師が1人かな」  
「――――すごいですね。でもその人たちも助けたんですよねー」  
「ああ、ちょっと骨のある問題ばかりだったけどな。こんな俺でもいいのか」  
「やっぱり上条さんは上条さんですね。あたしはそんな上条さんが好きです。これからお願いします」  
「そうですって、私も上条さんのこと好きです。それに初春のことも好きだから……でも、抜け駆けはなしで行くわよ」  
「分かってますって、でもこれだけは別ですよ。上条さん」  
「んっなんだ初春」  
「私たち付き合い始めたんですよね」  
「あっああ。そうだよ」  
 初春は立ち上がり、少しでも当麻と視線を合わせようとする。何も言ってないのに、顔を赤くしながら、つぶやく。その声ははっきりと当麻に伝わる。  
 
 
 
「上条さん好きです。………きっキスをして……ください。上条さんの女になったと……」  
 勇気を振り絞ってそのことを伝える。すると当麻は何も言わずに、初春の肩に手をかける。  
そうすると、初春は目をつぶり当麻もそれを確認するように唇を近づけていき、唇と唇が重なりあう。  
 触れるだけのキス。ただ重なり合っているだけのキスなのに、それはとても長く感じられる。  
30秒が過ぎ1分が過ぎ、それからどれくらい重なり合っていたかわからない。  
 当麻は初春が酸欠になるぎりぎりを見極めて唇を離す。すぐさま自分の唇に手を当てて、荒い息を始める初春。ほほを赤く染めて嬉しそうな顔をしている。  
 そんな初春を見た佐天は「ずるい」といった表情を浮かべて、立ち上がって当麻の前に立って自分もしてほしいとせがむ。  
 
「むっ初春ばかりずるいです、あたしにもしてくださいよ」  
「分かってるって」  
 
 当麻は佐天の顎をつかんで上を向かせると、佐天の唇に唇を重ねる。  
佐天は自分の胸の部分で祈るように両手を合わせ、眼をギュッとつぶっている。当麻の唇から暖かい体温が伝わってくる。  
今さっきまで初春としていたキスを、今は自分のためだけにしてもらっているのだ。  
 どれくらいが経っただろうか、初春のキスを見たときとても長いキスだなと思った。だが自分の番になると、それよりもとても長く感じる。  
ゆっくりと当麻の唇が離れていく。目をあけると、当麻が笑みを浮かべていた。  
 それがこれが現実だと教えており顔が赤くなるが分かった。  
 
「上条さん、もう一回してください」  
「ダメだ」  
「えっ」  
「付き合い始めたんだから名前で呼ぼうぜ。飾利……涙子も名前で呼べよ」  
 予想だにしないこと呆気にとられる飾利と涙子、名前で呼び合うということは常に付き合っていることを意識する羽目になるのだ。  
名前で呼ぶ行為は極親しい仲でしかやらない、そのために飾利も涙子、キスした時と同様に当麻と付き合い始めたことを強制的に意識してしまう。  
 
「おーい、どうしたんでせうか。二人とも固まって………。まさか名前で呼ばれるの嫌だったのか」  
「そっそんなことありません」  
「ただ、ちょっとびっくりしただけで嬉しいです。えっと、とっ当麻さん」  
「うん。よくできました」  
 
 当麻は涙子の髪の毛を撫で、涙子はくすぐったそうにしてはいるものの、とても嬉しそうである。当麻は撫でながら飾利のほうを見て言葉をつづけた。  
「本当はなにか記念になるものを買ってあげたいんだけど上条さんはお財布の中が厳しいから、また今度にしたいんだが。いいか?」  
「うーん、いいですよ。本当は今日ほしかったけど、当麻さんには迷惑ばかりかけられないから」  
「そうですね。無理に記念になるものを買ってもらわなくても私は大丈夫です」  
「二人ともありがとな」  
「そう言えば白井さんとはどこまでいったんですか」  
「どこまでと言いますと」  
「デートとかもうしたんですよね」  
「あーっと、最後までいったかな。うん」  
   
あっさりと答える当麻、恋愛関係のことではどんな些細なことであっても隠し事はしないと言う取り決めがあり、また当麻にとっても隠し事はしたくないのである。  
当麻の言ったことがいち早く理解ができた涙子は驚きの声を上げる。  
 
「えっえええええええ」  
「さっ佐天さんどうしたんです」  
「しっ白井さんとは最後までいったんですか、そんなまえから付き合ってたんですか」  
「いや、付き合いだしたその日に記念みたいな形だったぜ」  
「――――」  
 声を出さずに目を大きく見開いて口をパクパクと動かしていた。飾利のほうは全く話についていけずに何の事を言っているのか全く理解できていなかった。  
「白井さんはどこに行ったんだろう」と違ったことを考えていた。まぁ中学一年生でもこういった方面に疎い子はたくさんいるだろう。  
 
「佐天さん白井さんはどこに行ったんですか」  
「うっ初春、あんた女捨てすぎじゃない」  
「そっそんなすっ捨ててませんよ」  
「白井さんは当麻さんともうやったのよ」  
「だからやったって何をですか」  
「はははっ、飾利は面白いな…………えっちぃことをだよ」  
 
 当麻は天然でボケる飾利を見て思わず笑い声をあげて、それからちょっと悪戯してみようと、飾利の耳元でそっと何をやったのかをつぶやく。  
そしてようやく理解できた飾利は叫び声とともにおろおろとし始める。  
 
「えっえぇえええぇぇぇ」  
「今日は驚くのが多い日だな、二人とも」  
「だって当麻さんのヒミツがすごすぎるんですって」  
「そうか?」   
「でも御坂さんとは付き合ってないんですよね、確か御坂さんは当麻さんのこと」  
「ああ、俺は答えることしかできないんだ。俺から告白したらそれはひいきになるからな」  
「当麻さんって人気ありすぎですもん」  
「……い…が………しら―――」  
 なにやら飾利が暴走を始めたようだ。なにやらぶつぶつと呟き始めていた。  
俯いてぶつぶつと呟くその姿は明らかに病む一歩手前の症状だった。当麻は涙子と向き合って話をしているために、その光景に気付かなかった。  
 
「そうか……そうだよな。俺から振ることは絶対にないから。女の子のほうから諦めて欲しいんだけど……無理だよな」  
「無理ですね、なるほど。当麻さんの周りに人が集まる原理がわかりました」  
「原理ってそんなのねえって」  
「あります。人を助ける、お礼、断らない、いい雰囲気、君さえよければ、ENDです。あとそれは女の子限定です」  
「………あの〜、涙子さん……私めは男の人も助けていますんでせうが」  
「本当ですか?女の人が絡んでないですよね」  
「ごめんなさい、嘘をついてました」  
「そうですよね。まぁそんな当麻さんが好きなんですけどね。ねぇういは―――」  
「……が……では……い………わた…」  
「飾利、どうしたんだ」  
「……わたしじゃ、ダメ、なんですね、白井さん、みたいじゃないと、だめなんですね」  
「おっおい飾利って」  
「どうしたら、私も……かみ……当麻さん」  
「なっなんだ」  
「当麻さん今日は帰りたくないです」  
   
 飾利は突如そう言って当麻の服を掴んだ、唖然とする涙子。その台詞が出た瞬間、当麻の表情が真面目になり、目が鋭くなる。チャラけた雰囲気は何一つない説教する時のようなシリアスな顔である。  
「飾利、それは自分が何を言っているのか分かってるのか?まさか黒子がしたから自分もするなんて簡単なことじゃないんだぞ」  
「いつもそうなんです。私は引っ込み思案でなにもできないんです。告白だって、佐天さんがやらなかったら、私はできませんでした。私は何も取りえなんてないんです。他の人みたいに――――――」  
 当麻は黙って抱きしめた。そこで飾利の言葉は止まった。自分には取り柄がない、自分には個性がない。  
その気持ちはよくわかった。だがそう考える人物に限って、個性があるのだ。前に相談に乗った少女の場合は料理が上手だったり、髪の毛が綺麗だったりととても個性があった。  
 そして目の前の少女にも誰にも負けない個性があった。それをこの子は知らないだけなのである。  
飾利、可愛いぞ。おまえにしかない個性的なところを俺は知ってるぞ」  
「私の個性的なところ」  
「お前の子の花は見せかけか?俺はお前の笑顔見ていたい。その花に負けないような、その花と一緒のような綺麗な笑顔を見ていたい。まぁときどきは笑顔以外の顔も見たいけどな」  
「花ですか?」  
「ああ、この花も個性の一つだし―――」  
 
とそこで抱きしめていた力を緩めて、そして飾利の顔を一度見てその唇にキスをする。一瞬の触れるだけのキス。そして前髪をどけて額にキスをする。  
 
「とっ当麻さん、なにをするんですか」  
「キス」  
「それはわかってます。そっそうじゃなくてですね」  
「飾利の額にキスして気付いたんだが、キスするとき花の香りがとてもするんだよな」  
「えっあっありがとうございます」  
「あー、ほら涙子も」  
 
 横でむっとしていた涙子を引き寄せて、唇にキスをしてそれから先ほどと同じように前髪をあげて、額にキスをする。  
当然涙子の個性的な髪の毛を撫でる。  
「んっ、ありがとうございます」  
 とそこで当麻がキスをし終わり一歩、二歩下が……れなかった。なんと飾利だけでなく、涙子までもが洋服を掴んでいたのだ。  
しかも二人とも上目遣い。はっきり言おう、これはやばい。  
あまりにもやばい。かわいすぎる、顔を赤く染めて服を掴む。その行為はあまりにもかわいすぎるのだ。  
 
「えっと、ふっ二人ともはっ離してくれると助かるんだが」  
「当麻さん、あたしを当麻さんの……女にして…ください」  
「おっおい、いっいくらなんでも中学一年でそれは早いと上条さんは思うぞ」  
「あたしは当麻さんが好きです、この気持ちを受け取ってくれないんですか。少し人より早いのはわかってます、でも当麻さんが好きで好きでずっと一緒にいたいぐらい好きなんです、それでも駄目なんですか」  
「……俺も涙子のことが好きだ。だから大切にしたい気持ちもあるんだぞ、こういうことは急いでやることでもないだろ」  
「私は当麻さんとの記念にしたいんです。当麻さんが私のことを好きでいてくれることを確かめたいんです」  
「そうか、分かった。本当に二人ともいいんだな」  
「「はい」」  
「ここでしてもいいけど、初めてで野外ってのはマニアックすぎるし、ホテルにでも行くか」  
「ほっホテルですか」  
「ホテルじゃダメか?」  
「そうですよ、当麻さん。だって初春はパンツを見られて喜ぶ露出狂なんですよ。みんなに見られながらじゃないと駄目なんですよ」  
「そっそんなことあるわけないじゃないですか。さっ佐天さんも適当なことを言わないでください」  
「すぐ近くにあるから行くか。ほら、二人とも手繋ごうぜ」  
「――――はっはい」  
 当麻は二人に手を差し出し手をつなぐ。相手を異性と思い始めて初めて手を繋いだ。これから向かう場所のこともあり、一気に体温が上がりそして変な汗が浮かび始める  
   
 
 

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