『嫌よ嫌よも』  
 
 
 
 日が傾くにつれ部屋の中の暗闇が勢力を伸ばし始めた頃、この部屋のベッドの上では幼い2人の少女が、白い肌を重ね合わせて妖しいダンスを踊っていた。  
 衣擦れの音と肉と肉がぶつかり合う音、2人の少女の嬌声と心の暗い部分をくすぐる水音が、2人の少女の様に絡み合って艶美なハーモニーを奏でる中、やがて2人とも体を弓の様に逸らせてひときわ高い声を発すると、同じく同時に脱力してベッドの上に沈んだ。  
 やがて、覆いかぶさるようにしていた方の少女は、ゆっくりと体お起こすと深く長いため息をついた。  
「ああ……、これは『麻薬』ね。もう止められない」  
 満足そうな笑みでそう零したのは、特徴的な長い前髪の下に、これまた特徴的な太い眉毛がチャームポイント――昔はとある事情で大嫌いだったが、これもとある人物に褒められてからは大好きになった――の重福省帆である。  
 一方、  
「くぅ……ぁ……、あ、あんたなんて事すんのよ!」  
 息も絶え絶えながら必死に噛みついて行くのは、この部屋の主でもある佐天涙子である。  
 涙と汗とよだれとそれ以外の何かでぐしゃぐしゃになった顔の中、両の瞳はまだ力を失わずに重福を睨みつけていた。  
 すると重福はそんな佐天の額に張り付いた前髪を指で払いながら、  
「『あんた』、何て無粋な呼び方じゃ無くて『省帆』って呼んでよ『涙子』さん」  
 まるで佐天の態度など気にした風も無く、夢見る様に言った。  
 そんな重福の態度に佐天は、全身をさらに真っ赤に染めて怒りを露わにすると、  
「だ、誰があんたなんか名前で呼ぶもんですか!! も、あんたなんて『あんた』で十分よ!! じ、『重福さん』て呼んで欲しかったらさっさとこの手錠外してあたしを解放しなさいっての!!」  
 そう言って佐天が手を動かすと、がちゃがちゃと手錠が金属音を立てた。  
 それぞれが佐天の手足とベッドの支柱を繋いでいる。  
 何故この様になったのか? それはほんの数時間前の話になる。  
 とある事件から親しくなった佐天と重福は、この日、重福のたっての頼みで佐天の住むこの寮に招かれていたのだ。  
 本当は初春も一緒になるはずだったのだが、彼女は風紀委員(ジャッジメント)の仕事がどうとか言って早々に2人の前から姿を消した。  
 以前から何かと積極的な、一つ年上の妹に戦々恐々としていた佐天だったが、邪険にする事も出来ずに約束通り部屋に招き入れた――それが全ての間違いだった。  
 重福のお手製ケーキを食べて、次に気が付いた時には全裸でベッドに縛り付けられていた。  
 そして、兼ねてから深い関係を望む重福に、『快諾してもらう為』と称して何度も性的に弄ばれていたのだ。  
「涙子さんも強情よねえ。私は一向に構わないんだよ。むしろ『望む所』なんだから」  
「フ、フン! そんな事くらいであたしをどうこう出来るとでも思ってんの? あたしはそんなにお安くないの。だから勝手に値切んないで欲しいわね!」  
 相変わらず余裕の表情を見せる重福に、佐天は神経が焼き切れるほどの怒りを感じたが、ここは相手に乗るまいとあえてこちらも余裕のそぶりを見せた。  
 しかし、  
「『そんな事』ねぇ」  
 そう呟くと、重福は佐天のまだ幼いふくらみの頂点を親指と人差し指でつまんだ。  
「くっ」  
「まだ残り火が? 嬉しいなあ」  
「くっ……、はぁ……」  
 重福の指が佐天の固くなった乳首を転がすと、佐天は先ほどと打って変わって切なげな呻きをあげる。  
「消えないうちに新しい『燃料』をくべましょうねぇ」  
「や、止めろって言ってんでしょ!」  
 悲鳴にも似た叫びで重福を止めようとする佐天だったが、  
「『そんな事』くらいなんだから我慢して。あ、音を上げてもらっても全然オッケーよ? その方が色々と助かるから」  
 そう言って重福は、今日5度目となる佐天との情事を開始する。  
 まずは先ほどまで弄んでいた乳首に舌を這わせる。  
「ひぅ……」  
 佐天の喉から絞り出される声に攻めのポイントを確認しながら、舐め、転がし、時には強く吸い上げると、  
「あひっ、ひぃぃいいいいい」  
 さらには歯を立ててしごく様にこすり上げる。  
 
「駄目っ、駄目ぇぇぇぇえええええええええええええ――――!!」  
 佐天は、強烈すぎる快楽から逃げる様に身をよじるのだが、そんな佐天の乳首の先に、重福は自分の糸切り歯を食い込ませた。  
「きひっ!? いぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぃ……」  
「ふいほふぁん、おほあふふふへへ(涙子さん、大人しくしてね)」  
 涙を流して何度もうなずく佐天に満足した重福は、糸切り歯の拘束を解くと、真っ赤に充血した先端を舌先で丹念に転がした。  
 すると、  
「くふぅん、はぁぁ……」  
 急に佐天が媚びるような鼻にかかった声をだした。  
(うふふ、やっぱりもう『堕ち』始めてる)  
 重福はその感覚を確かめるために大胆な行動に出た。  
「2度目の時に噛まれてからずっと痛かったの。ね、慰めてくれる?」  
 そう言って重福は自分の小さな右の乳房を寄せると、まるで赤ん坊にミルクでも与えるかのように佐天の唇に近付けた。  
 すると、呆けた顔をしていた佐天は、おずおずと口を開いて頭を持ち上げて、その乳房に吸いついたのだ。  
「きゃふ! す、ステキよ涙子さん……。私がしたみたいに、したみたいにして……」  
 狂乱する重福の言葉に、佐天は従順に命令を実行する。  
 先ほど自分がされた様に、舐め、転がし、時には強く吸い上げる……。  
「何これ!? 違う、全然違う、あひ、ひひ、ふふううううう……」  
 佐天の責めに我を忘れてさらに乱れる重福は、貪欲に快感を求めて佐天の頭を自分の乳房に押しつける。  
「いい!! もっと吸って!! もっと吸って!! 噛んで!! 噛んでええええええええ!!」  
 狂ったような重福の叫び、佐天はそれに答える様に――、  
『コリッ』  
「――――――――――――――――――――――――――――!!」  
 佐天の歯を通して軟骨を噛んだ様な音が聞こえたその時、重福の体がばねの様に跳ねあがった。  
 重福の乳首が千切れた訳ではない。  
 証拠に佐天の口の中には血の味は全くしない。  
 それでも声も無く右の胸を押さえて、何かに耐える様に天井をまっすぐに仰いて震える重福を、佐天はただぼおっと下から眺めていた。  
 やがて、  
「あ゛う゛っ」  
 何か空気の抜けるような呻き声を最後に、重福は佐天の隣にばったりと倒れた。  
「あふっ」  
 重福の重みに佐天は小さくあえぐ。  
 するとそんな佐天の耳に小さくあえぐような小さな声が聞こえてくる。  
 その声に顔を横に向けると、そこには焦点の合わない瞳でよだれどころか涙と鼻水まで流している重福の顔。  
「(るぅ……いひぁ……、わら……わらひ……駄目ぇ、へ、えへ、えへへ……)」  
 なおもぶつぶつと何か呟く間抜け顔を見ていると、何だか彼女がすごくいとおしい様な気がして来て、  
(初春ぅ……、早く助けてくんないと、あたし『堕ちちゃう』よぉ……)  
 佐天は自分の気持ちにただただ混乱していた。  
 
 
 
END  
 
 

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