最近上条当麻の部屋に猫が来るようになった。
既に同居人が一人と一匹居るために正式に飼っているという訳ではない。
たまに遊びに来て帰っていくだけである。
それだけなのだが自分に懐いて甘えてくる猫に悪い気がするはずもなく、上条はいつしか猫が来るのを待ち望むようになっていた。
しかし都合よく同居人がいない時にしか来ないのは狙っているのだろうか。
一度猫に聞いてみたが答えは返ってこなかった。
学校を終え帰宅した上条が部屋に入ると猫が迎えに来てくれた。
今日は同居人がいないから来るかなと思っていたが見事に予想が当たってくれたようだ。
しかし毎回なぜか部屋の中にいるがどうやって入っているのだろうか?
まさか合鍵を勝手に作って入ってきているとでもいうのだろうか。いや流石にそれはないだろう。
上条は馬鹿な考えを振り払い、出迎えてくれた猫をぎゅと抱きしめて頭を撫でてやる。
さらさらの毛並みは感触がよく撫でた手に心地良さを与えてくれる。
猫も嬉しいのだろうペロペロと上条の顔を舐めてくる。
その際に唇に触れてくるのが上条には何ともいえない。
それを誤魔化すように、上条の手は猫の喉を撫でてやる。
一通り可愛がってやると上条は猫に付ける首輪を用意する。
普段は付けずにこの部屋に来た時だけ首輪を付けるというのも可笑しな話だ。
上条としてもそんな可笑しな事をせずに、ずっと付けていてもらいたいのだが猫が嫌がる為に断念させられているのである。
上条が顎を上げ、首輪を付けてくるのを猫は素直に受け入れる。
猫も上条の残念さが分かるのかこの部屋にいる時だけは素直に首輪を付けるようにしているのだ。
勿論猫に付けるのは首輪だけである。
ペットに服を着せるという考えの人間もいるが、上条はそのような考えを持っておらず猫がこの部屋に来たら首輪だけにしている。
猫に首輪を付けてやったら食事である。
遊びに来る猫の為に食べ物を置くようにしているのだが猫はそれを食べない。
何気に育ちが良さそうなので、高いものじゃないと口に合わないのかと思ったのだがそうではないらしい。
何せ上条の作ったものなら何でも喜んで食べるのだ。
つまりせっかく来たのだから上条の作ったものが食べたいという事なのだろう。
しかし今日は猫があまりお腹が空いてなさそうなので何か作る必要もなさそうだ。
上条は猫専用の浅皿を台所から取り出すと床に置き、ミルクを注いでやる。
猫は浅皿に顔を近づけると舌を伸ばし、ぴちゃぴちゃと美味しそうに舐めだした。
そんな猫が上条には可愛らしく、微笑ましく感じられた。
猫はしっかりと最後まで舌を伸ばして浅皿のミルクを飲みきる。
上条がミルクの付いた指を差し出すとそれさえもペロリと舐めてきた。
食事も済んだ所で入浴である。
猫と一緒にお風呂に入ろうとするのだがいつも嫌がる。
毎回入っているし、嫌がった所で無理矢理入れるのだから慣れて欲しいものなのだが猫は慣れてくれない。
時には毛を逆立て抵抗してくるのだが右手で撫でてると抵抗も止む。
そしていざ入ってしまうと急に大人しくなる。
まあ上条も全裸なので下手に暴れられると危険な事が起こる可能性もあるので大人しい事はいい事だが。
さっとお湯を掛け、石鹸の泡を立て、その手で上条は猫を洗う。
洗うのは最初はタオルなどを使っていた。
しかし素手でやった方が洗いやすいのと、素手の方が猫も気持ち良さそうという事で素手になっている。
首筋からお腹周り、指の一本一本まで丹念に擦りあげる。
そして掌で体中を撫で回し、優しく、それでも徹底的に弄ぶかのように洗っていく。
正直そこまでするのか言うくらい洗っている。
上条は猫の御主人様みたいなものなので飼っている責任としてこれくらいはしないと思っている。
この頃になると猫は気持ち良いのか気が抜けた風になっている。
一度気が抜けすぎて失禁した事があるのだがその時は上条も焦ったものだ。
流石の猫も自分の失態に気が付いたのか嫌いにならないでと、泣きそうな顔で無言の懇願をしてきた。
勿論上条がその程度で嫌いになるはずがなく、失禁の跡を綺麗に掃除してあげたが。
食事も入浴も終え、何事もなければ後はまったりと過ごすのみである。
できれば犬みたいに散歩に連れて行きたいのだが猫が嫌がるので出来ないでいた。
流石に犬みたいに街中を歩き回るのは猫は無理だろう。
だから人のいない夜の公園とかだったらゆっくりできそうで猫でも大丈夫だろうと思い、
一度外に連れて行こうとしたのだが本気で抵抗されてしまった。
そこまで嫌なら仕方がないと諦めたのだったが上条としてはいつか散歩をしたいと思っている。
そんな上条の気持ちとは裏腹に猫は上条とまったりと過ごす時間が好きなようだ。
上条の膝の上に乗ってきたり、擦り寄ってきたりと甘えて、とてもご満悦のようだ。
特に何をするわけでもないけど一緒にいて幸せな気持ちにさせてくれるのが猫だ。
そんな猫が可愛いから、まあいいかなと思ったりもする上条だった。
寝るときも上条と猫は勿論一緒だ。
同居人もいない為に猫とはちゃんとベットで寝ている。
その際シーツなどはきちんと洗ってあるものを使っている。色々な意味で拙いからだ。
一緒に布団に入ると、猫はここぞとばかりに擦り寄ってくる。
マーキングでもしているのではないかというくらい擦り寄ってくる。
そんな猫が可愛いから上条は、つい抱き締めてしまう。
抱き寄せた猫は暖かく、綺麗に洗った身体は良い匂いがして、触っていて気持ちいい。
だから寝る前につい戯れたくなってしまう。
猫と寝るようになってから寝るだけの日は一度もなかったりする。
あんまり遊びすぎると入浴の時と同じように失禁するかもしれないので程々にしなければいけないが。
流石にシーツが汚れるのは勘弁して欲しいのである。
それと戯れる時は、猫に大きな声で鳴かれたら色々問題であるから出来るだけ上条は静かにするようにしている。
静かにするようにしていると言ってもそれは弄ぶ手を緩めるのではなく、猫の口を押さえて無理矢理鳴かせないようにしているのだが。
特に隣の部屋の土御門に聞かれたら色々言われそうなので上条としても気を付けなくてはならない。
尤も猫はよく鳴く為に既にばれていて、生暖かく見守られている可能性も否定出来ない所である。
そして近隣住人もそうだが同居人に対してもばれそうで上条は恐れていた。
猫と遊んだ影響で一人寝にしては乱れたシーツ。誤魔化しはしているが匂い等でばれないだろうかと不安に思う。
猫と一緒に寝ている事は同居人達は知らないがもし知ったらどうするのだろうか。
猫だしいいかと言ってくれるだろうか。猫なんか駄目と言うのだろうか。
答えを知るには同居人に確認するしかないが上条にはそれが出来ないでいた。
何故なら駄目と言われ猫と一緒にいられなくなるという事になって欲しくないからだ。
それは状況の先延ばしに過ぎないがまあ出来ないものは出来ないのである。
色々と不安要素もあるが、遊び疲れた猫の寝顔を見るとどうでもいいかと上条は思う。
腕枕が好きな猫の為に腕枕をしてやりながら上条も眠りについた。
上条が起きると猫はいなくっていた。
いつもの事なのだがベットに残った温もりが、上条を寂しい気持ちにさせる。
だからこの寂しい気持ちを埋める為に、街中で会うとツンツンしてる猫を街中で可愛がってやろうと、
ちゃんと街中を首輪だけでも付けて歩かせ自分のものだとアピールしなければと上条は決意する。
その首輪はどうしたかなと探すと、何時の間に外したのか猫の首輪は枕元に置いてあった。
それを見て上条はふと思い出した。
そういえば首輪に名前を彫る予定だったと。
ちゃんと美琴と名前を彫ってあげよう。きっと美琴も悦んでくれるはずだ。
そう思い上条当麻はニヤリと笑った。
終