イギリスで起きた一連の騒動――英国の第二王女、キャーリサによるクーデター――は、上条当麻たちの活躍により一応の終結を迎えた。  
 しかしその一方で、ローマ政教『神の右席』右方のフィアンマによってインデックスが昏倒すると言う思わぬ事態が発生していた。  
 上条は早速、ロシアに向かったフィアンマを追って旅立つ事を決めたのだが――、  
「酔いつぶれちゃいやしたね」  
 床の上に大の字になってひっくり返った上条を跨いで、その顔を覗き込んでいる赤毛の少女――アニェーゼ=サンクティスは、  
三つ編みを揺らせてくるりと後ろを振り返ると、テーブルの周りで騒然として立ち尽くす女性たちに肩をすくめてみせた。  
 その言葉に、皆一様に椅子に座りなおすと深いため息をついた。  
 ここは、イギリス国内に点在する必要悪の教会(ネセサリウス)所有の建物の一つ、有事の際の拠点になるべき場所である。  
 今ここは臨時の女子寮として機能しているのだが、あの騒動の後、すぐにでも飛び出そうとする上条を引き止めた一同は、新たな戦の前に腹ごしらえは如何と上条をここに招待した。  
 と言えば聞こえはいいが、実際には治療を終えたばかりの上条が病院から出て来た所を強制的に拉致したのだ。  
 最初は不承不承連れてこられた上条だったが、料理の旨さと、何より彼女たちの真摯な気遣いに、ひとまずこの時間を楽しもうと決めた。  
 綺麗処に囲まれての食事は、今の上条にとって、一時的とはいえ本当に心の安息をもたらしてくれた。  
 ただ、安息が得られたのは良かったのだが、何時しか食事会は飲み会へと変わり、そして結果は酔いつぶれる(この)始末である。  
 上条が大丈夫だと判った面々は、それぞれに乱れた心を鎮めようとしていた。  
 そんな中、  
「そうですか。私はてっきり……」  
 そう心配そうに呟いたのは、長い黒髪をポニーテールに結んだ女性、神裂火織だった。  
 神裂は、それ以上の言葉は口にせず、目の前にあったグラスを手に取ると、一気にそれを飲みほした。  
 すると隣でワインをジョッキであおっていた褐色の肌をした金髪の女性――シェリー=クロムウェルは、  
片眉を上げて、ちらりと神裂に視線を投げると、ジョッキをテーブルの上に置いた。  
「『てっきり』って何よ?」  
「いえ。私はまた、上条当麻が先の戦闘で受けた傷が響いて倒れたのかと思って……」  
「はっ。幻想殺し(こいつ)がそんなヤワなたまかよ? 私のエリスもそうだったけど、あの伝説の英国最大の霊装『カーテナ=オリジナル 』を拳一つで破壊してのけた奴よ」  
「し、しかしですね」  
「大体、あのデカイのも言ってたじゃねえか?」  
 シェリーの言葉に、その場にい合わせていた者は、『あのデカイの』こと、ウィリアム=オルウェルと名乗った男の言葉を思い出す。  
『この男が、これしきの事では止まらない事、今更私が口にする必要も無かろう。ふん。この者の運命、既に我々人知の及ぶ所では無いのかも知れんのであるな』  
 一度なりとも上条と刃を交えた者、はたまた助けられた者にとって、確かにウィリアムが言う通り、上条の身を案ずるなど『今更』の言葉であった。  
 神裂もそれが判ったのか、肩の力を抜くと、  
「そうですね。いささか気にやみ過ぎていたようです」  
「そう。ほっときゃいいんだよそんな奴」  
「あらぁ、それにいたしましては、先ほどのシェリーの驚いた顔も……。まあ、確かに皆さまがお気になさる気持ち、私も判るのでございますよ?」  
 二人の話に割って入るにしては、いささかのんびりとした声に、神裂とシェリーは同時に声のする方に振り向いた。  
「オルソラ?」  
 神裂からオルソラ、と呼ばれた、鮮やかな金髪を肩の辺りで切りそろえた白い修道衣の女性は、両手でジョッキを抱えながらニコニコとほほ笑んでいた。  
 シェリーはその笑顔を見た途端、褐色の頬を僅かに赤く染めると、舌打ちして乱暴にジョッキを煽った。  
 気が付けば皆の視線が注目する中、オルソラはジョッキの中身を一口、口に含んで飲み込むと、  
「何と申しましても、誰もが気にやむ殿方でございますから、何時までもそのように冷たい床の上に寝かせておいては、風邪などお引きにならないかと心配するのでございますよ」  
 その言葉に、オルソラに集注していた視線が、一斉にある場所に注がれる。  
 それは――、  
「そう思うんなら座ってないで手ぇ貸して下さいよ、シスター・オルソラぁ!」  
 
 今まで忘れられていたが、床の上の上条を何とかしようと1人奮闘していたアニェーゼが悲鳴に近い叫びを上げた。  
 その声に真っ先に反応した神裂は、  
「はっ!? い、今手伝います」  
 慌てて椅子から立ち上がろうとした――ところが、あまりに慌てていたためか、立ち上がる時にテーブルを押してしまった。  
 その拍子に、20人は一度に座れるテーブルが、音を立てて1メートル近くずれる。  
 たまたまそちら側に座っていた者は1名だけ、その1名も、今は床の上に大の字になっているので、テーブルの直撃を受ける者はいない――と言う訳にはいかなかった。  
 今、上条が座っていた位置には、アニェーゼが背中を向けて腰をかがめていた。  
 その、かわいいお尻めがけてテーブルが牙をむく。  
「おわっ!?」  
 アニェーゼが驚きの叫びと共に皆の視界から消えた。  
「アニェーゼ!!」  
 神裂が慌てて名前を呼ぶ。  
 すると、  
「テーブルの下、でございます」  
 既にテーブルの下を覗き込んでいたオルソラが、のんびりとそう伝えてくる。  
 テーブルの下を一斉に覗き込んだ一同が目にしたのは、  
「「「「「あっ!」」」」」  
 上条の上に、重なる様に倒れている、アニェーゼの後ろ姿が見えた。  
「も、申し訳ありません、アニェーゼ」  
 そう言ってテーブルの下に潜り込んだ神裂が目にしたのは――がっちりと腰の辺りを上条にホールドされて、身もだえるアニェーゼの姿だった。  
「アニェーゼ?」  
 呆然と成り行きを見守る神裂と、後からテーブルの下に潜り込んで来た者たちの前で、最初は緩慢だったアニェーゼの動きが徐々に激しさを増して行く。  
 その内、アニェーゼが  
「ふぐっ! ふぐぅ―――――!!」  
 苦しそうなうめき声を上げながら、床をバンバン叩きだした所で、  
「アニェーゼ!?」  
 神裂は慌てて2人に近寄ると、上条の腕を難なく引きはがして、アニェーゼの腰を抱きかかえて引き離した――とその瞬間、テーブルの下にいた一同の耳に、大きな、コルク栓の抜ける様な音が聞こえて来た。  
「はぁ……?」  
 その音の正体を見た、神裂は、理解出来ずに口をあんぐりとあける一方、  
「ふへぇー……」  
 神裂の腕の中でぐったりとしているアニェーゼは、解放された嬉しさか、はたまた別の理由があるのか、呆けた顔の中に幸せそうな笑みを浮かべている。  
「あらあら、上条さんは、『キス』もすごいのでございますのですねぇ」  
 感慨深げにそう呟いたオルソラの声に、錆びついた機械よろしく、神裂の首がぎこちなくオルソラの方を向く。  
「キ、ス?」  
「ええ。立派なキスでございましたよ。最後などは、絡み合った舌と舌がほどけて、銀の糸がつぅーっと……」  
「いいい、いいです、いいです、結構ですから!!」  
 オルソラの言葉に先ほどの情景を思い出した神裂は、顔中真っ赤にしてオルソラの話を遮った。  
 そんな時、  
「神裂さん、シスター・アニェーゼは私たちが。それ以上抱きしめますと、そろそろ……」  
 そう横から話しかけて来たのは、  
「ルチア?」  
 ルチアと名前を呼んだ黒い修道服の女性に言われて、神裂は腕の中を覗き込む。  
 
 すると、腕の中でアニェーゼは、顔色を紙の様に白くさせて虫の息同然になっていた。  
「あ、あ、こ、これは失礼いたしました!」  
 神裂は、またもや慌てると、抱きしめていたアニェーゼをルチアに渡す。  
 ルチアは落ち着いた仕草で一礼すると、  
「シスター・アンジェレネ。私たちはシスター・アニェーゼをお部屋にお連れしましょう」  
 横にいた少女に静かに話しかけた。  
 ところが、  
「え? これから面白くなりそうなのに……」  
 アンジェレネと呼ばれた、そばかすの目立つ幼い顔立ちの少女が、消え入りそうな声で呟いた途端、  
「この場合、返事は『Yes』で結構です」  
 鋭い言葉と、アンジェレネの頬をつまみあげた手の何と手なれた事か。  
「ふ、みみ。ふみい―――」  
 ルチアが再び一礼して、アニェーゼを抱きかかえ、アンジェレネを引っ張って出て行くのを見送った後、まず発言したのはシエリーだった。  
「で、どうするのよ? この危険物?」  
 長い髪をかき上げながら、神裂の方に視線を飛ばす。  
「は? 何でそこで私に振るのですか……、って五和!?」  
 神裂に名前を呼ばれて、おしぼりをギュッと握りしめて、今まさに上条に覆いかぶさろうとしていた五和は、びくっと肩を震わせた。  
「はっ、はは、はい? 何でしょうか女教皇(プリエステス)様」  
「たった今、危険だと話をしていたのですから、貴女は要らぬ決意で話をややこしくしないで下さい」  
 イギリスの夜はまだまだこれからの様だ。  
 

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