「……い、いい加減諦めませうか? インデックスさん」  
そう言った当麻の視界の隅には、幾つもの安全ピンが転がっている。  
無論、ピンというものは何かを繋ぎ止めておく役割がある訳で、今はその役目を果たしていない。  
即ち、今この少女が着ている服──最早ただの布切れは──  
「……ま、まだあと全部で8つも残ってるんだよ! 絶対に諦めないもん!」  
──その隙間から、白い素肌を見え隠れさせていた。  
 
事の起こりは、ほんの些細な喧嘩であった。  
些細な量ではない食事量を当麻が指摘したことから始まり──インデックスが負けじと言い返し  
──いつの間にか主題が逸れて行って───何故か野球拳で決着をつけることになったらしい。  
すぐ傍で聞いていたスフィンクスも、もうここに至るまでの過程が分からなくなった。  
が、これだけは言える。  
色んな意味でやばい、と。  
 
「で、でも次お前が負けたら、前が開……」  
「う、うるさいかもっ! ジロジロ見ないでさっさと続き!」  
怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にさせながら、インデックスが発言を遮る。  
だが、そうしたところでこの現状が変わる訳もなかった。  
11回連続敗北。   
これが、喧嘩慣れした少年と、最近また食事量が増えてきた少女とのジャンケンの結果であった。  
(ええと、どうしよう……勝つのは簡単だけど次勝ったら間違いなく前が開いてうあああああでも俺が負けると今日の晩飯がうあああああ!)  
頭を抱える当麻に構わず、インデックスは十数秒目を閉じた後、小さく「よしっ」と呟いた。  
「覚悟が変わらないうちにさっさとやるかも! ジャーンケーンッ!」  
ちょっ!と少年が制止をかける前に、勝負は始まっていた。  
物凄い形相でインデックスが腕を振り上げる。  
(あああああああああああ! ええい、ままよ!)  
「「ポンッ!」」  
 
 
インデックスは、その拳を覚悟の証というかのように硬く握り締めていた。  
対する上条は  
(……あああああああああ勝っちゃったああああああ)  
へなへなと力の抜けたパーだった。  
 
 
「………」  
静寂の中、インデックスは勝敗のある二つの手を見つめていた。  
やがて、少女の口から少しずつ言葉が紡がれる。  
「……まけは……負けだもんね……ひっ、ひとつ外す……」  
少年の方を見ずに、俯きながら安全ピンへと手を伸ばす。  
「ちょっ、ちょっと待て! 俺も許してやるからここは一つ引き分けってことで手を打たない」  
か……? と当麻の最後の言葉と同時に、最後の鍵が外された。  
そして、その布の扉は、重力に従いゆっくりと開かれていく。  
やがて扉の下から、少女の白い素肌と、小さなふくr………  
 
 
 

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