ここは学園都市のとある学生寮。  
その一室、上条当麻の部屋で、無機質なアラームが鳴り響いた。  
「……うだぁ………、眠い……」  
上条はベッドからよろよろと起き上がりアラームを止める。今日は平日なので、  
眠かろうと何だろうと学校なのだ。  
「…………う……」  
上条の隣でぐずるような小さな声がした。  
隣で上条の腕を抱え込んで眠る人は、布団から真っ白な髪と透き通るように白  
い首筋を覗かせている。  
その寝顔は子どものように素直で、整った顔立ちにキメの細かい白い肌、半開  
きの唇まで、ひたすらに美人だった。  
ぐっすりと眠っているらしく、けたたましいアラームもほとんど効果がない。  
「……………ゴクッ」  
最近成長の著しい柔らかいものが腕に当たっていて、上条は沸き上がる欲望を  
振り切るようにブンブンと首を振る。  
「よっし、飯にすっかな〜、ははは〜!!」  
上条はぐぐーっ、と伸びをしてベッドから降りた。  
「一方、ご飯だぞーっ!?」  
小さなガラステーブルにホカホカの温かい朝食を並べて、上条は未だに夢の中  
にいるお寝坊さんを起こしにかかった。  
充電器に繋がれたチョーカー型の電極を取り、ぼんやりと目を開けたねぼすけ  
に渡してやる。  
カチャ…カチャ………、カチ。  
受け取った指先は、震えながらも慣れた手付きで首やこめかみに取り付け、ス  
イッチをいれた。  
「飯だぞ?起きて来いよ、一方」  
「……………ねむ……」  
「はいはい。ホント朝弱いな……」  
のろのろと起き上がったのは、学園都市第一位の超能力者、通称、一方通行。  
もちろん本名はあるのだが、長く使われなかったため覚えていない、と一方通  
行は言っていた。なので、上条は親しみを籠めて一方[アクセラ]と呼んでいる。  
食後の缶コーヒーを呷る一方通行を視界の片隅に置いて、上条は学校へ行く準  
備を整える。  
「じゃあ、洗濯物だけ――」  
「わァってっから、さっさと行けェ」  
「ん、行ってくる! 出来るだけ早く帰るから!」  
「ン……行ってらっしゃい……」  
柘榴のように紅い瞳を微妙に逸らして、気恥ずかしそうな挨拶の言葉を受けて、  
上条は家を出た。  
 
(あいつが挨拶するようになるなんて、あの時には考えられなかっただろうな…)  
登校途中、一方通行と同棲するようになったきっかけを思い返す。  
 
魔術と科学の戦争も終わり、大切なものを全て守り抜いて学園都市へ帰ってき  
た。  
統括理事長が消失した後も、この学園都市は学生の街として、表面上は何も変  
わらずに機能している。  
やっと平和が戻った。そんな時に2人は偶然出会った。  
イギリスの都合で強制送還されたインデックスに代わるように、上条の前に現  
れたのだ。  
成り行きで彼の事情を知り、友達と呼べる関係になった。  
思いがけず裸を目撃してしまい、彼が『彼女』であることを知る。  
腹を割って話し、上条は自分を不幸だと語るのが恥ずかしくなるほど彼女の心  
が傷ついていることを知った。自分の手で幸せにしてやりたいと思った。  
しかし、同じ時間を2人で過ごし、心を許してくれるようになった今でも、度  
々思い出したように彼女は苦しんでいる。それほどに彼女の心の闇は暗く大きく  
濃いものだったと知らしめられた。  
幸せにしてみせると、強く心に決めた。  
理不尽から守り、彼女の言う光の世界を彼女自身も歩けるように。  
彼女の大切な人達と一緒に、みんなで幸せだと心から笑えるように。  
 
(……インデックスは、どうしてんのかな)  
ふと思い出すのは、今は近くにいない少女。  
心配していたが、この前の手紙にはたくさんの魔術師仲間に囲まれて幸せそう  
な彼女が写真に写って同封されていた。腹一杯ハンバーグを食べているのだろう  
か。  
デレデレのステイルを見れば、素直に返して良かったと思えてくる。もう、間  
違った方向に使わせないだろうし、彼女はちゃんと愛されていて、そこがいるべ  
き場所なのだろうから。  
 
上条の記憶は、もう3年もの思い出を保存していた。  
取り敢えず1限に遅刻しないようにと、上条は大学へ走りだす。  
 
「なんかね、もう信じらんない!! ってミサカはミサカはぷんすかしてみたり!!」  
「そォかよ」  
「そうなの! 下位個体のくせに生意気〜、ってミサカはミサカは愚痴ってみる!!」  
学生寮の一室で、一方通行は打ち止めと話していた。  
なんでも、最近さらに個性らしきものが強く出てきたらしく、ボーイッシュに  
なったり、サーフィンにハマったり、アメリカ人に恋をしたり、Sになったり、伊  
達眼鏡をかけてみたり、手料理に凝ってみたりしているらしい。  
数人、チビな上司の命令に逆らってみる個体までいたりして、最近ミサカネッ  
トワークは荒れてしまっているのだ。  
「俺は代理演算さえしてくれンなら問題ねェ。別に好きにすりゃァいいじゃねェ  
かよ」  
「あー! そんなこと言って、代理演算とか面倒なので止めます、とミサカは一方  
通行にざまぁです(笑)、とかそのうち言い始めても知らないんだからね! っ  
てミサカはミサカは楽観的なあなたに危機を感じさせてみる!!」  
「楽観視してるわけじゃねェよ。オマエらがそォ決めたンなら、そォすりゃァい  
い。俺に文句言う資格なンざ、最初っからねェだろォが」  
打ち止めは一方通行の横顔から微かな恐怖と絶望を感じとって、自分の発言を  
後悔した。  
一方通行は怖いのだ。  
今、喋って歩けている自分は、打ち止めの気まぐれで失ってしまう仮の自分だ  
から。  
「ごめんね……? ミサカがそんなことさせないし、みんなも本気であなたを手  
伝おうって思ってるから心配ないよ……、ってミサカはミサカは軽はずみな言  
動に反省したり………」  
……ぽす。  
うなだれた打ち止めの頭に、一方通行が手を乗せた。  
「……?」  
くしゃくしゃ…。  
不器用な愛情表現に、打ち止めはしばらくぽかーんとして、それから嬉しそう  
に笑った。  
「約束するね! ってミサカはミサカは指切りしてみたり!」  
 
「ただいまー」  
玄関から家主の声が届いて、打ち止めはぱたぱたと走っていく。  
「おかえりなさーい!! ってミサカはミサカはカミジョウをお迎えしたり!!」  
「はいはい、上条さんですよー!」  
「……おかえり」  
「ただいま、一方」  
「……ケガ……したンかよ」  
「はは…、いつものことでございますのよ?」  
腕に包帯を巻いている上条に、一方通行は嫌そうな顔をした。打ち止めも痛そ  
うな顔で見つめている。  
上条は苦笑するしかない。  
ふと、打ち止めの携帯が鳴った。黄泉川が迎えにきたらしい。  
「じゃあ、ミサカそろそろ帰るね? ってミサカはミサカは2人に言ってみる」  
「あァ」  
「下まで送るな?」  
そうして2人は打ち止めを送り、部屋に帰ってきた。  
一方通行の援助を受けている上条の新居は、綺麗で高校の時よりも広く、それ  
なりに防犯設備もある。  
それでも一方通行は念入りに玄関のドアを施錠して靴を脱いだ。  
「おかえり!」  
一緒に帰ってきた上条に迎えられ、一方通行は微笑む。  
「ただいまァ」  
されるままに抱きしめられて、一方通行は上条を見上げた。まだ身長が伸びて  
いる上条は一方通行より少し高い。  
「キスしていい?」  
「聞くなァ」  
一度では済まない口付けをして、上条は嬉しそうにキッチンへ向かった。  
 
夕食もお風呂も済ませ、2人はパジャマで二人掛けのソファーに座っている。  
上条は家計簿をつけているらしいので、一方通行はテレビに目を向けた。  
(つまンねェな………)  
内容は問題ではない。上条と一緒ならどんなことだって楽しいはずなのに。  
心ここに在らずでテレビを眺めていたら、ふいに温かい腕が伸びてきた。  
パジャマ越しに感じる包帯が無性に腹立たしい。  
「一方……、」  
「悪かったなァ、暗い顔ばっかりでよォ……」  
「お前がニコニコ笑ってたら怖いぞ?」  
上条は一方通行の雰囲気が出かける前と違うことに気付いていた。何かが、彼  
女の心を痛め付けているのだ。  
上条はその原因の1つを知っている。腕に巻いている包帯だ。  
「今日はただ転んだだけなんだけどな……」  
「…………っ」  
何だか抱きつきたそうにしている一方通行をしっかりと引き寄せると、温もり  
を求めるように頭を預けてきた。そして、堰を切ったように胸の内を吐き出す。  
「あの、な。人間なンてのは、簡単に死ぬンだ……。俺がそばにいたら、このケ  
ガもしなかったンかよ…? なァ……、ここまで信じちまって、大好きでかけ  
がえないモンを失ったらァ……」  
人の感触を確かめるように肌を撫でてくる。一方通行は大切なものを失うこと  
を、一番恐れている。  
上条はそうやって悩んでいる一方通行を愛しいと思うし、話してくれることが  
嬉しかった。  
「俺はそう簡単に死なねぇぜ? インデックスが『とうまは神様のご加護を消し  
てるけど、神様の試練も打ち消してる』って、前にも言っただろ?」  
一方通行はいつもそれで納得してくれる。それでも、こうやって思い出したよ  
うに不安になるらしい。  
「……俺が守ろォ、って思ったモンは……、思うほど失いそうになンだ……」  
「何だよ、その幻想……。そんな幻想、俺がブッ殺してやるよ!! お前は俺が守  
るからもう傷つかなくていい…。打ち止め達は2人で守ろうぜ? 1人でやら  
なきゃいけない理由なんてないんだからさ!」  
思いっきり抱きしめたら、一方通行は苦しそうな声をあげた。弱気な一方通行  
は何だか可愛い。  
 
「ン……、『約束』なァ……」  
「あぁ、約束する。つーか、素直だな? 聞き分けがすごーく良いと思うのです  
が……?」  
「負けたヤツが強がンな、ってェ、オマエが言ったンだろォ……。信じてみたら  
いけねェのかよ?」  
「信じてくれんのか……。そっか、ありがとうな、一方!! よっし、また一歩前進!」  
上条は家計簿を取ると、今日のページの端っこに「アクセラのしんらいが2あ  
がった」とか書き込んでいる。  
俺はドラゴンのつく、世界に誇れるRPGのキャラかなンかか? と一方通行は  
口の中だけで呟いた。  
(つーか、2って少ねェよ! 3ケタなかったらブッ飛ばすぞォ、オィ!!)  
そこまで思って気付く。楽しい。  
(あァ…、イイな、こォいうの…)  
「あれ?なんだ、嬉しそうだな?」  
「ン……」  
一方通行は上条の胸板に顔を押しつけてきた。  
能力が使えなくなるまで、ほとんど人に触れてこなかったし触れられたことも  
なかった彼女は、人の温もりを大切にしている。  
打ち止めの前では最強であると決めたため、最強でないことがわかっている上  
条の前だけでしか甘えた姿を見せない。弱音を吐いてくれるのも、チョーカーの  
充電中の姿を自ら晒してくれるのも、上条の前だけだ。どれほどに信頼を寄せて  
くれているかは数値化出来ないだろう。  
「絶対に裏切ったりしないからな……」  
「うン……」  
「お前に嫌われてもそばにいるからな……!」  
「……今更どォやって嫌いになンだよ……」  
「……浮気すんなよ?」  
「テメェがなァァ!!」  
「何を言います! 上条さんがいつ他の女性に手を出しました!? 少なくとも、  
お前以外とエッチしないし!!」  
「……それ以外はしたンかよォ……?!」  
「いやいやいや!! 好きでキスしたんじゃないですよ?! あれは事故なのであっ  
て……うわっ、黙って泣きそうにならないで!?」  
「フン、俺には汚れたモンがお似合いかよォ……」  
「ちょっ、誤解したままいじけないでーっ!! え、聞く耳なし?! 不幸だ〜…」  
 
部屋に1つしかないベッドに、2人は腰掛けている。  
かなり長い時を共にしているが、ベッドを買おうという話になったことはなか  
った。小さいけれど一方通行がソファーを買ってしまったし、上条が添い寝した  
時の一方通行の寝付きが物凄く良いため、当たり前のように同衾だ。  
今まで破局しなかったのは、偏に上条の血の滲むようなジェントルマン精神の  
お陰だろう。  
しかし、いくら紳士を気取っても所詮は思春期の少年なわけで、最近は休日だ  
けでさえ我慢が利かなくなってきている。  
が、彼女を大事に思うと、今日はそばについていてあげるのが一番な気がする。  
「当麻ァ、テレビ消しといてなァ」  
「……うん」  
上条がテレビと部屋の電気を消すと、一方通行はサイドテーブルのランプを点  
けた。  
豆電球1つだけが部屋をぼんやりと照らしている。  
上条がベッドに戻ると、一方通行はおとなしく座っている。  
「一方?」  
「……えっちしねェの?」  
「え……、だってお前……、いいのか……?」  
「……うン」  
小さく頷いた一方通行を抱きしめて、軽いキスをした。  
白い髪を梳くように撫でると、一方通行は気持ち良さそうに身動ぐ。  
前髪をかき上げて額に唇を当て、もう一度唇を重ねた。舌を絡めるとぎこちな  
く応えるのが堪らなく可愛い。  
「………ふ、」  
「気持ちいい……?」  
「うン……。なァ、今の俺と、電極外した俺……ッは、……どっちがイイ……?」  
形の良い鎖骨を強く吸われ、一方通行は思わず吐息を漏らす。  
「どっちも好きだよ。チョーカーないと、レイプ目だからなぁー。案外積極的だし!」  
脳に障害を負って、物事の善悪や損得がわからなくなった一方通行は、言葉も  
理解できないしほとんど動けないものの、上条の喜ぶことを探そうとするし、本  
能のまま求めてくれる。  
「でも、すっごい恥ずかしがってるお前も可愛いと思うぞ?」  
「ゥ……、そォかよ… 」  
 
大きいわけではないのにだぼついているパジャマ越しに、控えめな胸を押す。  
「ひゥ……ッ!!」  
「敏感だな……!」  
プチプチ、とパジャマのボタンを外すと、とても華奢な体つきに、白いすべす  
べの肌が現れる。  
胸の先っぽは色素がないため、桜色だ。  
「……ァ…………、」  
「は……、つーか……なんでそんなこと聞くんだ……?」  
「……この俺は本当の自分じゃねェ、って思っただけだァ……。………あ、あン  
ま、見ンなよ…っ」  
くびれや腰付きはまだ残念な感じだが、少しずつ女性らしくなってきている。  
会った頃には皆無と言っても過言でなかった胸も、今では女の子にしか見えない  
程度はある。  
「朝起きて、バランスよくご飯を食べるってのは素晴らしいですな……?」  
上条は荒れそうな呼吸を抑えて、胸を口に含む。  
「ァ、あァァ……ッ」  
舌で転がされ、優しく吸われて、一方通行は刺激に堪えられず口を塞ぐ。  
胸を弄っていた上条の腕が一方通行のズボンにかけられる。  
 
……くちゅ。  
 
上条の指先は一方通行の濡れそぼった蕾に触れ、湿った音を響かせた。  
「……ンっ……、ンうゥゥ……!」  
上条は一方通行の胸から顔を上げて、下着ごとズボンを脱がせる。ほぼ見えな  
い薄い真っ白な地毛と、色素のない秘所、女の子では長めの細い脚が顕になった。  
くちくち、と指先を入れながら、彼女の手を口元から剥がす。  
「ンあっ……!ぐ……っ、ゥ……ゥあッ!!やっ、あっ、ァ、はっ……!!」  
「……ッ、……も、もう限界……っ!!」  
 
いそいそと服を脱ぎはじめる上条を横目に、一方通行は熱で溶けてしまったよ  
うな脳で考える。  
(俺がアヘ顔晒すことになるなンて、一度でも思ったかァ…?)  
それでも、彼と1つになれることに幸せを感じる。もう、彼の前では強さや意  
地などどうでもいい。  
ふ、と肩の力を抜くと、上条が先走ったのをダラダラ垂らしているのが見えた。  
上条の手が膝に乗せられ、一方通行は高まる緊張を紛らわせるように彼の背中  
に腕を回す。  
ズブッ……、と熱と質量を持ったものがゆっくりと彼女の中に入ってきた。  
「ゥ、ううゥゥゥっ!!!」  
「は……っ、ふぅ……っ!!!」  
労るように緩やかに始まったピストン運動が段々速くなり、お互いに経験則で  
もう絶頂に近いことを感じる。  
「と、当麻……ッ、とォまァッ!!!!」  
「んん……ッ、だ、出すぞ!!?」  
「あンっ、あッ、ああああァァァァァッッッ!!!!」  
「きっつ……っ……ううぅ、ッッ!!!!」  
 
 
 
 
 
「ぎゃあ、ゴム忘れたーッ!! 途中まで覚えてたのに!!」  
「……るせェ……」  
溢れてくる白濁に上条が騒ぐと、一方通行は億劫そうに首筋へと手を伸ばした。  
「…………ゥ……」  
「ご、ごめんなさい……」  
上条はドロリ、と吐き出されたそれを拭って、一方通行を窺う。顕微鏡クラス  
の細かい演算に疲れたのか、彼女はすでに意識がない。  
上条は電極のスイッチを通常に戻して布団をかけ、一方通行をそっと抱き寄せ  
た。  
「幸せそうな寝顔だな……」  
 
 
Fin.  
 

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