それは奇妙な二人組だった。五百人程度の客が収まるであろう映画館に二人きりというだけで異様なのに、中学生ぐらいの少女とそこら辺の路地裏にいそうなチンピラが肩を並べて映画を虚ろな目で見守っていた。
どこか犯罪の匂いを感じさせる二人組であったが、会話からは気だるい雰囲気しか感じられなかった。
「あー。やっぱ死んだか。まぁ、予想通りだなー。」
「お、浜面も超解ってきましたね。」
「そりゃぁな。どっかで見たことあるような映画のテンプレ通りの展開だからなー。まぁ、あの落下系ヒロインはこの映画の唯一の見所だったんだが…。」
「まぁ、浜面の頭の中ではあのヒロインはバニーさんに超変換されていたんでしょうけど、超残念でしたね。」
「そこまで俺をバニー好きにしてーのかよ…。」
がくーんと、脱力する浜面と呼ばれた少年は恨めしい目で少女を見る。
「うわ。超キモいんですけど。私までバニーに超仕立てあげたいんですか?」
「いや絹旗の貧弱な体じゃバニーは無理だな。それはバニーへの侮辱になる。」
絹旗と呼ばれた少女はビキィ!!とこめかみに青筋をたてると
「ほぅ。浜面は命が超要らないようですね。」
「おーい絹旗さーん?そ、その握りこぶしは何ですかー?って、おい!マジかよっ!?」
浜面が必死に座席から飛び出すと、ゴシャァァと愉快な音を立てて、浜面が背中を預けていた座席は無惨にも爆散した。
「うわぁ…ひでぇ。」
浜面はかつて座席であった残骸に顔を青くしながら黙祷を捧げると、キッと破壊神を睨み付けた。
「おいてめぇ!30分とはいえ、この糞みてぇなB級映画に付き合ってくれた、戦友になんてことしやがる!」
絹旗はふんと鼻をならすと
「超残念でしたね。浜面。これで浜面に味方するものはこの映画館には超いなくなりました。さぁ、超素直に死を受け入れ、超安らかに逝きなさい。」
「ヒィ!」
轟!!と再び死神の鎌(拳)を振り下ろす絹旗。それを必死にかわす浜面。
二人きりの映画館は、余りにも一方的な殺戮現場(キリングフィールド)へと変貌した。
ドゴォン!バゴォン!
愉快な破壊音が映画館に反響する。その絶望的な破壊から浜面 仕上は必死に逃げ回った挙げ句、息を潜めて物陰に隠れていた。
「ちきしょう!何だってこんなことになったんだよ!!」
浜面は小声で毒づきながらチラリとスクリーンを見る。当然ながら、さっきまで呑気にみていたB級映画が映っていた。丁度今、クライマックスに差し掛かったようで、主人公の男が見るからに発泡スチロールで作りましたよー的な武器を持ったゾンビに追われている所だった。
「ちきしょう!絹旗の方がよっぽどホラーだぜ!」
浜面は、『もしこのB級映画が面白かったらこんなことにはならなかったのにー!』と、心の叫びを上げていると
「はーまづらぁ。超どこですかぁー?あんまり逃げ回ると超ブチ殺し確定ですよー。」
と、浜面としては思い出したくない台詞が、絹旗アレンジで聞こえてきた。
「それ!洒落になってねぇから!」
蘇る記憶に身震いしながら浜面はつい抗議の声をあげてしまった。
「やはりトラウマと言うものは超効きますねっ!」
浜面の心的外傷を見事に抉った絹旗はニヤリとあくどい顔を見せると、浜面目がけて一直線に進む。これは決して誇張でもなんでもなく、座席も何もかもを吹き飛ばして進んでいく。
彼女の能力は『窒素装甲』窒素を体に纏わせる事により鉄壁の防御ととてつもない攻撃力を誇るまさに化け物(レベル4)なのである。
「し、しまった!人の心を揺さ振ってくるとは…流石大魔王!」
「誰が大魔王かっ!」
そんな感じの鬼ごっこ(浜面としては命懸けの)が30分程続いた後、浜面は遂に袋小路に追い詰められてしまった。
「遂に超追い詰めました。超浜面。辞世の句を詠ませる時間を超与えましょう」
さぁどうしてくれようか!フハハハハハーー!と、今にも高笑いが聞こえてきそうなオーラを醸し出しながら、大魔王は浜面ににじり寄る。
対して浜面はゼェゼェと息も絶え絶えに力なく大魔王を見つめていた。
「好きに…しろよ…。」
浜面はありったけの哀愁を込めてボソリ言ったが
「うわ。超キモいんですけど。浜面は何処まで行っても超浜面ですね。」
と、バッサリと切られてしまった。
完膚なきまでに打ちのめされた浜面はガクリとうなだれたまま動かなくなってしまった。
「フフン。心は超完全に破壊されたようですね。これ以上やるのは流石に超可哀想なので、バニーの件を撤回するなら許してあげなくもないですよ?」
と、慈愛の微笑みを浮かべる絹旗。それを受けて浜面は目に再び力を込めて、はっきりと言い放った。
「それは無理だ。バニー教の教えに反する(キリッ」
「……。」
ゴゴゴゴゴゴ。
地鳴りとも思える絶望的な雰囲気が絹旗を包む。
「言い残した言葉は超ありませんね?」
浜面に止めを刺す為に彼女は拳を振りかぶる。
それに足掻くように浜面は両手を絹旗に向ける。
そこで神のいたずらか、浜面の両手は絹旗の慎ましくも確かに主張するバストに吸い込まれていった。