「だー。超つまんねー」
「毎回思うんだがそんなツマラン連呼すんなら来んのやめようよ!?」
絹旗最愛と浜面仕上が毎度のごとく居座っているのは、薄汚れた映画館である。
今回は絹旗の要望によりさらにどマイナーな作品を上映する映画館であるため、場末としか言いようのない雰囲気は普段の二割増しであった。
「む、浜面超分かってませんね。こういうてんで超ダメダメな作品群の中にこそ、隠れた原石が潜んでいるのです。浜面だって前にアタリを引いたでしょう?」
「まあ確かにあのシースルーの作品は良かったけどよって痛てぇぇぇーっ!?コラ思い出し怒りで俺を蹴るんじゃねえ!」
「浜面の癖に!超浜面の癖にこの私を差し置いてアタリを鑑賞するとは!殺す超殺す」
絹旗はゲシゲシと割と洒落にならない力で浜面に蹴りを加えている。
痛ててーーーっ!といい年した男が女子中学生の手でかなり本気の悲鳴を上げているのはこの上なく情けなかったが、痛いものは痛いのだから仕方がない。
暴行を加えているうちに絹旗も落ち着いてきたので、話題を変えることにする浜面。
「ったく…。付き合わされてるのに蹴られるとか勘弁しろよオイ。というかなんで彼女持ちなのに他の女にホイホイ呼ばれてんだ」
「…浜面。妄想は超結構ですがそれを他人にまで超語らないで下さい。ぶっちゃけ超キモイです。超引きます」
「妄想じゃねえ!!お前だって知ってるだろうが!滝壺だ滝壺!」
いやまあ超知ってますけど、と絹旗はつぶやく。しかし、ああでも、と前置きした後に、
「滝壺さんに超聞きましたけど。浜面って超ヘタレですよね」
「げぶふぉっ!?い、いや、何を突然」
「二人っきりの時に超雰囲気作って超迫っても、超キスまでしかいかない男を世間じゃヘタレと超言います」
グッサァ!と絹旗の言葉は浜面の心を鋭利に抉っていく。
「んな事言ってもな…。滝壺だって退院したばっかだし、あまり無理はさせらんないだろーが」
「しかし女性が超望んでいるのですから男はそれに超応えるべきかと。ま、浜面には超無理かもしれませんが」
「いいや俺だってやる時はヤルね!なぜなら男はすべからく狼であって俺も男だから!!」
「そんな事言って浜面超ウブじゃないですか。病院の時とか私のパ、パンツの時も超鼻血だしてましたし。」
パンツ、の部分で絹旗が少し赤くなったが、暗がりで自分のヘタレ疑惑弁明にいそしむ浜面は気付かない。
「あ、あれはだな、丁度のぼせたんだ!あとパンツの時はもう仕方ない!!そもそも俺は露出度が高い恰好が好きなんであって別にバニーフェチって訳じゃ――」
そんなこんなでヒートアップしてきた時、二人の視線がふとスクリーンに及んだ。
『ふァッ、あん、ああ…』
なんか丁度濡れ場に突入していた。
しかも結構過激にディープキスしていた。
そのまま画面内の二人はベッドインし、暗転する画面と、間を空けて明かりを取り戻する館内。
雑談に熱中していてほとんど見ていなかったが、どうやら先ほどの二人がそういう関係になるまでを描いた短編だったようだ。
話していた話題と相まって気まずいことこの上ない。
浜面はとっとと帰ろうと思い、
「お、おい、帰るぞ」
と声をかけて立ち上がった。
絹旗も気まずそうに立ち上がる。
と、ここで問題が起きた。
二人は映画を見やすいように館内の真ん中あたりに席取っており、しかも二人ともが無意識に相手側の出口から出ようと席を立ったのである。
二人の人間がお互いにそうするとどうなるか。答えは明白だ。
『ッ!?』
ゴロゴロと音を立て、共に絡み合って地面へと転がる浜面と絹旗。
そして、
(〜〜〜ッ…。…って、おい!?)
唇が重なっていた。浜面は即座に起き上がり、言い訳する。
「すっ、スマン!!いやでもホラ事故!な?ガチで事故だって!」
呆然として地面に横たわっていた絹旗だが、浜面の言葉を聞いて起き上がる。
「…超百歩譲ってパンツは良しとしましょう。いえ、超良くありませんが」
いやあれお前のせいじゃん!!とこの状況にも関わらず過去の弁明を行う浜面は完全無視して言葉を続ける絹旗。
「キスは無理です超ブチ殺しますがよろしいですかよろしいですねというかブチコロシ超確定いぃーーーーっ!!!」
「なんか超デジャヴーーーっ!!」
映画館への配慮を捨てた絹旗は、ドゴォ!!と『窒素装甲』による当たれば絶対に死ぬレベルの一撃を浜面に向ける。
叫びながら逃げる浜面を追いながら、絹旗は思う。
(あの空気であんな事になっておきながら超一瞬で言い訳を超始めるのが超ヘタレだっつってんですよ浜面ぁぁっ!!)
もしかしたら、少女が激怒する理由は浜面の想像とは少し違うのかもしれない。
それに気づく者は、まだいない。
本人でさえも。
超おわり