『心の距離』  
 
 
 
 街中を足取りも軽やかに歩く1人の少女がいた。  
 打ち止め(ラストオーダー)と呼ばれるその少女の服装は、いつものワンピースでは無く、ピンクに無数のリボンとレースをあしらったロリータファッションである。  
 楽しそうに、踊る様に、くるりくるりとその場で回ると、トレードマークの頭のてっぺんにあるアホ毛も、それに合わせてくるくると円を描く。  
 その、まるで絵本の中から飛び出して来たお姫様の様な愛らしい姿に、すれ違う人たちは脚を止めて笑顔を向けるのだった。  
「おい」  
 そんな打ち止めの背後から不機嫌そうな声がかかる。  
「なぁにっかなぁー? ってミサカはミサカは軽やかぁーに振り返ってみたりー」  
 そう言って振り返った先には、上から下まで真っ黒のゴスロリルックで固めた少女が立っていた。  
 服装とは対照的な、腰の辺りまである真っ白な髪をストレートと、前髪の影に見え隠れする赤い瞳が印象的なその少女は、その端正な顔に憮然とした表情を浮かべ、  
「1人でさっさと歩いて行くンじゃねェ。テメエを探すのにどンだけ苦労するか判ってンのか? それから何度も言うけどよォ、テメエはまっすぐ歩くって基本的な能力が欠落してンじゃねェのか?」  
 近づいてくる際に地面に突いた杖が、少女の苛立つ心を代弁するように乾いた音を響かせていた。  
「それはミサカが調整に失敗したってそう言う事? ってミサカはミサカはあなたの失礼な物言いに憤慨してみたりっ」  
「あァ? 誰もそこまでは言ってねェだろうが。そう言うのを世間じゃ『被害妄想』っつうンだよ、この馬鹿」  
 そう言いながら黒ゴス少女は、杖を持っていない方の手を持ち上げると、打ち止めの額を細く白い指で軽く弾いた。  
「痛ぁーい! ってミサカはミサカは涙目になって大事なミサカの脳への影響を心配してみたりぃ!」  
「ざけんな、このクソガキ。そのくれェの事で一々脳ミソが破壊されてたら、とっくの昔に俺なンざこの世にいやしねェよ」  
 額を押さえて涙目になる打ち止めを前に、黒ゴス少女――の格好をさせられた一方通行(アクセラレータ)は、自分のこめかみに人差し指を当てて、ぐりぐりと手を動かした。  
「何かまだ機嫌が直らないみたいだね? ってミサカはミサカはあなたの不機嫌そうな顔を覗き込んでみたり」  
「直る訳ねェだろが」  
 そう言って大きくため息をつくと、  
「テメエはよォ、少しは自分の置かれた境遇っつうもンを考えた事があンのか? 俺らはただでさえ狙われる身だ。それが何だってこンな人目を引くような格好で街中歩かなくちゃ――何だ? にやにやしやがって」  
「あなたは本当に心配性だね、ってミサカはミサカはあなたに心配されるのが嬉しくて微笑んでみたり」  
「チッ」  
「それにそれにー、納得したからその格好したんじゃなかったっけー? ってミサカはミサカはさりげなぁっく突っ込んでみるー」  
「ゥ……、クソッ! あァ、確かに覚えてンよォ。『目立つ格好して、目立つ場所にいる方がかえって襲撃者をけん制出来る』っつうンだろ?」  
「そう! なぁんだー、てっきり黄泉川の言った事覚えて無いかと思ったよ、ってミサカはミサカは及第点の答えにあなたを称えて抱きしめて頭を撫で撫でしようと思うったけどッ、うーん!! と、ど、か、な、いーッ!」  
「だッ!? おォ、コラ。な、にしやがンだァ、この、クソガキ! 人前でそォいう事ァすンじゃねェって、オォイィ! 人の話をォ、き、聞きやがれェ!」  
「あの頂きに見えるミニシルクハット(しるし)を掴むまでミサカは諦めはしない! ってミサカはミサカは頂上目指して孤軍奮闘してみたりっ!」  
「テメエは目的が変わってンじゃねェか!? このォ、何人ン体で登山気分を味わってやがンだ下りろコラァァァアアアアア!!」  
「きゃあああああああああああ!?」  
 必死の思いで打ち止めを振りほどいた一方通行は、上がった息もそのままに、ぐちゃぐちゃになった服装を整える。  
「ッハ、ハァ、ハァ、ンッ……、クソガキが……疲れンだよ……ったく……」  
 やがて服装も呼吸も整え終えると、彼が復活するまで隣で大人しく待っていた打ち止めに向き直る。  
「いいかァ? よく聞け。じゃあ確かに目立つのは仕方がねェ。それは諦めるとしてもだ――何だって俺がこォンな女の格好しなくちゃいけねェンだよ? し、か、も、普通の格好ならまだしもよォ――」  
 そう言って、鮮やかなレースが重ねられたスカートの裾を嫌そうにつまみあげると、  
「ゴシックアンドロリィタってのは、マジあり得ねェだろ?」  
 
 一方通行にしては珍しく、ちょっと弱気な、困ったような表情に、  
(かわいいなんて言ったらここで裸にでもなりそうだから黙っとこう、ってミサカはミサカは喉元まで出た言葉をのみこんでみるー)  
 打ち止めは、にやけそうになる顔を必死に我慢する。  
「それも黄泉川が言ってたじゃない? ってミサカはミサカはまたまたあなたの記憶力を疑ってみたり。しかもあの時あなたもちゃーんと納得してたじゃない、ってミサカはミサカミサカは往生際の悪いあなたをビシッと指さして言ってみる」  
「うぐッ」  
 目の前に正論を突き付けられると、さしもの一方通行も何も言葉が出てこない。  
 一方通行は思い出す――  
『今用意できる変装はこれしか無いじゃんよ。この格好ならだぁれも黒ゴスちゃんが一方通行だって気付かないじゃん。ほらオッケー。これで2人仲良く出かけてくるじゃんよー』  
 ――確かに黄泉川の言った通り、2人がこの表通りに出てからと言うもの、これでもかと言うくらい人目を引いていた。  
 そして、誰も黒ゴス少女が男(アクセラレータ)だとは気付いていない様子だ。  
 一度は自分の存在が隠されるのに反対したのだが、彼の力が抑止力になったのは昔の話。  
(今の俺じゃあ、むしろ存在を知られねェ方が安全っつゥ事なンだろうなァ)  
 その事実を思い知るに、一方通行は無意識に小さく舌打ちする。  
 だから今の今まで、お互いに電話で連絡はしても、直接合う事は拒んで来たのだ――それが、これ以上打ち止めを危ない目にあわせない正しい方法だと信じて。  
 しかし彼の考えとは裏腹に、打ち止めは自分を探して求めて何度も安全な場所から飛び出して来てしまう。  
 その事実を前に一方通行は、自分の決意が大きく揺らいでいくのを感じていた。  
 このままでは取り返しのつかない事になる――そう考えた末、あえて信念を曲げて打ち止めに会いに来たのだ。  
 しばし、その複雑な思いに囚われていたせいで、気付けば打ち止めが心配そうに自分を見つめていた。  
 しまったと感じた一方通行は、慌てて話題を変えようと努力する。  
「あ、え……。し、しっかしよォ、急ごしらえって割には、ミョォにこう、俺の体にジャストフィットしやがンのは、どォ言う訳なンだかなァ?」  
 そう言いながら、右に、左にしなを作って見せる奇妙な光景に、しばしあっけにとられていた打ち止めだったが、  
「そんな事より今日は久し振りだから、たぁーぷりと付き合ってもらうんだから、ってミサカはミサカはあなたの背中を全力全開で押してみたり!」  
「うォ!? バカッ、こ、危ねッ! い、いきなり押すンじゃねェ、このクソガキ! てかいきなりじゃなくても押すンじゃねェ! 俺は脚がわりィンだから勝手に歩くからテメエが合わせろ」  
「それならさっさと歩いて欲しいかもー、ってミサカはミサカは今度はあなたの手を全体重で引っ張ってみるっ」  
「だァァかァァらァァァアア! 押しても駄目なら引いてみろとか止めろって言ってンだろうがァ! うォ!? わ、判った! 俺が悪かったから手ェ引くのだけは勘弁しろォ。バランスが、取れねェだろうがよォ!」  
 どなり声を上げながら、打ち止めに手を引かれてよたよたと歩く一方通行は知らなかった。  
 実の所と言うか、一方通行が疑った通り、この黒ゴス衣装は芳川と黄泉川の2人が事前に用意していたのだ。  
 しかも――、  
(秘密のクローゼットにはまだまだいーっぱい衣装――何故か女物――があるのは黙っておこう、ってミサカはミサカは楽しい事がいっぱいあるのはいい事だよねって心の中で言ってみる)  
 一方通行は、満面の笑みをさらに深くする少女に、そこはかとなくうそ寒いもの感じて天を仰ぐ。  
(コイツがはしゃぐのは正直マジでウゼェが……、ま、今日一日くらいはな……、このツラ見たら我慢してやるしかねェよなァ)  
 漠然とした不安とは別に、これならもっと早くに会うんだったなと感じていた。  
 
 
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜  
 
 
「こんどはあっちあっちー、ってミサカはミサカはショーウインドウに向かって突撃してみるー」  
 ガラスが息で曇るほど張り付いていた打ち止めが、また別の店に向かって走り出す。  
 先ほどからこうして、ずっとウインドウショッピングに興じている2人――と言えば聞こえは良いが、楽しんでいるのは1人だけの様である。  
 今の今まで黙って付いて来た一方通行だったが、先ほどの決意もどこへやら、そろそろ我慢の限界の様子だ。  
「うわぁー、かわいい子犬だよー! ってミサカはミサカはこの子の仕草に釘付けになってみたり」  
「おい」  
 ガラスに額を擦りつけて、中にいる子犬たちの気を引こうと奮戦する打ち止めをに、不機嫌さ全開でぶっきらぼうに声をかけた。  
 
 しかし、  
「キャー! こっちこっち、こっちだよー! ってミサカはミサカはこの子気を引こうと必死にアピールしてみる!」  
 聞こえていないのか、はたまた無視されているのか、打ち止めは一方通行に見向きもしない。  
「おい、ラァストオォダァ! テメエは呼ンでンのが聞こえねェのかァ!」  
「もぉー、そんな大声出さなくたって聞こえるよ、ってミサカはミサカはあなたの空気の読めなさにがっかりしてみたり」  
 打ち止めに、軽くため息混じりに非難された上に、  
「やぁーん! ころころしててかわいいー! ってミサカはミサカはこの子の愛らしさにメロメロになってみたりー」  
 一方通行は、思いっきり目の前で無視された。  
 その瞬間、彼のこめかみに太いミミズのような青筋が浮かび上がると、  
「ラァアストオォォダァァァアアア」  
「?」  
 低い――まるで地獄の底から響いてくるような声に、打ち止めは背中に氷でも突っ込まれた様な悪寒を感じて飛び上がる。  
 そのまま振り返った先にいたのは、  
「テメエは自分の行動も省みずに、よくもまァ俺にそンな口がきけたもンだよなァ」  
「あ、あのぉ……。な、何を怒ってるのかなぁ、あははは、ってミサカはミサカはあなたにさりげなぁく聞いてみたり」  
「いやいやァ、ぜェンぜン怒ってなンかいねェよォ? ハハハ。むしろ楽しくて楽しくてよォ」  
 その言葉通りに、黒いルージュを引いた唇が、ゆっくりと三日月のような笑いの形に裂けてゆく。  
「そ、その割に肩なんか回してるのは何故かなー? ってミサカはミサカは危険を感じてあなたから遠ざかってみたりっ」  
「あ? なァに逃げてンだよラストオォォダァァ。動くと狙いが外れンだろォが――俺ァテメエには無駄に痛ェ思いをさせたくねェンだよォ」  
「じゃ、じゃあ平和的にお話で解決は? ってミサカはミサカはグッドアイデアを提案してみるっ」  
「残念だが、そォンな選択肢はとっくにねェンだよなァ。じゃあ、覚悟はいいよなァ? 答えは聞いてねェけど」  
「ひ、ひええええ!? こ、ここはひとつ超緊急事態につきミサカはあなたの演算しょ――」  
「させっかよォ!」  
「にひゅい――――――――――ッ!?」  
 打ち止めがミサカネットワークに演算処理の停止指令を送る前に、一方通行は神業的スピード――これはミサカネットワークの力では無く、彼の怒りが起こした一種の奇跡だ――で、打ち止めの頬を抓りあげた。  
「クカカカカカ。そうそう毎度毎度同じ手に引っかかるかっつうンだよォ!」  
 今、痛みで集中できない打ち止めは、ミサカネットワークにオーダーを送る事が出来ない。  
 それは、彼女の唯一にして最高の対一方通行への切り札を失う事を意味していた。  
「ひゅふえ! ひ、ほふははひほふははひっ! ふぇひはははひははははわわっひふふー!!」  
「ヒャハハハハハハハハハハ。なァに言ってンのかぜェン然判らないンですけどォ? ヒハハハ。少ォしは懲りたかァ、このクソガキィ」  
「ふひゅへへ――――――――――――ッ!!」  
 柔らかい頬を堪能するように、上下左右に引っ張りながら、ご満悦で馬鹿笑いする黒ゴス(アクセラレータ)と、言葉にならない叫びを上げて、腕にしがみつく白ロリ(ラストオーダー)。  
 この奇異な2人組の姿に、街行く誰もが目を逸らして、見て見ぬフリを決め込んだ――ただ、1人を除いては。  
「おい、何があったか知らないけどかわいそうだろ? もうその辺でやめてやれよ」  
「アァ!? 今ァ大事な教育中なンだよ!」  
 折角、生意気な打ち止めの鼻を明かしてご満悦だった所を邪魔されて、瞬時に怒りを爆発させた一方通行は、その怒りを込めた眼差しに殺意ブレンドして振り返った。  
「大体テメエ誰にモノ言ってンだか判ってンだろォ……ァ……」  
 何なら腕の一本も引き抜いてやろうかァ? と言う気持ちで放った筈の言葉は、目の前に立った人物の顔を見た瞬間に凍りついた。  
 背丈は自分と同じくらい。  
 黒髪をつんと立たせた少年は、あの時と同じように力強い眼差しでこちらを見据えていた。  
 一方通行は、あまりの衝撃に打ち止めの頬を捕まえていた手が離れたことにも気付かない。  
「……さい……じゃ……グフッ!?」  
「?」  
 
 思わず零れそうになった心の声を、一方通行は自分の口を手で塞いで文字通り必死で飲みこむ姿に、かつて彼が『最弱』と呼んだ少年――上条当麻はしばし唖然とした後に、  
「だ、大丈夫か?」  
「ングッ、こ、こっち見ンなッ! クソッ、ち、近寄ンじゃねェよ!」  
 上条に心配そうに顔など覗きこまれて、どんな顔をして良いか判らない一方通行は必死に背を向けた。  
(チッ。なンで、最弱(コイツ)がここにいンだよ? いや、可能性は当然あったンだが、俺がそれを考えなかっただけだ。クソッ、どうすりゃいい? いや、焦る必要はねェ。無難にシカトキメてここから立ち去りゃ――)  
「またまた助けてくれてありがとー! ってミサカはミサカはあなたに抱きついてみたりっ!」  
「!?」  
 この場を立ち去ろうとしていた矢先に、打ち止めに阻止された格好になった一方通行は呆然として振り返る。  
 その目の前では、打ち止めが頭から勢いよく上条の横っ腹目がけて突進していた。  
「うぐおっ! 脇腹が……不幸だ……って、誰かと思えば、お前、打ち止めなのかッ!?」  
「あ! ミサカの事覚えてくれてたのね、ってミサカはミサカは嬉しくて頭をなでてみたり」  
「あ、いや……どうも……」  
 目線を合わせるためにしゃがみこんだ上条の頭を、満面の笑みで撫でる打ち止めと、少々困惑気味だが子供のする事とそれを受けいれる上条。  
「そう言やお前、あれっきりだったけどあの後色々あっただろ? 大丈夫なのか?」  
 あの後とは、神の右席、前方のヴェントが学園を強襲した時だ。  
 あの時、打ち止めは風斬を制御するために異常な状態に置かれていたと聞いていた。  
 その後は、黄泉川の家に引き取られて元気に暮らしているとは聞いていたのだが……。  
「うん、全然問題無いよっ! ってミサカはミサカは走り回って元気な所をアピールしてみたりー」  
「ははは。そうか。そりゃ良かったな――で、今日はどうしたんだ?」  
「今日はデートなの! ってミサカはミサカは誰はばかることなく言ってみるっ」  
「ブッ!」  
「「?」」  
 一方通行が、打ち止めの言葉に思わず吹き出してしまうと、それに気付いた2人の視線が集中する。  
 その事に一方通行は慌てて顔を逸らす。  
(こ、このクソガキィ、よりにもよって最弱に余計な事言いやがって……)  
 そんな一方通行から、視線を打ち止めに戻した上条は、  
「そっか、デートか……。楽しそうだなお前」  
「うん、すっごくすっご―――――――く楽しいよッ! ってミサカはミサカはミサカの気持ちが少しでもあの人に届けばいいなぁなんて思いながら言ってみたり」  
「うん?」  
「あは、あははははははは……、ってミサカはミサカは照れ笑いでごまかしてみたりー」  
 打ち止めの反応に、上条は状況が飲み込めずにキョトンとする。  
 その一方、  
(打ち止め……)  
 一方通行は、先ほどはにかみながらそう答えた打ち止めの言葉が頭から離れない。  
(俺はテメエの何を汲みとれていねェンだ?)  
 急に湧き上がって来た、言いようのない焦燥感がじくじくと心を蝕む。  
 打ち止めを守れなかった時とも、打ち止めと会えなかった時とも違う。  
(何なンだァこの感じは……? 打ち止めは目の前にいるってのに、携帯で話してっ時より遠く感じンのはよォ……)  
 やがて、焦燥感は孤独感に、孤独感は怒りへと変換されて行き――、  
(クソッ! こンな所ァさっさと立ち去るに限るぜ)  
 そう思った瞬には、杖の音も高らかに2人の間に割って入っていた。  
「おい、もォいいだろテメエ。それともなンだ? 横合いから手ェ出して来て、人ン連れかっ攫うつもりか?」  
「そ、そんなつもりは……」  
「そんなつもりはねェったってなァ、結果そうなってンじゃねェかよ!」  
「そ、それはアンタが往来で打ち止めに暴力なんか振ってるからだろ?」  
「ざけンなボケ。ありゃコイツの我がままを直すための、キョ、ウ、イ、ク、テ、キ、シ、ド、ウ、だ」  
「はあ? アンタ、何子供相手にムキになってんだよ? 小さいんだから少しくらい我がままだって仕方ないだろ?」  
「はァ? 何寝言ほざいてンだテメエは? 大体、テメエは良くも知らねェくせにひとのカテイジジョウに首突っ込ンで来ンじゃねェよ」  
「知らなくたって首くらい突っ込むだろ? アンタ、少しはこの子を大事にしてやれよ」  
「ケッ。うちはスパルタ教育なんだよ。アマちゃンはアマちゃン同士、他所で乳繰り合ってくれよ」  
「ち、乳くっ……て、このっ。お前ホントは打ち止めの事どう思ってんだッ!」  
「あ? どォ思っていようとテメエに教える必要はねェなァ」  
 
「このぉ……可愛くねー奴だなッ! 俺は打ち止めの事――」  
「ざけンなテメェ、死にてェのかッ!!」  
「な、うへッ!? ゴ、ゴメンナサイ」  
 何だか突然激高した黒ゴス少女の迫力に、上条は思わず条件反射的に謝ってしまう。  
「ハァ、ハァ……俺が可愛くてたまるか……」  
「(な、何で俺の周りに現れる女ってばこんなばっかなんだ? チ、チクショウ、不幸だぁ……)」  
(……知るかこのタァコォ)  
 上条の呟きに心の中で履き捨てた一方通行は、渦中の張本人のくせに楽しそうに傍観者を決め込んでいた打ち止めに視線を投げる。  
「行くぞ、打ち止め」  
 全ては終わった、とばかりに一方通行は上条に背を向けた。  
「え? う、うん。じゃあまたね、ってミサカはミサカはちょっと後ろ髪惹かれつつもあなたの言葉に従ってみる」  
 一方通行の後を追って、打ち止めも足早にそこから離れて行く。  
 すると、先ほどのショックから立ち直った上条が、  
「あッ!? な、なあ打ち止め」  
「え? ってミサカはミサカはあなたに呼ばれて振り返ってみる」  
「お前が探してた『あの人』ってのには会えたのか?」  
「うん! ちゃんと会えたよ、ってミサカはミサカは即答してみたり」  
 その言葉に、上条はにっこりとほほ笑むと、  
「そうか、良かったな」  
「うん! ってミサカはミサカはあなたの言葉に力いっぱい賛同してみたりっ」  
 上条につられるように、打ち止めもにっこりとほほ笑む。  
「なあアンタ」  
「まだ何かあンのかよ、テメエは?」  
「アンタは知ってるのか?」  
 知ってるのかとは、打ち止めの探し人――つまり、多分、一方通行(じぶん)の事だ。  
 一方通行は、あえて考える様なそぶりを見せた後、  
「ああ……、どうしようもねェクズでクソでロクデナシなら1人なァ」  
「そうか――じゃ、伝えてくれるか? 『打ち止めを幸せにしてやってくれ』って」  
「ハァ?」  
 上条の言葉に、これ以上ないくらい怪訝な表情を浮かべると、  
「それはテメエが口出しする様な筋合いじゃあねェと思うンだけどなァ。どォ思うよ?」  
 呆れを通り越して、感心する様な口ぶりでその事を指摘した。  
「そ、そうか? そうだよな……。あれ、おかしいな俺? あれ? 何で?」  
 何故急にそんな事を言いたくなったのか自分でも判らずに混乱する。  
 そんな上条を見ていると、一方通行は苦笑せずにはいられなかった。  
(世の中こォンなお人好しがのうのうと生きてられンだから不思議なもンだぜ)  
「――おせっかいヤロォ。ンな事ばっかやってて、勝手にそこらの三下なンかにヤられンじゃねェぞ」  
「……ぇ?」  
 我に返った上条が聞き返した時には、既に黒ゴス少女と打ち止めは、背中を向けて手を繋いで歩き出していた。  
 暫く、雑踏を無言で歩いていた一方通行だったが、  
「あのヤロゥ、実は一方通行(おれ)だって気付いて言ってンじゃねェだろォなァ?」  
「さあどうだろうね? ってミサカはミサカは考えても無駄だから適当に相槌を打ってみたり」  
 その言葉に、チラリと打ち止めに視線を送ると、妙に満足そうな笑顔を向けられて、ドキリとした。  
 何が嬉しいのか判らない一方通行だったが、そこでふとある事を思い出した。  
「なァ、打ち止め」  
 
「なに? ってミサカはミサカは急にあなたに名前を呼ばれてドキッとしてみたり」  
「何で店ン中に入らなかったンだ? 金の心配なら要らねェンだぞ? 前にも言ったが、使う当てもねェ金が掃いて捨てるほど――」  
「欲しいものは無いの、ってミサカはミサカはあなたに正直に言ってみる」  
「あァ?」  
「もう欲しいものはねぇー、手に入ったんだよ、ってミサカはミサカはあなたの右手にぶら下がってみたりー」  
「…………」  
「あれ? うっとおしいとか言わないの? ってミサカはミサカはあなたのいつもと違う様子に驚いてみたり」  
 その言葉にちらりと顔を見たが、一方通行は何も言わずに視線を前に戻すと、  
「ヤロウの気が変わって追って来ねェ内にさっさと行くぞ」  
 質問とは別の言葉を返す。  
 さらに、  
「取り合えず腹ごしらえだ。折角出張って来たンだからよォ、たまにはちったァマシなもンでも食うとすっか」  
 マシが何と比べてマシなのかは不明だが、2人でする食事は久しぶりだ。  
 その言葉に、暫くキョトンとしていた打ち止めは、  
「それなら『ファミレス』って所がいいなぁ、ってミサカはミサカは積極的に提案してみるー」  
 拳を天に突き上げて、楽しそうに笑う打ち止めを横目に、  
「ファミレスだァ? そンなにいいもンかねェ。俺ァあンまいい想いではねェンだけどなァ……」  
 そうぼやきながらも、一方通行の足は既にファミレスへと向いていた。  
 
 
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜  
 
 
 食事を終えた後も街中ぶらつき倒した2人は、今は夕暮れの近づく公園のベンチに座って休んでいた。  
 手持ちの収穫はゼロ――結局、打ち止めは何一つ一方通行にねだりはしなかった。  
 一方通行は、缶コーヒーの最後の一口を煽ると、深いため息をついた。  
(少し離れ過ぎちまったのか……それとも会わねェ内にコイツが成長したのか……)  
 あれから色々彼なりにアプローチしてみたのだが、結局、一方通行には打ち止めとの心の距離は埋められなかった。  
『――少しはこの子を大事にしてやれよ』  
(ンな事ァテメエなンかに言われなくったって判ってんだよ)  
 頭の中を過ぎる上条の言葉に毒づいてみても、心の迷いが晴れる訳も無く、一方通行は再びため息をつく。  
 自分では打ち止めの事を大切に思っていても、打ち止めが自分を好いてくれる実感が持てない。  
(いよいよ致命的だなァ、こりゃ……)  
 そして、また、ため息。  
 ぼぉっと、そんな取りとめのない事を永遠と考えていた一方通行は気づいていない――今の無防備な自分を、心の底から心配そうに見つめている目があると言う事を。  
(もう! 今日のあなたは本当に上の空だね、ってミサカはミサカは声には出さずに心配してみたりっ。こうなればとっておきの方法であなたを振り向かせるんだからっ! ってミサカはミサカは思いつきを即実行に移してみる)  
 そう心の中で何かを決心した打ち止めは、急にベンチから下りると一方通行の目の前に回り込んだ。  
「ンァ?」  
「我がまま言ってもいいかなぁー? ってミサカはミサカはしょんぼりしているあなたに聞いてみたり」  
「うン? 言う前に確認するたァ随分殊勝な心がけだなァ」  
 その言葉に少しはにかんで見せた打ち止めは、  
「あの……、欲しいものがあるんだけどぉ、ってミサカはミサカはあなたにおねだりしてみたり」  
「お? 今更おねだりかよ? で、何だよ? 何が欲しいのか早く言ってみろ」  
 一方通行は、じらす事も無く打ち止めに先を促す。  
 内心では、これを突破口に打ち止めの気持ちを理解できるかもと言う気持ちでいっぱいな一方通行。  
 
 今、打ち止めが世界を欲しがれば、世界だって手に入れてやるくらいのつもりでいるくらいでいた。  
 すると打ち止めは、そんな一方通行の頬を挟み込むように手を当てた。  
「ゥン?」  
 こンなひと気のない場所で耳打ちなンてないよいよ何が欲しいンだコイツァ? とそう不思議に思っても、別段何の警戒心も湧かない。  
 むしろ早く話してみろと思っていた一方通行は――次の瞬間、打ち止めに唇を奪われていた。  
 自身の唇に、柔らかい感触を感じて頭の中が真っ白になる。  
 驚きに見開かれた真っ赤な瞳も、脳に何の情報も送ってこない。  
 やがて気が付けば、目の前には頬を染めてはにかむ打ち止めの顔があった。  
「……な、ンのつもりだァ、打ち止め?」  
 やっとの思いで絞り出した言葉は、彼らしくも無く弱弱しい。  
「あなたの唇はコーヒーの味だね、ってミサカはミサカはちょっぴり苦い大人の味にドキドキしてみたり」  
「ナニを言ってやがる?」  
「あの時みたいにして欲しいなぁ、ってミサカはミサカは恥じらいつつもお願いしてみたり」  
 あの時みたいにして欲しい――その言葉に、かつて2人が共に暮らしていた頃に戯れに互いの温もりを求めあった時の記憶が蘇る。  
「な、あ」  
 気が動転して言葉も出ない一方通行に、打ち止めはもう一度口づけをした。  
「最近はひとり身で何かと人恋しいの、ってミサカはミサカは冗談めかして本音をあなたにぶつけてみる。こんなミサカにしたあなたには責任をとる義務があるんだよ? ってミサカはミサカはきゃ!?」  
「テメェ……自分が何言ってんだか判ってンだろうなァ?」  
 乱暴に手を取られて言葉を遮られた打ち止めは、一方通行の脅しの様なセリフに無言でうなずいた。  
 すると一方通行は、やおらベンチから立ち上がると、  
「来い」  
 打ち止めの手を引いて歩きだした。  
 やがて一方通行は、人目の付かない様な場所に足を踏み入れて行く。  
 夕日も街灯の光も届かない薄暗い雑木林の中、ひときわ太い幹に打ち止めを両手をひとまとめにして押さえつけた。  
「ここでするン――――」  
 困惑気味の打ち止めの言葉を遮る様に、一方通行は噛みつくように唇を重ねる。  
 既に開かれていた打ち止めの唇にやすやすと浸入した一方通行の舌は、打ち止めの幼い舌の出迎えを受けると、挨拶代わりにその柔らかい舌に自分を絡めた。  
「ンフッ、フッ、フッ」  
 舌をくすぐる様に擦ると、むず痒さから打ち止めが鼻を鳴らす。  
 次に、舌の根までギュッと絡めて絞り込むように強くしごくと、  
「フホ、オ゛ォ、オンォ……」  
 今度は喉の奥からくぐもった嗚咽が漏れる。  
 やがてお互いの唾液がブレンドされたものを奪い合うように貪る2人の接合部からは、粟立った唾液と卑猥な水音が、とめどなく溢れていた。  
「あぶ……」  
 打ち止めが小さく呻くと、膝を震わせて落ちそうになる。  
「ぷァ? まだ堕ちるには早ェ」  
 そう言って打ち止めを幹に寄りかからせた一方通行は、打ち止めの目の前に両膝をついた。  
 そして、打ち止めの着ているワンピースのボタンに手をかけると、外そうとするのだが、  
「あァ? どォなってンだァこの服はよォ? クソッ、上手く、取れねェ……」  
「ら、乱暴したら破けちゃうよ? ってミサカはミサカはあなたの事を手伝ってボタンを外してみたり」  
 そうして、打ち止めは上から、一方通行は下から、ボタンを一つ一つ外して行く。  
 やがて、ボタンの全てが外し終わると、一方通行は待ってましたとばかりに、すぐさま打ち止めのキャミソールの裾に手をかけて、いっきに胸の上まで託し上げた。  
 目の前に晒される上気してピンク色に染まってた幼い上半身に、一方通行は息を飲む。  
 そして打ち止めは、そこに感じる熱い吐息に小さく体を震わせながら、  
「あ、あわ、慌てなくてもミサカは逃げないよ? ってミサカはミサカあァッ!」  
 
 逸る一方通行を落ち着かせようとした言葉は、右胸に感じた熱く湿った感触によって、儚くも打ち消された。  
 一方通行は、じっくりと胸を舐め上げる。  
 すると、ぷっくりとした小さな粒の感触がいつまでも舌の上に残って、彼を愉しませる。  
 それは同時に、打ち止めに対しても、ゆるゆるといつまでも続く刺激を与え続ける事になる。  
「あんッ……にげない……ていった……んん……」  
 そんなとぎれとぎれの抗議の声など、今の一方通行の耳には届かない。  
 彼が、今最も興味がある事、それは――、  
「やッ!? そんな、ぜんぶッ、吸っちゃ駄目ぇ! ってミサカはミサぁぁあああ―――――ッ!」  
 一方通行は柔らかいふくらみを口いっぱいに頬張る。  
 そして、今度は口全体を使って、全てを堪能する事にした。  
「ひぁ!? か、かんじゃだめぇ、ってミサ、カはミサカああああああ……」  
 まず口を動かして弾力を愉しむ。  
「くひっ!? こッ、こりッこ、り、もきゅ!? ぐりぐりしちゃらッ! はッ、ふくッ、ンッ」  
 続いて先ほどと違うアプローチから、先端を舌先で入念に押しつぶし、  
「ひはあああああああああああああああああああああああああ!!」  
 最後は強く吸った。  
 打ち止めが、悲鳴を上げてガクガクと体を震わせても吸う事は止めない。  
 やがて、悲鳴も先細りになった所で一方通行は音を立てて胸から口を離すと、  
「おいおい。まだ片方なンだからよォ、気ィやり過ぎてへばンなよなァ」  
 そう言うと、今度は左の胸に吸いついた。  
 再びもごもごと口を動かして小さなふくらみを頬張る一方通行に、  
「あ、あなたって、ほ、ほんとッ、に、おお、おっぱい、がだいッ、す、すきだね、ってミサ、カは、ミサくか、アギッ!!」  
 たどたどしくも、一方通行を茶化そうとした打ち止めの言葉が悲鳴に変わる。  
「うるへェら。ひがひンらォあァ」  
「キヒィィ……」  
 カッと目を開いて震える打ち止めを、一方通行は下からねめつけながら、口封じの方法――硬くなった先端に喰い込ませた歯にさらに力を加えてゆく。  
「ひはぁ……、イ、タぁ……、ち……ちぎれるよぉ……」  
 既に敏感になっていた部分に与えられる過剰な刺激に、打ち止めは頭の中が真っ白になって行く。  
「やらぁ……、ミサカのおひぁい……、な、なくな……うぉ……」  
 白い喉をのけ反らせてうわ言のように呟く打ち止めを、じっと見上げていた一方通行は、そっと戒めを解くと、先端を口に含んで優しく舌で転がした。  
「ふぁ……う……うんッ……」  
 左胸から伝わるじくじくとした痛みと、生温かい舌が這い回る感触が、打ち止めの心に狂熱を送り込む。  
 その狂おしい熱は徐々に体の奥に溜まり、やがては出口を探して渦巻く。  
「ふは……ぁ……くる……し……たす……け……て……」  
 涙を流して弱弱しくもがく打ち止めの声が一方通行の耳朶を打つ。  
(チッ、調子ン乗り過ぎて虐め過ぎちまったか)  
 狂おしい気持ちに溺れすぎて打ち止めを翻弄していた一方通行は、その声に少しだけ心を取り戻すと、口の動きはそのままに、打ち止めの下半身に両手を回すと器用にショーツを剥いで行く。  
 その行為に大人しく従う打ち止め。  
 その瞳は、先ほどの涙とは別の、何かを期待して潤んでいた。  
 やがて、両の足からショーツを抜き取った一方通行は、その眼差しに答える様に、打ち止めの肉付きの薄い尻に指を食い込ませると、躊躇無く左右に割開いた。  
「ひあッ!」  
 打ち止めは、普段は空気を感じる事無い部分が晒される羞恥心ににわかに身をよじる。  
 そんな打ち止めなどお構いなしに、一方通行は目指す場所を目がけて、両の指を進めて行く。  
 打ち止めの柔らかい部分をもぞもぞと突き進む白い指――それらはやがてある場所に到達すると、そこに見合った動きを開始した。  
 
 一つは、息づく後ろのすぼまりを指の腹で丹念にもみほぐす様に刺激する。  
 もう一つは、だらだらと涎を垂らす幼い淫裂を、これも指の腹で上から下までゆっくりとなぞりあげるのだ。  
 そこに先ほどからの胸への愛撫も続けられているのだから、打ち止めは堪ったものではない。  
 先ほどまで燻っていた炎が、ここぞとばかりに全身を駆け巡る。  
「――――――――――――――――――――ッ!!」  
 そして、声も無く一気に上りつめた打ち止めは、弾ける様に体を大きく震わせると、全身を弛緩させて倒れ込んだ。  
「うォ!?」  
 そんな打ち止めを抱きとめた一方通行は、ここで大きくため息をつくと、  
「大丈夫か?」  
 そう言って打ち止めの背中を優しくさすった。  
 そのまま地面に膝をついて抱き合うようにしていると、  
「あうう……」  
「目ェ覚めたか?」  
「あうう……ミサカ……」  
「無理してしゃべンなくていい」  
「ひさしぶりに……とんだきぶん……、てミサカはミサカは……はうう……」  
「だから無理してしゃべンなくていいっつってンだろ」  
「でも……きょうはさいごまで……、てミサカはぁ……」  
「フン。ガキがマセた事ほざいてンじゃねェよ。大体お前の体格じゃ出来るわきゃねェだろ。もう少し育ってからにしろ」  
「それって……おおきくなったら……もらってくれる……、てミサカは……ミサカ、は……きいてみたり……」  
「そいつはどォかなァ? それまでにテメエの前に、もォっといい男が現れるかもしれねェだろォが」  
 一方通行は、何気にそんな言葉を口にした時、自分の心が傷ついた事に気が付いた。  
「ぇ……?」  
「まァ、次ン時には、気ィ失わないくらいにはなっててくンなくちゃあ話にならねェな」  
 打ち止めに聞き返される前に話を変えた一方通行は、先ほどの幹を支えに立ち上がる。  
「ンじゃ帰――」  
「待って、ってミサカはミサカはあなたの服を掴んでみたり」  
「どォした?」  
 打ち止めの必死な顔に、一方通行はいぶかしむ様な表情を見せる。  
「あなたはまだだよね? ってミサカはミサカは聞いてみたり」  
「必要ねェ」  
 そォら来た、とばかりに切り捨てようとしたのだが、  
「そんな事無いでしょ? ってミサカはミサカはあなたのスカートに悪戯してみたり」  
「フゥッ!?」  
 短く息を吐いて幹に体を預けた一方通行に、先ほどと形勢が逆転した打ち止めが、その顔に悪戯っぽい笑みを浮かべた。  
「ほぉらこんなにしてて平気な訳ないよね、ってミサカはミサカはあなたの熱いものを捕まえてわくわくしてみたり」  
「はな、せェ」  
 スカートの奥――わざわざ、黄泉川の指示に従って履いたショーツを突き上げていた一方通行の分身がいた。  
 それを小さな手でしっかりと握りしめた打ち止めは、その熱いものをショーツの上からゆっくりとしごく。  
「ミサカひとりなんてフェアーじゃ無いよ? ってミサカはミサカは興奮気味に言ってみる」  
「やめ、ろォ……。オマエにそ、ンなことォさせたいわ、わけじゃねェ……」  
「ミサカがしたいからするんだよッ! ってミサカはミサカはあなたの下着を脱がしてみたり」  
「ッ!?」  
 乱暴にショーツを脱がされたせいで先端を布に擦られ一方通行は声を詰まらせる。  
 そして、やっと窮屈なところから解放された分身は、先走りを滴らせながら打ち止めの目の前に姿を現したのだ。  
 
 赤黒く充血して、自身の先走りで先端を光らせたそれを目の前にして、打ち止めは熱い息を吐く。  
「やっぱり大変な事になってたのね、ってミサカはミサカはあなたのものにそぉーと手を伸ばしてみる」  
「くッ、や、めェ……」  
 弱弱しく制止の言葉を吐き出した一方通行の声は、今の打ち止めにはとどかないらしい。  
 打ち止めは、まずは恭しく両手を添えると分身に頬ずりをする。  
「くはッ」  
「今からミサカがらくにしてあげるね、ってミサカはミサカは熱いあなたに優しく話しかけてみたり」  
 そして持ち方を変えると、小さな舌を突き出して、上から下まで丹念に舌を這わせてゆく。  
「ッ……、くぁ……ゥ……」  
「むあ。くふふ、何だか女の子を相手にしてるみたいだね、ってミサカはミサカはちょっと不思議な気分になってみたり」  
「だれが……おンな……カハッ!」  
 必死の講義も、再び加えられた愛撫にかき消されてしまう。  
 先走りをこそげとり、代わりに唾液をまぶす行為に熱中する打ち止め。  
 一方通行とは違う、丹念で優しく執拗な行為の繰り返しは、着実に彼を追い詰めてゆく。  
 やがて、唾液をまぶし終えた頃には、一方通行は既に虫の息の状態だった。  
「ふは。もうそろそろみたいだね? ってミサカはミサカはあなたに優しく聞いてみたり」  
「あとはテメ……で、しまつすっから、はなせェ……」  
「もうホントにあなたは強情だねっ! ってミサカはミサカは強硬手段にでてみたりッ! あむッ」  
「くアッ!?」  
 先端を小さい口に含まれた瞬間、一方通行の腰が大きく跳ねた。  
 何とか持ちこたえられたのは奇跡に近かったが、それももう時間の問題だった。  
 打ち止めの小さな舌が、先端の割れ目に触れると、一方通行の腰が再びしゃくりあげる様に跳ねた。  
 途端に、口の中に広がるむせかえる香りに、打ち止めの頭の中は薄いもやに包まれて行く。  
 もっとちょうだい――その気持と共に、窄められた舌先が割れ目を穿った瞬間、  
「「ッ!!」」  
 熱い迸りが打ち止めの口の中に広がってゆく。  
 2度、3度と腰を跳ねあげながら、打ち止めを犯して行く背徳感と、我慢に我慢を重ねた末の開放感に、一方通行の瞳から一筋の涙がこぼれる。  
 やがて放出が収まった頃には、打ち止めの口の中は粘ついたもので満たされていた。  
 気を抜くとこぼれそうになるそれらを零すまいと、打ち止めは口元を押さえて流し込もうとするのだが、  
「うこッ!? こほッ、ごほごほッ!」  
「ッハ、ハ、ハァ、ハァ。む、無理すンじゃねェよ」  
 一方通行は激しい脱力感に苛まれながらも打ち止めを引き寄せる。  
「?」  
「(馬鹿が……)」  
 そう小さく呟くてから、涙目でキョトンとしている打ち止めの唇を乱暴に塞ぐと、口の中に舌のを差し込んで自分の残滓を全て吸いだしてしまったのだ。  
「チッ。ンな不味いモン……」  
 口の中に広がる自分の味に、これ以上ないくらい眉間に皺を寄せた一方通行は、口の中に溜めこんだものを吐き出そうとした。  
 しかし、  
「それはミサカのものなのに勝手に取らないでー、ってミサカはミサカはあなたの横暴に断固講義してみたりッ!」  
「ヴン?」  
「ほら! はやくミサカのお口に返してあーん!! ってミサカはミサカはあなたに向かって口を開けてみる! あーん!!」  
「…………」  
 どうしてもと言うのだから仕方が無い、と一方通行は再び打ち止めと唇を重ねた。  
 ちょっと自分のを飲みたいなンて言われてゾクッとキタなンてありえねェから、とか自分の心を誤魔化しながら……。  
「満足か?」  
 
「うんッ! ってミサカはミサカは満足したんだよって答えてみたり。それでねそれでね、あなたはどうなのかなぁー? ってミサカはミサカはあなたはどうかなって心配してみたり」  
「ッ!?」  
「抵抗しなかったって事は気持ち良かったのかなぁ、ってミサカはミサカは自己満足気味に言ってみる。でもでもでもー、その顔を見るとぉー、ってミサカはミサカは思わせぶりに言葉を切ってみたり」  
「…………」  
 言葉も出ないとはこの事である。  
 確かにあの時、一方通行は打ち止めの行為を、口では非難しても、体では拒否しなかった。  
 否――拒否しなかったのでは無い。  
 あの行為の最中、彼は心の底から満たされていた――だから拒否出来なかった。  
(結局何だ? 寂しかったのは俺って事なのか……?)  
 それは弱さではないのか!? ――そう思うと身震いが来た。  
「もー! そんな顔されるとまた悪戯したくなっちゃうよ? ってミサカはミサカはあなたの事を抱きしめてみたりー」  
「ばッ、テ、テメェ!?」  
「あはははははははははははははは。うそだようそうそー、ってミサカはミサカはだぁい好きなあなたを困らせてみたりー!」  
 一方通行は、こんな時は打ち止めの性格が本当にありがたいと思う。  
 陳腐な表現になるが、彼にとって打ち止めはまさに『太陽』だ。  
 そんな打ち止めが急に静かになったかと思うと、一方通行の頭に何かが優しく触れた。  
「あなたはもっともっとミサカを信じていいんだよ、ってミサカはミサカはそぉっとあなたの頭をなでてみる」  
「信じてるよ。自分なンかよりずゥっとオマエを信じてる」  
「じゃあ、ミサカがあなたの事を信じればちょうどいいね! ってミサカはミサカは名案に満足してみたりー」  
「ああ、頼ンだぜ。あンま期待してねェけどな」  
「なにそれ!? さっきは信じてるって言ったのにー! ってミサカはミサカは頬を目いっぱい膨らませて講義の意味を込めてゆすってみたりー!」  
「うおォ! 止めろコラァ! うがァ!? なァァァンでテメエはそんなに元気なんだよォォォ!!」  
「へっへーん! それはきっと歳の差なんじゃないかなー、ってミサカはミサカはあなたの老後をちょっぴりしんぱいしてみたりっ!」  
「ふ、ふざけんじゃァァァァああああねェェェェェェえええええええええええええ!!」  
 こうして何時も最後は悪ふざけになって終わるのだ。  
 何時までこの関係を続けられるのか? それは2人にも判らない事だった。  
「ダァ、このォ、待ちやがれクソガキ!」  
「待てと言われて待つ人なんていないんだよー、ってミサカはミサカは全速力で家までダァーッシュ!」  
「ざけんじゃねェぞ!? その格好で帰られたら、アイツらのいいおもちゃじゃねェか!!」  
 夕暮れの公園に、いつも通りに戻った2人の声が響き渡る。  
 2人の行為が黄泉川(ほごしゃ)と芳川(おまけ)にばれるのは、もう時間の問題かもしれない……。  
 
 
 
END  
 

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