「なーなーねーちん。ここらでスパッと上やんへの借りに決着をつけるってのはどうかにゃー?」
この一言に、揺さぶられたのが行けなかった。
「あー………………神裂さん?」
上条の声に、神裂は伏せていた顔を上げる。潤んだ目から今にも涙が零れそうだ。
「うわー! 泣くな神裂泣かないで神裂泣いちゃ駄目よ神裂! て言うか俺が何かしましたか!?
インデックスが小萌先生ン所に遊びに行っててのんびりしていた所に突然押し寄せてきたのは神裂じゃねえか!」
叫んで上条は神裂を見た。
――正確にはブーツと靴下、七天七刀を置き、着ていた筈のシャツをぱさりと脱ぎ捨てて露になった上半身を抱く様に隠した神裂を。
「いよーう上やん! 上やんに用事があるけど勇気が無くて部屋の前でうろうろしていた怪しい聖人をお届けにあがったぜよー!」
と言って神裂 火織を上条 当麻の部屋に放り込んだのは、隣人の土御門 元春だった。
「あ、そうそう。これはオクテなねーちんのための土御門さんからのささやかなプレゼントですたい」
とのセリフの後から飛んできた紙飛行機は、玄関先にへたり込む神裂の頭上を通り越して上条に突き刺さった。
呆然とする二人。
ややもして、上条が頭に刺さっていた紙飛行機を引っこ抜き、なんだなんだと広げたそこには――
『神裂ねーちんとドキワク☆野球拳権券』
と書かれていたのだ。野球拳出来る権利がある券と言うことなのか土御門。頭悪いぞ土御門。上条の思いは隣人には届かない。
そうして紆余曲折を経て目の前にいるのは上半身裸の神裂 火織と書いて聖人と読ませるお方。天草式の皆さんごめんなさい。
「か、神裂さん?」
とにかく呼びかける。神裂はジト目+目尻に涙で上条を睨む。
「いや睨まれても!? 止めたいならやめようってか止めよう今すぐ! 上条さんにこんな美味しいイベントが起こるわけないもの!」
しかし問題の神裂さんの反応は。
「………………………」
「くあああああ!! そんなカッコウで首をふるふる横に振らないで! え、じゃあ何一体どうしたいの!?」
自棄糞気味に上条が問うと、神裂は左腕でぎゅっと胸を抱き隠す。その所為で胸が圧迫されてステキに歪んでることには気づかない。
そして右手を胸から離す。自由になった右手は虚空をさまよった後、上条に向けて握られる。
「えええええ何それ徹底抗戦!? この戦いの果てには何があるんだよ神裂! ああ拳を振るな、じゃーんけーんじゃなくてああああああああ!!」
完璧に壊れた上条が条件反射で右手を突き出す。
幻想殺しよ、この妄想をブチ殺せとばかりの勢いで突き出した右手は――
果たして、上条の幻想は死んだ。
これは夢だ――それこそが上条が抱いた幻想なのである。
即ち、上条の出したチョキが神裂の出したパーに勝利したことは、まぎれもない現実なのである。
耐え難い沈黙。
やがて神裂はすっくと立ち上がり、後ろを向く。
裸の背中を上条に見せながら、神裂は左手をも胸から離し、カチャカチャとジーンズのベル