一方通行には、守るべき光があった。  
それはとても小さくて、儚くて、今にも風で吹き消されてしまいそうな弱々しいもので、  
それでも、さんざん打ちひしがれてきて、さんざん人を殺し続けた一方通行の凍った心を暖めて解かし、ささや  
かな希望さえも与えてくれた。  
 
彼は、その光を守り抜くと誓った。  
『彼女』という光を消そうとする敵が現れたなら、たとえ自分がどうなろうとも、細胞ひとつ残さずに叩き潰す  
、と。  
たとえ自分みたいな悪党には不相応でも、  
たとえ何を壊してでも、  
血で汚れきったこの手で『彼女』を闇の世界から救い出してみせる、と。  
 
一方通行には、守るべき光があった。  
だが彼のような人間には、『彼女』に、女性としての幸せを与えることは出来なかった。  
闇に狙われ続ける『彼女』を、物理的に守るのは自分しか居ない。  
だが、『彼女』を愛して幸せにしてやる人間は、自分ではない。  
自分であって、良い筈がない。そう一方通行は考えていた。  
 
 
一方通行は既に、引き返せない程に『彼女』を大切に思っていた。  
それでも、さんざん血を浴びすぎていた自分の、そんな独りよがりな思いで、  
『彼女』を、愛して良い筈が無い。  
『彼女』を、慈しんで良い筈が無い。  
『彼女』を、この手で汚して良い筈が無い。  
その想いが、彼の溢れ出そうとする激情を食い止める、唯一の砦だった。  
彼は、そう心に決めることで『彼女』への――打ち止めへの止まることを知らない愛しさも欲情も独占欲も、全  
て自分の中で無理矢理に封じ込めて殺してしまおう、と。  
そう決めていた。  
 
 
一方通行には、守るべき光があった。  
 
だが今の有り様は、彼が思い描いた関係とは、あまりにもかけ離れていた。  
 
 
彼は、見慣れた自室のベッドに腰を下ろさせられていた。  
苦い表情とは裏腹に、その華奢な四肢には抵抗する力が込められておらず、身体はふらふらと頼りなさそうに揺  
れる。  
打ち止めが、妹達の代理演算を一部中断して、一方通行の行動の自由を奪っているからだ。現在、彼の身体は打  
ち止めの手によってバランスの演算が出来ない状態にされ、杖にすがっても立ち上がることが難しいレベルにま  
で行動を制限されている。  
その打ち止めは、ベッドにへたりこむ一方通行の前方で両膝をつき、彼の顔を正面から見据える体勢となってい  
る。薄桃色の小さな花の刺繍に彩られた白地の下着の上から、それと揃いのデザインの、肌の色がわずかに透け  
たキャミソールしか着ていない格好は、およそ年頃の少女が異性に平然と晒せるものでは無い。現に打ち止めは  
頬をうっすらと赤く染め、時折恥じらうように視線を下に向けている。  
それでも、彼女が一方通行を解放することは無かった。  
思いつめたような彼女の表情は、彼への深い愛情と、僅かな切なさで満たされている。  
「……打ち止め」  
何のマネだ、と一方通行が問い詰めようとした時には、打ち止めの唇が彼の開きかけた口を封じていた。  
「ッ!?」  
目を見開く一方通行をよそに、打ち止めは唇を押し割り舌を侵入させる。彼の口腔に広がるものは、この少女し  
か持ち得ない、何処か甘ったるいような味だった。  
頭に熱が昇る。  
歯車が外れたように、一方通行の思考が空回りする。  
いつの間にか、彼の身体は真っ白なベッドシーツへと押し沈められていた。  
 
瞳を固く閉じ、無我夢中になって深い口づけを続ける打ち止め。けして上手とは言えない技巧だが、伸ばした茶  
色の髪がまとう甘い香りや、時折唇から漏れる切なげな声、彼の胴に擦れるように触れてくる肌着越しの柔らか  
な胸の感触は、少しずつ、彼を狂わせていく。  
「っ……、」  
その少女の温もりが、たちまち一方通行の『砦』を焼き切らんとする。  
無理は無かった。愛しいと思う女にこうして執着されることに、まだ若い彼が何よりも揺さぶられるのは当然と  
も言える。だがやはり、悔しかった。肉欲に流されそうになる今の自分が、途方もなく情けない。  
自分の自制心とは、こんなものでしか無かったのか、と痛感した。  
 
長い口づけの後、唇を離した打ち止めは、紅潮した顔や荒くなった息を隠す余裕も無く、  
「……ごめんね、こんなことして」  
そう告げると、自分が自由を奪った一方通行の手を持ち上げ、自らの両手で包みこんだ。  
彼女のか細い肩は、小刻みに震えている。  
「……でも、あなたが、ミサカの気持ちを分かってくれないからなんだよ?って、ミサカはミサカは責任転嫁の  
言い訳をしてみる」  
その眼差しは切なさで揺らぎ、寂しがる子供のように幼げにも見える。  
「あなたに、分かって欲しかった。……ミサカは、『誰か』じゃなくて。『あなた』と一緒に居たいだけなの」  
 
柔らかい声音で、囁きかけるような言葉。  
それはまるで、血にまみれた怪物を手なづけるように、恋人を心から慈しむように、  
そして、孤独な英雄を堕落の底に堕としめるように。  
打ち止めは極めて優しい挙動で、捕えた一方通行の右手を、自らの左胸に押しつけた。  
彼の指先に触れる、繊細なレース越しの、女性としての柔らかさ。  
「、やめろ」  
「やめない、ってミサカはミサカは拒絶してみる」  
静かな即答。  
一方通行の掌に、彼女の心臓の鼓動が伝わってくる。  
小さな小さな、生命のリズム。  
彼は、これを途切れさせないために学園都市の全ての闇と戦ってきたのだ。  
学園都市最強の怪物が、血と泥にまみれて、分不相応だと分かりながらも、ただ我武者羅になって守ってきた少  
女。  
光を守るために。  
だからこそ、彼は彼女から身を引いた。  
彼の全ては、打ち止めの幸せを思っての行動だった筈だ。  
可能ならば、彼女の目の前から消え去って、見えない所から彼女を守っていたかった。だがそれは出来なかった  
。彼女の愛する世界には厄介なことに、自分自身が含まれていることに気付いてしまったから。もしくは、彼自  
身もまた、この光の温もりを諦めきれなかったからかもしれない。  
ならせめて、自分は影になろう、と。光を支え、それでも決して光と交わることの無い影になり、彼女を守りつ  
づけよう、と。  
馬鹿馬鹿しくても良い。  
彼女にとっての自分の存在意義など、  
それで構わない。  
それだけで、構わない。  
 
これが、彼の全てだった。  
 
一方通行には、守るべき光があった。  
 
 
だが、もしも、  
 
「あなたにだったら……ミサカは、汚されても、本望なのに」  
 
もしも、所詮その理屈は、打ち止めに正面から向き合えなかった自分を正当化して、彼女から逃げ出すための免  
罪符でしかなかったのだとしたら、  
もしも、彼の『傷付けたくない』という思いが、逆に打ち止めを今まで苦しめ続けていたのだとしたら。  
もしも、彼女をここまで追い詰めたのが、他でもない自分自身だったとしたら。  
これまでの一方通行は、何と愚かだったことだろうか。  
 
 
「クソったれが……」  
悪態をつく一方通行。  
胸に当てられた右手が、ずるりと落ちた。演算の制限も、彼女が無意識の内にいつのまにか解除されたらしい。  
自分に覆い被さる少女の瞳は、ただ静かに涙をこぼしていた。  
 
彼女が、自分を想って泣いてくれているのなら、  
その涙を、自分自身が止めてやりたい。彼は自然と、そう思うことが出来た。  
 
光とか影とか、そういった理屈はもう、どうでもいい。  
彼女を泣き止ませることさえも出来ない悪党が、一体何が守れるというのか。  
 
彼の思考回路を縛り付ける理屈はもう、取り払われていた。  
彼女のために、彼女を汚す。  
今彼が行わなければならないことは、それだけだ。  
 
†††  
 
「……オイ、動くぞ」  
「っ、え」  
ぼんやりとした調子で声をあげる打ち止めに構わず、彼は身体を起こした。  
それまで彼を押し倒すような体勢をとっていた打ち止めは、一方通行が起きあがったことによって、自然と彼の  
膝に腰を下ろして向き合うような姿勢になる。  
どうしたのか、と打ち止めが戸惑っていると、  
「上向け」  
顔を上げた彼女のすぐ目の前には、一方通行の端正な顔があった。  
あ、と打ち止めが声を上げる間も無く、彼の唇が彼女のそれへと触れる。  
「――!!っ、ぅ……んっ、」  
先程彼女から仕掛けたように、舌が忍び込む。容赦無くかき回され、熱い粘膜を舐め上げ、時には歯茎をなぞる  
ようにして、だんだんと蹂躙は深まっていく。繋がれた唇の端から、どちらのものともつかない唾液が彼女の顎  
を伝って落ちていった。  
打ち止めからの稚拙なそれとは比べようも無いほど、圧倒的な熱を伴う口づけ。  
それはつまり、今まで彼がどれだけ自分の欲情を押し殺してきたのかを暗に示しているのかもしれない。  
「ん……んっ、ぁ……っ!」  
今まで感じたこともないような強い快楽を引き出され、打ち止めの頭はおかしくなってしまいそうだった。  
息が苦しい。  
彼女がそう感じると、まるでそれを察知したかのように、一方通行が唇を離した。  
ぐったりとした打ち止めの身体が、彼の細い腕に支えられる。  
「っは、ぁ……」  
久方振りの酸素を吸い込み、打ち止めは必死に息を整えようとする。仕掛けてきた一方通行はというと、どうや  
って息継ぎしているのか彼女には分からないが、苦しげな様子は無かった。顔色にも特に変化は見られない。た  
だ、瞳の色がいつもの彼とは何処か違った。  
打ち止めの濡れた唇を指先で拭いながら、一方通行が低い声で囁く。  
「――犯すってのはこォいう事だ。俺がオマエを壊しちまわねェって保証は、何処にも無ェンだよ」  
「……、」  
「覚悟は、イイのか」  
鋭い視線が、少女を射抜く。  
彼の赤い瞳は、それまで打ち止めが見たことの無いような熱量を帯びていた。  
彼女を抱き寄せる腕は、まるで囚人を拘束する蔦のようにきつく絡み付く。  
 
これが、彼の本気。  
けれど、打ち止めに後悔は無かった。  
彼の言葉は乱暴だった。だが、それは他でもない打ち止めの身体を心配しての最後通帳だということを、彼女は  
分かっている。  
「――勿論だよ」  
「……、怖ェなら早めに言え、止める努力はしてやる」  
大丈夫、の返事代わりに口づけをする。相手の唇に軽く舌を這わせると、一方通行は一瞬目を見開いた後、それ  
を受け入れるように口を薄く開いてくれた。  
先程までの、互いが相手を襲うようなキスとは違う。熱がこもらない、それでいて暖かい、まるで子供の戯れ、  
もしくは誓約のように。  
 
 
繋がれた唇は――陳腐な表現をするならば、甘く甘く溶けていくようだった。  
 
 
涙なら、もう止まっている。  
後悔などしない。  
彼を焚きつけたのは、自分自身だ。  
 
自ら望んで、その腕の中に飛び込んだのだから。  
 
†††  
 
かつて幼かった少女の身体はいつの間に、これほどに『女』へと変貌していたのだろうか。  
「ゃ、う……、ん」  
薄手のキャミソールの下から手を忍び込ませ、華奢な腹から胸へと指先を滑らせた時、一方通行はそんな事を考  
えさせられざるを得なかった。  
邪魔なそれを脱がせると、可憐な下着に彩られた胸元が露わになる。小さめなふくらみの柔らかな傾斜は、淡い  
陰影をその白い肌に落としていた。  
「……」  
一方通行は無言で、手に握ったキャミソールを適当に床へ放り、自分のシャツも手早く脱ぎ去る。  
「……お、女の子の胸見て、そのローテンションっぷりってどういうことなのかな、ってミサカはミサカはふて  
くされてみるんだけど」  
やや茶化すように唇を尖らせる打ち止め。ようやくいつもの調子を取り戻したか、と一方通行はこっそり安堵し  
たのだったが決して顔には出さない。  
「……なんか、怒ってる?ってミサカはミサカはあなたの顔色をうかがってみたり」  
「地顔だ」  
そう簡単に言ってやった後、片手を打ち止めの胸へとあてがう。滑らかな肌は、しっとりと吸い付くような感触  
を彼の指へと与えた。  
「ひゃっ、ってミサカはミサカは」  
くすぐったかったのか驚いたのか、打ち止めは小さなな悲鳴を上げる。揉む、というほどの力は込めずに、指の  
腹で下着からはみ出た肌を撫でるようにしていると、彼女の声にくすぐったさとは違う艶っぽい響きが混ざり始  
めた。  
「んっ……はぅ、あ」  
「……」  
もっと。  
もっと、彼女の声が聴きたい。そんな衝動が彼の脳をほんの一瞬支配し、  
ぐっ、とその手で乱暴にブラジャーを胸の上へと押し上げる。  
「っ、やぁ……っ」  
本来隠すべき箇所が露になり、急に冷たい外気に晒されたせいか白い肌が粟立ち、ぶるっ、と打ち止めが肩を身  
震いさせる。  
「寒ィのか」  
「へい、き……っ」  
苦しそうな声で返答する打ち止め。彼女の動きに応じてふるりと震える小ぶりな胸のふくらみを、一方通行は暖  
めるように掌で包みこんだ。あっさりと手の中に収まってしまう彼女のそれをやわやわとほぐすと、打ち止めが  
切なげな声を漏らす。  
「ぁ……あ、んっ……」  
そのまま慣らすように片方の胸を揉んでいると、あっという間に彼女の肌が赤く染まってゆく。所在なさげに揺  
れるもう片方のふくらみの中心、果実のように色を持った突起に、彼は吸い寄せられるように口づけた。  
ひぁっ、と打ち止めの喉から息を飲む音が漏れる。  
痛々しいほどに過敏になった先端を口に含み、舌で転がす。  
一方通行は右手を彼女のショーツの中へと潜らせた。  
細い中指が打ち止めの秘部に触れると、熱い粘液が大量にその指へと絡み付く。  
「あ……ぁッ!?」  
極力痛みを与えないように注意を払いながら、指を一本、浅く沈める。きつく締め付ける内壁の感触に、軽く眩  
暈すら覚えた。  
入り口付近を指の腹で擦り、浅い挿入を繰り返す。次第に大きくなる水音が四角い部屋へと響いていく。  
襲いかかる責め苦に、少女はひっきりなしに悲鳴を上げた。  
 
「ぁ……あっ、や、あ……!」  
上擦った声が、一方通行の耳朶へと心地よく流れ込む。肌の甘い匂い、切なげな表情、熱を秘めた眼差し、今の  
彼女の全てが一方通行の情欲を煽った。  
「っ」  
そして、彼は少女に最後の追い討ちをかける。  
かりっ、という小さな音を鳴らし、口に含んだ胸の鋭敏な箇所に歯を立てた。  
「あっ、ぁああああ……ッ!」  
痛覚に限り無く近い快感を受け、打ち止めが電流に打たれたように叫ぶ。細い肩がびくびくと跳ね、肌に薄い汗  
がにじんでいった。  
どうやら、軽く絶頂を迎えてしまったらしい。  
数瞬経つと、彼女は操り人形の糸が切れたかのようにぐったりと力を抜き、向かい合う彼に正面から体重を預け  
た。素肌の胸に頭を寄せ、余韻に耐えるように華奢な胴にすがりつく。  
「……は、っ」  
ショーツの中の指を引き抜き、自分にもたれかかる彼女の身体を抱き締め、一方通行は息を吐いた。  
気付けばもう、彼の呼吸は乱されていた。  
腕の中の少女の快楽を追い詰める度に、自分もまた、追い詰められているような錯覚を覚える。  
少女と肌を合わせているうちに増幅していった肉欲は、ひとつの終止符を求めて今にも暴れだそうとしていた。  
彼女の甘い声のトーンを聞く度に下腹部に走った、血が集まるような熱い感覚。ジーンズの中で、自身は少しず  
つ形を変えつつある。  
「っ……、一方通行……?」  
荒い息を整えきれていないまま、打ち止めが身体を起こす。  
彼女の視線の先にあるのは、一方通行のジーンズに巻き付いたベルト。  
「……ミサカだけ、気持ちよくなっちゃうのは……ずるいと思う、ってミサカはミサカは、形勢逆転に、挑んで  
みたり」  
小さく呟き、彼女はベルトに手をかけた。  
かちゃかちゃ、と金属の擦れる音が耳につく。  
彼女が何をしようとしているのか、分からないほど彼は無知では無かった。  
「……やめろ、必要ねェ」  
「でも、」  
制止しようとしている間に、彼女はベルトをこじ開けてしまった。打ち止めは体勢を低くして、ファスナーを静  
かに下ろす。  
ズボンのフロント部分を緩めてしまったことで、下着の布地が露になる。彼の自身が下着を押し上げはじめてい  
ることは、異性の身体を初めて見る打ち止めにも分かった。  
布地の上から、少女の細い指先が昂った自身をなぞる。  
「っ……」  
息を飲む。間接的でもどかしい刺激を受け、彼の下腹部に熱が集まっていく。  
「……嬉しいんだよ?あなたがミサカの身体で、こんなに反応してくれた事が」  
熱に浮かされたような虚ろな瞳で、それでも彼女は微笑む。微笑んでくれる。  
「……、」  
彼の抵抗が、一瞬遅れた。  
そして、それを見逃す打ち止めでは無かった。  
下着を引き下げ、隆起した彼自身に触れると、慣れない手つきでその側面を撫ではじめたのだ。  
「……っ!」  
我に帰ったように彼女の手を取ろうとするが、一度得た快楽に身体は従順になってしまい、彼女を戒める手に力  
がこもらない。  
彼の手に動きを押さえられながらも、打ち止めは手を上下に動かして自身を扱き、先端を親指の腹で擦りあげる  
。拙い奉仕を受け、どくん、と彼女の手の中のモノが脈打った。  
「……っく、……」  
一方通行の視界が霞む。言いようの無い心地好さに、気を抜くと、意識をも手放してしまいそうだった。  
肌を擦る音に、微かな水っぽい音が重なる。先端からにじむ先走りが、打ち止めの手を汚していくのが分かった  
。  
「ッ……!」  
焼け付きそうな快楽に襲われ、正常な声が出てこない。そんな彼を追いつめるように、彼女はその小さな口をも  
使い、愛撫により熱を込めていく。  
尖らせた赤い舌で先端をえぐる。それに反応して反り返った自身がびくりと震えるのを見ても、打ち止めの行為  
は止まらない。  
打ち止めの口の大きさには不釣り合いなまでに膨張した彼自身を無理矢理にくわえ、唇で締め付けた。  
 
「んっ……ん、ふ……、ぅ」  
時折苦しそうな吐息を漏らしながらも、彼女は自らの喉の奥までそれを押し込み、懸命にその頭を上下に動かそ  
うとする。  
そんな彼女の丹念な奉仕に、次第に追い込められていく一方通行。学園都市最強の座を確固たるものとして  
いるその頭脳すら、その断続的な快楽の前では無意味に等しかった。  
しかし、彼はここで果てる訳にはいかない。  
「やめろ……つってンだろォが、クソガキ!」  
飛びそうになる理性を総動員させて、打ち止めの両手首を捕まえる。  
掠れた声での制止の言葉は、あまり説得力が感じられるものでは無かったが。  
「ふ……ぁ、って、ミサ、カは、ミサカは……」  
完全に手を封じられた打ち止めがようやく緩慢な動きで顔を上げた。その表情は何処か、恍惚としているように  
も見える。茶色の瞳には涙が滲み、呼吸は苦しそうで、まるで熱でもあるかのようだ。それだけ、この行為に没  
頭していたのだろうか。小さく開いた口許は、唾液とも何ともつかないモノでべったりと濡れていた。  
「……オマエは黙って、寝てろ」  
それだけ言うと、彼は再び少女の身体を横たわらせ、腕で自分の体重を支えながら唇を塞ぐ。  
途端に口に広がる嫌な苦味に一方通行はわずかに眉を寄せるが、構わずに舌先を口内へと滑らせた。  
舌どうしを絡め、打ち止めの身体から抵抗する力が抜けていくのを確かめると、彼は唇を離す。彼女の胸の上に  
たくし上げられたままの下着が目障りに感じ、引き千切るように取り払った。  
陶磁器のように滑らかな彼女の肌に、幾度となく唇を落とす。たちまちに、形のよい鎖骨の辺りに赤い痕が散っ  
ていく。  
「う……んっ、ん」  
抱きしめた身体は華奢ながらも柔らかく、熱い。喉から時折漏れる高いトーンの声、刺激を与える度にびくびく  
と震える肢体、砂糖菓子のように甘く香り立つ肌。彼女の全てがぞっとするほど官能的で、一方通行の背筋に電  
流のような衝動が走り抜けていった。  
 
分かっている。  
自分は今、紛れも無く彼女を汚している。  
この行為は、何も知らずに、ただ一途に彼のことを想っていてくれた少女に、一方的に自分の欲望をぶつけてい  
るだけに等しい。  
それは、分かっている。  
だが、  
それがどうしたと言うのか。  
暗闇の頂点に君臨し、幾多もの命を暇潰しの玩具のように扱い、恐怖と悪意を振り撒き、他人も、自らをも血と  
肉にまみれさせて、それでもなお笑っていた、狂気の殺人鬼。  
もう誰も傷付けたくなくて、ひたすらに他人を拒絶し続け、いつしか人の痛みも温もりも忘れてしまった、孤独  
な少年。  
彼女は他でもない、そんな一方通行を求めてくれたのだ。  
 
一方通行は彼女を離したくない。  
彼女を、苦しませたくはない。  
だからこそ。  
「……寝てろ」  
一言だけ繰り返し、打ち止めの頬を撫でる。  
「……、うん」  
甘えるように目を閉じる彼女の瞼に、そっと口づける。  
 
目の前の少女が、ただ愛しい、という感情を。  
かつて孤独だった怪物は、知ってしまったのだ。  
 
††††  
 
彼の限界は近かった。  
余裕など、とっくに消えかけていた。  
「ん、ぁ……あ、っ!」  
彼女の秘部に挿入した二本の指をかき回し、内壁を慎重に広げる。打ち止めが悲鳴じみた甘い声をあげる度に、  
彼の指の隙間から愛液が溢れた。それは太ももを伝い流れ落ち、シーツに水溜まりを作っていく。  
「ん……っもう……ミサカは、大丈、夫……だから……」  
産まれたままの一糸まとわぬ姿となった打ち止めが、掠れた声で告げる。柔らかくほぐれたその箇所はもう、彼  
を受け入れる準備を整えていた。  
 
「……、あァ」  
それを聞きいれた一方通行が、首元のチョーカーのスイッチを切り替える。  
彼の身体は、通常モードでは杖をつかなければろくに歩くことも出来ない。無理な体勢を強いられる行為には、  
どうしても能力使用が必要だった。  
ベクトルを操り、ベッドに仰向けに寝転がる打ち止めの上に覆いかぶさるような体勢をとる。  
「膝立てろ」  
打ち止めが言われるがままに膝を浮かせると、しっとりと汗ばむ白い太ももを一方通行の手によって広げられる  
。べたべたに濡れた秘部を彼の眼前に晒される打ち止めは、羞恥に身をよじらせた。  
「……っ!ん、ぅ……」  
「……痛ェ時には強がンじゃねェぞ、言え」  
そうして、反り返った彼自身の先端を、入り口にそっとあてがう。彼を受け入れようとうごめく熱い感触に、今  
すぐにでも奥深くまで挿れてしまいたいと言う衝動が引き起こされる。  
「ッん……ぁ、あ、あ……!」  
角度を変えるために先端を擦り付けると、打ち止めの肩がびくりと揺れる。幾度かそれを慣らすようにあてがっ  
たあと、  
昂った熱を、彼女の中へと押し込んだ。  
「――あ、……ぁああああああああああッ!?」  
正真正銘の、悲鳴が上がる。  
ベッドが弾み、ぎしぎしとスプリングが軋んだ。  
丹念に和らげた筈の内壁は驚くほどきつく、むしろ苦しいほどの刺激を一方通行にもたらす。背筋をしならせる  
打ち止めの表情が示すものは、けして快楽だけではないのだろう。現に、自身を突き挿れる箇所から漏れる、ど  
ろりとした感触には僅かに血液が混じっていた。  
「――っ、は……」  
引きつれた傷口を出来るだけ広げないように注意を払いながら、少しずつ深く、彼女の中心を貫いていく。  
ベクトル変換の能力を用いて、彼女の痛みを緩和させる。完璧に消し去ることも可能なのだが、彼はそれを避け  
た。打ち止めからの反応が無いと、一方通行の方も手加減が出来ず、彼女の身体を壊してしまいかねないからだ  
。  
代わりに操作したのは、快楽の電気信号。内壁に流れる微弱な生体電流を掌握し、より強いものとして彼女の脳  
に叩き込む。  
「――ひぁッ!?あ、あああああああぁっ、んぅ……っ!」  
想像し得ないほどの衝撃に、打ち止めの唇からは無意味な声がこぼれるだけだった。ごぽ、と呼応するように愛  
液が溢れ出し、一方通行自身の潤滑をたちまち容易にさせる。涙が、彼女の頬を伝っていった。  
突き立てる杭が、ぬかるみのように沈み込んでいく。絡み付く熱さに、目に映る景色が霞んでいくのを自覚した  
一方通行は息をつくのがやっとだった。  
「ッ……く……、」  
このままでは、何もかも持っていかれる。  
神さえも恐れていないつもりだが、自分を見失ってしまいそうなこの現状に対しては、何処か恐怖に近いものを  
覚えた。  
自分を支える芯が、音を立てて崩れていく。  
辛うじて理性の崩壊を繋ぎ止めるものは、背中に回されるか細い腕の、爪が肌をひっかく僅かな痛みか。  
……くっだらねェ、と声にならない声で唇を動かし、彼女の底をノックするように腰を動かす。  
「ゃ、あんっ……!」  
まさぐるようにして、一部を掠めると打ち止めが跳ねるように首を反らした。一方通行は微かに笑うと、一際感  
じるらしいその箇所を執拗的に突き上げる。  
「ふぁ、ああぁああ……!や、っ何、これぇ……!?」  
これまで、与える刺激に素直に悶えるだけだった打ち止めの顔に初めて拒絶のような表情が浮かぶ。  
恐らくは、感じたこともないほど大きな絶頂の前ぶれの、初めての感覚に戸惑っているのだろう。  
「こ、わいっ……て、ミサカはっ、ミサカは」  
快楽に震える身体をちぢこませ、脅える子供のように涙を浮かべる彼女。  
一方通行が、残酷なほど単調な言葉で問いかける。  
「っ……、やめるか?」  
「――ッ!!」  
弾かれたように、打ち止めは首を横に振った。離れないで、とでもいうように背中に回された腕の力が強められ  
る。  
ある程度の打算をもってそのような『脅し』をしてしまった自分に、わずかに嫌気が差した。  
「……チッ」  
その小さな舌打ちは、果たして少女には聞こえていただろうか。  
奥まで挿し込んだ自身をほんの少し引き、再び突き上げる。幾度もそれを繰り返し、彼女の身体を揺らす度に熱  
がねっとりと絡み付き、彼の限界を誘う。  
ぎしぎしと音を鳴らし、ベッド全体が生き物のように揺らいだ。  
 
「っ、く……!」  
生理的な反応でに瞳が熱くなり、視界が滲む。  
溺れていくとは、こういうことなのかもしれないと頭の片隅で思いながら。  
少女の頬にいくつも跡を描く涙を吸い、唇を塞ぐ。打ち止めのくぐもった嬌声が耳に甘く響く。  
「あっ……や、もう……っ!」  
さんざん焦らされた限界は、ようやく少女に訪れた。  
一方通行が一際深く彼女の中心に食い込ませたところで、  
「あっ、ぁあああああああああああああああああああああ……!!」  
彼女の意識が、飛んだ。  
身体が跳ね、突き立てた彼自身を容赦なく締め付ける。そんな彼女に応じるように、一方通行は彼の全てを最奥  
に叩き込んだ。  
 
††††  
 
しばしの間、一瞬のような永遠のような恍惚の時間を手にした一方通行は、彼女を解放して呼吸を整えた後に、  
片手で前髪をかき上げ呟いた。  
「……どォすンだ、コレ」  
悩みの原因は、ベッドシーツである。  
後先考えず暴れたおかげで白いシーツはグシャグシャになってしまっている。  
おまけに、達した直後の一方通行がとっさにベクトルを変換して彼女の中に吐き出した熱を全てかきだしてしま  
ったのが災いして、直視できないような染みをシーツに作ってしまったのだ。  
万が一のことが無いようにするためには仕方が無かった措置とはいえ、これでは素直に避妊具を買う方が数倍効  
率的だったかもしれない。  
「……タイミングを見計らって洗濯機にでも適当に突っ込ンでおけばイイか」  
彼が投げやりに結論づけ、シーツを引き剥がして部屋の隅に丸めて放ると、  
「……よ、ヨミカワたちにバレないかな、ってミサカはミサカは……冷や汗をかいてみる」  
ベッドの上で、いつぞやのように毛布にくるまっている打ち止めが、途切れ途切れといった調子で呟く。  
ようやく口が聞けるようになるまで回復したようだが、起き上がる気配は無く、前髪の間から覗く顔色は悪い。  
元々あまり身体が丈夫でない打ち止めには、想像した以上に過酷な行為だったのかもしれない。  
「……バレるとかバレねェとかってのは今更かも知ンねェけどな」  
「?」  
一方通行がうんざりと息を吐く。  
思えば先程は随分と騒がしく致した気がする。明日の朝には例の保護者に「新婚初夜はいかがでしたじゃんよー  
?」などとからかわれそうで、考えるだけでもこの上無く鬱陶しい。  
床に投げ捨ててあった下着やジーンズを拾いあげる一方通行だったが、一目確認して嫌そうな顔をすると引き出  
しから下着の替えを取り出した。  
ジーンズを身に付けた一方通行は、打ち止めの方を向く。  
未だぐったりと寝そべる打ち止めの、羽織った毛布の隙間からわずかに見える胸元や鎖骨には幾つもの赤い跡が  
うかがえる。それを本能のままに残したのは自分だという事実に思い当たると同時に、あの時触れた彼女の柔ら  
かさがフラッシュバックする。静まった筈の熱が再びくすぶりだしそうになり、彼は目をそらした。  
「……オイ、立てるか」  
一方通行の問いかけに、打ち止めは力無く首を横に振る。  
やはり、まだ痛むのか。  
「……、」  
「――あ、でっでも……、あなたのせいじゃないよ?ただ……ちょっと、疲れちゃったっていうか……全然大丈  
夫、だから……その、心配しないで、ってミサカはミサカは、両手をわたわた振ってみたり……」  
眉を寄せる一方通行に対して、何やら顔を真っ赤にしてゆるく両手を振る打ち止め。力の抜けた声はごにょごに  
ょと聞こえなくなっていったが、「あなたのせいじゃない」――その言葉を鵜呑みに出来るほど一方通行は鈍感  
でも楽観主義者でもなかった。  
「(チッ、無理しやがって……)」  
苦いものを噛み締める。彼女を無理矢理シャワールームまで担いでいってしまおうかとも思ったが、さすがにや  
めておいた。  
壁に立て掛けておいた杖を引き寄せ、ベッドから立ち上がろうとすると、  
きゅ、と右手を掴まれる。  
「……行っちゃ、やだよ、ってミサカはミサカはお願いしてみたり」  
弱々しく、けれどじんわりと熱が伝わる掌の感触。  
 
引き留められた一方通行は、再びベッドに無言で腰を下ろす。  
毛布に埋もれた小さな少女の髪に触れ、解かすように撫でる。  
「……寝ろ」  
側にいるから。  
そんな思いを込めて、あの日の晩に幾度も言っていた一言を呟いてやると、打ち止めはふんわりと微笑んだ。  
「……もはや口癖になってる、」  
そして彼女もまた、昔と同じ言葉を囁いた。  
「って、ミサカは、ミサカは……」  
しかし、彼女の口調は途中から不鮮明になっていく。  
唇をもごもごと動かすと、余程疲れていたのか、やがて打ち止めはそのまま寝息を立てはじめたのだった。  
「……、ちっとは警戒心持てっつの」  
先程まで彼女を犯していた男の台詞とは思えないが、今はそれについて突っ込む輩も居ない。  
電池が切れたように眠る打ち止めは、親の側で安心しきった子供のように安らかな表情を浮かべている。  
彼女の、絹のように滑らかな髪を撫で、一方通行は一人思う。  
(必ず、守ってやる)  
 
犯され、汚され、それでもなお彼の元で微笑んでくれるこの少女を、  
何に代えても守る、と。  
 
たったひとつの愛しき幻想を、守り続けよう、と。  
彼は、誰にともなく誓ったのだった。  
 
 
END  
 

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