そこは、テレビ局のスタジオのような一室に作られた、ごくありふれたリビングを模したセットだった。
そのセットに置かれたロングソファーの上で目覚めた上条当麻は、照明の眩しさに目をしばたかせながら辺りを見回した。
「っぅ……。どこだここ? 確か○ックで急に眠くなって……」
見渡す限り人の姿はまったく無い。
すると、セットの向こう――スタジオとの境に置いてある液晶モニターが文字を映し出した。
「え? 何だ……、『世界のマ乳から。この新しい企画は毎回、上条当麻がフラグを立てたけしからんおっぱいの持主をゲストに迎え、おっぱいについて熱く語ろうというものです。あなたはその司会進行に選ばれました』……」
読み終えたとたん、上条の顔を伝う滝のような冷や汗。
「帰る! いや帰らせろッ! こんな……、絶対ヤバイってこんな企画、絶対に無理……」
上条がモニターに向かって取り乱していると、リビング内にチャイムの音が軽やかに鳴り響く。
「ぇ……? 『早速お客さまが来ました。うれしそうにお出迎えして下さい』って出来るかッ!」
するともう一度チャイムが。
「『お知り合いをあまり待たせてはいけませんよ』って……だから出来る訳が……」
そこに三度目のチャイムの音が、上条の背中を押すように鳴り響く。
「く、ぅぅぅ……。くそッ、どうなっても知らねーからな……」
そして渋々出迎えるために、リビングの奥のに設けられた玄関に向かう。
「俺が何したっつんだよ……、不幸だ……」
そう呟きながら玄関のドアを開けた。
「上条当麻。お久しぶりです……」
「ほら来た。やっぱ神裂来た。何かそんな予感したんだよ……。げッ!? し、しかもそれはいつぞやの堕天使エロメイド(かっこう)」
そこで液晶モニターにさらりと文字が浮かぶ。
「何が『初の第一回目のゲストはイギリス在住の神裂火織さんです』だッ! こんなもん二回も三回もあってたまるかッ! 神裂ッ! 大体テメーはどーしてここに居るんですかッ!」」
「世界のマ乳からのゲストとして呼ばれたのですが?」
「そこ! キョトンとするところじゃねーからッ! 『早くゲストをご案内して下さい』じゃね――――――――――ッ!!」
と、怒り心頭で絶叫しても逃げられない――セットを破壊して逃げようと殴る蹴るしたのだがびくともしなかったのだ――のでまたもや渋々従わざるをえない。
「っくしょ……、意外と頑丈に作ってあるなこのセット……」
そうぶつぶつ言いながら、乱暴に神裂の隣に腰を下ろす。
「上条当麻。怪我はありませんか?」
「ああ、これくらい何と……ぶッ!? カ、カカ、カンザキサン?」
「はい。何でしょうか?」
「ヒョ、ヒョノケシカランムニェハ……?」
そう言って上条は、五割増強調された胸の谷間を指差す。
このはみ出しっぷりは、あと数センチで大事な部分が見えるかもしれない。
「いえ……、ソファーに座ったらこのポーズ――両の二の腕で胸を挟む――を取るように指示が。ほら……」
「ヨシッ! グッジョブ――じゃねえッ! 『それではまず最初に柔らかさを確かめながらけしからんおっぱいのヒストリーを聞いてください』とかふざけんなッ!」
「わ、私の胸がこのようになり始めたのは9歳の頃……」
「9歳からこんなに育っ……て神裂素直過ぎッ!? てか無闇に従うんじゃねえ! 『ツッコミが早すぎ。もう少し落ち着いて進行を』って誰のせいでこうなってると思ってんだぁぁぁああああああああああ!!」
立ち上がって絶叫したあと鼻息も荒く乱暴にソファーに座りなおした上条は、
「上条当麻。とりあえずこれを飲んで落ち着いて下さい」
「おう、サンキュ」
神裂が差し出したコップの中身を一気に飲み干す。
「旨ッ!? 何ですかこのステキなドリンクは?」
「天草に口伝のみで伝わる秘伝のスタミナドリンクです」
「へー、スタミナドリンクねー……。なッ!? スタミナドリンクぅ?」
「はい。滋養強壮に効果があるとかで……。そ、そのぉ……、死者も元気になると言うのはそう言う事だったのですね……?」
「何の説明? てか恥じらいながらどこ指差してうぉ!?」
神裂の指差す先を見て上条も、スタミナドリンクの効き目――自身も見た事が無い程すごいテントを張る股間――に驚きの声を上げた。
「おいッ、何が『ナイスハプニング』だ――神裂も笑顔でブイサインなんかするんじゃありませんッ!」
上条の剣幕にしゅんとなる神裂だったが、やはり気になるものは気になるようで、
「だ、大丈夫なのですか? 痛くないのですか?」
「な、何がですか?」
「い、言わせたいんですか? 言わせたいんですね。そうですか……言わせたい、と……。よしッ」
「何ですか今の気合と拳……? いい、いい、いいです。聞きたくありませんからいらん覚悟を決めないでくださいまし」
「ぇ……そうですか」
(今度はあからさまなしょんぼり顔)
上条は、背中に冷たいものを、股間にはズキズキと熱いものを同時に感じて、おどおどと視線を彷徨わせる。
「ん? 『とにかくさっさとけしからんおっぱいの柔らかさを確認して下さい』ってふざけんなッ! 大体神裂だって……なあ?」
「わ、私の事なら気にしないで下さい……。覚悟なら出来ています! さ、さあ、煮るなり焼くなり」
(ここには俺の味方はいないのね……不幸だ……)
しかし、上条に改めて身に降り掛かった不幸を噛み締めている暇は無い。
「さ、ど、どうぞ」
「ぐっ」
肉感的な胸を下から持ち上げる様に強調しながら迫る神裂に、上条の心がグラリと揺れる。
「さ、え、遠慮はいりません」
「ぅぁ……くそぉ……、もうどうにでもなれッ!」
ついにソファーの端まで追い詰められて逃げ場を失った上条は、目をつぶると神裂目がけて右手を突き出した。
「きゃッ!?」
神裂から、彼女らしからぬ女の子らしい黄色い悲鳴があがる。
一方の上条は、
(や、柔らけ……これは癖になるな……。特に、この全てを包み込むような何とも言えない温かい感じは……)
と、そこである違和感に気付いて、上条は恐る恐る目を開けた。
「!?」
上条は目の前の有様と己の所業にギョッとした。
それはそうだろう――上条の右手は、手首の先が見えなくなるほど胸の谷間に埋まっていたのだ。
そこに上目遣いの神裂と目が合う。
「ど、どうですか上条当麻? そ、その、私の胸は?」
「あ? ああ、温かくって軟らかくってよろしゅうございますぅ」
そこまで会話を交わしたところで、二人ともはっとした表情をすると、顔を真っ赤にして押し黙る。
するとそこで、液晶モニターに新しい指示が。
「何、『感触の次は重さをお願いします』ぅ!? どうやっ……『ぺろんと剥いて下から持ち上げて下さい。簡単でしょ?』って、俺を殺す気かッ!? いや殺す気だろッ!!」
そまで叫んで、はたと思いついて、恐る恐る神裂の顔色を伺ってみるが、
「……お手柔かに」
またしても覚悟が出来ていないのは上条(じぶん)ばかり。
「おい神裂。どうしてそこまで……? 何か誰かに弱みでも握られてんのか?」
「弱み? いえ、全く」
「え? そうなの」
あまりにもあっさり否定されたので、付け入る隙さえ見当たらない。
「さ、そそ、そんナコトヨリリリ……」
緊張のあまりに引きつった笑いを浮かべた神裂が、またもや胸を強調しながら上条に迫る。
その緊張は上条にも伝播して、
「ハハハ、ハイイッ!」
ギクシャクとぎこちない手つきで、神裂の胸をかろうじて隠していた布に手を掛けると、ぐいと下に引っ張った。
その瞬間、まさに『ぼよん』と言う擬音が似合うほどに、神裂の白い胸がこぼれるように飛び出して来たのだ。
「うわッ!?」
「きゃッ!?」
交錯する2人の悲鳴。
さらに上条は、見た目の圧倒的な質感に何を勘違いしたのか思わず、
「お、落ち――」
神裂の胸を掬いあげる様に手を伸ばしてしまった。
結果、指示の通りに神裂の胸の重さを堪能する事になる。
「うわ……」
たっぷりとした肉の重みと柔らかさ、温かさが伝わってきて思わず指に力が入ってしまう。
「あんッ」
「あ、ごめん」
「……や、優しくお願いしますね」
気まずい雰囲気を和ませようと、はにかんで見せた神裂の恥じらいを含んだ笑顔を見た瞬間、上条は神裂をソファーの上に押し倒していた。
「上条当麻!?」
「か、神裂ッ。お、俺は……、お、俺っ、俺ぇ――――――――――ッ!!」
「だ、駄目です!? 初めてはもっと暗い場所で……」
と言いながらも全く抵抗らしい抵抗を見せない神裂。
そして、度重なる精神的重圧におかしくなった上条は、
「ふははははははは。抵抗するな神裂。何でだと思う? それは、そレハオマエハオレノヨォ――――」
決定的な一言を口にしようとした瞬間、
(それ以上は駄目だッ。くそぉぉぉおおおおおおおおおお、蘇れ俺の理性ッ!! 俺が『神裂は俺のヨメ』って思うなら、俺はッ――――)
上条の瞳に理性の光が、そして。
「――――俺の幻想をブチ殺ぐぼぉッ!!」
上条は自身の放った拳で宙を舞った。
ゼロ距離の拳にもかかわらず、上条の体はきりもみしながらソファーの向こうまで吹っ飛んで行く。
そしてそのままフローリングの上に頭から落ちて、壊れたおもちゃの様に一度バウンドしてから大の字になる。
その一部始終を目の当たりにして神裂は、
「上条当麻ッ!?」
「イテテテ。俺の拳って結構効くんだな……不幸だ……」
「い、今の倒れ方で立てるはず……?」
「いや……ま……わりぃ……。ちょっと理性が散歩に出かけたらしくて……はは、ははははは」
神裂が唖然とする前で、乾いた笑いを浮かべながら、内心勝ったのか負けたのか判らない気分で、ふと気になって視線を液晶モニターに向けた。
もういい加減にして欲しい――そう心の中で祈りながら。
「『十分けしからんおっぱいだと解ったところで、この番組のクライマックス。挟んで擦ってけしからんおっぱいを堪能しましょう』って馬鹿ぁ!!」
「『因みにローションは後ろにあります』……ぅん……、あ! これの事でしょうか?」
上条の気持ちなどお構いなしの神裂は、ソファーから手の届く所に置いてあったボトルを手に取った。
そして躊躇無く――むしろ嬉々としてボトルの栓を開けると、
「カンザキサン……?」
「ひゃ!」
たっぷりと胸に垂らしたローションの冷たさに小さく声を上げる。
さらに、
「カンザキ……」
「お、思ったより冷たくて……き、気持ちのいいものですね……」
左右から押しつぶすようにもみ込みながら全体にローションを広げて行く。
「カン……」
「ふぅ……。は、初めてなので上手く出来るか判りませんが……、その……、不束者ですがよろしくお願いします」
いやらしく輝く2つの肉を抱えた神裂が、はにかみながらも恭しく頭(こうべ)をたれた。
そこまで言われて引き下がれるほど、上条は達観もしていないし、無欲でも無い。
気が付けば下半身をさらけ出して、ソファーに腰掛けて準備は万全の状態――そして、熱くそそり立つ上条自身を包み込むように、泡立ち、糸を引いてローションまみれの2つのふくらみが、
「い、いきます」
上条自身を飲みこんで1つになった。
「ぐッ」
瞬間、上条が苦悶の表情を浮かべてにわかに腰を引く。
「ど、どうしました!?」
「あ、あんまり気持ち良くて、つ、ついイキそうになって」
「そ、そうでしたかッ!? 私はてっきり嫌なのかと……」
「今更……。それに……俺は……、キライな奴としねえよ……」
「わ、私は……、当麻の言葉を信じます」
「え? 神裂お前今、何かさらっと俺の名前……」
「始めますね」
神裂は真っ赤な顔に泣き笑いを浮かべて上条の追及の言葉を断ち切ると、ゆっくりと抽送を開始した。
初めは挟んでただ擦っていた行為も、徐々に慣れてくると、押しつぶした胸の圧力を調節したりするようになった。
時折、しゃくりあげる様に震える熱い肉棒を胸に感じて、神裂も、自分の奥にも熱いうずきを感じながら、
「どうですか?」
「きっつぅ、すぐにでも出ちまいそぉ」
「いいのですよ。出して下さい」
「もったいないよ」
「は?」
「こんな気持ちいい事、すぐ終わったら勿体うぉ!?」
上条が言葉を言い終わる前に、神裂は言葉で気持ちを表す前に、ボディーランゲージ――上条自身を挟んだまま自身の胸を左右から揉み込む様に擦り合わせた――で気持ちを伝える。
そして、自身の行為による胸への刺激は、神裂の燻る炎をさらに燃え上がらせた。
歓喜と快感に瞳を潤ませながら、
「う、嬉しいです。何度でもして上げますから、何度でも、何度でも」
「そぉ、か、でも、おれ、もたな、かも」
「え?」
「も、で」
「!?」
上条が、苦し紛れに伸ばした手が、神裂の頭を抱える様に掴み――、
「ウッ!!」
ひとつ大きく腰を震わせた瞬間頭をぐいっと引き寄せられた神裂は、
「ん゛ッ!!」
熱い肉棒に唇を奪われ――、
「で、る」
「――――――――――――――――――――――――――――――ン゛!!」
唇を伝って頭の中に響く、塊が狭い場所を通り抜けるごうという音と、粘つく何かが舌や喉に絡みつく、ぬるぬるとした感触と、鼻の奥から肺にまで達しそうな生臭い潮の香りに似た強い臭い。
それらに大事な感覚の内の3つを犯された神裂は、上条が満足するまで、人形の様に脱力して、無抵抗に全てを受け入れた。
尻もちをついたフローリングの床に広がってゆく水たまりが痛々しい――しかし、神裂の顔には悲壮感は微塵も無い。
あるのは何かやり遂げた様な、達成感の様なものだけであった。
やがて脱力した上条は、液晶モニターに『皆様お疲れ様でした』の文字を見て安堵のため息を漏らす。
(やっと解放される……ってか、ここを出たらまず犯人探しだな。幻想じゃなくて本人をぶっ殺す)
などと物騒な事を考えていると、
「んあ? 『別室を用意してありますのでおくつろぎ下さい』って何だ?」
「上条当麻」
「へ?」
見あげると、神裂が立っている。
照明のせいもあってか、上条からは神裂の顔がシルエットになって見えない。
「神裂?」
「これで天草の皆に顔立ち出来ます」
「な、に?」
「いえ、こちらの話ですから。さ、当麻、隣で続きを……」
「え? えぇッ!?」
「もうこれで建宮に馬鹿な噂を流されて悔しい思いをする事もありません。何たって本人公認ですからね」
「か、神ざ――」
とそこまで口にした所で、神裂の顔のシルエットが取れて――、
(まつ毛長えな)
ここまでが上条が、このリビングに残る最後の記憶だった。
重なった唇から、上条が呼吸困難で昏倒するまで数分。
「火織、と呼んで下さい」
神裂がそう言葉を紡ぐ頃には、上条の意識はもうはるか彼方に飛んでいた。
嬉々としてぐったりした上条を抱えてリビングから出て行く堕天使エロメイド、改め、堕天使おもらしエロメイドにクラスチェンジした神裂。
2人が通り過ぎた横では、液晶モニターに『次回のゲストは××さんです。どうぞおたのしみに』と言う文字が、怪しく点滅していた。
END