居候してる白い修道女から「お出かけしないと噛みつくよ?」なんてガッチンガッチンと背後から脅されたので。
明るい家からはっきりわかるぐらい雪が降り始めるほど寒い上に週末の5割増しで学生が押し合いへし合いしてる外に出る事になった。
そんな少年の名は上条当麻、(多分)16歳の高校1年生である。
「とうまとうま、あっちのローストチキンも美味しそうなんだよ!」
「おいインデックス上条さんの記憶が正しければ3分前にも別の売り子さんから丸々1羽分ぐらいありそうなのを買ったばかりじゃ――
ってアレ!?骨すら残ってない!?」
「あーっあっちにも大きなケーキがあるよー!」
「ダメだそれはパーティー用でしかも特注の超豪華版みたいなオーラがひしひしと!」
右へ左へ、人の流れに逆らうどころか横切るお陰で小柄なインデックスの背中を見失いそうだ。
彼女が手もちっこいくせして意外なくらい強く握って無ければとっくの昔にはぐれていたかもしれない。
(まぁインデックスは財布持ってないんだし俺が居ないと食い物買えないんだからそりゃ必死に握ってくるよな)
実際にはそれは3、いや4・・・5割程度で残りはまた別の感情からなのだが、とりあえず思考を口に出さなかった当麻は気付かない内に公開捕食フラグ(噛みつき的な意味で)を回避したのだった。
しっかしまあ、と見回せば周りには人、人、人の群れ。
もっと詳しく言ってみると、大半がペアである。より突っ込んで言えば若い男女、ぶっちゃけカップルばっかりだ。
まあ仕方ないと当麻も思う。
「何ていっても今日はクリスマスだもんな」
もはや万国共通で浮かれる日とでも言っても過言でない日だ。
その上ここは学園都市、半数以上が若い学生ばかりなのでテンションの上がりっぷりといえばもう、その日はジャッジメントにアンチスキルの大半を動員しつつ混乱防止の為目立たないように街中のあちこちで密かにスタンバっていなければならないとまで云われるほどだ。
誰が言ったか『1年の内ある意味最も静かで最も騒がしい戒厳令が敷かれる日』。
只でさえ人が多い上にその分能力者の学生が集う数も増えるんだから、何がきっかけで大規模な能力合戦が街のど真ん中で繰り広げられるか分からないのだから仕方ない。
それにクリスマスは学生向けの店にとっても掻き入れ時で、金を持った学生や店の売り上げを狙うスキルアウトや能力持ちの犯罪者もいるからそれへの対策もある。
ま、そんな事情の大部分は今この少年には関係ないのであって、
「とうま、これも取っても美味しいかも!」
「会計××××円になりまーす(キラッ)」
「もう止めて、上条さんの財布のライフはもうゼロよ!」
眩し過ぎる笑顔で手を差し出してくる売り子さんが冤罪なのに極刑を下した裁判官に思えた。
ちなみに当麻本人は学生寮を出てから一口たりとも食物を口にしていない。
そんな時である。
「当麻さん!インデックス!」
ハッキリ名指しで声が後ろから掛けられたので反射的に振り向く2人。
そこに居たのは――――
「ひょうか!ひょうかだー!ひさしぶりー!」
そう、確かに今当麻の目の前に居て、インデックスが抱きついた相手は生まれや存在はどうあれ間違いなく2人の友人である風斬氷華である。
茶色く太腿まで伸びた黒髪に一房だけ頭の横をゴム紐で留めてアクセントが付いた髪。
少しだけずれた大きめの眼鏡に不自然ギリギリの領域まで大きな爆乳。うん、確かに本人だ。
・・・本人には間違いない筈だけど。
「あの風斬さんや、1つだけお聞かせ頂きたい事があるんですけれどもよろしいでせうか?」
「え?う、うん、構わないけど」
「何故にサンタルック?つーか際ど過ぎだろ!前の時と絶対違うだろ!?」
赤いが普通の布地ではなく、ビニールみたいにぴっちりした素材が身体に張り付いている。上部分は胸の先端まで到達するかしないか、激しく際どい所で途切れていた。
辛うじてそこだけもこもこした白い布地の縁取りが先端の突起部分辺りを隠している。
それだけで女性関係は鈍くたってそれ以外は極々健全な青少年である上条当麻には刺激が強過ぎた。
スカートの裾だって膝上何cm?どころではない位切り詰められてて、風斬がちょっと屈もうとしただけで後ろから太腿から尻まで晒されるに違いないぐらい短い。
更にそこから下は白のニーソックスで頭にはチョコンと乗っかったそれだけまともな紅白の三角帽子。
見まごう事無きサンタコスだった。それも18歳未満お断りな映像作品でしか着られないような類の。
「でもひょうかには似合ってるよ?」
「いやそれは俺も否定しないけど、正直こんな街中の人が居るど真ん中でするような恰好じゃないと上条さんは思うのですが」
「分かってるんです。でも気が付いた時にはこんな恰好で街中に居たんです・・・」
クリスマスで浮かれる学生の気持ちがAIM拡散力場に変な風に働きでもしたんだろうか。
何だか激しく突っ込みたい気分に駆られる上条当麻。誰か子萌先生呼んで来い。
どう反応するべきか困る少年だったが、ふと周りの視線がえらく集まりだしてる事に気付いた。
「おい風斬、マジで街中でその格好はヤバいって、色々と飢えた目線がこっち向いてっから!」
「ふえっ!?」
風斬もようやく気付いた。カップルだろうが1人身だろうが問わず傍を通る男性の視線が穴が空きそうな位集中している事に。
獲物に飢えた肉食獣か腹ペコ修道女並みに皆さんギラついてますよ?
細かく言えば大半が半ば剥き出しになっている彼女の膨らみの深い谷間に、である。
着てる物の素材のせいか最近の格闘ゲームの女性キャラみたいに揺れはしなくても恥ずかしそうに胸元を隠そうとして逆に大きさを強調してしまっていた。
そこで立てたフラグにはさっぱり気付かないくせして無駄に新しいフラグ(女性限定)を立てるこの男の本領発揮。
「とりあえず俺の部屋に来い風斬。インデックスももう帰るぞ!」
「へ?へへへへへへやって当麻さんのですか!?」
「いやだって、そのままの格好じゃ街中うろつかせる訳にもいかないし寒いだろ?」
「あの、別に気にする必要はありませんから・・・人間じゃないんですし」
風斬はそう、自虐的に笑った。軽く見せようとして明らかに失敗した笑顔だった。
当麻は一瞬ムッとしたが、すぐにやれやれと云った風に溜息をひとつ。
「お前が人間じゃないとかそんな事より、風斬は友達で立派な女の子なんだから寒空の下に寒そうなカッコでほっとく訳にはいかないと上条さんは考えてる訳ですが」
「そうだよ。インデックスだってひょうかの友達だよ?」
インデックスが風斬の手を握った。
その手は、温かかった。
反対側の手を取った当麻の左手も、温かかった。
「ほら、行こうぜ。サイズの合う着替えあるかどうか分かんねーけど、少なくともここよりは温かいだろーしな」
「ねぇねぇどうせならひょうかも一緒にケーキ食べよう!だから早くあのおっきなケーキ買ってくるんだよとうま!」
「って俺はパシリ扱いですかそうなんですねそうなのかよチクショー!」
「うわわ、ふ、2人ともいきなり走らないで下さーい!」
気が付くと、風斬はまた笑顔になっていた。
今度は間違いなく、心の底から浮かべる事が出来た笑顔だった。
・・・余談だが、この光景を一部始終見ていた青髪にピアスの少年と常盤台中学の学園都市第3位が怒りの悲鳴を上げていたとかどうとかこうとか。
「夢じゃないよな現実だよな本当に夢じゃないよなイテェ痛いからやっぱり夢じゃねー!」
「はまづら、どうしていきなり自分の顔なぐってるの?」
「い、いや何でもないんだ、ただちょっと確認をだな」
「?」
去年までのクリスマスといえば、野郎どもと集まって何故か自分達の周りには女っ気が全くない(多分その頃のリーダーの風貌がアレだったからだと思う)事を呪いながら、
女の為に奮発してやろうと金を持ってきてるであろう学生(特にイケメンな奴狙いで)を襲ってはどんちゃか騒いで鬱憤を晴らすか失敗して留置所のお世話になるか、が定番の2択だった。
しかし今年からは違う。立場から言えば組織からも外れて下っ端ですらないが、それでも違うのだ。
今の時期、つまりクリスマスにおいての勝者/敗者とはイコール女持ちかそうでないかなのである。
そして今、浜面仕上の隣には滝壺理后という少女が居る。
スキルアウト時代の仲間達には悪いが、今この時こそ暦は冬だが浜面にとっての春だった。
「良かったな、あのカエルっぽい医者も後遺症が無くなって身体の具合も治りかけてるって太鼓判押してくれたし」
「でも、能力を使ったりしたらまたすぐに再発するみたいだけど」
「ならもう滝壺が能力も『体晶』も使わなくていいだけの話だろ。むしろ俺が絶対使わせないからな。もう滝壺が無茶する必要も無いんだから」
「はまづらはいつも無茶な事したりするのに?」
「う゛っ・・・」
心当たりがあり過ぎて困る。
具体的にはレベル5相手にしたりヘリから飛び降りてテロリスト相手に戦ったり統括理事委員会お抱えの武装集団と鬼ごっこしたり。
B級アクション映画の主人公じゃあるまいし、1年どころか半年足らずで何だこの密度。むしろ俺で映画が撮れるぞ。
誤魔化すように頭を書いてみせた浜面の腕には、なけなしの金で買ったケーキやらパーティサイズのフライドチキンとかが入った袋がぶら下がっていた。
何で買ったのか、一々説明するのは野暮ってもんだろう。
「そういえば滝壺はクリスマスはどんな風に過ごしてたんだ?・・・・・・やっぱ『アイテム』の奴らとパーティーでもやったりしたのか?」
「去年は仕事で1日中目標の能力者おいかけてた。その前はずっと研究所で実験ばかりだったからぱーてぃーとかした事ない」
地雷踏んじまったァーッ!?微妙に滝壺の眉が垂れて暗くなってるし。
絹旗がこの場に居たら「浜面超間抜けですねアッパー!」なんて言われて中に待っていたかもしれない。
とりあえずパニくった元スキルアウトリーダーはフォローのつもりで脳裏に思い浮かんだ考えをそのままそっくり言い放った。
「あ、安心しろ。今年こそは俺が滝壺に楽しいクリスマスを過ごさせてみせるから!」
「・・・・・・」
捻りも何にもない。故に、それが今目の前の男の心からの思いなんだと滝壺には分かった。
だからジャージの少女は、互いに繋いでいた手に込める力を少しだけ強くしながらはにかんだ。
「・・・わたしは、今浜面と居るだけでも幸せ」
あーもー可愛いなぁ可愛いぞコンチクショー!!
幸せだぜヒャッホウ!と云わんばかりに頬が緩みきっている浜面。正直ニヤケ過ぎて気持ち悪い。
いっそこの場で抱きしめてやろうかいいよねいいよな答えは聞いてない、と浜面はガバッと人混みに居るのも忘れてガバッ!と両腕を伸ばしてみせて、
ドカーン!!って爆発音と共にいきなり反転した人の流れに弾き飛ばされる事になった。
「は、はまづらっ!?」
「のわーっ!?」
間抜けな声をあげて人の大波に呑まれる浜面その反動で幸運にも道の端に押しやられて踏んだり蹴ったり押し倒されたりせずに済んだ滝壺。
「チクショウがっ!女のくせに調子に乗りやがって!」
「それはこっちのセリフですわよっ!よりにもよってこんな日に犯罪を犯すんじゃありませんの!」
荒っぽい男の怒声と少女の文句、そして再び爆発音。
陰から覗いてみるとジャッジメントの袖章を着けたツインテールの常盤台中学の少女と黒尽くめにスキー帽といかにも泥棒か強盗の類っぽい男の姿。
どうも彼らがパニックの元凶らしい。男が手をかざすたび爆発が起きるから男の方も能力者だろう。
威力や規模、精度から判断するにおそらくレベル3辺り。
ツインテールな少女の方は空間移動能力者で縦横無尽にテレポートする事で男に狙いを定めさせないでいた。
男は能力を連発させる事で精度よりも面制圧に切り替えて、連続して扇状に爆発を起こすと粉砕された地面や周辺の破片が立ち込めて視界が覆われる。
ああっ、聖夜にお姉様をディナーにお誘いする為に4時間かけてセットした髪がーっ!!?なんて悲鳴が向こうで聞こえた。
男は反転して通行人が脱兎のごとく逃げて行った方・・・滝壺の居る方へ駆け出してくる。
男の眼は、紛れも無く滝壺を捉えていた。
軌道修正してまっすぐ近づいてくる男の姿に、滝壺は身を強張らせる。
「はまづらっ・・・!」
反射的にそう呟くと同時に男の魔の手が延ばされ、
グワシィ!!と足首をその場に固定してきた手によって勢いよく男は前のめりに倒れた。
かなり痛そうな激突音が男の顔面から聞こえ、次に男が顔を上げてみるとスキー帽の鼻がある辺りが赤黒く湿っていた。
唯一覗く目元に怒りを表しながら男が視線を転じると、そこに存在していたのは。
「フ、フッフッフッフッフッフッフッフ・・・・・・」
男以上に禍々しい気配を放ってるズタボロ、なのに殺る気満々な凶悪凶暴な笑みを浮かべる浜面仕上であった。
なお、その腕には足跡が大量についている上に中身がグチャグチャになって敗れた部分から中身がこぼれている袋がぶら下がってたりする。
「テメェが、なけなし叩いて買ったケーキやチキンや俺の計画滅茶苦茶にしてくれやがった元凶か」
ジャキッ!と袖から飛び出して手に収まるは今や愛用のレディース用の小型拳銃。
「ブ・チ・コ・ロ・シ・てやんぜェこの三下ァ!!!!!」
「はまづら、むぎのみたいになってる」
あと学園都市最強能力者も微妙に乗り移ってるらしい。
いきなり殺気全開で吠えてきた足跡だらけの少年に一気に恐れをなした男は情けない声を上げて反射的に能力を使おうとしたのか手を掲げた。
能力が発動する、よりも早く突き出した手が軽い銃声によって撃ち抜かれた。小口径でも痛みで能力を中断させるのには十分な威力だった。
「痛いか!こいつは踏み潰されたパーティサイズのフライドチキンの分!」
続けてサッカーボールキック。爪先が股間にめり込み、鈍い衝撃が下から上に男を貫く。
「これが原型無くなるぐらいグチャグチャにされたケーキの分!」
両手で蹲った男の袖を掴んで引き寄せながらのヘッドバットで今度こそ男の鼻が粉砕骨折を起こした。
「これがテメーのせいで散々足蹴にされまくった俺の身体の痛み!!」
拳銃を握り締めたままの浜面の右手が拳を形作る。その拳を後ろへと限界まで引き絞られる上半身。片膝をつきそうになるぐらい腰もギリギリまで落とされて、
「そしてこれがっ!!滝壺にまともなクリスマスを送らせてやれない俺の!!心の痛みだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
顎どころか顔面の骨丸ごと砕かん、とばかりに猛烈なアッパーカットが、男の体を30cmばかり浮かせた挙句見事な車田落ちを再現したのであった。
激しく息を切らせた浜面と、煙が晴れた道の真ん中でポカンと間抜けな表情のツインテールのジャッジメントの対比が滝壺には印象的だった。
もうすぐ日付が変わろうかという、学園都市の大半の明かりが消えた時間帯。
歓楽街から離れた道路沿いの道を歩く灰色の影が1つ。
「ったくよォ、今日も面倒くせェ仕事押しつけやがってよォ」
学園都市最強(ただし現在時間限定)の超能力者、一方通行は新しい銘柄の缶コーヒーを傾けながら寒空の下を歩いている。
杖をついていない缶を持った方の手にぶら下がっているコンビニの袋には同じ缶コーヒーが数十本。
「・・・今回はハズレか」
買うんじゃなかった、と愚痴りながら中身が無くなった空き缶をたまたま見かけた缶用のゴミ箱に放り込む。
そんな彼の背後に近付きつつある車が1台。
クラクションが鳴らされ、ああン?と一方通行が杖で身体を支えながら振り向いてみると、それは見覚えのある車だった。
「よーやく見つけたじゃんよー」
「・・・ンだ、黄泉坂か」
ぶっちゃけ会いたくない相手の1人だった。絶対最初に言ってくる事は決まってるから。
「またあちこち寝床変えるもんだから探すのも一苦労じゃんよー。何時になったらあの子の元に帰ってくるのさー?」
ほれ見やがれ。
「うッせェ。俺の勝手だろうがよォ」
「そういうと思ったじゃん。でも、今日はいつも見たいに行かせないじゃんよ」
「あァ?」
仕事帰りかアンチスキルの制服+装備一式姿の黄泉坂はツカツカ一方通行の腕を掴んだかと思うと。
次の瞬間、気付いた時には両手首が強化ナイロン製の拘束バンドで固定されていた。
「はあああァァッ!?テメェ!」
「はいはい夜中なんだから静かにねー」
「むぐふぅ!?」
「でもってどうせだから今のうちにラッピングしとくじゃんよ〜」
口も塞がれた上にどっから取り出したのか長めのロープ、じゃなくてリボンで足に頭に両腕に手首も胴体と一緒に固定されたもんだから首元のチョーカーさえ解除できないままに縛りあげられる学園都市最強。
これぞアンチスキルの捕縛術の無駄な活用法である。
止めとばかりにこれまたどっからかとりだした白い袋にすっぽり包まれた一方通行は何とか芋虫みたいに身をくねらせて抵抗してみるものの、結局黄泉坂の愛車の後部座席に放り込まれる憂き目に遭った。
傍から見れば完全に誘拐なのだが、生憎目撃者は1人も居ない。
「それじゃあさっさとこのセクシーサンタクロース黄泉川愛穂が、健気な女の子にプレゼントを届けに行くとするじゃん」
心底楽しそうにしながらハンドルを握った黄泉坂は自分で言っときながら盛大なスキール音を響かせて車を急発進させた。
その際の反動で後部座席の荷物が座席から転がり落ちたりしたのだが、抗議の呻きは届かない。
翌朝、とあるマンションの一室にしっかりラッピングという名の拘束をされたまま送り届けられた一方通行の姿を見て喜ぶ幼女の姿があったとか。
学園都市最強のレベル5が知り合いのアンチスキルの手によって拉致されたのとちょうど同じ頃、浜面はようやく自宅へと帰りつく事が出来た。
単独でレベル3の能力者をKOしたせいで、事情聴取とか拳銃の所持(当たり前だがスキルアウトでもない限り学園都市でも所持は違法)に関する追及への誤魔化しの為にここまで延びたのである。
もうすぐ、クリスマスは終わる。
不意に襲ってきた脱力感に、浜面はその場でへたり込んでしまった。
「あ〜〜〜〜、滝壺には悪い事しちまったなぁ」
あんな事があった手前、わざわざ絹旗を呼び出して滝壺を彼女の自宅まで送ってもらっておいた。
本当なら一緒にささやかなクリスマスパーティーをやって、2人だけでケーキを食べて、そして良い雰囲気だったらあわよくばそのまま―――
(っていやいやいや!滝壺はまだ病み上がりあんだしまたあんな事件に巻き込まれたんだから疲れてただろうししょうがないだろ!)
そう、しょうがない。不運だっただけだ。
どっかのヒーロー役の不死身の刑事みたいに、悪い時に悪い場所に居てしまっただけの話。
しかし理解は出来ても納得出来ない事もある。
「はああぁぁぁぁぁ・・・・・・・明日になったらまた滝壺の様子見に行ってみっか」
俺ももう疲れたから寝よ寝よ、とベッドに向かおうとした所。
こんこん、と扉がノックされる音が部屋に響いた。
「誰だよこんな時間に・・・」
疲れとか身体の痛みとかで少々思考能力が落ちていた彼は特に来訪者が誰か確認しようともせず扉を開け。
「超メリークリスマース」
「何やってんだ絹旗」
「あれ超意外ですね。いつもみたいに超つまらない反応でもしてくれるかと思ったんですが」
赤と白の正統派なサンタコスの絹旗最愛はつまんなさそうに言いながらも、背後に置いてあったえらく巨大な―――それこそ人1人そっくりそのまま入りそうな箱を妙にそっと繊細に部屋へと運び込んだ。土足で。
「丁度良い大きさの箱とかリボンとか、この短い時間で調達するのは超大変だったんですからね。あと言っておきますがこの箱の受け取り拒否は超許しませんから。放置するのも禁止です」
「いや、てか何だこれ。というかお前サンタのつもりかせめて玄関からじゃなくて窓とかそれっぽい所から入ってこいよ!?」
「やですよ超めんどくさいですから。それからこの送り主は滝壺さんからですので、なるべく早く空けた方が良いですよ」
「・・・滝壺から?」
「では私はこれで・・・・・・・・・失望させるような真似は超しないで下さい」
「???」
訳が分からない。そんな内に絹旗サンタはさっさと退場。
部屋に残されたのは浜面と巨大な箱のみ。
「・・・とりあえず開けてみるか」
まずは箱を包む巨大なリボンと包装紙を引っぺがす事に。その時に動かしてみた感じから、箱のサイズ通り中身は結構大きくて重たそうだった。
次は箱。引っ越し用に使うような折り畳み式のタイプで、内部に折り込まれている部分を外せば中身を出せる仕組みだ。
滝壺から送られてきたと聞いて正直半分ぐらい嬉しかったりする浜面は楽しみにしながら箱の中身を露わにしてみる。
滝壺から送られてきた箱の中に居た滝壺本人と目が合った。
何故か彼女は、真っ赤な長いリボンは何も身に着けていなくて。
「めりーくりすます、はまづら」
「のっひょぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!?」
浜面、後ろへその場跳びで後頭部から壁に激突。
何がどうなったのか箱はそのまま四方に開いて、中に入っていた滝壺の今の姿が全身晒される。
赤のリボンが胸回りと腰辺りの大事な部分を最低限隠しているだけという格好に加えて、頭にはちょこんと白い兎の耳が。
浜面の鼻の中で熱い感覚と鉄錆の臭いが広がるのを堪え切れなかった。
「はまづらはこういうのも好きなの?それともバニーの耳のせい?」
「な、なななななななぬぁんぬぁんだよその格好!?」
「あのあとはまづらが元気なさそうだったから。はまづらの好きなバニーの格好をしようとおもってきぬはたにたのんだけど、耳しか見つからなかったから代わりにはまづらが喜んでくれそうな格好をしてみたの」
いや嬉しいよ?嬉しいけどある意味ベタっていうか耳だけっていうのもいやすんませんぶっちゃけすっごくエロいです。
つーか好みどうこうよりも、格好が過激すぎる。
何より今、目の前でそうしてくれているのは浜面が大好きな滝壺なのだ。それこそが最も重要な点だ。
良く見てみると、滝壺の顔色がいつもよりも青白い。考えてみれば真冬の夜空で裸同然の格好をしていたのだ、身体が冷え切っていて当たり前だろう。
その点に浜面が気付いたのを滝壺も悟ったのか、丁度リボンの結び目がある胸元を見せつけるようにして少しづつ彼に近づいていく。
彼女からハッキリ分かるぐらい浜面の顔は鼻血以外にも赤く染まっていたし、隠しようが無い位彼のズボンの前はきつくテントが張っていた。
滝壺もまた、自分の裸を見て彼がそこまで興奮している事を嬉しく思い、そして見るだけで満足して欲しくない、とも感じている。
「さむいから、はまづらがあたためて。おねがい」
滝壺の懇願に浜面は、震える手を彼女の意外と大きな膨らみに伸ばす事で応えた――――――