(いつまで……こうしていればいいのでせうか……)
子供の頃にみた絵本のようにきらきらと輝く部屋の中で、上条は大きすぎる椅子で情けなく縮こまりながら目を泳がせている。
(何故、何故このようなことに……)
時折、視界の端で赤いドレスが動きを見せるたびにビクっと体を震わせ、これから何が起こってしまうのかと自分自身を追い詰める妄想を働かせる。
(何が起こるんだ、これから……。上条さんは、どうなってしまう)
ソレが大きく動いた。
上条の心もまた揺れ動く、赤いドレスの間から彼女の細い脚が伸びる、奥歯をかみ締める、手のひらに爪が突き刺さった。
「おい、名前は?」
「上条当麻です!」
ふうん。それだけ言ってまた彼女は黙り込み、それから少しして、突然矢継ぎ早に質問を浴びせかけてきた。
「家族構成」
「ち、父、母、自分と、居候が一匹!」
「ふーん、お前の女か?」
「違います! 居候ですよ!」
「なるほど。まあ、アレに手を出すならば、真性の変態だし」
満足そうに頷き、ゆっくりとした動作で脚を組みなおす。パンツが見えた。赤くてレースつきの、ド派手なヤツ。
(くぅうウう! そんなところを見ているんじゃありません上条さん! 相手が誰だか判っていますか!? 死んでしまいますよ!)
悲しきかな高校生。悲しきかな男の本能。そこに何かが在ると思わずにはいられない希望的観測。
(駄目だ、このままじゃ。何とかここから逃げださな……)
「寄れ、上条当麻」
「へ、な、何と?」
思考を中断され、いまいち理解できずに問い返してしまう上条。
「ちっ、聞いていろ。私の足もとまで……そう、足許に来るの」
妖艶に笑い、また脚が組みなおされた。またも赤いパンツ、ゲン担ぎ、関係ないが、惹かれてしまう。
上条は何も言わずにただ彼女に従い、頼りない足取りで彼女が先ほどつま先で指し示した場所へ向かう。
「よし、それでいーの」
その直後に彼女は上条の唇を奪い、そして床に押し倒した。たったそれだけだが、上条の頭はそれによって完全に混乱状態に陥る。何も抵抗できないまま、上条はただただ柔らかな毛氈を握り締めた。
やがて口内に舌が侵入し、生暖かい液体が喉を下っていく。舌が上条の口内を蹂躙し、我が物顔に振舞う。上条の耳に、彼女が何かを飲み込んだ音が、やけに大きく届く。
ようやく解放されたのは、一分近く経った後のことだった。
「ぷはっ! ……な、何をっ!」
「ん? どーした? 何をうろたえている」
余裕綽々と言った表情で、しかも舌なめずりまでして見せてくれた。
「う、うろたえないはずがない! 上条さんは、突然のことに何が起こってい、うわ!」
叫び始める上条だが、すぐ目の前まで迫ってきた彼女の顔に、途中で口を閉じてしまう。
同時に、上条の顔に朱が差す。
「どーした、上条? 何とか言わないのか」
「くっ、キャーリサ。何を……」
「おいおい、第二王女を呼び捨てか? 随分お偉いさんなのだな」
「う、うぅぅ」
悩み、口ごもる上条を見て彼女……もうよかろう、キャーリサはネズミを叩き伏せた猫のような顔で、満足げに上条を見下ろし、こう耳元でささやいた。
「動くなよ? まー、抵抗して私に怪我でもさせれば不敬罪だし、お前には何も出来ないがな」