――――――、と、微かな振動が心地よく響く。  
木ィ原くゥンが授けてくれたスペシャルアイテムBMWには、どうしたことか偽造免許証までそっと運転席に置いてあった。  
どこまでもニクい野郎だ。  
 
「打ち止めー」  
「なーあにーってミサカはミサカは温風に弛緩しつつ返事してみるー」  
「あったかいってスゲーよなー」  
「全く文明って素晴らしいよねーってミサカはミサカは暖房を発明した人を讃えてみたりー」  
「エアコンばンざーい」  
「エアコンまんせぇー」  
 
キャッキャとはしゃぎながらBMWを走らせるバカップル。雪のせいで道が埋もれていると予想していたのに、除雪車が通ったあとのように道路だけが綺麗に露出していた。  
木原くンやりすぎ!。  
これまたしっかり日本語で設定済みというカーナビ〜木原くンより愛をこめて〜を頼りに空港へ向かう二人だったが、その途中になにか黒いものを見つけた。  
 
「あっねぇねぇウニがいるよ?ってミサカはミサカは積雪にウニ発生という謎の事態に首を傾げてみたり」  
「ウニだァ?ウニっつったら…なンか嫌な予感がする」  
「ウニかと思ったがそんなことはなかったぜ!ツンツン頭の男の子だー!あと白いシスターさんもいるよってミサカはミサカは報告してみる」  
「わァやっぱりかよ!」  
「ちょっとどうして減速しないの?ってミサカはミサカは横からブレーキをうおりゃあああああ!!!」  
「おァああああァァァあああぶねェェェえええ死ぬゥゥ―――!!」  
 
打ち止めは助手席から無理矢理左への運転席へ体ごと移動させ、ブレーキを勢いよく踏みつけた。  
 
ギギギギャギャギャギャリリィィィ!!!と心臓に悪い音を立て、BMWは3回転半スリップして止まった。ついでに一方通行の心臓も半分止まりかけである。  
 
「見事なドリフト!ってミサカはミサカは満足してみたり」  
「ハンドル握ってたのは俺だあァァァァ!!!殺す気かァァァ!せっかく拾った命無駄にするとこだったンだぞこのクソガキィィィ!!」  
「まったく心配性なんだから。ギャグマンガでは誰も死なない、これはもはや常識!ってミサカはミサカはフェニックス」  
「一輝ィィィィ!!!ってそうじゃねェよ、そもそも漫画じゃねェっての」  
「そこもツッコミどころとしてはどうかと思う、ってミサカはミサカはさらなるダメ出しをしてみたり」  
「もうどうでもいいです。それよりせっかく止まったンだからよォ、件のウニとやらはどうなったンだよ」  
「ああ、そういえばそんなのも居たねってミサカはミサカの記憶を掘り起こしてみたりー」  
「……」  
 
しばし車内ではしゃいでから、二人は未だ雪のちらつく道路に降り立った。  
路肩、雪に埋もれるように、黒いウニが見えている。そのウニに隠れるようにサラリと覗く長い銀糸と白装束。  
紛れも無く上条当麻と禁書目録であった。  
 
 
「おい、無能力者」  
「聞こえてますかー?ってミサカはミサカはつついてみるんだけど反応無し」  
 
近寄ってよくよく観察すれば、なるほど二人に意識があるとは到底思えないほど傷だらけだった。先程までの自分たちのように。  
禁書目録の修道服はあちこち擦り切れ薄汚れ、純白とは程遠く。滲み出した血に染まって、それが乾き、埃と混じり合って奇妙な色の染みになっていた。  
上条当麻の方はロシアという土地をナメとんのかと言いたくなるほど薄着である。いつもの学生服と、申し訳程度のマフラー。  
そのどちらもがボロボロの様相であり、その下にある抉れた傷や壊死しかけた手指を隠すことさえ出来ずにいた。  
まさしく満身創痍。防寒具さえ揃える余裕のなかった自分たちに、猶更重なって見えた。  
 
「…チッ」  
 
一方通行は静かに電極のスイッチに手をかけ、一段階スライドさせた。能力使用モード。  
がしりと上条当麻のウニ頭を鷲掴むと、ずりずりと木原くン愛のBMWへと引き摺っていく。  
 
「乱暴じゃない?ってミサカはミサカは些か心配になってみたりするんだけど?」  
「こンな程度で死ぬならとっくに凍死してンだろうよ」  
「それもそうね、ってミサカはミサカは若干納得してみたり」  
 
上条当麻を後部座席に放り込むと、次は禁書目録の背中と膝裏を支え、抱き上げた。そっと助手席に運び込む。  
 
「悪ィがこっからは助手席はこっちのシスターに譲ってやれ。死にかけてっからな」  
「大丈夫。命に変えられるものなんかないんだからってミサカはミサカは聞き分けよく後部座席に乗り込んでみる」  
「良い子だ」  
「でもその理屈だとこのつんつん頭の男の子はこの扱いでいいの?ってミサカはミサカは答えの分かりきった疑問を放ってみたり」  
「解ってンなら聞くな」  
「解ってるんじゃなく分かってるだけなのに…」  
 
少しだけ打ち止めはむくれたが、それ以上一方通行が何も言う気配が無いので黙った。  
横で気を失ったままの上条当麻に視線をやって、改めて眉をひそめる。ひどい傷だ。まず右肩から左脇腹へ、ばっさりと鋭い切り傷がある。並行して三本。  
右の袖は肩口で千切れてなくなってしまい、程よく筋肉の付いた引き締まった右腕が完全に露出している。腕そのものにも幾筋もの傷が生々しく残っている。  
左手に目をやれば、爪がほとんど剥がれてむき出しの皮膚が覗いていた。  
 
私たちはいったい何をどうしてこんなことになっているのだろう。  
 
打ち止めは運転席に聞こえない程度に息をつき、カーナビを確認した。空港まであと25キロですとタイミングよく機械音声が告げる。  
もう20分も走れば着くと言うことか――。長いな。  
無言でハンドルを握る白い少年が何を思っているのかは解らない。彼と二人っきりのままだったなら、20分では足りないと感じただろうに――。  
ついと視線を外に向けた。雪はまだ止まない。  
4人の少年少女を乗せて、BMWは雪すさぶ異国の途を直走る。  
 
 
-空港-  
 
「おら着いたぞ起きろ」  
「ぐっ、う、。」  
 
後部ドアを乱暴に開けて、げしりと満身創痍の少年の太ももを蹴りつける。それを見て思わず息を飲んだ打ち止めだったが、次の瞬間杞憂であったことを知った。  
 
「やめてくれフィアンマ!もう白米は、白米は無いんだ、――ごめんってば!まさかそんなに米が好きだとは――あれ?」  
 
その声で助手席の薄汚れたシスターも目を覚ます。  
 
「いやぁぁ…リモコンさえ、リモコンさえなかったらその白米は全部私のものだったのに、。はっ!?お腹が空いたんだよとうま!?」  
「ギャァァ!!噛み付かないで下さいインデックスさん!食べるなら帰ってから、帰ってからです!いただきますは言いましたかーー!!!??」  
「いただいてます!!!」  
 
「…なんだか、よくわからないけどなんとなく分かった気がするの、ってミサカはミサカは呆れ返ってみたり」  
「予想は…してたンだけどよォ…なンか釈然としねェ」  
「とりあえず空港のレストランでも行ってご飯が食べたいね、ってミサカはミサカは提案してみるんだけど」  
「一も二もなく賛成に決まってンだろ…」  
「…誘う?」  
「…この状況で、放って行ったら、多分駐車場の車全部骨組みだけになると思うンだが」  
 
二人の目があった。僅かな沈黙が場を支配する。  
 
「……おーい、そこのお二人さん、ご飯が食べたいかー?ってミサカはミサカは小さく訪ねてみt」  
「ごらああァァ腹ペコシスター!てめェうちの子に噛み付くンじゃありませン!!」  
「やめなさいインデックス、人間は食べられません!俺以外の人に噛み付くんじゃないなんか嫌だー!」  
「うわああああああん痛い痛いイタイよー!血液逆流よりも明確な"食われる"という恐怖に身の毛がよだつぅぅ!ってミサカはミサカは慌てて距離をとってみるーっ」  
 
 
んでレストランでお食事をするに至ったわけだが、案の定食べ過ぎインデックスのせいで所持金が足りないよ!ピンチ!  
そこへドアを勢い良くバーンと開いてとある顔面刺青の狂科学者がやってきた。  
「アハギャは!!無銭飲食未遂だな一方通行!一皮むけちゃってカッコイーッ!だがこんなところで無様に身柄拘束なんて許さないんだからねッ!  
ちょっと早いけどお年玉をあげるから当座の資金はこれでまかないなさい。  
ちなみに打ち止めにはこっち、そっちのウニはこれ、そこのシスターには現物支給ってことでこのレストランの最高級ボルシチをやるよ!」  
ぺいぺいぺい、とポチ袋(一方通行はうさぎ柄、打ち止めはカナミン、上条は"福"の文字)を渡していく白衣の刺青野郎。  
最期にパッチィィンと指を鳴らすとスタッフがボルシチを運んできた。  
「ひゃはは!じゃぁな一方通行!日本で会おう!その時が貴様の死ぬときだァッー!!じゃあの」  
わははははと笑いながら木原は伝票をひったくり、スマートに会計を済ませると去っていった。  
ボルシチを食べると、全員のHPが5000ずつ回復した。助かった。良かった。4人は満腹になった。上条のポチ袋には、お小遣いと一緒に飛行機のチケットが二枚入っていた。  
もらったお年玉でおみやげ(マトリョーシカ)が買えた。ヨミカワとヨシカワ喜ぶかなぁ、と打ち止めが言った。喜ぶ前に無断外泊について叱られるな、と一方通行は思った。  
おみやげの前に服装をどうにかしようと、上条とインデックスは服を少し買った。イヤーマフをプレゼントすると、インデックスは思いのほか喜んだ。  
4人は和やかな気分で飛行機に乗った。帰りにエアジャックが起きたが滞りなく解決した。ほっとするね。  
 
帰った先で4人はカエルにしこたま叱られるわけだが、そのことをまだ知る由もない。ただ幸せを満喫しているだけであった。  
 
 
〜トゥルーエンド〜  
 

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