『豆』
(小ネタ)
『おにはーそと!ふくはーうちぃ!』
「幼稚園か……。でもあの緑の着ぐるみって」
『ゲココー……ゲコっ!?』
「ゲコ太!?」
『ゲコー……ゲコ?』
「ん?そのお面……もしかして鬼役なの?」
『ゲコ』
コクン。
「ふーん……。あ、ちょっと握手していい?わーっ!もこもこ!
ちょっと、ぎゅぅってしていい?OK!?
ん?私に?」
『ゲコ。ゲコー』
「ああ、余っちゃってるのね。
うう……でもゲコ太に豆とはいえ物を投げるなんてできないなー」
『ゲコゲコー。ゲッココー』
「何?」
かぽっ。
「人に音速でコイン飛ばしたり、電撃でビリビリ人を追い回してる癖に」
「な、な…な……」
「『わー!もこもこ!』とか『ちょっと、ぎゅぅっってしていい?』ってのは
ないんじゃねぇか?」
「こ……のぉッ!」
「小さいお子様達の前で変な真似すんなよー」
「……く!」
「ああ、ちなみに今回はバイトじゃなくて担任の先生から頼まれただけだからな。
しかし、あのときは酷かったよな」
「う……」
「ゲコ太スーツは『ふにゃー』で黒焦げ。ボイスチェンジャーもぶっ壊れて全部俺が弁償」
「うう……」
「しかも中身が俺だとわかった途端、砂鉄の……あれは鉤爪か?ミンチにされかけたし」
「……で、でも。あとであんたにお弁当作ったり、飢え死にしかけてたあんたに
ファミレスでご飯食べさせてあげたでしょうがっ!?」
バチン!
「うお!?そこで何でキレんだよ!」
「うるさい!」
「ねー、お姉ちゃん。これをおにさんになげるんだよ」
「……ああ、ありがとう。そう、そうね。今あんたは鬼役なのよね。中身も誰だかわかったし
手加減なんていらないわよね?皆私に付いてきなさい。行くわよ!」
『おー!』
「は?」
「鬼ぃはぁぁ!」
「ひぃっ!?」
「外ぉぉッ!!」
ぐしゃ。
「お、終わった……」
「うんうん。楽しかったわね」
「子供に混じって本気で豆投げまくりやがって」
「うーん……まあ、ごめん?」
「ゲコ太スーツにたっぷり入った豆と砕けた豆で、全身豆まみれの上条さんを見て本気でそう言ってんのか?」
「……悪かったわよ。いいから着替えなさい」
「お前もちゃんと払っておいた方がいいぞ。最後に乱戦になってお前も投げられてたろ?
握りつぶした豆なんかがまだかかってるぞ」
「げっ。あのガキンチョ共……粉が服の中に入っちゃってるじゃない。うわ、下着にもついてる」
「更衣室なら他にもあるぞ」
「……覗くなよ」
「覗かねぇよ」
ふと、個室のカーテンに人影が映った。美琴だ。しかもシルエットからして下着の可能性が高い。
(危ねぇ。うっかりカーテン開けてたら今度は血にまみれてたかもな)
「はい。あんたの分」
「は?」
「豆。食べちゃいなさいよ。一五か一六でしょ?ちょうどあるわよ。あと」
「なんだ?」
「ごめん」
(やれやれ……)
「もらうぞ。サンキュー」
カーテンを開けずに、隙間から手を伸ばす。
シルエットから美琴の胸元ぐらいの高さに、抱えるように持った小箱らしきものがあるのはわかっていた。
適当に手を伸ばすと、豆を一つ摘んだ。
ふにっ、と妙に柔らかい感触だった。ほのかに温かい。
「……お?随分柔らかい豆だな」
摘んだのはいいが、どういうわけか取れない。上条は首を傾げた。
引っ張っても、つねるように捻っても取れなかった。
「…………」
「おい、取れないぞ?くっついてんのか。お、硬くなってきた……?」
「――――――」
→1.「なあ、なんだこれ?新手の実験用食品とかじゃねぇよな」
2.「なんか(ピー)みたいだな」
「……御坂?お前なんか怒ってないか」
「……ちょっと中に入っていいかしら」
「待てよ。お前服着て―――」
「そんな記憶跡形も残らないように吹っ飛ばしてあげるから、開けさせてもらうわよ」
「ま―――」
シャー(カーテンの開く音)。
続いて絶句した上条の目に“何か”が焼き付けられる前に。
高圧の大電流が襲いかかった。
当然だが、個室の中では逃げ場など存在しなかった。
終。