逆さに浮かぶアレイスター・クロウリーと同じ生命維持装置の中に、一糸纏わぬ上条当麻の姿があった。
ビーカー内の液体に全身を浸し、天と地が逆になった世界でアレイスターと視線を交えていた。
「『幻想殺し(イマジンブレイカー)』……。よくここまで成長してくれた」
「ア…アレイスター……」
「上条当麻。君は本当によく頑張ってくれた。ああ、そうだ。君の力無くしてあの幻想は本当の意味で壊せない」
「……何の話だ」
「魔術という非論理的現象を否定する基準点なのだよ、君の右手は。ようやくレベル5に達してくれた。
君もわかっているはずだ。その右手の力はすでに、君の手に余るものとなりつつある。
コアの回転数はすでにオーバードライブ状態の一歩手前というところだ」
「だったら何だっていうんだ……!」
「『幻想殺し』の“力”が、君の右手を内側から吹き飛ばす前に―――その“力”の『コア』を取り除いてあげよう」
「……そいつを、どうする気だ?」
「『幻想殺し』の『コア』をこのビルの中枢で自爆させる」
「―――何だって?」
「その力を解放し、世界を網羅するミサカネットワークと学園都市を用いた術式により、
魔術という幻想を世界から葬る―――」
「……何っ!?」
「―――と察しの良い者は考えるだろうが、私はそのもっと先を見ている」
「ちょっと待てよ!どういうことだ!?」
「まあ、何にしても。君に力をもう一段階上げる必要がある。君は何もしなくていい。
私に任せてくれればな」
すうっとアレイスターの手が、上条の胸元へ伸びる。
抵抗しようと上条は体に力を入れた。できない。どういうわけか指一本たりとも力が入らない。
「……!」
すでに裸にされた上半身を細い指が蹂躙する。
上条の体をキャンパスに。細い指を筆として。
ビーカー内の液体にいかなるものが含まれているのか、指先が走った軌跡が赤く変色する。
キャンパスに描かれているのは魔方陣か。
上条にはわからない。
やがて、上条の下腹部に手が伸ばされた。目線を合わせていたアレイスターの目が、上条の男としての部分を注視している。
そして―――男にも女にも、大人にも子供にも見えるアレイスターは彼の性器を口で咥えた。
「……っ!?」
未知の刺激が上条の背筋を走った。
ざらついた肉が性器を覆う皮を開き、先端から侵入する。快感とも不快感ともいえない、
痺れのような感覚に戸惑った。早くも充血し始めた性器を、アレイスターは口に先端を含んだまま、
ゆっくりと嘗め回す。
アレイスターは無表情だった。ただの儀式でしかないのだ。
上条は恥辱にただただ耐えるしかなかった。
もっとも、一分と経たない内にアレイスターの口内が白い液体に満たされた。
体の自由を奪ったのと同様に、何かしらの薬が使われたのだろうと上条はおぼろげに理解した。
アレイスターの性別は上条にはわからなかったが、これで終わりではないということだけは予想できた。
―――さらに、別の複数のビーカーが存在する。
白髪の少年がいる。御坂美琴瓜二つの少女が、色素の薄い長い髪をたゆたわせている。
片腕と片目の欠けた少女に何かしらの施しがされている。
体の大半が機械で補われながらも、さらに巨大な機器へ接続されている少年の背には白い翼があった。
そのとき、衝撃が襲った。
一度では終わらない。
再び、衝撃。
衝撃、衝撃…衝撃……!衝撃―――っ!!
「どうやら、来たようだな」
アレイスターが外部カメラから映像を呼び出した。
上条は目を凝らしてビーカー内に映し出された複数の画面の中から探し出した。
見知った姿、見知らぬ姿は一つ二つではない。
「イ、インデックス。御坂と、御坂妹…五和……神裂まで」
それぞれ怒りや苛立ちを隠せない表情で口論になっている。
槍に施しを続けながら五和が何かを発して美琴を牽制し、御坂妹が神裂の容姿か、あるいは服装を指摘して問い詰めると美琴が突っ込みを入れる。神裂も美琴と御坂妹に(上条関連と思われる)追及をする。
それぞれ何と答えたのか、五和が作業を放棄して加勢する。
最後にインデックスがぷんすか怒ると、全員が呆れきった顔で笑い合い……それぞれ軽食に入った。
それだけではない。土御門と海原がカメラを意識して笑った。打ち止めを嗜める十数人の妹達の姿もあった。
建宮が天草式内に指示を飛ばし、赤い服のシスターとオルソラとシェリーが分厚い本を手に言い合っている。
おろおろと右往左往している風斬を姫神と吹寄が落ち着かせ、オリアナと騎士団長がアックアを連行するように
ヴィリアンに引き合わせる。白井黒子と長い髪を二本にわけて束ねた少女が胸を張っていがみ合い、黄泉川の登場で
膝を屈する。どうやって侵入したのか、学園都市の各所でアニェーゼ隊が待機していた。
気のせいか、黄色尽くめの女や緑色の髪の白いスーツの男と、葬式屋のような黒いスーツの男がいたように見えた。
他にもこそこそと移動する元スキルアウトのリーダーが二人の少女に付き従っている。
「皆……」
数十分後、空から無数のカードがばら撒かれた。
彼らが向かう場所は明らかだ。
上条は笑った。
彼はまだ屈していない。
戦いはこれからなのだ。