「ふふふん、ふふふん、ふっふっふ〜ん♪」
歩道の上でスキップを踏み、鼻歌を口ずさむ。
空高く舞い上がっては、高速スピンを披露し軽やかに着地する。
前方で行われるパフォーマンスを眺めながら、上条は傍らの悪友に声を掛けた。
「なあー、土御門」
「ん? どした、カミやん」
「青ピのやつ、一体どうしちまったんだ? 明らかに挙動がおかしいだろ?」
「そか?」
「いや、絶対おかしいって!?」
「にゃー、今日は何日だ?」
「へ? 確か……13日だよな」
「つまり、そう言うこった」
「……意味わかんねーんだけど」
「にぶいにゃー、カミやんは。例えば、子供が遠足に行く前日どんな心境だ?」
「そりゃあ、楽しみで落ち着かな――」
上条は声を途切らせ、そっか、と納得したように頷く。
入れっぱなしの教科書を撤去したり、机や下駄箱をデコっていたのは、そういう意味か。
しかし、すぐさま新たな疑問符が浮かび、小首を傾げた。
「貰えると思ってんのかな……あいつ」
「夢見るのは、青少年の特権なんだぜい、カミやん」
雲の上のお花畑で、楽しそうにはしゃいでいる青ピ。
上条の瞳に映るその姿が急にぼやけ、頬を冷たいモノが伝う。
(あっ…れ? 悲しくないのに、目から汗が溢れてくるよ、ママン)
脳裏に浮かぶ明日の光景と青ピの心を想い、上条はそっと目尻を拭った。
バレンタインって、「乙女の聖戦」であると同時に「男の聖戦」でもあるよなー
敗れ去った青ピの魂は、戦乙女に迎えられるのだろうか…
「ちょ、待ってえな、綺麗なお姉さ〜ん!? 僕を置いてどこへ行くんや〜!?」
やっぱ、それすら拒否られるのが青ピクオリティー……救いの手は無しか