学園都市も例外ではないようで赤やピンクのリボンとハートが数日前から街中を飛び交っていた。  
 
「ねぇとうま、プレゼント」  
名前をよばれた青年は少しだけ胸が高鳴り振り返る。今日はバレンタインデーである。プレゼントといえばただひとつ。チョコレート。人の食事も奪うような勢いの彼女からもらえるなんて。  
しかしながら。  
数日前に降った雪のように白い衣を身にまとったシスターの差し出した両手はからっぽなのだった。  
「今日はバレンタインデーなんだよ」  
「あのーインデックスさん。その手の上のどこにプレゼントがあるんですか。」  
「どこってとうまがくれるんでしょ」  
 
その後、むきーっと効果音なのかなんなのかを出しながらインデックスはバレンタインデーというものの説明を始めた。  
文化の違いなのか製菓会社の策略かインデックスと当麻の認識は違うものであったようだ。  
しまいには日本ではチョコをオトコがオンナにあげる。などと彼女の中では変換されたらしい。  
「しっかしなー、プレゼントったって。舞夏が昨日なさけでくれたチロルチョコしかねーぜ。」  
「チョコー」  
「残念だがインデックス。これはやれないな。これが唯一のチョコになるかもしれないんだ。」  
包みから取り出したチョコレートを見て当麻にはちょっとだけ悪い考えが浮かんだ。  
 
「どうしても食べたいならこの上条さんの口から奪ってみなさい。」  
 
わざと舌の上に乗せ見せびらかすようにしてから口を閉じる。口と目をまるくしているインデックスを見るとざまーみろと思ってしまった。とれるものならとってみやがれ。  
どうせそんなこと無理だろう。そう考えての行動のはずが、どうやら当麻の考えていた以上にインデックスの食べ物に対する執着はすごいものであったらしい。  
「うばうもん」  
するりと足の間に入り込んだインデックスは両手でがっちり当麻の顔をはさむと自分の唇が目的に届く高さまで引き寄せ、重ねあわせる。  
重ねたのはほんの一瞬で。あっけにとられて半開きの入り口から舌が進入する。唇の端を撫でられたかと思えば前歯、舌、上あご、舌は執拗に当麻を侵していく。  
奥歯につくかつかないかあたりにインデックスは目当てのチョコレートを見つけたようで、そこばかりを舌先でつついた。  
当麻は口の中を撫でられることのなんとも言いがたいムズムズとした感覚でチョコレートのことなど消えそうになっていた。  
ゴクン。ごくん。わざとなのか喉を鳴らす。とっくに溶け出しているチョコレートは当麻の唾液に混じって薄まり、舌に促されインデックスへと流れていった。  
最後の一絞りといわんばかりに音を立ててインデックスは唇を離した。そのまま。離すな。そう思ってしまうのは舐められ吸われすぎておかしくなってしまったか。  
当麻は足の間のインデックスを見る。もっと。もっと。  
「ねぇもっと」  
自分の考えていることが彼女の口からでてドキッとした。  
もっとしたいのか。望んでいるのか。  
 
そう考えた瞬間、自分がなんだか異常に恥ずかしく思えた。  
 
顔は見ていなくてもわかる。きっと斜めの線がたくさん書き込まれたように真っ赤だろう。  
当麻は右手で顔に手をあてる。俺の邪まな幻想よ消え去れ。と。  
「ねぇねぇとうま」  
「あーわかった、わかった。もっとチョコが食べたいのか。よしわかった。今からお前のために買ってきてやるからちょっとばかし待ってろ。」  
インデックスから逃げるように立ち上がると思ってもいない言葉が口から出て行く。  
彼女の顔を見ず、答えを聞かず、振り返らず。  
 
「じゃ買ってくるから、お前はおとなしく待ってろよ。」  
 
自分の名を呼ぶ声を遮って普段よりも大き目の音をたたせてドアを閉めた。  
足早に部屋を離れる。  
玄関が完全に見えなくなる曲がり角を抜けたところで当麻は大きなため息をついてしゃがみこんだ。  
 
 
 
 

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