彼女の要望通り、キッチンからベッドへ場所を移すことにした。  
 白井を前に、上条は身を屈める。  
「……? 何を、してますの?」  
 へへ、と上条は子どもっぽい笑みを浮かべた。  
「いわゆる、お姫さま抱っこって奴だな」  
 言いながら白井の膝裏に膝かっくん的な軽い手刀をかます。  
 がくりと体勢を崩され慌てる白井を、その勢いのまま抱き抱えた。  
「じ、自分で歩けますわよっ?」  
「前々から、普通にお姫様抱っこしてみたかったんだよなー」  
 よいしょ、と爺臭い掛け声と共に歩き出す。  
「聞いてますの上条さんっ!?」  
「つーかお前、軽すぎるだろ。 どんな飯食ってんだ?」  
 上条はスルー。  
 白井は腕の中に収まり、恥ずかしいから下ろせと抗議している。  
 先ほどとは違い、上条は地面を踏み締めるような足取りでベッドへ向かった。  
 その間もああだこうだと騒ぐ白井だったが、上条は取り合わない。  
「下ろすぞ」  
 ゆっくりと慎重に、割れ物を扱うかのようにベッドへ寝そべらせる。  
 その作業を済ます頃には、彼女は借りてきた猫のように大人しくなっていた。  
「殿方とは、皆あなたのように意地悪なんですの?」  
 ツン、と拗ねたように白井は言う。  
 その頬は僅かに赤い。  
「んー、どうだろうな」  
 上条は彼女を押し倒すように、しかし体重を乗せないよう覆い被さる。  
 それからそっぽを向いた彼女の顎に指を添え、振り向かせてから、  
「俺だけかもな」  
 ちゅっ、と軽い口付けをした。  
 より一層彼女の頬は赤みを帯びて、ぱちぱちと瞳を瞬かせる。  
「……ずるいんですのね、殿方は」  
 彼女は上条と視線を交えず呟いて、でも、と振り向く。  
「黒子には、良い薬になりそうですの」  
 上条は数瞬言葉を失い、ははっ、と楽しげに笑った。  
「口に苦いかもしれないぞ?」  
「卑猥な表現ですわね」  
「そんな想像する黒子のがエロいな」  
「なっ…!」  
 喚き始めた白井に構わず、上条はその細い首元にキスを落とす。  
 ひぅ!?と彼女は驚きに声を上げるも、上条をはね除けたりはしない。  
 
 上条はさりげなく彼女のブラウスのボタンを外し、首元を露出させた。  
 それから何度かキスを繰り返し、徐々に首、鎖骨、胸元へと下がっていく。  
「はっ、ん……あ、の、服は……」  
 問いかける白井を一瞥し、上条は無言で彼女のエプロンに手をかける。  
(個人的には制服のままでも良いんだが……まあ、普通は脱いでするよな)  
 表情には出さずそんなマニアックなことを考え、エプロンを取っ払う。  
 されるがままの彼女が、あのっ、と少しだけ身を乗り出す。  
「出来れば、脱ぎたくないのですけれど……」  
「え?」  
 彼女はモジモジと視線から逃げるようにして、気恥ずかしそうに顔を反らした。  
 その横顔は林檎のように赤く染まっている。  
「女として、今の身体に自信はありませんの……いずれは、殿方の望むようなボンキュッボンになる予定ですけれど」  
 まだまだ発育途中の彼女は、そんな健気なことを言う。  
 弱気と自信が入り交じる彼女らしい言葉だな、と上条は苦笑いを浮かべた。  
 何も言わずに、ただ彼女のセーターごとブラウスをずり上げる。  
「ちょっ!?」  
 上条は制止の声も聞かず、過激で素敵な大人ブラを上へ押しやった。  
 それからじっくりと、彼女の控えめな胸を眺めていく。  
 なだらかな丘陵の中にほんの少しの膨らみと、愛らしく主張する小さな突起。  
 引き締まった括れに、艶やかな肌。  
 僅かに火照る健康的な肌色。  
 微かに漂う女性特有の甘い香り。  
 女性的な身体つきというには幼いが、彼女の身体は十分すぎるほどに上条を魅了した。  
「…これの何が嫌なんだ? 上条さん的には、スゲー可愛くて良い感じなんだが」  
 さりげない動作で、赤く火照った胸に触れる。  
 むにゅっとした生々しい感触が指に伝わった。  
「んっ…そう言っていただけると、うれ、ひぅっ…」  
 円を描くように彼女のそれを揉みしだく。  
 形を確かめるように包み込み、指の腹で突起を刺激した。  
 彼女はくすぐったそうに身を捩り、ピクピクと身体を震わせる。  
 撫で回す中で時折、その頂きを人差し指と親指で摘まんだ。  
 柔らかかったその頂きは、次第に感触がこりこりとしてきて彼女の興奮が伺える。  
 その様子に上条は我慢できず、凝った突起を口に含んだ。  
 彼女は小さな声で、ひぁっ、と悲鳴を上げる。  
 
 上条はちろちろと飴を転がすようにそれを味わう。  
 空いた手で彼女の胸から腹にかけて、その艶やかさを楽しむように撫で回していく。  
 だんだんと紅潮していく肌がやけにいやらしい。  
「胸、ばかり、です、の、?」  
 ただ身体を愛撫されているだけなのに、彼女の息は絶え絶えだった。  
 息を荒くして、断続的な言葉で上条を促す。  
「そんなつもりはなかったんだけどな」  
 上条は苦笑して、視線を下へ向けた。  
 常盤台中学仕様なプリーツスカートから覗かせる健康的な太ももが、目に見えて紅潮していた。  
 その様は、いやらしいの一言に尽きる。  
 我慢もせずにさらりと払って、そのスカートの中身とご対面する。  
「うわぁ……」  
 先ほどの指の感触は嘘をついていなかった。  
 彼女の下着は明らかに布地が少なく、さらには両サイドが蝶々結びの際どいものだった。  
 ちらりと彼女の様子に目をやるが、顔を反らしていて表情を窺い知れない。  
 ポツリと小声で彼女は呟いた。  
「まじまじと見られると、存外に恥ずかしいものですわね…」  
 普段の彼女なら、お姉様攻略に必要とあらば下着など堂々と見せつけていたというのに。  
 相手が違えば、こうも感覚が変わってくるものか。  
 自分らしくないではないか、と白井は思う。  
 上条からもぼそりと、言葉が漏れた。  
「何か……エロいな」  
「い、一応断っておきますけれど、わたくしは普段から履き心地を重視してるのであって決して今日特別に何かを期待していたわけではないんですのよ!?」  
 そんな、やけに言い訳めいた台詞を吐いた。  
 彼女は逆ハの字に眉を吊り上げ、睨むような戸惑うような視線を上条に浴びせる。  
 何に対する否定かは知らないが、とりあえずいやらしさは満点だった。  
 
 いつまででもその恥じらう姿を見ていたいが、今は我慢する。  
 するりと、大事な場所を隠すそれに指を触れさせる。  
 感触は、ツルッとしていた。  
 ストレートに秘部へと指を這わせる。  
 そこはいわゆる濡れ濡れのぬちょぬちょ状態だ。  
 もはや下着としての役割を果たしていない。  
 彼女からあぅ…とか細い声が漏れた。  
「脱がしていいか?」  
「……だめ、なんて、言えるわけありませんわよ」  
「何で?」  
「それは……そ、そういう台詞を言うのは、殿方の役割だと思いますの」  
 彼女はまた、ぷいっと顔を反らした。  
「そうかもな」  
 上条は手を伸ばす。  
 過激で素敵な大人下着は、サイドの蝶々結びをほどくことでその役割を終える。  
 焦らすように、緩慢な動作で紐を解いた。  
 しゅるっ、という布擦れの音が上条の男をさらに興奮させる。  
 そして、彼女の大事な場所が拓けていく。  
(……こんな風になってんのか)  
 それは、まだ産毛も生えていない、見事なまでにぴっちりと閉じた縦線だった。  
 中学生にもなれば個人差はあれど産毛の何本かはありそうなものだが、彼女は晩熟なのかもしれない。  
 見た目の幼さとは裏腹に、何かを待ち望むかのようにその割れ目はひくひくと震えている。  
「黒子……興奮してる?」  
「……」  
 照れているのか、白井は無言でコクりと頷いた。  
 そんな彼女に堪らなくいとおしさを感じる。  
 思わずまた彼女の唇にキスを重ねて、再び未成熟な下半身へと手を伸ばした。  
 濡れそぼつ秘唇をなぞり、徐々に徐々に内側へ指を滑らせる。  
 ぷっくりと膨れる肉の割れ目を掻き分け、彼女の中へ中指の先だけ侵入させた。  
 熱く、狭い。  
 ぬるっとした未知の感触を、指先で感じ取る。  
「くぁっ!?…ん、ぅっ…」  
 悩ましげな声を漏らす彼女に、上条は興奮からぞくりと身を震わせる。  
 上条はさらに、敢えて彼女の耳にも届くようぴちゃぴちゃといやらしい水音を鳴らした。  
 ようやく解れ始めた頃に人差し指も追加する。  
「ひぅっ…ん、あぁっ…」  
 自身の指が、彼女の淫らな口を犯している。  
 そう思うだけで触れずして果ててしまいそうだ、と上条は焦る。  
 すると。  
「あの、上条さん…」  
 おずおずと、白井が指を指した。  
「それ……」  
「あ、ああ、これは…」  
 彼女もまた手を伸ばし、  
「はち切れそうですの……」  
 その膨らんだテントに触れる。  
 それはビクんと大きく脈を打った。  
 
「わたくしにも……ご奉仕させてくださいな」  
 言ってから、ジー、とジッパーを下ろされる。  
 彼女は一瞬だけ、ひどく妖艶な笑みを浮かべた。  
「……ああ、頼む」  
 もぞもぞとトランクスを弄られ、ボロッと熱く滾った一物が飛び出す。  
 その肉の棒を彼女の細い十指が包み込んだ。 しゅっしゅっと、彼女は熱心にそれを扱き始める。  
 徐々に、上条の肉棒からもいやらしい水音が聴こえてくる。  
(……ええと、確か、こうして)  
 はむり、と彼女は一物に口付けて、アイスを食べるようにチロチロと先端部を舐め回す。  
 その間、片手は竿を扱き、もう一方の手は睾丸を揉みほぐしていた。  
「くぅっ……黒子っ、それ、良いっ…」  
 上条たちは体勢を入れ替え、俗に言う69の体勢になっていた。  
 寝そべる上条の顔を跨ぐようにして白井が一物に奉仕している。  
 彼女の一生懸命な手淫口淫に負けじと、上条は淫裂に舌を這わせた。  
 僅かにしょっぱい味がする。  
 こりこりと凝る豆粒のようなとっかかりを甘噛みし、舌でつついてみる。  
 その度に彼女はビクりと愛らしい臀部を揺らす。  
 舌で、濡れた秘唇の中心を強く吸い上げていく。  
 彼女はより一層大きく身体を震わせ、それと同時に、一物にも新たな刺激が訪れた。  
「ちゅ、むっ…ん、むぅ……」  
 彼女が、その小さな口で上条の一物を頬張ったからだ。  
 頬張った口内でもまた、絡みつくように舌が踊り、陰茎を包み込む。  
 彼女なりに努力して、不器用に顔を上下させた。  
 時折、歯が当たるのもご愛嬌という奴だ。  
「気持、んぶっ、いい、んっ、です、の?」  
 先端から先走る我慢汁と唾液が混ざり合い、淫らな水音はますます激しいものになる。  
 今まであっさりと果ててしまわななかったのが不思議だが、だんだんと熱いモノが込み上げてきた。  
 下半身へ血が収束していくのを感じる。  
「やば、い、って……」  
 ざらざらとした舌が、トドメの一撃とばかりに引く抜くようにして雁首を擦り上げた。  
「うっ、出るっ…!」  
 白く粘着質の液体がびゅっびゅっと勢いよく迸る。  
 思わず、さらに奥へ突き入れようと腰を突き上げたが、彼女はそれを上手く退避した。  
 だが。  
 その勢いは収まりきらず、彼女の顔面に白く濁った液体を思いきりかけてしまった。  
 四方にぶちまけられた白濁液は、彼女の髪から口元にかけて付着する。  
「あ、わ、悪いっ!」  
「……」  
 
「……」  
 彼女は無造作に付いた粘着質のそれを手にとり、舐め上げ、顔をしかめてから、  
「苦い、ですの」  
 いたずらっ子のように、んべっ、と舌を出した。  
「すいませんでした!」  
 頭を下げる上条。  
 しかし白井は気にした様子もなく、上条の一物に再度触れた。  
 あむ、と一物を包み込む。  
「く、黒子っ?」  
「お掃除ですわよ」  
 気のせいか、黒子がノリノリになっている気がする。  
 そう思った上条だが、下腹部から伝わる刺激に思考は中断させられた。  
 彼女は、尿道に残る精液を可能な限り吸い上げていた。  
 ついでにちょっとだけ陰茎も扱いて、準備を済ませておく。  
 力を失ったはずの一物は、再び硬さを取り戻した。  
「お元気ですのね?」  
「…お恥ずかしい限りで」  
 
 お互いに裸になって、身体を向き合い、白井がベッドで横に、上条がそれに覆い被さるように顔を近付ける。  
「いけるか、黒子」  
「聞かないでくださいまし……逃げたくなってしまいますの」  
 ぴと、と熱く滾った一物を濡れそぼった淫裂に軽く押しつける。  
「……来てくださいな、上条さん」  
 白井の言葉を合図に、ゆっくりと押しつける力を強めていく。  
 彼女の幼い淫穴へ、掻き分けるように。  
 その狭い秘裂を押し広げる。  
「ん、くぅっ…!」  
 彼女が苦悶の声を上げた。  
 先っぽだけが入ったが、一物を締め付ける力は相当なモノだ。  
 体格の差が、ここに来て顕著に現れる。  
「……」  
 上条は突き動かしてしまいたい衝動を抑える。  
 苦痛に歪むその顔は、見ていて心苦しさを感じさせる。  
 痛みを少しでも軽減できるよう、意識を他の部位に移させることにした。  
 彼女の敏感な場所を、ぷくっと膨れたクリトリスを指先で弾いた。  
「あっ……そ、そこ、はぅっっ」  
 押し潰すようにその突起をこりこりする。  
 同時に、少しずつ剛直を奥へと突き進めていく。  
 膣内は先ほどよりもさらに熱く、キツキツだった。  
 侵入した異物に対して、ぎゅうぎゅうと締め付けが強くなる。  
 挿し込むだけの上条は、一言で言えば気持ちがいい。  
 一方、彼女はまだ顔をしかめている。  
 
 ふと、上条はその愛らしくしっとりした唇にキスを落とす。  
 攻め入るように口を割り、互いに舌を絡めた。  
 唾液を交換するように唇を交える。  
 若干だが、強張っていた身体の力が緩くった気がする。  
 この隙に、さらに奥へ腰を押し進めていった。  
 ずぶずぶと奥深くへ進入して、一際キツい部分に先端が触れる。  
(これが、処女膜ってやつか?)  
「ちょっと、我慢してくれ、よっ……」  
「んぅっ」  
 ずしんっ、と思いきり突き入れた。  
 破った。 確実に。 彼女の最後の砦を。  
 一瞬、彼女は眉根を寄せたが、次第に表情は穏やかなものへと変わっていく。  
「意外に……痛みを感じませんの」  
 一応、多少の出血はしているのだが、彼女が言うならそうなのだろう。  
「動いても、平気ですわよ」  
「ん、わかった」  
 始まりの動作はあくまでもゆっくりと、だ。  
 挿し込んだそれを限界まで引き抜き、抜けきる前にまた挿し込む。  
 この動作に互いが慣れるまで、緩慢な動きで数回ほど腰を振る。  
 溢れ出してしまいそうな情欲を抑圧し、精一杯彼女に無理をさせないよう抽送を繰り返す。  
「……わたくしに気を遣わずともよろしいですのに」  
 不意に彼女が呟き、え?と上条は聞き返す。  
 ふふ、と彼女は薄く笑った。  
「本当に、甘い殿方……」  
 囁くように呟いて、彼女は上条の首に手をかける。  
 引き寄せるようにして、抱きついてきた。  
「大好きですの……」  
 僅かに涙を溜めて、彼女はキスをせがんできた。  
 
 
「あっ、いいっ、いいんですのっ!」  
 出し入れを繰り返す度に、彼女の身体が反り返る。  
 振り飛ばされないためか、彼女はベッドシーツを強く握り締めている。  
 抽送の度にくちゅくちゅと濡れた淫裂と一物が擦れ合い、繋がった隙間から破瓜の証と淫液が混ざったものが溢れ出ていた。  
 ぎちぎちと締め付けてきた膣内も、慣れたのか、今では滑らかに抽送を行える。  
「だ、めっ、ですわ……わたくし、こんっ、なに、こんなにっ、感じ、てっ…」  
 リズミカルに突き入れ、膣内を掻き回すように腰をぐりんと回した。  
 より深く繋がりたくて、彼女の腰に手を回して固定する。  
 そうしてから。  
 ずんっ!と勢い良く彼女を貫き、長いツインテールを激しく揺らした。  
「はぁんっ!」  
 力強い挿入が彼女に心地よい激感をもたらす。  
 絶え間ない快感が彼女を襲い、口の端から涎が垂れても拭えないほどに彼女は昂っていく。  
 
 互いに息遣いが荒くなり、汗に塗れながらも上条たちは身体を重ね続ける。  
「黒子っ…俺、もうヤバいっ…!」  
 上条は高ぶる性感から、腰の振りが早まっていく。  
 白井は髪を振り乱しながら、上条の激情を真っ向から受け止める。  
 沈殿するモノがせり上がるような感覚が上条を襲う。  
「だしてっ…だしてくださいまし! わたくしに、上条さんのすべてをっ!」  
「く、黒子っ……!」  
 激しいピストン運動から一気に最奥へと突き入れる。  
 ぴん、と全身の筋肉が張るような錯覚に陥った。  
 びゅくびゅくっ!と先ほどに負けず劣らずの勢いで性を吐き散らしていく。  
「……んぅ…上条さんのが、膣内に……あつい、です、のぉ……」  
 出し切るまで僅かに腰を回転させて、塗りたくるように一物を暴れさせた。  
 一通り絶頂の余韻を堪能し、手で固定していた腰を解放した。  
 すると上条は、力尽きるように全身を弛緩させ、挿入した肉棒を引き抜きながら、ゆっくりと彼女の体に覆い被さった。  
 汗で濡れた肌を密着させたまま、はぁはぁと荒い息を整える。  
 激動の時間が過ぎ去り、暫しの静寂が訪れた。  
 ちかちかと針を回し続ける時計が、やけにうるさかった。  
 
 
 沈黙を打ち破ったのは、他でもない上条だった。  
「……なぁ、黒子」  
 白井は彼の腕に抱かれるように、身体を寄り添わせている。  
 天井を眺めていた白井が、はい?と目線を彼へ向けた。  
「何というか、こんな形で最後までシちゃって、ごめんな」  
 申し訳なさそうに、彼は頭を下げる。  
 当の白井は一瞬だけ面喰らい、次に飛び上がるように上体を起こし、凄まじい速度であらぬ方向に顔を反らした。  
 だらだらと気持ちの悪い汗が吹き出し、ピクピクと小刻みに頬が震えている。  
「黒子?」  
 きょとんとこちらを見上げる彼を余所に、白井は自責の念に押し潰されそうになっていた。  
 白井の脳裏を過る、可愛らしい水筒に汲まれた“大人なお薬”が全ての原因だということを、彼は知らない。  
 その事実が、なおのこと白井の良心を苛める。  
 しどろもどろになりながらも、何とか表面だけ取り繕いながら言葉を返した。  
「い、いえっ、ひずれは、とわたくしゅもきゃ、考えてましたし。 あ、謝るヒツヨウなんてございませんの」  
(むしろ謝らなきゃならないのはわたくしの方ですのよ上条さん!こんな醜くい心でごめんなさいですのぉぉぉっ!!)  
「お、おう、なら良いんだけど」  
 
 白井の意味不明な調子に、上条は脳内で?マークを浮かべるが、とりあえず話を続けた。  
「あ、そうだ。 今度また料理作りに来てくれよ。 黒子の作ったもの、もっと食べてみたいからさ」  
 彼は笑顔だった。  
 実に爽やかで邪気のない笑顔だった。  
 その無邪気な笑顔が、鋭い槍の如く白井の胸にグッサリと突き刺さる。  
「え、えぇ……お任せくださいですわ……」  
 嬉しいはずなのに、心苦しさが勝ってしまって素直に喜べない。  
 それどころか、テンションはますます下がっていく。  
 自分はもはやウジ虫より下等な生物だ鬱だ死のう、とか考えて、ずーんと肩を落とした。  
 彼は、そんな白井の様子に気づいてか、同じく上体を起こして、少しばかり強引に抱き締めてきた。  
「っ!」  
「何を気にしてんのかはわかんねぇけど……黒子は……笑ってる方が、黒子っぽいと思うな」  
「上、条、さん……」  
 そうされることで、白井は何だか、さっきまでの自分が猛烈にバカらしく思えてしまった。  
 勝手な言い草ながら、もしかしたら、もしかすると、結果オーライ、というやつなのかもしれない。  
 そんな都合の良い解釈すら浮かぶほどに、気分が高まってきていた。  
「そう、かもしれませんわね。 きっとこれは、わたくしらしくないんですのよね」  
 うんうん、と何度か言い聞かせるように頷いて、彼へ向き直る。  
「上条さん」  
「ん」  
「次のお料理、期待しててくださいな。 不肖この黒子めが、腕に縒りをかけてディナーを振る舞ってみせますわ!」  
 白井らしい強い意志を持った瞳で、相変わらずの大袈裟発言をかました。  
「おう、期待して待ってるよ」  
 それを見た彼は、にかっとさっぱりした笑みを浮かべた。  
「ところで、上条さん」  
 先ほどとは打って替わって、白井はいたずらっぽく微笑みながら尋ねる。  
「シャワーを貸していただけます?」  
「ん? ああ、いくらでも浴びてってくれ」  
 そう言って、上条は風呂場を指差した。  
 しかし、白井はその指にちょん、と細い指を絡ませ、彼を引っ張り上げるように立ち上がる。  
「上条さんも一緒に、ですのよ」  
「え?」  
「お背中、流して差し上げますわ♪」  
 
 
――それから風呂場でナニがあったのかは、彼女たちしか知りはしない。  
 

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