とあるスーパーの帰り道。 上条は晩御飯の食材を携え、帰路についていた。  
「いやー、今日は良い買い物をしましたよ上条さんは!」  
 誰にでもなく、上条は宣う。  
 日常的に不幸まみれの上条だが、今日という日は実に幸福感に満ちていた。  
 例えば、  
 何の気なしに寄ってみたスーパーで野菜やインスタント食品のワゴンセールに遭遇したり。  
 落ちていた財布をアンチスキルに届けたら、「偉いガキんちょには御褒美じゃん♪」とか言われて二千円分の商品券をもらったり。  
 びりびりアタックをかましてくるどこぞのとんでも中学生とばったり会うこともなかった。  
 などなど、普段の上条からはとても想像できないほどのラッキーが続いている。  
 いつオチがつくんだ?と現在の幸福っぷりに上条は訝かしむが、一向に不幸が訪れない。  
(まあ、たまにはこんな日があってもいいよなぁ)  
 と適当に考え、赤に変わる信号機を眺めていた。  
 
「そういや、今日も1人かー」  
 ここ最近、というか昨日からなのだが、我が家に居候する純白暴食噛みつきシスターことインデックスは、上条の担任である月詠小萌宅へ上がり込んでいる。  
 彼女は、凶暴な噛みつきと共に『しばらくこもえのところでオンナを磨いてくるんだよ!』という謎の宣言を残し、月詠小萌大先生の車に連れられていった。  
 どういう意味だろうか。 鈍い上条にはわからない。  
 奇跡の合法ロリ先生曰く『乙女には、負けるとわかっていても噛みつかなきゃならない時があるのですー』とのこと。  
 理解不能だったが、まあいつものことか、とバカな上条さんは結論付けた。  
 そんなことをだらだらと考えながら上条は歩みを進めていたが、ふと思う。  
 “黒子の奴、元気かなー”と、空を見上げ――  
 
「かっみじょーさぁぁんっ♪」  
「ぬぉぉっ!?」  
 
 られなかった。  
 背後から唐突に、柔らかい何かに抱き付かれたのだ。  
 前のめりになりながら、これが今日のオチですか!?と心中で叫びつつ、次いで、ん?と首を傾げる。  
 テンション高めな黄色い声と、やけに柔らかい感触に覚えがあったからだ。  
 バッ、と勢いよく振り返る。  
 案の定、それは上条のよく知る少女の顔だった。  
 
「やっぱ黒子か! はぁ…毎回毎回びっくりさせんなよなぁ…」  
 
 言いながら上条は、ぎゅうううっと力強く抱き付いてくる少女をさりげなく剥がし、がっくりと肩を落とした。  
 対照的に、黒子と呼ばれた少女――レベル4空間移動能力者(テレポーター)であり、風紀委員に務めるTHE・(元)百合っ子、ある意味もう一人のとんでも中学生、ちなみに1年――はニコニコとした表情で告げる。  
 
「そういう驚いた顔を見るのが黒子の最近の癒しですもの、諦めてくださいな♪」  
 
 眩しい笑顔だ、と上条は思う。  
 彼女――白井黒子と上条がキスを交わしたあの日から、二週間ほどの時が流れている。  
 お互いがお互いを異性として初めて意識したあの日から二週間、上条と白井は数回程度しか顔を合わせられなかった。  
 白井は風紀委員に勤めており、仕事が忙しくなると必然的に暇がなくなるからだ。  
 メアドと電話番号は既に交換済みであるから、ある程度の連絡は取り合っているのだが、やはり実際に顔を合わせる方が嬉しいもんだ、と上条は思う。  
「お、今日は非番なのか」  
 見ると、彼女の腕に風紀委員の腕章は付けられていなかった。  
 白井はふふん、と気分良さげに鼻を鳴らし、改めて上条の腕に抱き付きついて、  
「えぇっ、怪我をしてた同僚がようやく現場に復帰しましたのっ! ですから、明日以降は暇を頂く機会が増えると思いますわ♪」  
 ぎゅむっ、と柔らかい感触を右肘に押し付ける。  
(だ、だからっ、柔らかいですってぇぇ!)  
 内心で叫びつつ、多少顔を紅潮させながら、若干投げやり気味に上条は答える。  
「お、おう、良かったな」  
 ピクリ、と白井の眉が一瞬つり上がった。  
「ずいぶん他人事のように仰りますわね?」  
 あれ、何か変なこと言った?と上条なりに彼女の変化を読み取るも、鈍感上条さんには理由がわからない。  
 心なしか、腕を抱く力が強くなってきている。  
「もう少し喜んでくださってもよろしくなくて? わたくし、上条さんに会えない時間を寂しく思ってましたのに」  
 うっ、と上条は言葉に詰まる。  
 何やらデリカシーのない発言だったようだ、と後悔し、洒落た台詞でも吐こうかと白井を見るも、彼女はそれを遮った。  
 
「鈍ちんさんなあなたには、バ・ツ・ゲ・ー・ム、ですのっ♪」  
 
 何やら不穏な響きを持った言葉が上条の鼓膜に突き刺さる。  
 理由のわからない冷や汗を浮かべ、上条は僅かに上体を退けた。  
 戦きながら、それは何だ、と口を開こうとする。  
 が、それさえも遮られた。  
 
ちゅっ  
 
 白井黒子の、唇に。  
 
「っ〜〜!!??」  
 
 上条は激しく戸惑った。  
 それはもう、握っていた学生鞄やレジ袋をぶん投げてしまうほどに。  
 白井のそれは、軽い口づけだった。が、そこが問題ではない。  
 問題は行為ではなく、場所にあるのだ。  
 周囲を歩いていたモテない野郎共からの刺々しい視線が、上条のガラスのハートに突き刺さる。  
「おま、おまっ…こっこんな人通り多い場所で何をするんですかっ!?」  
 噛みつくように上条は訴えた。  
 しかし白井は、どこ吹く風よとばかりにぷいっと一瞬だけ顔を逸らし、したり顔で言葉を返す。  
「バ・ツ・ゲ・ー・ム、と言ったでしょう? 上条さん♪」  
 彼女は、ばっちりとウィンクまで決めていた。  
 僅かに首を曲げている辺りさすがとしか言いようがない。  
「くそぅ…何だこいつ可愛いんだよチクショーっ……」  
 ぷるぷると、嬉しいやら恥ずかしいやらの感情がない交ぜになった表情を浮かべ、落としたレジ袋たちを拾う。  
 いわゆる、惚れた弱みという奴だった。  
「まあまあ可愛いだなんてそんなっ♪」  
 白井は満面の笑みを浮かべて、再び上条の腕へと抱き付く。  
 もちろん、発育途中の柔らかい感触を腕に押し付ける形で。  
 上条は満更でもなさそうにハァ…、という軽いため息を吐いた。  
 
 
「今日はまた、何とも身体によろしくなさそうな食材ばかりが揃ってますわね」  
 
 隣を歩く白井はいかにもお嬢様らしく、慎ましげに両手で学生鞄を提げ、上条のレジ袋を眺めながらそう言った。  
 若干の呆れを込めて、ため息を1つ吐く。  
「いやー、たまたま立ち寄ったスーパーでワゴンセールやってたからさ。 ごっそり買い貯めしとこうかと」  
 あはは、と上条は苦笑いを浮かべる。  
「不摂生は身体に毒ですの。 上条さんは思春期真っ盛りな年頃なのですし、しっかり栄養を考えた食生活を心がけた方がよろしいですわよ?」  
 むむ、まるで母親のような発言だ、と上条は思う。  
 最もな意見に返す言葉も見つからない。  
 全面的に見て、白井の言葉は正しいだろう。  
 年下ながら、根のしっかりした娘であると再認識した。  
「弁解の余地もございません…」  
 深々と、謝罪会見をする会社の社長のように上条は腰を曲げた。  
 しかし白井は取り合わず、  
「そ・こ・でっ」  
 ぐいんっ!という音が聞こえるくらい急激に振り返る。  
「このわたくしがっ、本日限り上条さんにお料理を振る舞って差し上げますのっ!」  
 可愛いさ満点の極上の笑みを浮かべて、彼女はそう宣った。  
 
「……ふぅ。 美味かったなー」  
 上条は、もうそれはそれは言葉に言い表せられないほどに幸せを感じていた。  
 それはなぜか? 理由は簡単だ。  
「自分以外の、それも女の子の手料理を食えるだなんて、幸せですよ上条さんはっ!」  
 ここのところ、というか、記憶を失ってからずっと、上条は食事を振る舞う立場であり、振る舞われる立場にはなかったのだ。  
 喜びもするだろう。  
「ふふっ。 大袈裟ですわね」  
 使い終えた食器を台所へ運びながら白井は笑う。  
(いや、だってそりゃ嬉しいでせうっ!? 人生初の彼女のっ、しかも手料理ですよ!? インデックスが小萌先生のところ行ってて良かったなー)  
 と考えつつ、上条はにやけてしまう。  
 その視線の先には、気分良さげに鼻歌混じりで食器を洗う白井がいた。  
 ちなみに、上条は後片付けを手伝うと申し出たのだが、『いいえ、今日はわたくしが上条さんのお世話をさせていただきますの』とあっさり断られた。  
 任せっぱなしというのも上条には納得がいかないが、他でもない彼女の申し出だ、素直にその厚意に与らせてもらおう。  
 
 することもなく、暇を持て余した上条は何の気なしに白井をじーっと眺め、気が付いた。  
 心なしか、彼女の頬が朱色に染まっている。  
 上条はううん?と首を傾げた。  
 ふと彼女がこちらの視線に気付き、食器から視点を上げて、上条へ穏やかな笑みを返した。  
 
 瞬間的に上条は、 ム ラ ッ 、とする。  
 
「…………」  
 待て。  
 
「………………」  
 待て待て待て待て。  
 
「…………“ムラッ”と?」  
 ドキッと、の間違いではないのか?  
 
 上条は胸に手を当て、自身に問いかける。  
 高鳴る胸と、膨らみつつあるテント。  
 ……。  
 問答無用でムラッとでしたありがとうございました。  
 
 食欲が満たされたら今度は性欲だと!?と脳内で自己嫌悪に陥る。  
 事実、上条は下半身に血の巡りを感じていた。  
 何故だ。  
 今までの光景でムラッとくる要素は限りなくゼロで……でも、黒子が可愛くて……エプロン姿が、愛らしくて…。  
「……やべ」  
 自制が、効かない。  
 意識とは相反して、上条はふらりと白井へ歩み寄る。  
(黒子が欲しい……黒子が欲しい……黒子が、欲しいっ)  
 覚束ない足取りで白井の元まで辿り着き、皿を濯ぐ彼女がようやく上条に気付いた。  
 手にしていた皿を食器かごへ並べ、上条へ向き直ろうとしながら、  
「あら、どうなさいましたかみじょ」  
 言い切る前に、上条は彼女に抱き着いた。  
 腰から手を回し、背後から包むように彼女を抱き締める。  
「か、上条さん……?」  
 振り向きざまに彼女は問うてくる。  
 実に珍しい表情だ、と上条は思う。  
 普段は気の強い彼女が、僅かながら怯えているように見える。  
 最も、そんな表情すらも今の上条にとっては興奮の材料にしかなりはしないが。  
 彼女の透き通るように繊細なさらさらヘアに顔を埋めて『ごめん、黒子……』と耳元で囁いた。  
 自分でもどうかしてるとは思う。  
 けれども、上条はこの衝動を抑えられそうにない。  
「こっち向いて…」  
 彼女の顎に手を添え、首だけを振り向かせる。  
 されるがままの白井は、今にも泣きそうな瞳で上条を見つめ、  
「上条、さん……」  
「…当麻で、いいんだけどな」  
「い、いえ…それは」  
 煮え切らなさそうだ、と上条は判断し、  
「ふ、んっ…」  
 強引にその唇を奪った。 彼女のそれはしっとりとしていて、とても柔らかい。  
 味わうように角度を変えながら、何度も何度も貪りついた。  
 
 普段の上条ならば、このままただのキスで済んでいたのだろうが、今日の上条は一味違う。  
 重ねた唇の僅かな隙間から、上条は舌を忍ばせた。「ふむぅ!?」  
 白井は口内を侵入してきた異物に目を見開き、顔を引こうとするも、上条の腕に阻止される。  
(やべぇ…止まんねぇ)  
 涎に塗れることも厭わず、彼女の口内を舐め尽くそうと舌を動かす。  
 歯茎をコンコンとつつき、そのまま内頬を刺激した。  
 彼女はピクん、と敏感に震え、次第に強張っていた顎の力が解かれていく。  
 僅かに拓けた隙間から、中へ中へと容赦なく舌を差し入れ、彼女の舌を絡みとろうと必死になる。  
 観念したのか、先ほどまで激しく逃げ回っていた舌が、自ら上条に絡んできた。  
「ふぁみ、ひょう、ひゃ、ん…」  
 もごもごと、唇を深く交えている中で、彼女が何かを伝えようとしているが、それさえも上条には煩わしかった。  
 直接触れているわけでもないのに、下半身が果てしなくみなぎっているからだ。  
 ぷるぷる、と腕の中で小さく震える彼女がたまらなく愛おしい。  
 今の今まで堪え忍んできた鉄壁のような理性が、バキバキっと音を立てるように崩壊していくのを感じた。  
(…もう、我慢できねぇ)  
 
 緩やかな動きで、彼女のなだらかな胸部や、肌理の細かい太ももに手を伸ばす。  
 彼女の体温がやけに熱く感じられるのは、気のせいだろうか?  
「ひゃうっ…」  
 今さらなことだが、彼女は押しが強い割に、受けに回った時は弱々しい。  
 その何とも言えないギャップは、白井の魅力の一つだ。  
「ひぁっ、あ…」  
 エプロン越しに、彼女の控え目な胸元を撫で回す。  
 服の上からでも、そのぷにっとした感触が心地良い。  
 お世話にも、“ある”と断言できるだけのサイズはないが、女性特有の柔らかさの前にはサイズなど関係なかった。  
 上条はこれはこれで趣きがある、と思っている。  
(…あれ? いつの間にロリコンになったんだ、俺)  
 頭の片隅でそんなことを考えながら、白井の項にキスを落とす。  
 するとくすぐったそうに彼女は身を捩った。  
 その隙を見て上条は、下半身へと伸ばしていた手を彼女の大事な場所に滑らせた。  
 大事な場所を覆うはずのその薄い布切れは、やけに表面積が小さく感じられる。  
 
 上条と白井は、まだ身体を交えたことがなかった。  
 精々がキスまで。 故に、上条は内心で激しく戸惑っていた。  
 が、スイッチの入った上条は、そんな戸惑いを臆面にも出しはしない。  
 あくまで平静を装って、薄布の上から秘所に指を這わせる。  
「ちょっ、上、条さんぅっ…」  
 ピクん、と彼女は再び身体を硬直させる。  
 その硬さを解すように、彼女の耳元や首筋にキスをした。  
 もちろんその間も彼女の慎ましい胸を弄り、時折ツンツンとその頂きをつついたりと、動きを休めない。  
 止めどなく、上条は彼女の“女”を刺激する。  
「…あ、あのっ、このまま、致しますの…?」  
 ピクピクと肩を震わせる白井は、不安げな、しかし大いに紅潮させた表情で上条を見上げていた。  
 上条は瞬きを一つしてから口を開き、  
「……もう、我慢の限界なんだ。 ダメか…?」  
 切なげな声で問いかける。  
「い、いえ、決してそのようなことはございませんの……」  
 彼女は一拍置いてから、ただ、と続ける。  
「……キッチンなどでなく、その、ベッドで……結ばれたいんですの」  
 そう言って瞳を潤ませながら、彼女は微笑んだ。  
 

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