暗闇の中、ピンスポットに浮かび上がったソファーがひとつ。
そこに深く腰かけているのは、白いシャツに学生ズボン姿の黒髪の少年――上条当麻。彼は両手の指を組んで太ももの辺りに乗せ、ぼんやりと暗闇を見つめていた。
と、その暗闇の中に衣擦れの音が聞こえて来る。しかし上条は相変わらずぼんやりとしたままで反応を示さない。
そして程なく、ピンスポットの光の端に靴のつま先が現れた。
それに続いて現れたのは、黒い修道服を着た小柄な少女。先ほどからの衣擦れは少女が修道服を床に引き摺って歩いていた為であった。
目深にかぶったフード。そこから胸元に垂らした2つのおさげ髪を揺らし、両手を胸の前で祈る様に組んだ少女は、上条の目の前まで来ると深々と頭を下げた。
「上条さん。今日はよろしくお願いします」
そのまま頭を上げない少女に、上条は初めて感情らしい感情――眉間に深い憐憫の皺を寄せて深いため息を付いた。
「いいのかアンジェレネ?」
「もちろん」
「ルチアやアニェーゼは?」
「シスター・アニェーゼもシスター・ルチアも承知してます」
その答えに最後の望みも断たれたかと、フードに覆われていたアンジェレネの頭を眺めていた上条は、再び大きなため息を付いた。
「なあ、もう一回だけ聞いていいか?」
「どうぞ」
「魔術に……その……せ、せ……せぇ……」
「セイエキ」
「うッ!」
言い淀んでいた言葉をズバリ――しかも女の子の口から「セイエキ」などと言う言葉が飛び出した事に上条の顔が盛大に引きつるが、そんな事などお構いなしにアンジェレネは話を続ける。
「魔術にセイエキが必要なんです。まあ小難しい事は全部置いといてそう言う事なんです」
上条はアンジェレネの言葉に二の句が継げずに酸欠の金魚の様に口をパクパクさせる。
「しかもセイエキは新鮮で無いといけない上に、極力空気に触れさせる訳にもいかないんです。これも魔術的に必要な事なんです」
アンジェレネはたたみかける様にそこまで言うと顔を上げて頬を引きつらせる上条と目を合わせた。
(うわあ……。盛大に顔を引きつらせてますね。これはちょっと脅しがきつ過ぎたかも……)
そう内の中で反省しつつも、目の前の上条の様子には悪戯心が疼いて仕方がない。
アンジェレネはそばかす顔でにっこりと笑うと、
「と言う訳なんで諦めて私に抜かれちゃって下さいね」
そう言ってから自分の唇の端に細い指を引っ掛けてぐいっと引っ張って見せた。そこにチラリと見えたかわいらしい八重歯の輝きに、上条は無意識にごくりと生唾を飲み込む。
「それじゃあ上条さん。おち○ち○を出して下さい」
「んがッ!?」
アンジェレネの屈託の無い笑顔とは180度の卑猥な言葉に上条は衝撃を受けた。
そのダメージを表すかの様にしばし頭を抱えてから、疲れた様な眼差をキョトンとこちらを見ているアンジェレネに向ける。
「おい、さっきからなんだその卑猥な言葉を連発しやがって? 女の子はもっとこう、そう言う言葉は恥じらいながら……いやいや違う違う……。とにかくそんな言葉使っちゃいけません!」
「は? それならおち○ち○はなんて言えばいいんですか? 陰○ですか? チ○コ? ペ○ス? それとも肉ぼ……」
「はいストップ!! そこまで!! もういい、もういいですから……」
「そうですか? 他にもまだ色々ありますけど……」
「なんかおち○ち○が女の子が使う可愛らしい言葉の様に思えてきましたので、思春期の小中学生みたいな言葉の羅列はもう止めて下さいまし。カミジョーさんのライフはとっくに0ですよ?」
そう言って耳を塞いで生まれたての子羊の様に震える上条の姿を、アンジェレネは暫く珍獣でも見るかのように眺めていた。
なんて初(ウブ)――もとい古風な男だろう。今日日の女の子は結構年増で、こんななりのアンジェレネもご多分にもれずそういう知識だけは豊富だ。
(噂では女の子をとっかえひっかえだとか、裸にひん剥いて舐めまわす様に見る様な男性だと聞いていたのですが……)
上条酷い言われようである。
まるでシスター・ルチアを見ているみたいですよ、とアンジェレネはぼそりと呟く。
あの保護者然とした同僚もこう言った濡れ事にはとんと免疫が無い。その割に今回の件では文句を言いつつくじ引きにはちゃんと参加していたのだから可笑しなものだ。
事の発端は既に思い出す事も出来ないが、たまたまランベス寮を訪れた上条にエッチな悪戯をする権利を掛けたくじ引きを当てたのがアンジェレネだった。
当るとは思っていなかったから内心びっくりしたが、この寮内でも上条を狙う人間は有言不言問わず多くいるのだ。そんなライバルたちを出し抜く為に、また教義から性交が禁忌とされるアンジェレネが考えた答えがこれである。
随分と体を張った悪戯だと思うだろうが、色々と興味があるお年頃なのだから致し方ない。
アンジェレネは今一度気合を入れ直すと、上条のズボンに手を掛けた。
「ちょ、ちょっと待て!?」
「もう十分待ちました」
「ちょ、じゃ、じゃあ自分で脱ぐから待て!」
「脱いでも脱がしても結果が同じなら脱がす方が面白いから駄目です」
「お、おい!? 面白いとか一体何の……ってこらぁ!! ちょっと待てって言ってての!!」
「もう遅いです」
アンジェレネの言葉通り、こうして無駄に言い争う間にズボンの前は大きく開けられ、今や上条のナニを隠すのはパンツ一枚に。
「だ、ちょ、駄――」
「えい!」
アンジェレネは顔をそむけ――直視するのが恥ずかしいのでは無く、起立したナニが飛び出して来て顔面を直撃!? などと言う古典的事故を回避する為――ながら一気に上条のパンツをめくった。
そして淡い期待を胸にチラリと横目にそこにある筈の例のモノを探すが、
「あれ?」
その先に見えるのはゴムの跡が付いた腹部だけ。
「あ、あれれ?」
慌ててちゃんと向き直って視線を上条の腹からゆっくりと下に降ろして行く。
するとそこには、だらしなく横たわる上条自身が。指で突いてみるがピクリともしない。
「おち○ち○ふにゃふにゃですね?」
「ふにゃふにゃですよ。それが何か? と言うか最速死にてえよ。不幸だぁぁ……」
「うーん……。ジャパニーズのおち○ち○は長さは無いけどカチカチだって書いてあったのでちょっと拍子抜けしました」
「おま一体何の本を読んでるんですか……あ、いいですいいです聞きたくないからニヤリなんて笑いかけるんじゃねえよ恐いからごめんなさい勘弁して下さい降参です」
これ以上の辱めは即死するとばかりに上条は両手を上げて降参の合図を送る。
そんな姿にこれ以上虐めても仕方ないですか、とアンジェレネはぐったりとした上条自身をそっと持ち上げた。
「で、どうしましょうかこのありさまは?」
「あ、諦めれば?」
「却下ですよそんなの。何のためにあの高い倍率を勝ち取ったと思ってるんですか?」
「倍率が何だって?」
「そ、こ、こちらの話ですよ。男性が一々細かい事気にしなくてもいいんですよ。じゃ、そ、それじゃ、い、いきますから我慢し……あ、いや、我慢じゃ無くて、ん……、そう! 覚悟して下さいねッ!」
どうやら観念するしか無い様だ。それを悟った上条は、「はぁ……不幸だ……」と眩しく光るライトを見上げて呟いた。
一方のアンジェレネは内心こんな筈ではと混乱していた。
予定では上条のいきり立ったナニをしごいて射精させれば終わりだと思っていた。
ところが手の中にあるのは、半死半生で半分皮を被った哀れな姿が横たわっている。
(と、取り合えず刺激をする為にしごいてみましょうか?)
そう考えて無造作に掴んだものを上下にしごいた。
「ッ!」
ところがアンジェレネがひとしごきもしない内に、上条の腰がびくっと跳ねて、口からは痛み感じさせる小さなうめき声が。
「ぁ……大丈夫ですか?」
手を止めて心配そうに顔を覗きこむと、やはり上条は痛そうに顔をしかめている。
「き、急にそうされても痛いから……」
「すいません。こう言う事初めてなんで……どうすればいいですか? 私に教えて下さい」
先ほどの勢いもどこへやら、すっかりしょげてしまったアンジェレネに、上条もじゃあ止めればとは言えなくなってしまう。
暫く黙って考えあぐねた末、上条はアンジェレネの手の上から上条自身を握ると、不思議そうに自分の顔と重ねられた手を交互に見やるアンジェレネに優しく話しかけた。
「初めはゆっくり……。ゆっくりと前後させてくれ……」
「ゆ、ゆっくりですね! ゆっくり、ゆっくり……」
その言葉通りに上条の手に合わせてゆっくりとしごく。すると、今まで項垂れていた上条自身に血が流れ込み、力強さと共にじわじわとむず痒い様な感覚がせり上がって来る。
「ぅ……ん……」
「あっ!?」
「大丈夫……。気持ち良くなって来ただけだから……」
上条の声に思わず手を止めようとするアンジェレネに、格好悪いとは思いつつ本音を伝えて先を促す。
2人はそのまま上条自身を刺激して行く。
やがて幹がその太さと硬さを増し、先端を覆う皮が無くなった頃、
「ふぇぇ……大きくなりましたねぇ……」
完全に剥けて赤黒く変色した先端にエラを広げ、硬くなった幹に青筋を浮かべたその姿に、アンジェレネは畏怖すら感じていた。
「ん……、あ、ああ……」
気恥しい、と言うかこの場から全力で逃げたい気分で一杯になっている上条だったが、ここまで来てしまっては後には引けない。
今にも祈りをささげそうなアンジェレネに続きを促す。アンジェレネもそれにこたえる様に、熱くなった幹に指を絡めるとゆっくりしごきだした。
「火傷しそうですねこれ?」
「そ、そうか?」
「あ、先っぽの割れ目から透明なのが出てきました! これが先走りと言うやつですね?」
「あの、集中してくれません?」
「ははは。ごめんなさい」
それから2人は暫く無言になった。
聞こえるのは上条の荒い呼吸と、時折アンジェレネの手から出る粘液の音だけになる。
それから数分後――。
「出ませんねセイエキ?」
「ぅん、はぁ……そ、そうだな……」
アンジェレネの言った通り上条は射精できずにいた。
込み上げるものは何度も有ったのだが、あと一歩が足らず生殺し状態の上条は、痛いほど硬くなった上条自身を持て余していた。
「さっきからカウパーでべとべとになるばかりで疲れてきました」
ぬらぬらと光る上条自身とそれを握る手をうんざりした様に眺めるアンジェレネに、
「し、刺激が足りないんだ……」
「刺激ですか?」
まだ足りないんだ、と難しい顔をするアンジェレネ。そんなアンジェレネに上条は弱弱しく呼びかけた。
「アンジェレネ……」
「はい?」
こちらを向いたアンジェレネの上気して赤くなった顔に手を伸ばすと、上条はその薄い唇に触れる。
「口」
その言葉の意味を暫く考えたアンジェレネは自分がしたある仕草――口に指を掛けて横に引っ張るアレ――を思い出した。
「ああ! そう言えば忘れていましたね」
ポンと空いた手で膝を叩くと姿勢を正して腰を少し浮かせた。
そして「さ、どうぞ」と一言発すると、小さな口を開けて上条自身の先端をそこに向けた。
と、それを合図に上条はアンジェレネの頭にそっと手を掛けると、そのかわいらしい口に上条自身を差し込んだ。
「うぶっ」
少し嘔吐(えず)いてしまうアンジェレネ。その姿に上条は「大丈夫か?」心配そうに声を掛ける。
アンジェレネはそんな上条に目で大丈夫だと合図を送るが、その心中は決して穏やかでは無い。
(大丈夫なんて言っちゃったけど、いやッ、も、凄い臭い!? それに舌がぴりぴりしてしょっぱいのも一体何ッ!?)
安易にこんな事をしてしまった事を後悔する。
しかし上条と同じくこうなってしまってはもう後戻りなど出来ようはずも無い。
「舐めてくれ」
「むぐぅ」
上条の言葉にアンジェレネは舌先を器用に動かして先端を舐め始める。
要領はチョコラータを舐める様な感じだが味は当然違う。
それでも我慢しながら一心不乱に舐め続けていると、その内段々と感覚が麻痺して来たのか、アンジェレネはまた楽しい気分になって来る。
顔が熱く火照るのも心臓が早鐘を打つのも何だか新しい遊びに没頭していた子供の頃を思い出させた。
唯一違うと言えば体の奥に妖しげな炎がぷすぷすと燻り始めた事くらいか……。
「ふぅぅ……ふっ、んっ」
上条が不意に気持ちよさそうに鼻にかかった甘ったるい声を漏らした。
と、その声を聞いたアンジェレネは湧き上がる高揚感に思わず身震いした。
(上条さんが喜んでる……。んふふ……、んふふふ……。もっとその声聞かせて下さいぃ……)
湧き上がる思いを胸にさらに熱心になって舌を動かし続けるアンジェレネ。
「んっ……あ……は、激しッ、い……」
上条の嬌声を聞く度にアンジェレネの責めは激しさを増して行く。
時折口に溜まった唾液と先走りのブレンドを、わざと音を立ててすするともっと濃いものが口の中に広がるのも覚えてしまった。
そんな時、アンジェレネの頭に添えられていた上条の腕に微かに力が入る。
(ん?)
一瞬その事に気を取られて舌の動きが緩慢になる。
と、次の瞬間アンジェレネの頭がぐいっと上条の股間に引き寄せたのだ。
「ぐむぅ!?」
急に口の半ばまで突き込まれて思わずうめき声を上げる。
そして何が起きたのかと上目遣いに上条を見上げると、そこにはとろんとした目をした上条の顔が。
(うわぁ……)
アンジェレネはその目を見た瞬間、体の奥に淫靡な炎が燃え上がった事を感じた。
自分が上条を変えた。自分が上条をこうしたのだと言う優越感はどんな美酒よりも甘美に彼女を酔わせた――だが、それも長くは続かなかった。
「むぅおぉ!?」
じゅうじゅると涎まみれの上条自身が口から引き抜かれる。
(まさか!?)
次に起きるであろう事を予測してアンジェレネの瞳は大きく開かれた。
「んっ」
「ぐほッ!」
喉の奥を突き破らんばかりに突き入れられて、アンジェレネの意識が一瞬飛ぶ。
「うっ、うっ、うんっ」
「うばっ! あぐっ! ぐむっ!」
腰を使いだした上条にアンジェレネは成す術も無く口の中を犯されて行く。
(苦しい苦しい苦しい……)
先ほどの高揚感も何処へやら。アンジェレネは涙と鼻水と涎を流して身もだえる。
「も、もう少し、もう少しだから……」
上条はうわ言のようにそう呟くと、ひと際大きく腰を引いて――。
(ぃひぁ……!?)
それを予感してアンジェレネは上条の両足にしがみ付いた。
『ズグンッ!!』
柔らかい肉同士がぶつかり合う様な音と共にアンジェレネは喉の奥まで串刺しにされた。
「ン゛ン゛――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!」
「出るッ!」
上条が叫びと共に、アンジェレネの頭を抱え込む様に背中を丸める。
そしてアンジェレネは確かに尿道を駆け上がる精液の音を聞いた。
喉の奥に心臓が出来た様に脈打つ度に食道に流れ込むむせかえる様な塊。その塊に嘔吐反射で吐き出そうとするが上条自身が栓になって上手く行かない。
その内段々と意識が朦朧としてくる中、アンジェレネは自身も絶頂を迎えてひくひくと体を震わせた。
(す……ごい……これが……しゃ……せい……? あたまが……どくどくし……て……もう……わた……)
その思いを最後にアンジェレネの意識はぶつりと断ち切られた。
瞳がぐるっと反転したかと思うとそのまま真後ろに向かって倒れてしまう。
そこに反射的に手を伸ばしたのは――当然上条である。
「っうおッ!?」
いささか強烈だったが出してしまえば冷めるのも早いのが男。気だるさもなんのそので、仰向けに倒れそうになるアンジェレネを抱き止める。
「アンジェレネ!! おいアンジェレネしっか……り……」
名前を呼びながら顔を覗きこんで上条はギョッとした。
半ば白目をむいたアンジェレネ。その口の中にはたっぷりと精液を溜めこんだままだ。
その顔に思わず「うわぁ……」と自分がした事なのに引いてしまう。
ところが我儘な上条自身ときたら……。
「チッ、こんな時におっ立ってんじゃねえよ俺は」
自分に活をいれる上条。早速まずはアンジェレネの口の中のものを掻き出す。
次に喉に詰まったものを取り出す要領で背中を叩くと、数回目にどろっとした黄色みがかったものを吐き出した。
「うう……」
「気が付いたか!?」
「あ、私気絶し……ごほげほ」
「悪い、無理して喋んなくていいぞ」
そんな上条に、アンジェレネは口元を拭いながら「いえ、こちらこそすいません」と小さく頭を下げた。
それから暫くして、何とか落ち着いた2人は乱れた着衣を整えてから向かい合う。
「ありがとうございました」
「あ……、うん」
妙にすっきりした感じで最初と同じように深々と頭を下げたアンジェレネに、上条はばつが悪そうに短く返事をする。
アンジェレネはそんな上条の姿にくすりと笑うと、
「この後はシスター・アニェーゼですから優しくしてあげて下さいね」
「げ!? まだ続くのかこれ?」
「はい!」
今日一番の笑顔に上条は何を見たのか、苦虫を噛み潰したような顔をするとどかっとソファーに体を預けて「不幸だぁ……」と魂でも抜けそうな声でそう呟くのだった。
END