ここは学園都市にあるとあるカラオケボックスの一室。  
リモコン片手にさてどうしたものかと困っているのは、右手に幻想殺しを宿す少年上条当麻である。  
当麻は頭をポリポリかきながら  
 
「なぁ御坂。この間の借りを返す事がカラオケに付き合うって言う平和的な提案である事に、カミジョーさんは大変歓喜したのですが  
 この条件は厳しすぎやしねーか?」  
 
当麻のテーブルを挟んだ向かい側で分厚い冊子をめくって自分の曲を探しているのは学園都市に7人しかいないレベル5。  
超電磁砲の異名を持つ御坂美琴。先日当麻に電子機器の関係で質問を受けた時にこのカラオケデートを取り付けたわけだが、別にこれが  
初めてというわけではない。自分の恋愛感情を自覚してからというもの、美琴は借りの返済、罰ゲームと称して当麻と買い物に行ったり  
ご飯を食べに行ったりしていた。これは傍から見ればデートなのだが鈍感朴念仁の当麻は本気で只の罰ゲームで美琴のわがままに付き合  
わされてるだけだとだと思っている。  
 
そんな当麻の雰囲気を察しつつも、最近なんだかんだで二人とも楽しそうでありだんだんデートっぽくなってきた嬉しさと気恥ずかしさで  
さっきから顔がニヤニヤしたままなのだが、そんな顔を見られるわけにも行かないので膝の上の本に目を落としたまま  
 
「んー、なんか問題でもあった?」  
 
とりあえずすっとぼけてみた。  
 
「ランキング上位のメジャーな曲禁止でお前が知らないけど気に入りそうなものを選んで、更に90点以上出さなきゃ罰ゲームとか!  
 もはや罰ゲーム確定の只のイジメとしか思えないんですが!?」  
「いいじゃない、目標をクリアしたら何の問題もないんだし。あ、じゃあこんなのはどう?アンタの持ってるプレーヤーに入ってる中から  
 私がアーティストを選ぶから、曲はアンタが選びなさい。もちろん有名な曲は却下だから。点数は78点くらいまで大目に見てあげるわ」  
「なんだよその微妙な点数は!?って言うかそれちっとも譲歩してないだろ!!」  
「いいから貸しなさいって♪」  
「あ、おい御坂!」  
 
テーブル越しに当麻の手を取り押さえて胸ポケットから音楽プレーヤーを奪い取る。自分の持っていない機種でも大抵の電子機器は扱えるため  
歌手別で並べ替えて曲を確認していく。  
 
(へー、こいつってこんな曲聞くんだ。あ、このアーティスト知ってる!)  
 
とっさの思いつきではあったが、プレーヤーをぶん取った理由はこれが本命だったりする。  
 
「よーし、んじゃこの人たちの曲で行ってみよーか♪」  
「ちょっとマテやこら!何でよりにもよってこの人等なんだよ!めちゃくちゃキーたけーじゃねーか」  
 
美琴が笑顔で指定してきたアーティストは日本の超有名ロックバンドだった。  
 
「ちょっとくらいキー下げたって構わないわよ。アルバム沢山出してるし、私の知らない曲だってたくさんあるでしょう?」  
「それでもだなぁ、あぁちくしょう不幸だ!念のため聞くけど、最新のアルバムって持ってるか?」  
「持ってないわよ。一番新しいシングルならドラマの主題歌にもなったし持ってるけど。」  
 
よーし、見てろよとかいいながら腹をきめてリクエストする当麻。  
 
「いくぜぇー、俺の歌をきけぇぇぇ!」  
「いよっ!まってました」  
 
マイク片手にビシィと指差す当麻と、ぱちぱちぱちーと拍手する美琴。気が付けば二人ともノリノリである。  
そしてディスプレイにはタイトルが表示される。  
 
 
            「だれにも言えねぇ」  
 
                        
(お、ちゃんと私の知らない曲ね。さっきの話からすると最新のアルバムの曲かしら?)  
 
リズミカルなベースのメロディが流れ始めリズムを取り始める当麻。歌詞が表示されたが美琴と目を合わせたまま  
すぅっと息を吸い歌い始める。  
 
「これ以上可愛い人この世にいるのかと♪」  
 
ドキィと、歌詞を聴いた瞬間美琴の心拍数が跳ね上がった。  
 
(え、あ、ちょっと何ドキドキしてんのよ私の心臓!た、た、た、タダの歌詞じゃない)  
 
思いっきり動揺して心の声は裏返っている美琴さん。その間も曲は進んで行きサビへと入る。  
 
「指と指が触れ合うだけでビリビリ痺れてる♪」  
(えぇ!ビリビリって)  
「きっとものすごく好きなこと、気付いてしまったよ誰にも言えねぇ♪」  
(え、え、ええぇぇぇぇ!?)  
 
曲が進めば進むほどに心が動揺して頭の中が真っ白になる美琴。しかも困った事に当麻は歌詞の要所要所で美琴の顔を見ながら  
歌うもんだからさらに効果が倍である。  
 
「よっしゃ!結構調子良かったしこれは行くんじゃねーか?」  
 
割と調子が良かったので気分がいいらしく、画面を見ながら美琴に話しかけるが返事がない。  
ダラララララとドラムロールが流れ点数が表示される  
 
「よーっし、84点!ノルマ達成だぜ御坂。さー次はお前の番だ・・・あれ?御坂」  
「ふにゃあああああああああああああああああああ」  
「って、またかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!っつーか、ここで電撃はまずいって!」  
 
帯電した電気が弾けようとする瞬間、当麻はテーブルを飛び越えて美琴に飛びついた。右手が美琴に触れた瞬間、パシィと電流を  
打ち消す事には成功したが  
 
ドサァ  
「あ」  
 
勢い余って覆いかぶさる形でソファーの上に押し倒してしまった。  
 
「あ、わ、わ、わ、悪い」  
 
と言ってすぐさま飛びのこうとするが  
 
(うわっ、御坂が!)  
 
動けなかった。押し倒された形になってる美琴は頬を真っ赤に紅潮させ目を潤ませているが不思議と怒りや怯えの色は無い。  
普段の勝気で攻撃的な態度からは想像できないしおらしい姿に見蕩れてしまい思わず口に出そうになった感想を飲み込んだ。  
 
(やばい、御坂がめちゃくちゃ可愛い)  
 
どうしよう、どうなってんだ、なにがどうしてこうなった  
当麻も普段と違う美琴の姿に抱いた感想やら何やらで混乱してしまい動けなくなってしまった。  
 
 
「・・・ねぇ・・・とーま」  
 
時間にしてはほんの数秒。二人にとっては数時間に思える沈黙を打ち破ったのは美琴だった  
 
「え、あ、なんだ?」  
(あれ?っつーか今名前で呼ばれた?)  
「その・・・さ、ノルマクリアしたからアンタの勝ちってことになるのよね」  
「そうなるのか?」  
「だ、だからね」  
「?」  
「う、受けてあげるわよ」  
「何を?」  
「その・・・ばつげーむ」  
「どういうことでせう?」  
「だ、だから、罰ゲームで私がとーまの言う事何でも聞いてあげるから」  
「み、美琴さん?この体勢でそんな事を言ってしまうと取り返しがつかない事態に…」  
「今だったら、今だったらとーまの誰にも言えないこと、私が聞いてあげるから」  
 
美琴の真っ赤な顔にはさらに決意と期待の色が加わった。それを目の当たりにした当麻はまたしばらくフリーズする事となった。  
 
 
その後、二人がどうなったかは  
 
「「だれにも言えねぇ(ない)」」  
 
二人だけの秘密となった  
 
 
 
おわれ  
 

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